86.最低な世界じゃない?
医院の設備を整えた後、私はハンターギルドに向かうことにした。
ハンターギルドは、街の中央付近にある。ここからだと、一応、歩けなくは無いけど、結構面倒に思える距離だ。
なので、
「出ろ!」
私は物質創製魔法で自転車を出した。
一応、この世界に自転車は存在する。
かつての英雄、勇者ガンマバーストが普及させたからね。
それにしても、生活必需品の定義が緩くて助かっているよ。
何せ、生活必需品の中に家が含まれるくらいだもん。
前のカゴの中に大切なスライムちゃんを置き、後ろのカゴにビラを入れて、私はギルドへと急行した。
ギルド前に着くと、私は自転車をアイテムボックスに収納した。
普及されているとは言え、一般には高価な乗り物らしいから、この辺に駐輪しておいたら間違いなく盗まれるだろう。
なので、収納した方が安全だ。
私は、スライムを頭の上に乗せると、両手で大量のビラを持ってギルド内へと入って行った。
ただ、昨日に比べると、中は閑散としていて人が少なかった。
それに、今いるハンター達からは、余り強大なオーラを感じない。
見るからに低ランクな方々ばかりのようだ。
何でだろ?
早速、私は受付の女性に声をかけた。
ただ、この時、受付嬢は、ちょっと不安気な表情を見せていた。
「済みません。昨日、登録した者ですけど」
「ああ、治癒術師の」
「はい。実は、このビラを置かせてもらいたいのですが、よろしいでしょうか」
「医院の宣伝の?」
「そうです」
「分かりました。では、その隅のテーブルの上においてください。開院は何時ですか?」
「明日になります」
「今日は診られないかしら? 今、魔獣討伐に結構多くのハンターが出ていてね」
「魔獣ですか?」
「ええ。壁の外にね。災害級が一体と、大型が十数体、それを取り囲むように中型、小型の魔獣が多数と聞いているわ」
それで、高ランクのハンターが全員、出払っていて人が少なかったのか。
言い換えれば、ここに残っている者達は、魔獣を相手にできるレベルではない低ランクの者達だけ。
でも、これなら私の活躍の場も得られる。
相手が災害級なら、絶対に無傷で終わるはずが無いからね。
「診ることは可能です。勿論、それ相当の料金は頂きますけど」
「分かっています」
「料金は、このビラに載っている通りです」
「手足の接合も出来るんですか?」
「繋ぐ先があれば可能です。紛失されたら、どうしようもありませんけど」
「まあ、それはそうね」
「それと、魔獣が出た場所は何処ですか?」
「南ゲートの先です」
「分かりました。今から行きます!」
「でも、相手は災害級ですよ!」
「分かってます。では」
私は、ギルドを出ると、アイテムボックスから自転車を出して現場へと急いだ。
ここは、正直言って余りイイ世界だとは思っていないけど、みすみす人を殺したいとまでは思っていないからね。
数分でゲートに到着。
さすが自転車。
そして、
「治癒術師です。魔獣が出たと聞いてやってきました!」
と言いながら、私は昨日発行された免許証を提示した。
さすがに、こういった事態で麻雀がどうこうヌカすヤツはいない……と思う……。
「分かりました!」
門番は、まだ、門のすぐ近くまで魔獣が来ていないことを覗き穴から確認すると、小さな門を開けて私を通してくれた。
前方数百メートルのところに、魔獣の姿を発見。
勿論、ハンター達の姿もあったけど、災害級がいるからね。
かなり劣勢に見えた。
さらに私は、
「探査魔法発動!」
魔獣達が西側とか東側のゲートに回り込んでいないかをチェックしたけど、今のところ、あの一点に全てが集中しているっぽい。
私は、自転車で現地へと急いだ。
そして、到着するとすぐに、
「結界!」
怪我をして動けなくなっている人達を結界で覆った。
特に怪我をしていないけど、小さくうずくまって震えていた小者もいたよ。
完全に戦闘放棄状態だね。
低級ハンターなのに無理してきちゃったってヤツかな?
ソイツにも、私は結界を張ってあげた。
このままじゃ、そのうち魔獣に襲われて大怪我しそうだからね。
さらに私は、
「高次治癒魔法照射!」
無我夢中で、怪我人達を一気に治療した。
やっぱり、怪我人を前にすると、是が非でも治さなきゃって思ってしまう。
もはや条件反射みたいなモノだ。
「君はいったい?」
こう、私に問いかけて来たのは一人の中年男性だった。
「昨日、ハンターギルドに登録した治癒術師兼ハンターです」
「そうか。私はギルド長のアダルハードだ。一先ず助かったと礼を言っておこう。しかし、この災害級と巨大魔獣をどうするかだが……」
「私に任せてもらえますか?」
「君にか?」
「はい」
「しかし、どうやって?」
「こうやるんです!」
私は、心を集中し、自らの魔力を一点に集中すると魔獣達に向けて撃ち放った。
詠唱は、いつもの如く、たった二文字。
「死ね!」
そう私が言い放った直後、災害級魔獣の首も、巨大魔獣達の首も、勿論、中型や小型の魔獣達の首も、
「ブチッ!」
と音を立てて切断され、宙を舞った。
残された身体からは、大量の血が火山の噴火の如く激しく噴き出した。まるで真っ赤な血が、熱く燃え滾る溶岩のように見えたよ。
何が起こったのか分からずに呆然とするハンター達。
魔獣討伐が完了したことだけは認識できたけど、少なくとも自分達が倒したのではないことだけは理解できただろう。
良く分からないけど、魔獣達が勝手に死んだとしか思えなかったんじゃないだろうか?
アダルハードは、
「これは、いったい?」
と言いながら、驚きと安堵が混ざった表情をしていた。
さすがに、こんな派手に魔獣を殺す魔法なんて、今まで見たことが無いだろうからね。その反応は普通だと思う。
「見た通り、首刎ねの魔法です。私が使える攻撃魔法は、これしかありませんが」
「いや。これがあったら無敵だろう。それに強烈な結界魔法にハイヒール。昨日、登録したと言っていたが、君の名前は?」
「ラヤと言います」
「珍しい名前だな」
「よく、そう言われます」
「今日は助かった。これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ところで、ラヤは、麻雀の方はどれくらいのレベルだ?」
また麻雀かよ。
この世界の連中って、それしか頭に無いんだろうな。
それこそハンター達だって、魔獣の出没がなかったら、永遠に雀卓から離れ無さそうだもんね。
「実は、私、打ったことが無いんです」
「珍しいな。ルールは知っているか?」
「はい、一応」
「じゃあ、この後、俺達と試しに打ってみないか?」
「遠慮しておきます。明日から医院を開きますので、その準備もありますから」
「医院を開くのか。それは有難いな。場所はどの辺になる?」
「街の北の端です。不動産屋さんの話では、以前、別の方が医院をされていた場所とのことでしたけど」
「ああ、あそこか。この魔法レベルなら多くの患者が押し掛けるだろうな」
「そうなることを期待します」
一先ず、私達は魔獣を一掃出来たってことで、ギルドへと引き上げた。
…
…
…
ギルドに到着。
今回の立役者は、間違いなく私なんだけどさ。
でも、
「賞金は麻雀の順位で決めるよ!」
だってさ。
私は麻雀を打たないから、自動的に最下位決定。
当然、賞金額は最低。
ただね。納得できないのが、小さくうずくまって震えていた小者が麻雀大会ではトップだったんだよ。
それで、その小者が一番多く賞金を取って行った。
何もせずに金だけとるってどういう世界だよ、ここは!
一応、私には治癒術師としての報酬が別途用意されていたけど、納得できないよ、これ!
早くアクアティカ様からの依頼を達成して、シルリアの世界に戻りたいよ。
…
…
…
翌日、医院を開院したけど、全然患者が来なかった。
別にヒマでもイイケドさ。
その分、スライムと遊ぶから。
でも、何故、ここまで患者が来ないのか気になった。
それで、私はチャットボット機能を立ち上げて聞いてみることにした。
『Q:何故、全然患者が来ない?』
『A:この世界では、通常、金に余裕があるハンターや貴族、大店商人以外は受診しないのが普通』
『Q:何故、受診しない?』
『A:余程の病気とか怪我でない限り麻雀の掛け金に使うことを優先するため、医療費にお金を回したがらない』
『Q:金に余裕があるハンターや貴族、大店商人は何故来ない?』
『A:貴族や大店商人は、まだこの医院の存在を知らないため。ハンター達は、昨日の魔獣討伐で得た金を賭けて麻雀大会真っただ中』
貴族や大店商人の件は仕方が無いけどさ……。
もうイイや。
スライムで遊ぼう。
別にお金を稼げなくても、私は食べ物が出せるし、飲み物も出せるし、生きるだけなら何ら問題は無いからね。
ちなみに、この世界のスライムは、エサも水分補給も必要。
雑食性で、触れたものを溶かして吸収する。
生態としては、カルボニフェラス世界のスライムに似た感じかも?
それから数日間、来院者数ゼロ更新が続いた。
別にイイケド。
そんなある日のこと、ギルドから一本の電話がかかってきた。
私の治癒魔法のレベルが高いことは、ギルド長のアダルハードが知っている。
それで、ギルドの方で私のところに直通電話を設置してくれたんだ。
ただ、地球の電話と違って、特定の相手にしかかけられないし、飽くまでも機械じゃなくて魔道具ね。
「はい。ラヤ医院です」
「森の見回りに行っていたパーティが魔獣に遭遇して一人大怪我をしました。右腕と左足が切断されています」
「切断された先はありますでしょうか?」
「あります!」
「ただ、手足接合となりますと、一カ所につき金貨二十枚になりますが」
「構いません。至急診ていただきたいのですが?」
「了解です」
「では、転移魔法使いをそちらにお送りします」
「お願いします」
やっと仕事の依頼が来た。
なんか、やることがあるって嬉しいな。
それから一分もしないうちに、医院の扉を開く音が聞こえて来て、私を迎えに来た転移魔法使いが入ってきた。
一応、私に気を使って同性……女性の転移魔法使いを派遣してくれた。
「ギルドの者ですが」
「話は伺ってます」
「では、早速ですが」
「ギルドまでよろしくお願いします」
「ただ、それも一緒ですか?」
彼女は、そう言いながら私のスライムを指さしていた。
やっぱり、魔物が同行するのがイヤなのかな?
「はい」
「従魔ですか?」
「そうです」
「分かりました。では……」
正直、イヤそうな表情が顔いっぱいに浮かんでいたけど、彼女は私とスライムを連れて転移魔法を発動し、無事にギルド前まで送り届けてくれた。
ギルドの前には、人だかりができていた。
つまり、コイツ等は野次馬達で、この集団の真ん中に私を必要としている重傷者がいる。
「済みません。治癒術師です。通してください」
私は、人だかりを搔き分けて、その中心部分へと何とか到達したけど……ハッキリ言ってコイツ等邪魔だよ!
怪我をしていたのは、先日、魔獣の大群を討伐した時にいた一人だった。
小者じゃない人ね。
たしか、魔獣群討伐後の麻雀で二位だった人だよ。
だったら、あの時に結構な賞金を貰っていたはず!
その隣には、ギルドの人が付き添っていた。
そして、私の顔を見ると、
「これが切断された手足です。お願いします」
と言いながら切断された先を私に渡してくれたけど、兎に角、出血がヒドイし、急いで処置しないとマズそうだ。
私は、
「治癒魔法照射!」
少し強めに治癒魔法を照射して、一気に手と足を接合した。
さらに、
「スキャン!」
神経の伝達のチェックや、他の部位に異常が無いかを確認したけど、一先ず、特に問題は無さそうだ。




