64.おしおき!
「消毒OKよ!」
こう言ったのはフユミ。
これで、私はトリトンの治療に入れる。
「じゃあ、トリトンさん。治しますね」
「ああ、頼む」
「治癒魔法照射!」
すると、切断された彼の足が宙に浮き、それがまるでリモコン操作でもされているかのように元の位置にピタッとくっついた。
勿論、ただくっつけただけじゃなくて、骨も血管も神経も筋肉も、全部、繋がっているからね!
でも、これで終わりじゃない。
神経は繋いだだけじゃダメなんだ。
「スキャン!」
私は彼の接合部に両手をかざすと、神経の中の電気の流れをチェックした。
特に問題無し。
それから、念のため、頭の天辺から足のつま先までを念のためスキャン。
これも特に異常は見当たらず。
ダメ押しのステータス画面チェック。
これもOK。
特に問題無しって書かれていた。
私の診断魔法とステータス画面のダブルチェックだからね。
余程のことが無い限り見落としは無いだろう。
「治りました」
「ありがとう。ラヤちゃん。それで、治療代は、いつもの通りでイイ?」
「はい。一万Venです」
これを聞いて、カオスは、
「一万Venって。それだけの怪我なら一億Ven取ったって文句は言われねえぞ!」
と声を大にして言っていたけど、そうしたらトリトンが、
「ラヤちゃんは、金に固執してねえんだよ。みんなの健康が最優先なんだ。それに、金が欲しけりゃ、ラヤちゃんなら他の方法で簡単に稼ぐからな!」
って、まるで自慢するみたいな感じで言っていた。
さらにトリトンは、
「そこのお嬢ちゃんのご両親。お嬢さんは十二歳以下かい? だったら治療代は六百Venだから安心しな!」
とも言ってくれちゃったよ。
さすがに、これは信じられなかったみたいで、その少女の両親はイイ意味で顔が固まっていたけどね。
「本当ですか?」
少女の母親が私に聞いた。
「はい。十二歳以下は一律六百Venなんです。そのお嬢様は、十一歳三か月ですね」
「えっ? あっ! はい。でも、なんで年齢が分かるんですか?」
「診断の際に分かるんです」
「そ……そうでしたか。でも、娘はどんな症状だったんですか?」
「内臓破裂でした。放っておいたら、もう三十分も持たなかったでしょう。でも、何故、こんなことに?」
「この娘は、御者台に乗るのが好きでして。ただ、ちょっと目を離した隙に御者台から落ちてしまったようでして、そのまま馬車に轢かれまして……」
おいおい。子供を御者台に乗せるなら目を離すなよ!
この町には、たまたま私がいたから良かったけど、他の町でやられていたら普通は助からないからね。
ただ、このやり取りを聞いてカオスは、
「内臓破裂の治療が六百Venだって? そんなの有り得ないだろう!」
と大声で言っていた。
「ただ、この町では、それがあるんです」
「ふざけるな。この娘だって、生死問わず治療代が一億Ven取れるレベルだろう!」
「たしかに、患者を殺しても一億Ven取ろうって人はいますよね。アナタも、その手の人種なのでしょう。Fランク治癒術師のカオスさん」
「いや、俺はFランクなんかじゃ……」
「では免許証を見せてください」
「そ……それは……」
「そもそも、Fランクの治癒術師に内臓破裂が治せるんですか?」
「……」
あらあら、完全に黙り込んじゃったよ。
これは、間違いなく患者を殺して一億Ven取ろうって考えていたってことだよね?
そう言う輩には、お仕置きが必要だよ、うん!
「トリトンさん。魔獣に襲われて怪我をしたって話でしたけど?」
「北の森に、また出たんだ。今回は鹿型だった」
「そうですか。でも、鹿型だったから、切断された足を食べられなかったってことですかね?」
「ああ。それだけは幸いだったよ」
「では、リジンさん」
「OK! 討伐ね!」
「はい。ただ、トリトンさんと、このカオスって人も一緒に連れて行きますので、お願いします」
「トリトンは分かるけど、コイツも?」
「はい。見せてやろうかと思いまして」
「了解。転移!」
リジンは、私の意図を理解してくれたようだ。
そして、私達は北の森へと移動した。
当然、移動時間は一瞬だったけどね。
早速、
「サーチ!」
私は探査魔法を発動した。
その隣では、
「ここは何処だぁ!」
カオスが大声でわめいていたよ。
黙り込んで、ボーっとしていたら、いつの間にか知らない森の中にいるんだもんね。
騒ぎたくなる気持ちは分かるよ。
でもさぁ、何時何処で、どんな魔物とか魔獣に遭遇するか分からないんだから静かにして欲しいんだけど!
「あっ!」
「どうしたの? ラヤちゃん?」
「後方三百メートル地点に発見。こっちに近付いています」
「えっ?」
私達は、一斉に後ろを振り返った。
すると、猛スピードで突進してくる牡鹿型の巨大魔獣の姿があった。
カオスが騒ぐからだよ、きっと。
もっとも、当のカオスは、これには恐怖を通り越したようだったけどね。
もはや、死を覚悟した顔で、その場に膝をついてしまったよ。
でもね、死ぬのはアンタじゃないよ!
「死ねぇぇぇ!」
私が、大声でそう唱えると、次の瞬間、
「ブチッ!」
と大きな音を立てて巨大鹿型魔獣の首が切断されて宙を舞った。
その首は、勢い余って前方に……カオスの目の前に落ちて転がった。
これにはカオスも、
「あ……あぁ……」
失禁したよ。
その隣では、
「スゲー! 噂では聞いていたけど、俺、ラヤちゃんのハンティングって初めて見た!」
と言いながらトリトンが大興奮していた。
「じゃあ、リジンさん」
「運搬ね。費用は?」
「トリトンさんと、さっきの少女の治療代で」
「了解。転移!」
そして、私達はギルドの前に移動した。
勿論、倒した鹿型魔獣の死体も一緒ね。
ギルド前に出現した、巨大な鹿魔獣の首ちょんぱ死体。
これを見て、ギルドの連中は、
「さすが、ラヤちゃん!」
「やってくれたよ!」
「ギルドの誇り!」
私に大歓声を送ってくれた。
その一方で、トリトンは、
「いや、マジで凄かったんだから。ラヤちゃんが死ねって言ったら、突進してくる魔獣の首が、ブチッって音を立てて宙を飛んでさ……」
見てきたことを、周りのギルド仲間に解説していたよ。
ライブ映像を見れたってことを一生懸命自慢したかったみたいだね。
でも、そんなに見たいかなぁ。
魔獣の首が飛ぶところって……。
それと、カオスだけど、完全に心ここにあらずって感じだった。
多分、鹿魔獣の突進も首ちょんぱも、コイツにとっては衝撃映像だったろうね。
「カオスさん」
「……」
「魔力を自分が生きるために使うのは間違っていません。しかし、他人を騙すために使ってはなりません。人々の役に立つ使い方を考えましょう」
「……」
カオスは、完全に無反応だったけど、お金を騙し取る悪い治癒術師を卒業してくれることを祈るよ。
私は、早速、ギルドの中に入って受付のスタッフに声をかけた。
魔獣の査定があるからね。
「済みません」
「ラヤちゃん。もう終わったのね?」
「はい」
「その辺の連中から、トリトンさんを襲った魔獣を倒しに行ったって聞いていたから。それと、トリトンさんと、前の道で馬車に轢かれた少女を治したってことも」
「そうでしたか」
「今回は、どんな魔獣だったのかしら?」
「鹿型で、結構大きかったです」
「そう」
「既に、リジンさんに運んでもらって、ギルドの前にあります」
「分かりました。早速、スタッフの方で確認しておきますので」
「よろしくお願いします。では、私は一旦、帰りますので」
「はい、確認が取れたら医院の方にお伺います」
「それでは、失礼します」
私は、スタッフの女性に会釈すると、ギルドを出た。
外にフユミを待たせているしね。
「フユミさん。そろそろ帰りましょうか?」
「そうね。でも、そのFラン治癒術師はどうするの?」
「放置です。少なくとも、私の家に招待することだけは有り得ません。あと、そうだ! 一応、治療費をいただかないと。トリトンさん」
「ああ、一万Venならリジンに払ったよ」
「そうでしたか」
「それから、さっきの少女の治療費も、リジンが回収していた」
「それで、リジンさんは?」
「買い物に行った。あと、よろしくって」
「了解です」
リジンとリカルドは、私のところで食べないからね。
自前で賄う。
なので、食材でも買いに行ったんだろう。
多分、リジン達の今夜の夕飯は、きっと豪勢なんだろうな。
それはさて置き、私はフユミに連れられて、転移魔法で私の家へと瞬間移動した。
こっちはこっちで、豪勢な夕食を楽しむよ!
翌日。
この日、私は、普通に朝から医院の方で、それなりに忙しかった。
と言っても、昨日の少女とかトリトンのような重傷者がいるわけじゃないけどね。
「次の方」
「はい」
診察室に入ってきたのは中年の男性。
ステータス画面には歯周病って出ている。この男性は、たしか半年前にも歯周病で来ていた気がするんだけど……。
カルテを見ると、私の記憶通りだったよ。
まあ、それでも一応、自覚症状を確認するけどね。
「いかがされました?」
「また、食事中に噛んだら奥歯が痛くてね」
「歯は磨いていますか?」
「それが、たまに磨かない時もあって。忙しくて、つい忘れちゃってね」
「今回も、前回と全く同じですね。治療代は前回と同じ二千Venです」
「それで治るんだからありがてぇ! 治療をお願いするよ」
「分かりました。それから、今後ですけど、マウスウォッシュとか使ってみます?」
「何、それ?」
「口の中を洗浄する液です。フユミさんにところで買えると思います。それでしたら歯磨きの代わりになりますし、歯を磨くよりも短時間で済みます」
「ホントか? じゃあ、薬屋にも行ってみる」
「念のため、私の方でメモを書いておきますね」
一応、私はメモ用紙に、
『この患者がマウスウォッシュを希望! あと、使い方指導もよろしく!』
って書いて、その男性に渡した。これをフユミに見せれば分かるよ。
それから、治療もしないとね。
私は、その男性の口に右手をかざすと、
「治癒魔法照射!」
治癒魔法を放った。
まあ、これで問題なく治ったはずだよ!
「おお! 痛みが消えた!」
「でも、歯磨きとかマウスウォッシュは、キチンとしてくださいね」
「分かった。ありがとう」
そう言うと、その男性は診察室を出て行った。
治療代は、診察券の返却の際に受付でフルフラールに支払ってもらう。
ただ、地球で歯周病になったら、一瞬で治るなんて有り得ないからね。
やっぱり、治癒魔法って便利だよね?
「次の方」
「はい」
またもや入ってきたのは男性。
二十代の青年だった。
ただ、ステータス画面に書いてあるのは……。
またか……。
「私のところでは初めての診察ですね。いかがされました?」
「あのう、勇者君の紹介で来たんですけど。これを治してください!」
彼が、恥ずかしそうな顔でズボンとパンツを脱いだ。
勇者君と同じで、彼も真正包茎だったんだよ。
「治療代は一万Venですけど」
「それで治るなら、是非お願いします!」
「分かりました」
と言うわけで、私は、彼の股間に右手をかざすと、
「余剰部位除去!」
ホンの数秒で治してあげたよ。
きっと、これで彼も、男として自信が持てるようになると思うよ!




