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87.譲渡?

「スゲー!」

「マジで?」

「こんな治療、初めて見た!」


 私の治療を見て、野次馬達からは歓喜の声が上がっていた。

 普通は接合なんて簡単に出来ないだろうからね。それこそ、奇跡を目の当たりにしているような感覚だろう。



 ギルドの中から一人の女性が出て来た。前に見た受付の女性だ。

 その彼女が、

「ありがとうございます。こちら、治療代です」

 私に治療費を渡してくれたんだけど……。


「ギルドから支払われるのですか?」

「飽くまでも立て替えです。後で本人に支払っていただきます」

「そうですか」


 もしかして、今、このハンターは持ち合わせが無いから、一旦、ギルドの方で建て替えてくれたってことかな?

 と私は一瞬思った。


 ところが、ギルドの女性は、そのハンターに、

「これでギルドへの借金が金貨二百枚を超えましたから、利率が今までの倍になります」

 と言っていた。

 つまり、このハンターは、前々からギルドに借金があったってことか。



 ただ、今回、私に支払われた額が、二カ所分で金貨四十枚だから、今回の怪我が無くても金貨百六十枚以上、つまり金貨一枚が十万円とすると千六百万円以上?

 結構な負債を抱えていたってことだ。


 これを聞いて、ハンターは、

「利息が倍って、一割?」

 とだけ言うと、その場で硬直した。


「そうです。十日以内に払えないと、さらに全額の一割が加算されますよ!」

「マジかよ!」


 もしかして、これってトイチ?

 この世界では、ギルドがそんなことしてるの?



 でも、このハンターは、先日の魔獣群討伐で賞金を貰っていたよね?

 しかも、二位だったよね?

 当然、かなりの額を貰っていたはずだよね?

 だったら、なんで借金だらけなの?


 私が、そんなことを考えていると、

「では、お送りします」

 転移魔法使いが私とスライムを連れて、強硬的に私達を医院まで連れ戻した。


 そして、

「では、また何かあった時にはお願いします」

 とだけ言うと、その転移魔法使いは私の前からサッサと姿を消した。余り高利貸業に関して、私に知られたくないってことなんだろう。



 私は、悪いとは思ったけど、さっきのハンターのフトコロ事情が気になってね。

 個人情報だけど、チャットボット機能に聞いてみることにした。


『Q:さっきの患者は、魔獣討伐でかなりの賞金を得ていたのに、何故、ギルドに高額の借金がある?』

『A:討伐翌日の麻雀大会で大敗したため』


 なんだそれ?

 正直、余り同情も出来ないな……と、この時、私は思っていた。

 深いところまで考えずにね。


 …

 …

 …


 借金ハンターを一瞬で治したことが知れ渡り、翌日から、私の医院にもチラホラと患者が来るようになった。


 ただ、高熱が出たくらいでは来院しない。

 来るのは重傷者ばかりだった。


 それこそ、麻雀で負けて腕を折られたとか、足を折られたとか、そんな物騒な患者ばかりだったよ。


 しかも、全員に共通していたのは、

「今、手元にお金が無いんで、ツケにしてくれ!」

 とのこと。


 借金だらけの人が、結構多いと言うのが分かってきた。

 勿論、借金は麻雀の負け分。

 それを、麻雀で取り返そうとして、さらに深みに嵌まる。その繰り返しのようだ。



 彼等の診療代を回収することも、恐らく出来ないだろう。

 全員、治療費のツケが溜まって行くだけで、誰も支払おうって気持ちが見えてこない。

 口先ばかりに感じる。


 だから、私の前に、ここで医院を開いていた治癒術師も医院をたたむしかなかったんだろう。

 患者を診るだけで、全然、お金が手に入らないからね。


 もしかすると、治癒術師が街から出る際に税を取らないのは、取ろうにも取れないからかも知れないね。



 そんなある日のことだ。

 医院の扉を叩く音がした。


「はい? どちら様でしょう?」

「助けてください」


 私が扉を開くと、そこにいたのは、魔獣群討伐の際に、小さくうずくまって震えていた小者だった。

 ただ、アチコチ怪我をしていたし、ステータス画面には上腕部骨折の文字があった。

 一先ず私は、その小者を診察室まで連れて行ってベッドの上に寝かせた。


「お名前は?」

「フレーゲルと言います」

「その怪我は、どうしたんですか? あと、腕の骨が折れてますね」

「麻雀に負けて、お金が払えなくなって」

「でも、魔獣群討伐で、かなりの賞金が出ていたでしょう? トップでしたし」

「あれは、翌日の麻雀大会で全部無くなりました」

「全部?」

「はい。それでギルドの方からお金を借りているんですけど、利息が高くて。それで麻雀で取り返そうとしたんですけど……」

「結局負けたと」

「はい。でも、大会の時も、昨日も今日も、最初は勝ってたんです。ただ、相手が掛け金を釣り上げて来て……」


 どうやら、掛け金釣り上げの後に、一気に取り返され、今度は、

『負け分を取り返さなくて良いのか?』

 とけしかけられて、自ら掛け金を上げて大敗。

 それで借金は膨らむ一方ってところらしい。



 それから、魔獣討伐の後の賞金には、ある程度以上の額になると税金がかかるらしい。

 逆に言うと、ある程度以下の賞金なら税金がかからないシステムだとか。

 この世界特有の法律だね。


 ギルドからは税込みで賞金が支給されるらしいんだけど、税金を払う前に賞金を全て取り上げられてしまったそうだ。

 冒険者ギルドが納税手続きまでしてくれるってイメージがあるんだけど、この世界ではそうじゃないらしい。

 なので、彼は税金も滞納している状態。



 魔獣群討伐の翌日の大会は、賞金が出る公式な大会ではなく、いわゆる仲間内の賭け麻雀大会みたいなモノ。

 そこでの勝ち分には税金がかからない。

 その大会での勝者は、魔獣討伐後の賞金決めの時に下位だった者らしいんだけど……。

 なんか引っかかる。


 取り急ぎ私は、

「全身を治療すると、全部で金貨二十枚だけど?」

 とフレーゲルに聞いた。


 彼は、

「必ず支払いますので、お願いします」

 と返答して来たけど……。

 多分、回収できないだろうな。


 派手に勝った記憶があるから、いずれ自分は大勝できるし、借金は返せるって信じているんだろう。

 でも、仕方が無い。


治癒魔法照射(ヒール)!」

 一先ず彼の骨折も怪我も治してやったよ。


「ありがとうございます。いつか、必ず治療代は支払いますから」

 そう言って、フレーゲルは医院を出て行ったけど……。


 結局は口だけだろうな。

 もう、この世界での収入は期待できないよ。



 その後、私はチャットボット機能を立ち上げて、色々と質問した。

 全容を掴むのには随分と時間がかかったけど、要はフレーゲルも、賞金決めの時に二位になった借金ハンターも、結局のところ嵌められたってことだった。


 賞金決めの時に、麻雀が強いハンター連中は、敢えて麻雀が弱いハンター達に負けて自分達の賞金額を少なくして課税を無くす。


 その後、討伐記念大会と称して、親睦会のように見せかけて大会を開く。

 別に参加は義務じゃないけど、魔獣討伐の記念だし、全員がハイになっているから勢いで大会に参加してしまうのが大多数のようだ。


 さらに言ってしまえば、金もたくさんあるし、気持ちも大きくなっている。

 なので、この賭け狂いが一般化した世界では、ちょっと多めに金を握らせれば、簡単に麻雀大会の参加依頼に応じてしまうようだ。



 そして、その非公式大会で、麻雀が強いハンター達は、麻雀が弱いハンター達から一気にお金を巻き上げる。


 そのやり方も巧みでね。

 最初、賭け金が小さい時にはワザと負けて、

『負け分を取り返さないと!』

 とか言いながら、敗北街道まっしぐらの人間を装って賭け金の釣り上げに出る。


 弱い人達は、その段階では勝っているし、

『ツキは自分にあるから、確実にもっと稼げる!』

 と勘違いして釣り上げに応じてしまう。


 それこそ、これが策略とも知らずに、

『ザコが賭け金を上げてくれてラッキー』

 と勘違いしてね。



 そして、一気に逆転されて、今度は、

『負け分を取り返さなくてもイイのか?』

 と聞かれて、さっきまでは勝っていたから、きっと何とかなると思って、弱者は、さらなる賭け金の釣り上げに応じてしまう。

 そして、彼等は、さらなる大きな借金を作り上げる。


 ギルド側も、この仕組みを知っていて、それで麻雀が弱いハンター達に高利貸をしているようだ。


 一応、麻雀が強い連中とグルってわけじゃないみたいだけどね。

 結果的には共犯って気がするけど。



 でも、本当に、こんなところに地球から一人の少女が転移して来るの?

 やめた方が良いような気がするけど……。

 絶対に、お金以外の支払いを求められそうだよ!


 …

 …

 …


 そんなこんなで、この世界に私が来て三か月が過ぎた。


 私の従魔スライムちゃんも、私の影響を受けてヒールスライムに進化していた。

 しかも、既に骨折も治すし、切断部の接合も出来てしまう。

 まさに高次治癒魔法(ハイヒール)が使えるヒールスライムに超進化していた。


 もの凄い進化速度だよ。

 シルリア世界のスライムよりも圧倒的に進化が早い。



 実は、この日、私は医院をたたんだ。

 不動産屋には、名目上、

『患者はツケばかりで治療費を払わないから、医院の継続はできないので、賃貸料が払えるうちに払って医院をたたみます……』

 なんてウソ泣きしながら説明して、今月分のテナント料を支払った上で、賃貸契約を解除した。

 勿論、ありがちなパターンみたいで、不動産屋もイヤとは言わなかったよ。


 ギルドにも、その旨を連絡。

 そして、私はスライムを連れて北のゲートからオピペウターの町を出た。


 ゲートを出る時にも通行料を取られたんだけどさ……。

 しかも、私は麻雀を打たないから倍額払ってね。

 入る時ほど高くは無かったけどさ……。



 ゲートを出ると、私はアイテムボックスから自転車を取り出し、ひたすら北へ北へと突き進んで行った。

 三時間ちょっと移動したところで、一旦休憩。


 自転車での移動だからね。

 結構、移動したよ。五十キロくらいかな?



 少し先に町が見える。

 この町の名はエンドセラス。

 実は、この地こそが、私がオルドビス世界で真の目的を果たす場所なんだ。


 ここで私は、自転車をアイテムボックスの中に収納した。

 それから、スライムもここでアイテムボックスの中に入れた。


 アイテムボックスの中では、時間停止&状態維持が成されるからね。

 収納中にスライムが死ぬことは無い。


 厳密には、出した時に時差ボケを起こすから、本当はアイテムボックスに生き物を収納するのは良くないと思うけどね。

 そして、ここから私はエンドセラスの町に向けて歩き出した。



 ここでも、ゲートを通る時に、番人から、

「エンドセラスには商業目的?」

 と聞かれたので、私は、

「一応、治癒魔法が使えますので、ハンターギルドで治癒術師として登録しようかと思っております」

 と答えた。


 この世界では、麻雀後に発生する怪我を治す意味も含めて治癒術師は必要とされている。

 当然、ウェルカム状態だ。


「それは有難い。当然、モノを売るわけじゃないですね?」

「はい」

「では、特に課税や通行料は発生しませんので、このまま通ってください」


 そのまま私は、スライムを隠してゲートを通った。

 スライムの持ち込みは、本当は持ち込み料を治める必要があるんだけど、そこはちょっとズルをさせてもらった。


 あと、この町では通行料が無いんだ!

 その辺は、町によるんだね。

 麻雀の順位で通行料決めますの遣り取りが無くて助かったよ!



 ゲートから少し離れたところで、私はアイテムボックスからスライムを取り出した。

 そして、アクアティカ様から指定された場所へと急いだ。



 言われた場所に到着。

 そこは、路地裏だった。


 一人の女性が、こっちに向かって歩いて来た。

 見た目は二十代。

 顔立ちは日本人そのもので、しかも、かなりの美人。

 取り急ぎ、私はチャットボット機能で確認することにした。


『Q:私のターゲットは、あの女性?』

『A:その通り』


 これで確定。

 彼女が地球からこの世界に召喚された少女、カナコだ。


 ただ、細い脇道から三人の女性達が現れてカナコを取り囲むと、

「さっきは舐めたマネしやがって」

 一斉に暴力を振るい始めた。


 助けてあげたいけど、助けちゃダメって女神様からは言われているんでね。

 私は、物陰に隠れて、ひたすら時間が過ぎるのを待った。



 三人の女性達は、カナコを袋叩きにした後、

「ざまぁ!」

「もう舐めたマネするんじゃねえぞ!」

 とか言って唾を吐きかけると、カナコから金を奪って、その場を離れた。


 私は、

「スライムちゃん。カナコのことをよろしく。それから、ここでお別れだよ」

 と言うと、スライムをカナコの前に行かせた。これも、全て女神アクアティカ様のシナリオだ。


 スライムがカナコの前まで跳ねて行くと、彼女に治癒魔法を照射した。

 見る見るうちに彼女の怪我が治って行く。

 と言うか、指も折られたみたいでね。それも治してもらった。


 カナコが、ゆっくりと起き上がった。

「アナタが治してくれたのね。ありがとう。多分、アナタが女神様から言われたヒールスライムかしら?」


 このタイミングで、私は、

「本当にさようなら、スライムちゃん。契約解除!」

 スライムとの従魔契約を解約した。



 その直後、カナコが、

「もし、そうなら、是非私と……。テイム!」

 私が育てたスライムと従魔契約を結んだ。


 カナコは、この狂った世界で果たすべき使命があるらしいんだけど、当然、どんな暴力を振るわれるか分からない。

 それで、ヒールスライムを与えたいと女神アクアティカ様は考えて、私にヒールスライムを作らせたんだ。



 これで、私のオルドビス世界での使命は終わった。

 カナコがヒールスライムを両腕で抱え上げる姿を見た直後、突然、私の目の前は真っ暗になった。

 この世界からの転移が始まったってことだね。


 そして、気が付くと私はシルリア世界に戻り、自室のベッドの上で座っていた。

 一応、今までのことは夢じゃないんだよね?



 それにしても、麻雀世界オルドビスか。

 勇者ガンマバーストによって魔皇帝軍は絶滅したけど、その後に待っていたのは最悪の世界。

 思っていた以上にヒドイ世界だったな。


 もう、絶対にあそこだけは行くのはパスだからね!

 でも、スライムちゃんがどうなったかは、後で教えてもらいたいな。

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