74.インフルエンザ?
ここから84話途中までは、普通に異世界の話です。
ある晩のことだ。
私は眠っていたはずなんだけど、妙に意識だけがハッキリしていた。でも、目は開かないし身体も動かない。金縛り状態だった。
ただ、特段、嫌な感覚は無かった。
「ラヤ……」
私の頭の中にイリヤ王子の声が直接話しかけて来た。
「王子?」
「また会えたね」
「はい」
「こっちの最高位の女神ラメラータ様から聞いたけど、この惑星ラヤがある宇宙に、ラヤが前世で暮らしていた地球って星があるんだって?」
「そうです。でも、地球にいた時よりも王子のいたトモティ世界での生活の方が、ずっと充実していましたし幸せでした」
「今、彼氏とかいるの?」
「いません。と言いますか、私はイリヤ王子以外とお付き合いしたことはありませんし、付き合うつもりもありません」
アプローチは何人からも受けているけどね。
男女問わず。
狙いは私自身じゃなくてヒモ生活だけど……。
「そうなんだ」
「そう言うイリヤ王子こそどうなんです?」
「僕もラヤ以外の女性とは付き合ったことは無いよ。それに、ラヤ以外と付き合うつもりもない」
「そうですか」
「安心した?」
「はい。王子は?」
「僕も安心したよ」
「そう言えば、王子にいただいた指輪ですけど、私の石像に付けたままなんですよね。なんか、勿体無い気がして」
「あれは、あの後、取り外してボクの方で預かっているよ。いつか会えたらラヤに渡したいと思って」
「ありがとうございます」
「それからね……」
この後、私はイリヤ王子と一時間くらい話をした。
私の妄想なのか現実なのかは分からないけど、このイリヤ王子との時間が、今は現実のモノだって思うことにする。
だって、それだけで人生が前向きになれる気がするもんね。
そして、
「じゃあ、また」
「王子も」
会話が終わった直後、私は目を開いた。
身体も動く。
時計を見ると、針は四時四十四分を指していた。
日本人の感覚では、四は死をイメージするから、この数字を見たら、
『死あるのみ!』
みたいに思えちゃうけど、エンジェルナンバーで考えると、凄くイイ数字みたいだね。
私は、前者ではなく後者……縁起のイイ数字を見たって思うことにしたよ。だって、イリヤ王子に会えたんだもん!
その後、私は再び眠りについた。
時計のアラームが鳴り響いた。
実は、物質創製魔法でアラーム付きの時計を出したんだよね。この世界では、間違いなくオーパーツになっちゃうだろうけど。
私はアラームを止めるとベッドから起き上がり、リビングへと向かった。
全員分……私とフユミとフルフラールの三人分の朝食を用意しにね。
と言っても、
「出ろ!」
物質創製魔法で出すだけなんだけど。
多分、フユミは後から何か追加注文して来るけど、それはその時に対応する。
朝食を魔法で出した後、一先ず私は、軽くシャワーを浴びた。
ちょっと寝汗が酷かったモノで。
そして、その後にリビングに戻ると、既にフユミとフルフラールも起きて来ていた。
「おはようございます」
「おはよう」
「先にいただいています」
私もテーブルに付いて朝食をとり始めた。
この世界にはテレビも無いしラジオも無い。そもそも放送局と言うモノ自体が存在しないもんね。
だから、テレビを見ながら全員黙って食事……ってならない分、食事中に会話をすることが結構多い。
昨日の患者のこととか、昨日フユミの薬屋に来た客の話とか、飲食店の方に来た客の話とかで盛り上がる。
「ラヤ、お代わり頂戴!」
やっぱりフユミは足りなかったか。
「何がイイですか?」
「今日はステーキの気分!」
「もう、朝から、いきなりですか?」
「まあね」
追加で何を食べたいって言い出すか分からないから、先に出していないんだよね。それに料理が冷めちゃっても悪いし。
それで、その日の気分で食べたいモノは追加で注文してもらうことにしている。
稀に、追加無しの時もあるし。
「出ろ!」
私は、物質創製魔法でフユミが所望するステーキを出してあげた。
でも、朝からよく入るよね。
ある意味、感心するよ。
朝食を済ますと、私とフルフラールは医院の方の準備を始めた。
一方、フユミは薬屋の方へと向かったけど……、まあ、この家の敷地内だからマジで大した距離じゃないけどね。
『通勤が楽でイイわぁ!』
ってフユミもしょっちゅう言っているよ。
医院の方は、今日もそれなりに人が来ていた。
でも、待合室を覗いた限り、大半が子連れの母親……って言うか、正しくは、ほとんどの患者が子供だったんだよね。母親は単に子供に付き添っているだけだから。
やっぱり、子供の治療代を重軽症問わず一律六百Ven……日本円で三百円に設定したからだろうね。
それで何か子供に異常があると、すぐに私のところに連れて来るんだ。
でも、本当にこの医院は儲からないな。
加えてフルフラールの給料が毎月六十万Venだからね。
完全に採算性無視だよ。
とは言っても、魔獣討伐の賞金とかで稼いでいるから、別にお金には困っていないんだけどね。
なんか、この医院自体が私の趣味の店みたいになっている。
「次の方」
「おはようございます」
入ってきたのは若い夫婦だった。
待合室にいた中で、子連れじゃない極少数派の人達ね。
「どうされました?」
「ちょっと、昨日まで二人で海外に旅行してきたのですけど、二人共、咳が激しく、それから熱が出て」
「分かりました」
私は早速、二人の身体を診断魔法でスキャンした。これで症状の度合いが分かる。
たしかに熱は高いし、症状としては決して軽くはない。
ハッキリ言って、なんだかイヤな予感がする。
続いて二人のステータス画面を確認した。
これで病名が確定する。
残念だけど、そこに記載された文字を見ると同時に、私は『やっぱりか』と思った。
予感が当たったよ。
二人共、インフルエンザだ。
「これは、伝染病です」
「えっ?」
「治療代は一人当たり二千Venですので、二人併せて四千Venです。それでよろしければ、お二人共、この場で私が治すことを約束します」
「では、よろしくお願いします」
「それと、どちらに行かれたか教えてください。そこでは、病気で寝込んでいる人が多数いたのではないでしょうか?」
「その辺のところは分かりませんが、ただ、行って来たのは隣国、ポアソン王国のミリカンと言う町です」
「分かりました。では、二人を治します。治癒魔法照射!」
ちょっと、これは状況としてマズイと思って、二人同時に治したよ。
時間が惜しかったんでね。
「これで治りました。ご気分は如何ですか?」
「随分、楽になりました。ありがとうございます」
「では、お大事にしてください」
患者二人が診察室を出ると、私は急いでフルフラールのところに行った。
まだ、患者がいるけど、今すぐ死にそうな患者はいないし、少しくらいなら時間をおいても大丈夫って判断したんだ。
それよりも、もっと大事なことがあるって分かったからね。
「ちょっと、フユミさんのところに行ってくる。すぐに戻るから」
「分かりました」
そして、私はフユミの薬屋に駆け込んだ。
同じ敷地内って言うのは、マジで移動が楽でイイわぁ。
「フユミさん!」
「どうしたの、ラヤちゃん?」
「ポアソン王国のミリカン町から帰ってきた患者二人がインフルエンザでした」
「えっ?」
「夫婦で旅行したようでしたけど、夫婦そろっての罹患です」
「もしかして、そこで流行っているとか?」
「可能性があります」
「分かったわ。そうしたら、こっちの店番はリジンにお願いして、私は現地を見てくることにするから」
「お願いします!」
と言っても、どうせフユミのことだから特効薬を無償配布するんだろうけどね。
いずれにしても、インフルエンザの件はフユミに任せた。なので、私は自分の医院に逆戻り。
そして、次の患者を診ることにした。
「次の方どうぞ」
「よろしくお願いします」
入ってきたのは子連れの母親。
子供の方は、ちょっと辛そうな表情をしている。
かなり熱も高そうだ。
「一応、自覚症状の方を伺わせていただきます」
「はい。息子の方ですが、昨夜から熱が酷くて」
「そのようですね。では、魔法診断します」
私は、その子の全身を診断魔法でスキャンした。
扁桃腺が腫れている。
熱が高いはずだよ。
それに、ステータス画面を見る限り扁桃炎で間違いない。
ちょっと安心したよ。
実は、さっきインフルエンザの患者がいたから、高い発熱には私の方がちょっと警戒しているんだよね。
「扁桃炎です。すぐに治せます」
「よろしくお願いします」
「治癒魔法照射!」
これで、扁桃炎は沈静化した。
その子の熱も下がり、治療終了!
「終わりました。お大事にしてください」
「ありがとうございます」
その母親は、私に何度も頭を下げながら診察室を出て行ったよ。
ムチャクチャ熱が高かったからね。
母親としては、相当心配だっただろうし、それに付け込んでくる悪徳治癒術師もハッキリ言って少なくない……と言うか、個人的には多い印象を持っている。
多分、母親達にとって、私は有難い存在なんだろうね。
でもさあ、私自身が母になるのは何年先のことなんだろう?
相手は、どうせだったらイリヤ王子がイイけど。
まあ、今は仕事のことだけを考えよう。
どうせ老化がストップした身体だし、十年後でも需要はあるよね?
「次の方」
「あのう……」
次の入ってきたのは男性。
ステータス画面を覗き見したけど、この男性もアレか……。
勇者と名乗る男性を診て以来、毎日何人かの男性が、アソコの余剰部位切除の依頼に来るんだよね。
口コミで噂が広がっているみたい。
安く確実に除去してもらえるってね。
それから勇者の紹介で来たって言う人も多い。
ただ、この依頼で来る大半の男性患者は、患部に私が手をかざしたり顔が近付いたりするのに興奮して、半分反応した状態になるんだよね。
中には見られただけで大興奮しちゃって臨戦態勢に入っちゃうのもいたし。
でも、無反応だと、それはそれで、何故かこっちも傷つくけどね。
「どなたかのご紹介でしょうか?」
「はい。勇者殿の紹介です。王都から来ました」
「と言うことは、やっぱり余剰部位の切除でしょうか?」
「はい。お願いします!」
その男性がイソイソと、ズボンとパンツを脱いだ。
これは、また見事な……。
それにしても、この世界は、この手の患者がやたらと多くない?
今度、町に出た時に、色々な男性のステータス画面を覗き見して統計でも取ってやろうかって思うくらいだよ。
別に本人達が悪いんじゃないから仕方ないけどさ。
「一万Venになりますけど、イイですか?」
「よろしくお願いします! 他で依頼したら、安くても、その十倍から二十倍取られますので」
「まあ、そうでしょうね」
「高いところだと、その二百倍以上も」
「それは暴利ですね。でも、ご安心ください。ここでは一万Venが最高価格ですから、それを超えて請求することはありません」
「有難いです」
「では、早速」
私は、その男性の股間に手をかざした。
やっぱり、コイツも少し反応しているよ。
まあ、イイけど。
完全無反応だと、私のプライドが傷付くし。
「余剰部位切除!」
そう私が唱えた直後、その男性の股間は、言葉通り『一皮剝けて』立派になった。
それにしても、ワザワザ王都から来るんだもんなぁ。
でも、まあ、ここまで来てくれることに感謝しよう。一応、この手の患者を毎月六十人診れば、フルフラールの給料が払えるもんね。




