65.女神様が医院にやってきた!
異世界漫遊編では、色々な異世界にラヤが出張します。ナーロッパ世界への出張もあれば、そうでない世界への出張もあります。それから、アキとフユミへの救済もあります。
丁度、勇者君の紹介で来た青年のシモ治療が終わった時だった。
診察室にフルフラールが入ってきた。
「済みません。ギルドの人が来ています」
「分かりました。通してください」
「はい。了解です!」
多分、昨日の魔獣の件だろう。
この医院も飲食店も、極めて破格でやっているからね。実は、フルフラールとリジンの給料を差し引くと全然儲かっていないんだよ!
住血吸虫の件だって無償だし。
なので、魔獣討伐で得た賞金が、事実上の収入源なんだよね。
と言っても、食費は基本的にかからないし、生活用品も出せるから、私自身はお金を全然使わないんだけどね。
診察室にギルドの女性スタッフが入ってきた。
もう、私とは顔馴染みだ。
「失礼します」
「こんな町外れまで来ていただいて済みません」
「別に、転移魔法で来ていますので。それで、昨日の鹿型魔獣ですけど、トータル額では、もの凄い値が付きました」
「そうなんですか?」
「討伐賞金は、残念ながら低かったんですけどね。領主様から一千万Venしか出ませんでした。予め依頼があった案件ではありませんでしたので」
「まあ、仕方が無いですね」
「でも、頭部はコレクター……まあ、王家ですけど、二億Venで購入してくださいました。それから、毛皮、尻尾、ひづめも売れまして、ギルドの方での手数料等を差し引きましても二億二千万Venが支払われます」
「ホントですか?」
「はい」
「鹿の頭だから良かったんでしょうね?」
「そうですね。飾り甲斐がありますからね。角も立派でしたし。それで、金貨二千二百枚を持って参りましたので、お納めください」
そう言うと、ギルドの女性は異空間収納から大量の金貨を何十回かに分けて取り出し、床の上に置いた。
これは、相当重いよ。
私の体重と大差ないんじゃないかな?
私は、急いで枚数を確認した。
「たしかに二千二百枚、頂戴しました。書類にサインとかは?」
「こちらにお願いします」
ギルドの女性が一枚の書類を差し出してきた。
私が受け取った証拠の書類だね。
記載内容も確認した。
まあ、今までに何回も書いているから今更なんだけど、特に問題はない。
私は書類にサインを入れて彼女に渡した。
「ワザワザ済みませんでした」
「こちらこそ。これからも魔獣討伐をお願いします」
そう言うと、彼女は診察室を出て行った。
一方の私は、頂いた金貨を急いでアイテムボックスに収納したよ。
もうすぐ、午前の診療は終わる。
残っている患者は、あと数人。
「次の方!」
「はい」
診察室の扉が開き、一人の二十代と思われる女性が入ってきた。
ただ、この時、私は、その女性から強大なオーラを感じ取っていた。それに、この崇高な雰囲気は久し振りだ。
ステータス画面は開かない。
多分、この女性の正体は……。
「もしかして、アナタは……」
「気付かれちゃったようね。このシルリアの世界を管理するロリダです」
やっぱり女神様だったよ!
それにしても、いったい何の用だろ?
ギガンテア様の時の前例から考えると、また旅立ち?
「ええと、もしかして、また他の世界に移るのでしょうか?」
「そうです。ただ、移住ではありません。今回は出張していただきます」
「出張ですか?」
「そうです。私としては、まだラヤには、このシルリアの世界でやっていただきたいことがありますので、手放すつもりはありません。ただ、リニフローラの世界で以前から抱えていた問題を、そろそろ解決しなければならないだろうと言うことになりまして」
リニフローラ様の世界って……。
まさかだけど……。
「ブルバレン世界ですか?」
「たしかにリニフローラが管理する宇宙の中にブルアレン世界はありますが、同じ宇宙の中にある他の世界……デボニアンと呼ばれる世界です」
アキの世界じゃないってことか。
ちょっとホッとしたような……。
でも、フユミのことを考えると残念なような……。
「今、すぐですか?」
「準備もあるでしょう。今夜八時に、改めて迎えに来ます」
「意外と早いですね」
「緊急を要しますので」
「分かりました」
「それから、魔法装備は、現状のものに物質転送魔法を追加します」
「では、今使える魔法は、そのまま使えるってことですね」
「そうです」
正直、これは助かったって思った。
物質創製魔法が継続して使えるのは有難い。これがあれば、絶対に飢えることだけは無いもんね。
全く知らない世界に行って、食に無事ありつけるのは大きいよ。
それと、折角リニフローラ様の世界に行くんだったら、やっぱりお願いしておきたいことがある。
聞き入れてもらえるかどうかは分からないけど……。
でも、言わなきゃ始まらないよね?
「実は、ロリダ様にちょっとお願いがありまして。折角、リニフローラ様の宇宙に行くのでしたら、本人の希望があればの話ですけど、フユミさんを連れてブルバレン世界に立ち寄らせていただきたいのです」
「ラヤのことですから、言うと思っていました。それは許可しましょう」
「ありがとうございます。フユミさんには、確認しておきます」
「お願いします。では、また後で」
そう言うと、女神ロリダ様は瞬間移動でもしたかのように、その場から姿を消した。
まあ、女神様だからね。
何でもありだよ。
でも、診察室から待合室の方に患者が出て行かないのはマズイな。
今回は仕方ないけど。
とは言え、このままだとフルフラールが困るよね。
受け付けしたけど、患者が何故か、いなくなっちゃったんだもん。
それで、一応、私はフルフラールのところに行って、
「さっきの人だけど、治療無しね。あと、訳アリで転移して消えたから」
と告げたんだけど、そうしたら、
「でも、ここってラヤさんお結界魔法が張ってあって、リジンさんレベルの人でも転移魔法での出入りは出来ない設定ですよね? それなのに転移で移動って、さっきの人って何者なんです?」
と聞き返して来たよ。
そこにキチンと気が付いたかぁ。
でも、まだ患者がいるし、この場で余り細かい説明はしたくないなぁ。
なので、
「それも含めて訳アリでね。午前の診療が終わったら話します。次の患者さんを通してください」
とだけ伝えて私は診察室に戻った。
…
…
…
その後、数人の患者を診て午前の診療が終了した。
今から三十分ちょっとしたら飲食店を開く。なので、私とフルフラールは飲食店の方へと急いで移動した。
私達が到着した時には、既にリジンも来てくれていた。リジンもウェイトレスとして働いているからね。
それから、フユミにも来る途中で声をかけて飲食店に来てもらった。
どうせ、店が始まったら食べに来るんだろうけど、その前に話がしたかったんだ。
「みんなに、ちょっと話さなければならないことがありまして。実は、午前中の患者の中に女神ロリダ様が紛れ込んでいまして……」
これを聞いてフルフラールが、
「じゃあ、あの転移したって患者さんですか?」
と私に聞いて来た。
「そうです。それで、ロリダ様からは、女神リニフローラ様が統治するデボニアンの世界への出張を依頼されました。ただ、リニフローラ様が統治する宇宙にはデボニアンの世界以外にブルバレン世界もありまして……。で、フユミさん」
「もしかして、私にも手伝えとか」
「ちょっと違います。実は、そのブルバレン世界にアキさんがいます」
「えっ?」
「もし、フユミさんさえよろしければ、今回の出張に同行していただきたいのです。勿論、ブルバレン世界に寄りますし、ロリダ様の同意も得ています」
「亜紀が、そこに……。それで、出発は何時?」
「今夜八時です。なので、明日から臨時休業になります」
「でも、ラヤちゃんが臨時休業するなら、私の薬屋は閉めるわけには行かないんじゃないかな?」
「でも、二度とないチャンスですよ!」
この私とフユミのやり取りを聞いて、リジンが、
「ええと、アキって誰? それと、デボニアンとかブルバレンって? ロリダ様は分かるけどリニフローラって?」
と私に聞いて来た。
そりゃあ、そうだよね。
この話は私とフユミにしか通じないもん。
まあ、リニフローラ様のことは、フユミも知らないと思うけど。
「実は、この世界以外にも異世界がいくつも存在していてね」
「異世界?」
「こことは別の世界。それが、たくさんあるの」
「なんか、それって夢がある話ね」
「たしかにね。それで、今回、私が出張する世界の女神様がリニフローラ様。そして、リニフローラ様が担当している世界が、ブルバレン世界とデボニアン世界ってことです」
「そうなんだ」
「それと、アキさんは、実はフユミさんの前世の娘さんです」
「えっ?」
「アキさんは、二十三歳で亡くなってまして……。フユミさんよりも先に亡くなったんです。それで、折角のチャンスなので、会わせてあげたいと思いまして」
これを聞いて、リジンは、
「だったら会いに行くべきです!」
胸の前で両手とも拳を握りながら力説してくれたよ。
彼女は既に母親を亡くしているからね。余計に、そう思うんだろう。
これにフルフラールも、
「私も行くべきだと思います!」
同じように全身に力を入れて力説してくれた。
二人とも話が分かる娘で有難いよ。
一瞬、間があいたけど、二人の言葉を聞いて、フユミは、
「ありがとう。じゃあ、行かせてもらうよ」
ブルバレン世界への出張を決心してくれた。
本当に、これを逃したらアキに会う機会なんて無いだろうからね。
良かった良かった。
私はアキに会いたくないけど。
だって天敵だもん。
「でも、私もラヤちゃんもいないと、誰も病人を診れないからね。一応、いくつか薬を作っておくよ。症状に合わせて、これを出せばイイってカンペも作っておくから。処方はフルフラールにお願いしたいけど、イイ?」
「はい。頑張ります!」
「よろしくね。じゃあ、ラヤちゃん」
「はい?」
「ラーメンとミニカツ丼をお願い」
「分かりました。リジンさんとフルフラールさんは?」
「私はピザで」
「私はカルボナーラで」
フユミは、日本のジジイみたいなメニューが好きなんだよね。
それと、リジンとフルフラールは、ともにイタリアンが好きだねぇ。
かく言う私、今日は担々麺の気分。
と言うわけで、
「出ろ!」
私は、物質創製魔法で、みんなの賄いを出した。
とにかく、さっさと食べて店を開けるよ!
とは言ってもね。
なんだかんだ言いながら、私以外はみんな、五~六分もあれば、全部食べ切っちゃうんだけどね。
女性としては、三人とも結構、早食いだよね?
…
…
…
それから時は過ぎ、今は八時ちょっと前。
今夜は、私の家にリジンも来てくれていた。
この広い家にフルフラール一人じゃ不用心だってことでね。
一応、結界が張ってあるから大丈夫だと思うんだけど。
この時、私達は二階のリビングにいた。
すでに夕食も後片付けも終えて、あとは迎えが来るのを待つだけの状態となっていた。
「もうすぐか。それじゃ、リジンもフルフラールも、少しの間、よろしくね」
「早く帰ってきてね」
「可能な限り、そうする」
そして、時計の針が丁度八時を指した時だ。
急に、私の目には空間がS字状に歪んで行くように見えたんだ。
多分、空間を超えるための入り口が開いたんだろう。
なんだか目が回って気持ちが悪くなってきた。
十秒くらいすると、今度は目の前が真っ暗になった。
上も下も分からない。
良く訳の分からない空間に入ったようだ。
ところが、それからさらに十秒くらいすると、急に目の前が明るくなった。
多分、ワームホールを抜けたんだろう。
…
…
…
転移終了。
隣にはフユミの姿もある。
大丈夫だ。
はぐれていない。
出たところは、どこかの街外れで、目の前には八百屋らしき店があり、沢山の男性客でにぎわっていた。
その店の中に見たことのある顔を発見!
あのHな雰囲気。
Hな身体付き。
忘れるはずが無い。
たしかに、私達はブルバレン世界に転移してきたようだ。




