77.そんな病原体ってあり?
私はチェックインすると急いで部屋に入り、すぐさまチャットボット機能を立ち上げた。この世界のことを、もっと詳しく調べておく必要があるって思ったんだ。
マジで、この世界のこと、何も知らないもんね。
それから、私が治療する相手のこととか、どんな病気になっているのかもキチンと知りたかったってのも勿論あるよ。
エリクサーで治せない病気ってヤツをね!
『Q:この世界の魔法レベルは、私が今までいた世界で例えるとどれくらい?』
『A:エディアカラ世界レベル』
『Q:魔法を使える人間の人口は総人口の何%くらい?』
『A:1%程度』
『Q:私が知っている魔法で、この世界の人々が使えない魔法は?』
『A:融合魔法、首ちょんぱ魔法、家を建てる魔法、お金を出す魔法、物質転送魔法』
物質転送魔法が使えないってことには、ちょっと驚いたけど、でも、融合魔法、首ちょんぱ魔法、家を建てる魔法、お金を出す魔法は使えなくて普通かも。
特にお金を出す魔法はマズイよね?
逆に言うと、それだけ私が女神様から反則級の魔法を与えられているってことか。
これは、マジで感謝しないとイケないね。
それから、魔法使い人口が総人口の1%程度ってことは、余り派手なことをすると目立っちゃうってことだ。
人目には余り触れないようにしないとマズいんだろうな。
良からぬことを考える人もいるだろうし。
『Q:私が女神ギガンテア様の依頼で治す少女のいるところは?』
『A:今いる街の隣に位置するコルダイテス市』
おお!
村や町じゃなくて、市が出て来たよ。
それだけ人口が多いところってことか。
『Q:少女の名前は?』
『A:ルフィナ』
『Q:ルフィナの年齢は?』
『A:14歳』
『Q:ルフィナの病は私の治癒魔法で完治する?』
『A:しない』
えっ? なんで?
たしか女神様は、エリクサーでも治せない病気って言っていたっけ。
でも、私に治せないなら、何で女神様は私をこの世界に転移させたんだろう?
『Q:何故、完治しない?』
『A:治癒魔法照射直後、一瞬治るが、その数秒後には再罹患する』
『Q:何故、再罹患する?』
『A:この病の原因が魔力を用いた呪いだから』
ナニコレ?
さすがに、このパターンは初めてだよ!
呪いのエネルギーによるものだからね。事実上、病原体が三次元世界で実体化していないってことになる。
たしかに、これだと病因を除去してもムダだね。
エリクサーでも治せないよ。
治した傍から、再び彼女の身体に病因が降り注いで身体を蝕むからね。
ってことは、元を絶たなければダメってことか。
普通なら、ここで呪いの主を割り出すのに時間がかかる。
でも、きっとチャットボット機能なら、すぐに答えを出してくれるはず!
そう信じて、私は再びチャットボット機能に質問した。
『Q:ルフィナに呪いをかけたのは誰?』
『A:大神官ドロフェイ』
即答だよ!
話の展開が早くて助かるよ。うん!
『Q:何故、ドロフェイはルフィナを呪った?』
『A:ドロフェイは自分の娘を第一王子の妃に立てたいため、有力な対抗馬を呪い殺すことにした』
『Q:他にドロフェイに呪われている人は』
『A:いない』
『Q:ドロフェイの住んでいるところは?』
『A:コルダイテス市』
ルフィナと同じ市に住んでいるってことか。
だから余計に目障りに感じるのかも知れないね。
『Q:結界魔法で呪いを受けないようにした上で病気を治すことは可能か?』
『A:結界を破壊されないことが前提となる。術者が協力者を集い、結界破りを行う可能性がゼロではない』
『Q:では、ルフィナの病を治す方法は?』
『A:以下四つの方法のいずれかで達成される。①呪いを停止させる、②術者の魔力を大幅に弱めると同時にルフィナの魔力を増大させる、③術者を殺す、④呪いを反射する』
『Q:呪いの反射って私にできる?』
『A:できない』
これってさあ、もう、毎度の如く私がドロフェイを首ちょんぱするしか方法がないって言っているようなものじゃない?
でも、たしかにドロフェイは罪人だけど、ホイホイ殺すのもなんだかな……。
デボニアン世界のステガみたいに、全世界の人々を救うためにはコイツを殺す以外方法が無いってレベルでもないだろうしさ。
できれば殺すのを避けたいんだよね。
とは言え、いきなり核心に迫れて、チャットボット機能には感謝するよ。
マジで便利。
一先ず私は、無い脳みそを振り絞って良い方法を考えてみることにした。
やっぱり、首ちょんぱ以外にイイ方法があれば、それを選択したいんだよ。
数時間後、私は何のアイデアも出ないまま、宿の食堂へと向かった。
取り敢えず、夕食をとるためね。
この宿では各部屋で個々に食事をとるのではなく、宿の中の食堂で決まったメニューを食べる形式になっていた。
それにしても、自分の魔法で出したモノ以外を私が食べるのって、もしかしたらシルリア世界に転移して以降は、初めてじゃないかな?
いや、そんなことは無いか。
デボニアン世界で食べていたよ。
一応、チャットボット機能からは、
『かなり日本人の味覚に近い』
との回答を貰っているから、多分大丈夫だとは思うけど……、でも、マズかったらどうしよう?
私は、恐る恐る食事を口に運んだ。
その結果、
「美味しい!」
全く問題の無いことが確認できたよ。
その後、お腹が膨れた私は部屋に戻ったけど、結局のところノーアイデア。
もう、出たとこ勝負で行くしかなさそうだ。
…
…
…
翌日、私はチェックアウトすると、この街のゲートを出た。
一応、街の入退出の手続きはキチンとやらないと面倒になる世界らしいんだ。
と言うのは、ホテルのチェックインの時とかに、ゲートを通った時に渡される証明書みたいなモノの提示が要求されるんだよね。
街から出る時には、その証明書みたいなモノを返さなくちゃならないみたいだし。
言い換えれば、不法侵入したヤツ等は宿泊できないシステムってことだし、正規ルートで街に入った余所者は、それなりに管理されているってことだろう。
一応、治安維持には重要なことって判断らしい。
私は、ゲートを出て百メートルくらい進むと、
「転移!」
コルダイテス市のゲートの少し手前まで転移魔法で移動した。
これも時間短縮のためね。
そして、ゲートで手続きをして無事にコルダイテス市内に入った。
まあ、基本的に手ぶらの美少女だからね。
ここでも課税対象にはならなかったよ。
ここで、まず探すのは私の患者、ルフィナ。
彼女の住所は、昨夜調べておいた。私が入ったゲートから、余り遠くない位置にあるとのことだ。
とは言っても、初めて来た街で住所だけ分かっても具体的にどの建物かは一瞬じゃ分からないよ!
なので、私は、
「済みません。私、治癒術師でして、この住所なんですけど……」
近場にいた何人かの人にルフィナの家の場所を聞きた。
すると人々は、
「ここね。娘さんが病気で寝込んでいるとこだね」
「今まで何人もの治癒術師が呼ばれたけど誰も治せなくてね。これは呪いじゃないかって話だよ」
「アンタが治そうって言うのかい? やめときな」
「下手をすると、アンタに呪いが降りかかるよ!」
「二週間後に魔石を体内に入れる予定だったらしいけど、これじゃ厳しそうだね」
色々と私に噂話を聞かせてくれた。
ただ、魔石を体内に入れるって?
魔石自体は、トモティ世界にもあったけど、体内に入れるなんてことは、していなかった気がする。
「魔石を入れるって、どう言うことなんですか?」
「アンタ、魔石を知らないのかい?」
「魔石自体は知ってますけど、入れるって?」
「それで、よく治癒術師をやってるな?」
「済みません」
「魔石を体内に入れると魔力が増大されるんだよ。神官になる人は全員十個くらい入れているってさ。もっとも、俺みたいな魔力無しが魔石を入れても無意味だけどね」
「では、ルフィナは魔力を持っているってことですか?」
「当然さぁ。ただ、魔石を入れてからなら呪われても撥ね退けられたんだろうけど、入れる前だからね。魔力増大が成されてないから、まともに呪いを受けちゃったんじゃないかって噂だね。今、無理に魔石を入れても身体が弱っているから逆に危ないだろうし」
つまり、術者であろうドロフェイは、ルフィナが魔石を入れるって知ったから、その前に何とかしようって考えて、急いで呪いをかけたってとこなんだろう。
ただ、これだけ色々噂になっているにも関わらず、
「じゃあ、ルフィナを呪っている術者って誰なんでしょう?」
と私が聞いても、
「いや、それは……」
誰も答えようとはしなかった。
しかも、何気に目をそらしている人が多かったよ。
これって、どう見ても術者に心当たりがあるけど口が裂けても言えないってコトじゃないかなぁ?
ここで私は、路地裏に入って、今一度チャットボット機能を立ち上げた。
路地裏に入ったのは、他人に見られたくなかったため。
挙動不審に思われるかも知れないからね。
それと、チャットボット機能を立ち上げたのは、この世界の身分制度をキチンと知りたかったから。
今まで、色々な異世界を見て来たけど、各世界でルールが違う。
当然、この世界の身分制度だって地球とは、まるっきり違うだろう。
何となくだけど、ドロフェイは、単に神職ってだけじゃなくて、この世界では相当な御身分じゃないかって思ったんだ。
『Q:ルフィナの家柄は?』
『A:一般市民』
マジですか?
まあ、このコルダイテス市の外れの方に住んでいるってわけだし、近くに大きなお屋敷も見えないし、たしかに普通に考えて貴族じゃなさそうだね。
でも、それならどうしてドロフェイが呪いをかける対象になったんだろう?
それ以前に、なんでルフィナが妃候補になったんだろう?
『Q:ルフィナは一般市民なのに何故、妃候補になれた?』
『A:一昨年、第一王子と魔法学校で知り合い、気に入られた』
『Q:身分的に問題ない?』
『A:現状では問題ありだが、ルフィナは魔石を体内に埋め込んだ後に公爵家に引き取られ、その問題は解消されることになっていた』
『Q:この世界では、大神官と公爵では、どっちが偉い?』
『A:一概に比較は難しいが、発言権としては公爵と対等と考えて良い』
そう言うことか!
魔石を入れられたら呪いを跳ね返されるだろうけど、それだけじゃない。
ルフィナが自分の娘と対等の立場になる前、つまり一般市民のうちに始末しようって考えたってわけだ。
それにしても大神官が公爵と対等って……。
でも、まあ、地球でも古代エジプトでは、神官がファラオを脅かすレベルの権力を持ったこともあったみたいだし、不思議じゃないか。
それから間もなく、私はルフィナの家の前に到着。
早速、玄関の扉をノックした。
「ごめんください」
「はい?」
扉を開けて顔を出したのは三十代後半と思われる女性。
多分、ルフィナの母親だろう。
「こちらはルフィナ様のお宅でしょうか?」
「そうですけど、どのような御用件で?」
「さすらいの治癒術師ですけど」
「お引き取りください。治癒術師に支払えるお金などありませんから」
そう言いながら、ルフィナの母と思われる女性は、私にキツイ視線を投げ掛けて来た。
多分だけど、詐欺師まがいの治癒術師が、ルフィナを診断だけして金をせびったりしたんだろうな。
「金品は不要です。私は女神ギガンテア様より依頼を受けて、ここに来ました」
「ギガンテア様の?」
「はい。ルフィナ様のお母様ですか?」
「そうですけど……」
「私はラヤと申します。ギガンテア様からは、今回の病は呪いと告げられています」
「やっぱり呪いだったのですね」
「はい。それで、ルフィナ様の現状を診させていただきたく参上しました」
「わ……分かりました」
そう言いながらも、ルフィナの母親は怪訝な表情を見せていたよ。
やっぱり、そう簡単には信じられないだろうからね。




