72.サファリパークかよ?
私は、念のためチャットボット機能でイリヤ王子のことを確認した。
さっき見た夢が真実なのか私の妄想なのか確かめたかったし、真実だったら恥ずかしいけど嬉しいもんね。
『Q:イリヤ王子は三十八億年後のプレカンブリアン世界にいる?』
『A:ノーコメント』
『Q:現在過去未来全ての中で、イリヤ王子が惑星ラヤに存在する期間がある?』
『A:ノーコメント』
『Q:イリヤ王子のいる宇宙は?』
『A:ノーコメント』
珍しいな。
チャットボット機能が何も答えてくれなかったよ。
普段なら、色々教えてくれるのにね。
ただ、何となくだけど、違うって断言しないところを見ると、イリヤ王子が惑星ラヤにいるのが真実なんじゃないかなって気がするよ。
それにしても、イリヤ王子は三十八億年後って言っていたよね?
空間どころか時間まで飛んじゃっているよ!
丁度、私がチャットボット機能を閉じた時、温泉施設からフユミ達が出て来た。
でも、アキとマナミは人形だよね?
温泉に浸かっても大丈夫なのかな?
「あら、ラヤちゃん。この島に来ていたの?」
こう言ったのはフユミ。
「はい。ちょっと前に、ここに送り込まれました」
「もう女神様からの依頼は終わったのね?」
「意外と早く決着がつきましたので」
「だったら、折角ここまで来たんだし、一緒に入れば良かったのに」
「でも、私が前世で男だってことを知っている人もいるでしょうし、嫌がられないかと思いまして」
「えっ? そんなこと言ってたっけ? 初めて聞いた気がするけど?」
すると、アキが、
「ラヤって、もう女性になって何年?」
と私に聞いて来た。
「八年半くらいでしょうか?」
「そんなに経つんだね。でも、もう前世で男って考える必要も無いんじゃない?」
「そう言って頂けると有難いです。それはそうと、フユミさん」
「はい?」
「これからどうします?」
「どうするって?」
「この世界に残るかシルリアの世界に戻るかです」
「それだったら、シルリアに戻るわ。まだ住血吸虫問題も完全に終わっていないし」
「イイんですか?」
「アキのことで遠慮しているんでしょうけど、アキにはヴァナディスちゃんがいるし、マナミちゃんもいるから。それに、ビナタの町の人達からも愛されているみたいだし」
「分かりました」
「それで、帰るのって何時頃になるの?」
「私にも分かりません。それこそ……」
ここで、私は、
『今すぐかも知れないし、数日後かも知れないし』
って言おうとしたんだけど、どうやら、それを言い切る前に女神様の転移魔法が強制発動したみたいだ。
いきなりだけど、私とフユミは、真っ白な空間の中にいた。
そして、私達の目の前に、光の球体が頭上から降りて来た。例の如く、人型をしていない状態の女神様だね。
ただ、今までお会いしてきた女神様とはちょっと波動が違う。
このお方って、何方?
すると、その光球から発されたであろう言葉が、直接、私達の頭の中に響いて来た。
「私の名はフィリフォーリア。先ず、フユミ」
「はい?」
「私は、アナタに謝らなくてはなりません」
「女神様が謝るって、どう言うことでしょうか?」
「アキが自殺した際に、一人の大学院生を巻き込んで死なせてしまいました。ただ、その大学院生は、あの時に何らかの形で死を迎え、私が統べるネペンテスの世界に転生することになっていました。それでアキの投身自殺が利用されたのです」
これって結構、フユミにとっては衝撃的事実なんじゃない?
私も、かなり驚いたもん!
でも、まさか、天界によって、そんなことが仕組まれていたとはね。
ただ、意外にもフユミは冷静だったよ。
私がフユミの立場だったらorz状態間違いないと思うんだけど……。
「では、青年が巻き込まれたのは天界の意志だったと言うことですか?」
「そうです。しかし、その結果、アナタには辛い思いをさせました。娘の死に加えて娘が人を殺めてしまったことで、相当、心を痛めたことと思います。その埋め合わせにフユミの願いを一つ叶えて差し上げます」
これってどうだろう?
多分、願いを叶えてもらっても、フユミの腹立たしさは拭えないだろうね。
どれだけ辛い思いをしたか。
アキが自殺しただけでも悲しみのどん底だったはずなのに、そこに青年の巻き添え死までオマケで付いて来たんだからね。
でも、アキの自殺そのものは、天界が仕組んだものではない。
それに、互いに姿は変わってしまったけど、フユミはアキと再会できた。
考えようによっては、今は、そのことを感謝するべきかも知れない。
私がその立場だったら、割り切れない気がするけど……。
ただ、フユミは、私が思っていたよりも数段強かだ。
やっぱり、年の功かな?
冷静に注文内容を考えていたよ。
元が研究者だから、一般の人とは感性が違うのかも知れないね。
「では、ラヤのようなチャットボット機能とか辞書機能があると嬉しいですね」
「それは、これからアナタに依頼予定の仕事に必要なモノですので、もし引き受けてくださるなら無償提供します」
「依頼とは何でしょうか?」
「これからカンブリアと呼ばれる世界に行き、そこで薬草のことを人々に色々と教えてあげて欲しいのです」
「薬草の存在を知らないのですか?」
「はい。まだ原始時代でして、薬草の知識は何もありません」
「分かりました。その依頼は引き受けます」
「ありがとうございます」
「それと、チャットボット機能以外でしたら、ラヤのように歳をとらない身体が欲しいですね。永遠の二十歳でいられると有難いです」
やっぱり若さが欲しいか。
私もアキも歳をとらないし。
羨ましくなったのかも知れないね。
「では、フユミとして存在する限り、永遠の二十歳であると言うことで了承しました。カンブリア世界に降り立った時から、そうなるようにします」
アリなんだ!
私、ラヤが言うのも何だけど……。
「ただ、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
これはフユミからフィリフォーリア様への質問。
「何でしょう?」
「その青年は、転生して何をしているのでしょうか? 何故、転生を急ぐ理由があったのかと思いまして」
「全てを話すことはできません。一部分だけの話になります。その者は、色々な薬をネペンテス世界で供給しています。ただし、地球時代では男性でしたが、今では女性になっています。ある意味、ラヤの先輩に当たります」
つまり、ここでは、
『TS転生して治療に当たるって人』
って意味で先輩ってことだよね? きっと。
単に治療を行う転生者ってくくりだけで考えたら、フユミにとっても、その人は先輩ってことになるだろうから。
特に薬関係だし。
それはそうと、たしか、女神様はカンブリアの世界って仰ってたよね?
プレカンブリアン世界と何か関係があるのかな?
でも、存在個所は別の宇宙だし、単なる偶然だよね?
いずれにしても、今回はフユミのタスクだもんね。
この時、私は、
『今回は、ここで待機かな』
なんて楽観視していたんだ。
でも、
「それから、ラヤにはフユミの警護の意味で付き添いをお願いします」
とフィリフォーリア様から言われたよ。
私にも働けと言うことか?
まあ、イイけどさ。
「それから、カンブリア世界ではラヤの治癒魔法を停止します」
「えっ?」
「今回は、飽くまでも薬草の存在を教えていただくことが目的だからです」
つまり、女神様の願いは、カンブリア世界の人々に自分達の手で病気や怪我を治す文明・文化を作ってもらうこと。
その第一段階として薬草の知識を与えたいってことだ。
私がうっかり治癒魔法を発動しちゃうと、人々の関心が薬草じゃなくて治癒魔法に移る可能性があるし、それでは困るってことなんだろうな。
この世界の人々が私の治癒魔法に依存するようになっても困るしね。
そもそも私は、カンブリアの世界に永住するわけじゃないんだしさ。
「では、これから二人には、カンブリアの世界に飛んでいただきます。先程の青年がいるネペンテスの世界から百三十億光年程離れたところに位置します。依頼達成がなされることを期待しています」
そう言われた直後、私とフユミは、二人一緒に草原に放り出されていた。
日が高いし、結構暑いところだ。
なんか、アフリカのサバンナを連想させる。
と言うか、いきなりだけど、すぐ近くにライオンみたいな猛獣が十頭くらいいるし、ソイツ等の視線が完全に私とフユミをロックオンしているよ。
それと驚いたのが、マジでフユミがマジで若返っている!
ちょっと前までアラサーだったのに。
見た目が二十歳で中身が六十歳手前?
一先ずフユミのことは置いといて、その猛獣達は、当然の如く私達に襲い掛かってきた。
フユミの警護って意味が、早速だけど良く分かったよ。
つまり、獰猛な肉食獣からフユミを守れってことだね。
私は、
「死ねぇぇぇっ!」
容赦なく首ちょんぱ魔法を発動した。
悪いけど、こっちも絶対に生き延びなきゃならないからね。
アンタ達のエサになるわけには行かないんだよ。
その場にライオンみたいな動物の首が十個近く転がった。見ていて余り気持ちのイイモノじゃないね。
ラフレシア様に召喚された直後、ノーソラム共和国にいた頃は、喜んで人の首を刎ねていたけど、あの頃の自分の感性が今じゃ理解できないよ。
これで一先ず危機を脱したと思っていたけど、今度は、なんか犬に似た獣の群れが、こっちに向かってゾロゾロと近付いて来た。
ただ、どう考えても愛玩犬とは大きくかけ離れた容姿&雰囲気だよ。
コイツ等も大自然の中で生きているハンター達だもんね。
私は、いつでも攻撃できるように身構えたけど、どうやら、その動物達のターゲットは私達じゃなかったみたいだ。
ソイツ等は、私達の横を通り過ぎると、私が倒したライオンみたいな動物の死体を貪り始めたよ。
そうか。コイツ等、ハイエナの類だ!
ハイエナはハンティングもするけど腐肉を漁ることもあるし。
まあ、今回の死体は出来立てホヤホヤだから腐肉じゃないけどさ。
取り敢えず、私はステータス画面を開いてチャットボット機能を立ち上げた。
行き先を確認しないといけないからね。
『Q:人が住んでいる地域は?』
『A:北に五キロ』
『Q:何人ぐらいの集落?』
『A:二十人程度』
『Q:他の人は?』
『A:人間と呼べるのは、その二十人のみ』
『Q:言語は存在する?』
『A:一応、存在する』
『Q:住居は?』
『A:洞窟』
ええと……。
もしかして、まだ人類が誕生して間もない状況ってこと?
つまり、フユミに依頼された仕事は、そのガチで原始人な人達に薬草の知識を与えるってことだ。
それにしても、住居が洞窟か。
なんか、原始人として定番って気がする。さすがに家を建てる技術とかは、まだ無いだろうからね。そこは仕方が無いだろう。
もしかして、壁画なんかも描いたりしているのかな?
まあ、チャンスがあったら確認してみよう。
もっとも、洞窟の中に入れてもらえる展開になるかどうかは分からないけどね。
私の隣では、フユミもチャットボット機能にチャレンジしていた。
どうやら、同じ回答に辿り着いたらしい。
「ラヤちゃんのことだから、もう検索済みと思うけど、総人口が二十人だって?」
「はい。まだ人類が誕生して間もないみたいです」
「そのようね。でも、そこまで原始的な存在だと、言語が存在するのかしら?」
「チャットボット機能からは、一応あるとのことですけど……」
「多分、小学校低学年並みの言語能力って思っていた方が良いかも知れないわね」
「そうですね。難しい言葉は使えない気がします」
「一先ず、その人達のところに行ってから考えるとするか」
「はい。また変な肉食獣とかが来ないうちに」
「そうね。じゃあ、ラヤちゃん。今から行くわよ」
「お願いします」
「転移!」
そして、フユミの転移魔法で五キロの距離を一瞬で移動した。
徒歩で移動しなくて済むのは、本当に楽だよね!




