60.転移担当!
「おはようございます」
私は、早速フルフラールを連れてギルドの中に入った。
受け答えしてくれたのは、近くにいた女性スタッフだった。
「ラヤちゃん、早いわね。そちらの方は?」
「私の連れです」
「たしか、昨日、試験を受けられた?」
「フランさんの妹のフルフラールさんです。今日は、見学してもらいます」
「でも、危険じゃない?」
「大丈夫です。それで、今日、私を現地に連れて行ってくれる転移魔法使いの人は?」
「少々お待ちください」
ギルドのスタッフは、そう私に言うと、奥の方に設置された長椅子に座っている二十歳くらいの女性のところまで行き、その女性に声をかけた。
そして、すぐさま、その女性を連れて私の前に戻って来た。
「この方が、今日一日、ラヤちゃんの移動を担当するリジンさんです。女性のハンターの付き添いですので、万が一のことを考えて女性の転移魔法使いを担当に選びました」
「そうですか、ワザワザありがとうございます」
「リジンです」
「ラヤです。初めまして」
「大熊魔獣を一撃で倒したって聞いていたんで、どんなゴツイゴリラ女かと思っていたけど、まさか、こんな可愛らしいお嬢ちゃんとはね」
まあ、話だけ聞いたら、そんなイメージを持たれる可能性はあるか。
倒した手段が『魔法』だってところも抜けているみたいだし。
まるで、剣を使って一撃で倒したみたいに思えるもんね。
「今日は、よろしくお願いします。それと、私の連れのフルフラールさんです。今日は見学させたくて連れて来ました」
「見学ねぇ。ラヤちゃんの分と、獲物の運搬代はギルドから支払われることになっているけど、そのフルフラールって娘の分は別払いになるけど?」
「おいくらでしょう?」
「二万Venだけど」
「分かりました。作業終了後に私からお支払いします」
「了解。では、早速だけど、行くよ!」
リジンがそう言った直後、私達は謎の光に身を包まれた。
今までにないパターンだな。
そして、次の瞬間、私達は深い森に中にいた。
ほんの一瞬で、ギルドから北の森の中の方まで瞬間移動したんだ。
それにしても、出会って即、転移魔法発動だもんな。
マジでリジンは、気が早い女性だなって思ったよ。
あと、サバサバした感じがあるね。
私の方も、早速、探査魔法を発動した。
獲物反応アリ!
「二時の方向、五キロ地点に魔物発見です」
「探査魔法もできるの?」
「はい」
「これは楽でイイわ。普通の狩だと、ここから無作為にアチコチ移動するんで、結構こっちも疲れるんだけどね」
「そうでしたか」
「じゃあ、こっちの方角ね?」
「はい」
「じゃあ、行くよ。転移!」
そして、私達は再び謎の光に身を包まれた。
気が付くと、既に獲物……大トラ魔獣の後方約二十メートル地点に移動していた。
ただ、私達と魔獣の距離の方が、魔獣の体長よりも短い気がするんですけど?
リジンは顔面蒼白、フルフラールは全身がブルブル震えていたよ。
そりゃそうか。
通常の感性で言えば、完全に命の危険に直面しているわけだもんね。
さすがに私も、相手が、これだけの大物だとは思わなかったけど、エディアカラ世界で戦った闇龍に比べれば、まだ小さい。
なので、問題なし!
大トラ魔獣は、私達の存在に気付いたのか、こっちを振り返った。
でも、こっちの攻撃……むしろ口撃か……の方が速い。
「死ね!」
私の方は、たったそれだけ唱えればイイ。
それを私が口にした直後、
「ブチッ!」
と大きな音を立てて大トラ魔獣の首が宙を舞った。
さすがに、これにはフルフラールも腰を抜かしたみたい。
その場にしゃがみ込んだよ。
ちょっと刺激が強すぎたみたいだ。
しかも、狙ったかのように彼女の目の前に大トラ魔獣の首が落ちて来た。
これを目の当たりにした直後、フルフラールは失禁しちゃったよ。
別に恥ずかしがることは無いよ。
フランもやったから。
私は、
「出ろ!」
フランの時と同じように、今、フルフラールが着ている服と同じような服と、タオルを物質創製魔法で出すと、
「これを使って頂戴」
それらを彼女に渡した。
「ありがとうございます」
「着替えたら帰りますよ」
「はい」
丁度、この時だった。
「あのう……」
背後から女性の小さな声が聞こえて来た。
私は、声のする方を振り返った。
なんとなくオチが見えているけど。
すると、そこには下半身を濡らし、恥ずかしそうな顔で、まるで隠すように股間部分に手を当てるリジンの姿があった。
あんたもやったんかい!
多分、リジンも服とタオルが欲しいんだね?
「出ろ!」
放置するのも可愛そうなので、私は、リジンの分の服とタオルも出してあげたよ。
「これを使ってください」
「ありがとう。服とタオルの代金と引き換えに、彼女の移動費はチャラにするから」
「了解しました」
そして、リジンは私から着替えセットを受け取ると、イソイソと着替え始めた。
勿論、濡らした部分は、よくタオルで拭いていたよ。
一応、リジンは収納魔法が使えるみたいだね。
彼女は、着替え終わると、着ていた服とタオルを魔法収納した。
それから、フルフラールも同様ね。
彼女も収納魔法が使えるからね。
漏らした証拠の品々を異空間に隠したからだろうね。既にリジンは、何事もなかったような顔を作っていたよ。
そして、大トラ魔獣の死体を触りながら、私に言った。
「それにしても、ホント、一発だなぁ。相手が、ここまで大物だとは思っていなかったし、そんな怪物を、こんな簡単に倒すとも思っていなかったよ。まさか、魔法で瞬殺とはね。今まで、色々なハンターを見て来たけど、ラヤちゃんはS級を超えてるね」
「ええと、ありがとうございます」
「でも、これを運搬するのか。結構大変だな」
「ムリですか?」
「いや、多分、何とかなるとは思う。じゃあ、この身体と首も一緒にギルドに戻るよ。エネルギー最大放出! 転移!」
今度は、これまでよりも更に強烈な光が私達の身体を覆った。
大トラ魔獣の死体を運ぶのが、それだけ大掛かりってことなんだろう。
でも、転移自体に長時間を要するわけでは無さそうだ。
今回も、次の瞬間には目的とする場所に私達は移動していた。
ギルドの前には、首を切断された大トラ魔獣の死体が転がっていた。
道の真ん中に、突然、こんなものが現れたので、驚く人も腰を抜かす人も多数だった。
ただ、失禁する人だけはいなかったけど。
リジンが、ギルドの中に駆け込み、スタッフの女性を連れて来た。
ただ、そのスタッフの女性は、大トラ魔獣の死体を見るなり、
「本当に早いですね」
とは言ったけど、特に驚きもせず、冷静に対応してくれたよ。
もう、大熊魔獣での前例があるからね。
私なら瞬時に終わるだろうって思っていたみたいだ。
「では、賞金受け渡しは明日以降になりますので」
「了解です」
これで、今日の仕事は終了。
瞬時に、ヒマな女になってしまった。
まだお昼にもなっていないのになぁ。
すると、リジンが、
「これで私の一日の仕事が終わりって言うのも心苦しいんでさ。何かハンティングの依頼を受けるんなら、私が移動係をやってあげるけど?」
って私に言って来た。
でも、無理に魔物狩りを受ける必要も無いしなぁ。
むしろ、今の私にとっては医院の宣伝の方が、ずっと大事なんだけど。
「では、ビラ巻きを手伝ってもらえます?」
「はぁ?」
「来週から医院を開くんですけど」
「医院って、誰が?」
「私です」
「はぁ? ラヤちゃんはハンターでしょ?」
「私の専門は治癒魔法です。ハンターは副業なんです」
「治癒術師ってこと? 嘘でしょ?」
さすがに、普通は信じてもらえないよね。
治癒術師が、あんな物騒な魔法を使って魔物退治するなんて思わないだろうから。
「本当です。治癒魔法使いの免許もありますよ」
「でも、あんな攻撃魔法を持っているんだったら、ハンターやっていた方が、簡単に儲かるんじゃない?」
「たしかに、それはそうですけど、でも、私は災害級の魔物が出た時だけ呼んでいただければ、それでイイんです」
「変わってるわね。そりゃあ、医院が儲からないってわけじゃないけど」
まあ、普通の医院は、富裕層だけを対象にしていて、しかも高額を請求する。
なので、それ相当の稼ぎがある。
多分、リジンも、それをイメージしているんだろう。
「いえ、私のところは、先ず儲かりません」
「なんで?」
「私のところは、医療費の上限を一万Venって決めているからです」
「一万Ven?」
「はい。たとえ瀕死の状態の人でも一万Venで治療します」
「はぁ? ナニそれ?」
「でないと、富裕層しか診ることが出来ませんから」
「でも、そんなんで生きて行けるの? って言うか、瀕死の人を助けられるの?」
「死んでなければ」
「まさか、ハンターとしてだけじゃなくて治癒術師としてもS級とか?」
「そうです。あと、治せなかった場合は治療費を頂きません」
「そんな慈善活動みたいな……。色んな意味で信じられないけど……。でも、仮にそうだとしても、食費だってバカにならないし」
「ですが、私のところは、食費がかかりませんので」
「全然意味が分からないんだけど?」
そりゃそうだよね。
じゃあ、リジンにも何か食べてもらうこととしますか。
多分、彼女には救急患者を運んでもらうことになる気がするからね。交友関係を作っておいて損はないだろう。
と言うわけで、私は一旦、フルフラールに話を振った。
要は、食事を出す理由付けだ。
「そろそろ十時のおやつですね。では何か食べましょう。フルフラールさんは、何かリクエストはあります?」
「昨日とは違うタイプのケーキを」
「了解。では、出ろ!」
そして、私は、今日はチョコレートケーキを出した。
これを目の当たりにして、リジンは目を丸くしながら、
「た……食べ物も出せるの?」
って驚いていたよ。
ただ、これを機会に、率先して私の協力者になってくれると嬉しいんだけどなぁ。
勿論、本業だけじゃなくてウェイトレスの方もね。
「はい。ですので、基本的に食費がかからないんです。なので、この町での生活が軌道に乗り出したら、昼限定ですが、飲食店も開くつもりなんです。何をメインにするかは現在考え中ですけど。リジンさんも、こちらのケーキをお試しください」
「いただけるの?」
「はい」
「じゃあ、頂きます」
リジンが恐る恐る、私が出してケーキを口に入れた。
その直後、
「うーん」
彼女の顔が急に綻んだよ。
美味しいって思ってくれた証拠だね!
一先ず、今日はここまでかな?
あとはリジンから、こっちにコンタクトを求めて来てくれると嬉しいな。
なんて思っていたんだけど、そうしたらリジンが、
「どんな病気でも怪我でも一万Venで治してくれる?」
急に真面目な顔で、私にそう言って来た。今までと急に雰囲気が変わって、なんだか別人みたいだ。
「はい。私に治せるモノでしたら」
「実はね、私の父が酷い頭痛に悩まされていて」
「いつ頃からですか?」
「一か月くらい前かな?」
「治癒術師には診せたんですか?」
「ええ。そうしたら、治療には一億Ven以上かかるって言われてね。診断だけでも三万Ven取られたし。しかも、治せる保証は無いし、治らなかったとしても、お金は全額取られるみたいで」
結局、そう言う輩が多いんだよね。
なので、富裕層以外は、治癒魔法使いに相手にしてもらえないし、重病人や重傷者の場合は、もう死ぬのを待つしかない。
「なんですか、それ? 完全に患者の足元を見て」
「そう思う?」
「はい。じゃあ、私を今すぐ、リジンさんのお父さんのところに連れて行ってください。私が診ます!」
「お願いできる?」
「喜んで」
「ありがとう。じゃあ……」
その直後、リジンの転移魔法が発動して、私達は強烈な光に全身が覆われた。
これって、今日、通算四回目だね。
そして、気が付くと、私達は沢山の家が立ち並ぶ大通りに出ていた。
少なくとも、ここって私達が暮らすイアペトゥス町じゃない気がするんだけど?
って言うか、マジで、ここ何処?




