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80.呪石?

 ドロフェイの姿が見えなくなると、私はルフィナの家のドアをノックした。


「ごめんください」

「はい。いらっしゃい」


 出てきたのはルフィナの母親。

 完全に、私に対してはウェルカムな表情だ。


「ルフィナ様の状態を確認しに参りました」

「娘のことで、いつもお世話になっております。どうぞ、こちらへ」


 そして、毎度の如く、私はルフィナの部屋へと通された。

 パッと見た目、全然問題は無さそう。

 ルフィナのステータス画面も覗いてみたけど、特に問題は無さそうだ。


「元気そうですね」

「はい。お陰様で」

「ただ、一週間後の儀式までに何か仕掛けてくるかも知れないので、お気を付けください。基本的に外出は避けるようお願いします」

「そうします」

「それから、お母様も人目の少ないところに行くのは避けてください。お母様を狙ってくることもあり得ますので」

「分かっております」

「では、一応、細かく確認しておきます。スキャン!」


 ステータス画面で問題無しって出ていたから、基本的に心配は要らないと思うけど、私は念のためルフィナの全身をくまなく診断魔法でチェックした。


 もっとも、これで問題が出る方が、むしろ問題だと思うけどね。

 ステータス画面が狂っているか、私の診断魔法が狂っているかのどちらかになるからさ。



 診断終了。

 予想通り、特に問題は発見できず。魔石由来の副作用も無いようだ。


「問題ありませんね。では、また二日後に来ます」

「よろしくお願いします」

「転移!」


 そして、私は転移魔法で、ルフィナの部屋からコルダイテス市の中央付近を目指して一気に移動した。

 アースロプレウラ大聖殿に、ちょっと用事があってね。

 ドロフェイが何かしようと企んでいないか、探りを入れる必要があるって思ったんだ。



 私がアースロプレウラ大聖殿に到着した時、まだ、そこにはドロフェイの姿は無かった。

 恐らく、ドロフェイは転移魔法が使えなかったんだろう。それで、私の方が先に着いてしまったってことだ。



 それからしばらくして、悪態をつきながらドロフェイが大聖殿の中に入ってきた。

 ルフィナが無事でいるのが相当気に入らないんだろう。


「エフィム。いるか?」

「はい」

「急いで呪石を十個用意しろ!」

「呪石ですか?」

「そうだ。大至急だ!」

「わ……分かりました」


 エフィムは、ドロフェイに深々と二~三回頭を下げると、大急ぎで大聖殿の奥へと引っ込んで行った。

 一応、これでもドロフェイは大神官だからね。この大聖殿の最高権力者だろうから、誰も逆らえないんだろうな。



 それにしても、呪石か……。

 どんな石だろう。

 まあ、何となく想像がつくけどね。


 多分だけど、ルフィナの儀式の際に魔石の代わりに使おうって魂胆だろう。

 念のため、私はチャットボット機能を立ち上げて、呪石がどんなモノかを確認することにした。


『Q:呪石を体内に埋め込まれたらどうなる?』

『A:対象者は、即座に殺されることは無いが、常に病に伏せ、起き上がる体力すらない状態とされる』


 つまり、入れられたが最後、その後は一生、寝たきりの人生になるってことか。

 即死しないって言っても、早死にはするような気もするし。

 なら、こっちにも考えがある。当日を楽しみにしているとイイよ!


 …

 …

 …


 その後、儀式が行われるまでの一週間、私はルフィナの様子を二度ほどチェックしたけど、特に問題は無かった。


 この間、ドロフェイは、集団でルフィナに呪いをかけるなんてことは、しなかったみたいだ。

 ルフィナに向けて呪いの念を飛ばすことから、呪石を入れて寝たきり生活にさせる方に方針転換したからだと思う。



 一方の私だけど、この一週間でカルボニフェラス世界をアチコチ観光して回った。

 せっかく異世界に来たからってこともあるけど、要は単なる暇つぶしね。


 宿泊費用や飲食代、その他諸々の経費はギガンテア様が支払ってくれるわけでは無い。

 なので、全額自腹だったけど、この世界に来る直前に鹿型魔獣の討伐で得た賞金があったからね。

 金銭的には、かなりの余裕があったし、特に問題はない。



 あと、観光先で何人かの男子達にナンパされたけど、全部断った。

 ナンパされたこと自体は嬉しかったけど、やっぱり私の頭の中はイリヤ王子のことで埋め尽くされているからね。

 他の誰からの誘いも受け入れる気になれなかったのが本音だよ。


 付きまとって来るのもいたし、強引に手を繋いで来るようなのもいたけど、そんな時は電撃を発動して野郎の手を振り払った後、転移魔法でソッコー逃げたよ。


 …

 …

 …


 そんなこんなで一週間が過ぎた。

 今日は、アースロプレウラ大聖殿で、ルフィナの身体に魔石を埋め込む儀式が行われる日だ。

 私は、一般客に紛れ込んで、一足先に大聖殿の中に入っていた。


 少しして、大聖殿にルフィナが入ってきた。

 彼女は、大聖殿中央に置かれたギガンテア様の像の前で一礼すると、その場に跪いた。



 さらに少し遅れてドロフェイが姿を現した。

 この時、彼は木箱を手にしていた。

 通常であれば、その木箱の中に入っているのは魔石なんだけど、今回は違っていた。

 そう、入っていたのは呪石だったんだ。


 ドロフェイは、ギガンテア様の像の前で一礼すると、

「魔力が開花したこの娘に、女神ギガンテア様の御前にて今から魔石を埋め込む。これにより、この娘は大いなる力を体内に宿すことになるであろう。その力を、この世界のために役立てるが良い」

 と尊大な雰囲気を出しながら言ったけど、正直、見ていて白々しいね。



 ドロフェイは、何やら妙な呪文を唱えた後、木箱から十個の呪石を取り出して、それらをルフィナの周りに置いた。

 そして、部下の一人から大きな杖を渡されると、

「この娘の体内に宿れ!」

 と大声で唱えながら、その杖を持つ手を高々と上げた。


 これで、魔石ならぬ呪石がルフィナの体内に入って行くはずだったんだろう。

 でも、今のドロフェイの魔力では、ハッキリ言って、それだけのことをするパワーが思い切り欠けていた。

 当然、呪石は何の反応もしなかったよ。


 とは言え、このまま反応無しで儀式を終わらせるわけには行かない。

 それこそ、傍目にはルフィナが魔石に拒否られたって思われちゃうからね。


 なので、

「(物質転送!)」

 私は、物質転送魔法……まさしく呪石を瞬間移動させて、ルフィナではなく、ドロフェイの体内に、順に埋め込んで行った。



 儀式が終わり、ルフィナはギガンテア様の像に一礼すると、大聖殿を後にした。

 この時、ドロフェイは不敵な笑みを見せていたよ。

 当然、彼は呪石がルフィナの体内に入って行ったものと勘違いしていただろうからね。


 それこそ、彼は、この先ずっとルフィナが病魔に侵されて動けなくなるって確信していただろう。


 ところが、ルフィナが大聖殿から出て行った直後、

「ウガ……、ゲホッ……」

 ドロフェイが大量の血を吐いて、その場に倒れ込んだ。


「ドロフェイ様!」

「大丈夫ですか!?」

「ドロフェイ様!」


 神官達がドロフェイの近くに駆け寄った。

 でもさぁ、前にも言ったけど、そもそも論として、コイツ等も神官になるだけの魔力があるなら、ドロフェイの体内から魔石が消えていることに気付いていたはずだよね?


 それこそ、今、ドロフェイの体内には魔石の代わりに呪石が入っていることだって気付いていそうだけど?


 傍目には心配して駆け寄ったかのように見えるけど、心の中では何を考えているか分からないね。

 コイツ等も白々しいよ。



 私は、ドロフェイの身体を私の足元に転移させた。

 ハッキリ言って、ドロフェイの周りにいた神官達が邪魔だったんでね。


 ドロフェイは、私の姿を見ると、掠れるような声で、

「お前は、誰だ?」

 と私に聞いて来た。

 なので、私は自己紹介&状況説明をしてあげることにした。


「私はラヤ。女神ギガンテア様の使いとしてここに来ました。ギガンテア様は全てお見通しです。アナタがルフィナを呪い殺そうとしていたことも、今日、ルフィナの体内に呪石を入れようとしていたことも」

「そ……それは誤解だ……」

「誤解も何も、さっきの呪石は全てドロフェイ、アナタの体内に収められました。それから、アナタの体内にあった魔石は全てルフィナの体内に移し替えられています」

「そんな……」

「今から、アナタに面白いモノをお見せしましょう。転移!」


 そして、私はドロフェイを連れてカルボニフェラス世界最大の樹海へと移動した。

 この一週間、マジで暇でさ。

 観光のついでに魔獣の生息地も幾つかチェックしていたんだよね。


 その一つが、この樹海。

 その時に感じ取った魔力から、ここなら、とんでもないバケモノ級の魔獣がいるって確信していたんだ。



 転移から一分もしないうちに私達の目の前に、巨大な獅子型の魔獣が現れた。

 ナイスタイミングだよ!


 当然、これを見てドロフェイは、

「俺をコイツに喰い殺させる気か?」

 と言いながら怯えていたよ。


 ただね、呪石を体内に入れられたアンタを魔獣が好んで喰うわけないだろ!

 むしろ魔獣の方が除けて通るよ。



 私は、その魔獣に向けて、

「死ねっ!」

 と唱えた。

 いつもの最凶魔法を発動したんだ。


 その直後、その魔獣の首は、

「ブチッ!」

 と音を立てて宙を舞った。


 そして、私は薄ら笑いを見せながら、

「私には、何者でも一瞬で殺せる驚異の魔法が与えられています。ドロフェイ。アナタを一瞬で殺すことも可能です」

 と言った。


 薄ら笑いを見せたのは、敢えて、ちょっと不気味さを演じてみたんだ。

 これを聞いて、ドロフェイは顔面蒼白して震えていたけどね。


「俺を殺す気か?」

「それはアナタ次第です。先ず、アナタの全財産と引き換えに呪石を除去して差し上げましょう」

「全財産だと?」

「そうです。呪石の除去代以外に、ルフィナの治療代や私の出張経費を全て諸悪の根源であるアナタに支払っていただきます。全財産を取り上げられてもアナタの場合は大聖殿に家賃なしで住んでいるのでしょうし、別に生きて行くだけなら問題はないでしょう。それに、呪石を除去されれば今後も大神官の立場は守れるでしょう。なら、すぐに贅沢な生活に戻れるのではないですか? アナタも、アナタの家族も」


 ドロフェイが完全失脚して生活できなくなると、芋づる式に家族まで路頭に迷うからね。

 それは、さすがに可哀そうかなって思ったんだ。

 なので、全財産は取り上げるけど、やり直しができる状態にしてあげたってことだ。

 脅しは入れるけどね。


「分かった。除去を頼む」

「それと、今後、ルフィナに対して悪事を働けば、私はギガンテア様の命令で再びこの地を訪れ、この魔獣と同様にアナタの首を容赦なく跳ねることになるでしょう。それと、全財産の支払いを渋れば、当然、今すぐ同様に……」

「それ以上は言わなくても分かっている。約束は守るから助けてくれ」

「了解しました。ただし、料金は前払いです。イイですね?」

「ああ」

「では、転移!」


 一先ず私は彼を連れて大聖殿に移動した。

 ドロフェイが一生涯通じて約束を守ってくれるかどうかは、正直なところ分からないけどね。


 そして、転移先に居た神官達に大至急、担架を持って来させてドロフェイを自室に運んでもらった。



 ただ、このままじゃドロフェイが動けないし、全財産を私の前に持ってこさせるのが難しいな。


 仕方が無いので、

「物質転送!」

 私は、十個ある呪石のうちの五個をドロフェイの体内から除去した。

 これで、多少は動けるようになるだろう。


「取り急ぎ、体内にある呪石のうち、半分を除去しました。先ず、約束通り私にかかった諸経費としてアナタの全財産をいただきます。全てここに運び入れてください。出来なければ、どうなるか分かっていますね?」

「は……はい」


 さすがに首を刎ねられるのは怖いよね。

 彼は、重い身体を引きずりながら、次々と金貨や宝石、アクセサリー等をこの部屋に運び入れた。


 私は、運び込まれたそばから、アイテムボックスの中に収納して行ったよ。

 そして、彼の全財産をいただいた後、

「物質転送!」

 私は、残りの呪石を彼の体内から除去した。


 取り上げた財産をどうするかはギガンテア様と相談しよう。

 私が持って帰ってもイイけど、結構な額になるからね。

 勝手にシルリア世界に持ち運ぶのも気が引けるんだ。


 …

 …

 …


 一週間後、ルフィナは公爵家の養女となった。

 そのさらに一か月後、私は、ルフィナが第一王子と婚約するところまで見届けた。

 この時、私はルフィナと第一王子の姿に、自分とイリヤ王子の姿を重ねて見ていたよ。



 その直後、私の視界が突然真っ暗な闇に覆われた。

 そして、気が付くと、私はシルリア世界の自分の部屋のベッドの上にいた。


 時刻は私がカルボニフェラス世界に飛ばされた一時間後だった。

 たしか、ギガンテア様は五分後の戻すって言ってなかったっけ?

 別にイイけど!



 私の頭の中に女神ロリダ様の声が響いて来た。

 飽くまでも声だけで、姿は見えない。


「ラヤ。お疲れ様でした。大神官ドロフェイから取り上げた財産のうち、ラヤの滞在に使われた費用とルフィナの治療代は、ラヤに受け取ってもらうこととします」

「イイんですか?」

「はい。ギガンテアと、そのように約束しました。ただ、それ以外のモノはカルボニフェラス世界に戻させてもらいます」

「分かりました。出来れば、それらは……」

「恐らく、ラヤとしてはルフィナに渡したいところでしょう」

「はい」

「しかし、それは出来ません。残念ですが、これらは原子レベルにまで分解し、カルボニフェラス世界の地中に埋めることにします」

「分かりました」

「では、ゆっくりお休みなさい」


 そう言われた直後、私は突然睡魔に襲われ、一気に深い眠りへと入って行った。

 まるで、薬物か何かで強制的に眠らされたかのようにね。



 翌朝、私は何時ものように目覚まし時計に叩き起こされた。

 カルボニフェラス世界では暇な時間が多かったけど、これからはシルリア世界での忙しい日常に戻る。


 先ずは二階のダイニングテーブルの上に、

「出ろ!」

 毎度の如く物質創製魔法食料バージョンでフユミとフルフラールと私の朝食を準備。


 そして、顔を洗ってダイニングに戻ってくると、

「おはよう。お先に頂いてるよ!」

「おはようございます。頂いてます」

 フユミとフルフラールが、いつの間にか湧いて出たようにテーブルについて食事をしていた。

 これも、いつもの光景だ。


 昨夜のことを二人に話しても、多分、信じてもらえないだろうな。

 どうせ、

『夢でも見ていたんでしょ!』

 と言われるがオチだ。

 カルボニフェラス世界のことは、取り敢えず黙っておこう。

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