73.報酬は異世界を繋ぐ扉?
私達が転移して出たところから数十メートル先に洞窟があった。
どうやら、原始人達は、そこに住んでいるっぽい。
「ねえ、ラヤ」
「はい?」
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「何でしょう?」
「この世界の人々とコンタクトをとる前に、この世界に生息する植物の効能を調べておかなくちゃイケない気がするのよ」
「辞書機能を使えば簡単に分かると思いますけど?」
「そうだけど、彼らに会う前に、実際にその植物の自生地を確認して現物を見せられる状態にしておく必要もあると思うのよ。行き当たりバッタリは良くないと思うの。なので、一旦、彼等とは距離を取りたいって思ってね。あと住居が必要かなって」
「分かりました。では、ええと、少々お待ちください」
「朝令暮改みたいでゴメンね」
「ノープロブレムです!」
私はチャットボット機能を立ち上げて、この辺りで景色のイイところを探した。
折角なら、この世界の中でも、特に美しい景色を目に焼き付けておきたいもんね。
多分、二度と来ることは無いだろうし。
「じゃあ、ここから北に五十キロほど行ったところにしましょう。浅い泉があって、そこにフラミンゴみたいな鳥が沢山来ているみたいです」
「それは見てみたいわね。じゃあ、そこにしましょう!」
早速、私達はフユミの転移魔法で五十キロほど北上した。
移動してすぐ、私達の目に留まったのは、百羽以上ものフラミンゴっぽい鳥の姿や、泉に水を飲みに来ているゾウのような動物とかサイのような動物の姿だった。
しばらく、私もフユミも、その様子を呆然と眺めていたよ。
そう言えば、少し喉が渇いて来た。
この炎天下だもんね。
急いで家を作らないと。
と言うわけで、
「結界!」
私は、今いるところを起点に百平方メートルくらいの範囲で結界を張った。万が一にも動物に侵入されては困るからだ。
肉食獣に襲われるのも困るけど、巨大な草食獣に建物を壊されても困るからね。
それで結界を張ったんだ。
さらに私は、
「出ろ!」
バストイレ付きの2LDKの平屋で、しかも屋上付きの家を物質創製魔法で作り出した。
LDは広めで、個室は私とフユミの、それぞれの部屋ね。
さらに私は、家の中に入ると、
「あれもこれも出ろ!」
テーブルに椅子、机、ベッド等、必要なモノをあらかた物質創製魔法で出して行った。
一先ず、ここが当座、私とフユミの生活の基盤となる場所だからね。
とは言っても、しばらくの間、フユミは辞書機能を立ち上げて悪戦苦闘。
私とは違って調査&まとめ作業の毎日。
解熱剤、鎮痛剤、怪我の治癒促進剤、下痢止め、便秘薬等に使える植物の特定と、その自生地を検索して、それをまとめた一覧表と自生地マップの作製をしていたよ。
勿論、この付近に生息する植物のみに限定していたけどね。
あと、たまに外に出ては、転移魔法で実際に植物が自生しているところを確認した。
やっぱり、予め現物をチェックしておかないとね。
その際には、私もボディガードとして同行することになったけど。
ただ、一覧表って言っても、絵で描かなくちゃならない。
フユミの画力で大丈夫かな?
ムチャクチャ下手だった記憶があるけど。
フユミの作業が、ひと段落するまでの間、私はやることが無かった。
なので、ひたすら近くを散策したり景色を眺めたりして、この世界の自然の美しさを堪能していたよ。
それから屋上付きにしたのは、きっと夜空が綺麗だろうなって思ったから。
結界が張ってあるから安全だし、それから毎晩、私は美しい夜空を見上げる……と言うか観賞することになった。
天の川も綺麗だし、比較的近い位置にある渦巻き型銀河も、その形状をキチンと目で見ることが出来る。
同じような夜空を、私はブルバレン世界をはじめ、トモティ世界、エディアカラ世界、バージェス世界、シルリア世界でも見て来たけど、この世界の夜空は格別に感じたよ。
…
…
…
数日後、フユミは一覧表と自生地マップを完成させた。
文字が使えないからね。
それで結構苦労したみたいだ。
「出来た! じゃあ、早速!」
やっぱり、フユミは行動派だね。
すぐさま、私を連れて転移魔法で洞窟の前まで瞬間移動したよ。
ただ、私は、彼女が描いた植物の絵を見ていないけど、大丈夫かな?
でも、自生地に連れて行って、現物を見せれば問題ないか。
転移終了!
ところが、洞窟の前では、五人の原始人の女性達がライオンのような猛獣数頭に取り囲まれて震えていた。
これってマジヤバイ状況だよ!
しかも女性だし、人類の存続にかかわる一大事!
私は、
「死ねぇぇぇっ!」
急いで……と言うか大慌てで例の魔法を発動して、猛獣達の首を一斉に刎ねたよ。
猛獣達も生きるために獲物を狙っているのは分かっているけど、ここは人類の存続を最優先したい。
でないと、この世界に私達が遣わされた意味がなくなるからね。
でも、この光景に、そこに居た五人のうち、四人がガタガタと激しく震え出し、その場に座り込んでしまった。
ちょっと刺激が強すぎたみたいだね、この衝撃映像。
私は、
「大丈夫です。安心してください」
と言ったんだけど、本能的に猛獣を殺したのが私って分かっているんだろうね。私と顔を合わせることすら出来ずにいたよ。
ただ、残りの一人は、落ち着いた表情で、
「助けてくださったのですね。ありがとうございます」
と私に言って来た。
何とかコミュニケーションが取れて、こっちこそ助かったよ!
「私はラヤと言います」
「ヒルデです」
「実は、この世界の女神様にお願いされて、私達二人は、みなさんのところに来ました」
「女神様から?」
「はい。こちらのフユミさんから、みなさんに薬草のことを教えてあげて欲しいと言われまして、それで来たんです」
「薬草って何ですか?」
すると、これにフユミが答えた。
と言うか、ここからは基本的にフユミの出番だよ!
「今まで熱が出たり、頭が痛かったり、下痢したり便秘したりと、身体の調子が悪くなったことがあると思います。それを治す草を薬草と言います」
「そんな草があるんですか?」
「はい。それを、今日は皆さんに教えるために来ました」
「それは有難いことです」
「これから、薬草の生えているところに連れて行きたいのですが」
「でも、ここにいる全員がここを離れるわけには行きません」
「では、五人のうち二人だけ連れて行くなら大丈夫ですか?」
「分かりました。では、私とアンネの二人で行くことにします。ほら、アンネ。立って」
ヒルデがアンネに手を差し伸べた。
アンネは、ヒルデの手を掴んで何とか立ち上がったけど、まだちょっと震えていたし、私の方からは意図的に顔を背けていたよ。
ここまで嫌われたのは、ラフレシア様の配下だった時以来かも。
でも、私はフユミのボディガードだからフユミと同行しなくちゃならないんだよね。
なので、アンネともしばらく一緒だよ!
アンネにとっては残念だと思うけど。
早速、フユミは、
「転移!」
私とヒルデ、アンネを連れて一つ目の薬草が生えている場所に移動した。
そして、フユミは彼女が描いた地図とか薬草の絵を見ながら二人に説明していたんだけど……、やっぱり絵がドヘタだったよ。
でも、二人には、あの子供の落書きみたいな絵で通じているみたいだ。
あの手書きの地図を見て、二人は、ここがどの辺か理解できているみたいだし、あの植物の絵で、どの植物が該当する薬草なのかも把握できている感じだ。
もしかして、フユミの描いた絵のレベルが原始人の知的レベルと一致しているってことなんじゃなかろうか?
フユミが言うには、特徴となる部分を強調した絵だってことらしいんだけど……。
一先ず、フユミ達は、そこでサンプルをいくつか採取した。
たしかに現物を見るのが一番分かりやすいはずだからね。
それと、あれだけビビっていたアンネも、フユミから説明を受けているうちに私への恐怖が和らいで行ったみたいだ。
途中から震えが止まっていたよ。
さらにフユミは、数か所を転移魔法で移動しながら、薬草の効能と生息場所をヒルデとアンネに、順に教えていった。
…
…
…
最後の生息場所の案内と説明が終わると、私達はフユミの転移魔法で洞窟の前まで空間移動した。
そして、フユミが、
「じゃあ、何かあった時には試しに使ってみてください」
とヒルデとアンネに言った直後だった。
私とフユミは、いきなり真っ白な空間に移動していたよ。これで何度目だろう?
もう私は慣れっ子だけど!
一方のフユミは、唖然としていたよ。
まだ、何かをヒルデとアンネに話すつもりだったみたいだったからね。
多分、フユミからすれば、急に作業が打ち切られたような感覚かも知れない。
「二人ともお疲れさまでした」
と私達の脳内に思念波を送りながら、光球が私達の目の前にゆっくり降りて来た。
この波動はフィリフォーリア様だ。
すると、フユミが、
「あんなんで良かったのでしょうか?」
とフィリフォーリア様に聞いた。
実際に効能・効果を直接確認できていないし、ヒルデ達に正確に言いたいことが伝わっているかどうかも分からない。
なので、もう少し見届けてから戻りたかった部分はあるんだろう。
「十分です。これで、カンブリア世界の人々は薬草に目を向けることでしょう。それからラヤ」
「はい?」
「リニフローラから聞いています。例のモノは、シルリア世界の、アナタの家の二階廊下の突き当りに設置します」
「ありがとうございます!」
「それから、二人がカンブリア世界で住んでいた家は、時期を見て、こちらで処分しておきますので」
「よろしくお願いします」
「では、シルリア世界に戻っていただきます。超転移!」
こう言われた次の瞬間、私とフユミは、シルリア世界に戻っていた。
出てきた場所は、私達の家の二階リビングだった。
目の前には、リジンとフルフラールの姿があった。
二人共、なんだか非常に驚いた顔をしていたよ。
そして、フルフラールが、
「もう戻って来たんですか?」
との一言。
「それなりに時間がかかったけど、フルフラールさんの方は、フユミさんの薬屋のこととか大丈夫だった?」
「大丈夫も何も、消えてから五分程度で戻って来たので……」
もしかすると、私もフユミも空間だけでなく時間軸も飛んだってこと?
でも、まあ、イリヤ王子が三十八億年後の世界に飛んでいる可能性もあることだし、女神様が成せる業ってことで考えれば、別に不思議なことでもないか。
「しかも、なんだかフユミさん。若返ってません?」
「それが女神様からの報酬みたいですよ。フユミさんも別世界で、仕事の依頼がありましたので」
「えぇっ? なんだか羨ましい……」
「そうそう。フユミさん。ちょっと来てもらえます」
私は、フユミを連れてリビングを出ると、二階廊下の突き当りに何故かドアが出来ていることを確認した。
そして、その扉を開けると、そこは、アキの家の二階に繋がっていた。
いきなり室内に現れた意味不明の扉が開いて、私とフユミが顔を出したモノだから、アキもヴァナディスもムチャクチャ驚いていたよ。
実は、これが私への女神様達からの報酬なんだよね。
特殊な時空トンネルで、私の家とアキの家を繋いじゃったんだ。
ただ、シルリア世界側は今の時間で、ブルバレン世界側は、私達がブルバレン世界を出た翌日の夜ってことになっているらしいけどね。
それから、言うまでもなく、この報酬は、私のためじゃなくてフユミとアキのため。
なんか二人が可愛そうだったから。
一応、この扉を開けられるのは私とフユミ、アキの三人だけに限られる。
誰もが使えると収拾がつかなくなる可能性があるからね。
また、シルリア世界の病原体がブルバレン世界に悪影響を及ぼす可能性があるし、当然、その逆も起こり得るから、この扉を通る際には、行った先の人々にとって一般的に致命的な病原体になり得る菌とかウイルスは排除されることになっているらしい。
具体的にどんな仕組みなのかは分からないけど……。
ただ、シルリア世界とブルバレン世界の全人類に対して無害ってわけには行かなくて、飽くまでも免疫機能に問題の無い健常人を対象とした話になるらしいけどね。
まあ、この扉は、フユミとアキで好きに使ってくれ。
基本的に、私は、その扉を使うつもりは、今のところ無いからさ。




