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61.王都!

 知らない街に連れて来られちゃったよ。

 ここで置き去りにされたら、私もフルフラールも間違いなくイアペトゥス町に帰れない気がする。


「ここって、何町なんですか?」

 私が、こう聞くと、リジンは、

「何町って、王都だけど?」

 って答えてくれた。


 ここがアロバニア王国の王都か。

 そう言えば、王都に足を踏み入れるのってトモティ世界以来な気がする。



 リジンの家は、目の前のアパートの一室だった。

 正直、かなり古いアパートで、王都内って言っても、言葉の響きとは裏腹に華やかな雰囲気とは完全に隔絶していたよ。

 それこそ、アパート内は、なんだか薄暗い雰囲気に包まれていたし……。


「ただいま。じゃあ、入って」

「はい。お邪魔します」


 私達は、そのままリジンの父親の部屋へと案内された。

 部屋の中では、苦痛で激しく歪んだ表情を見せながら、リジンの父親がベッドの上で横になっていた。

 一応眠っているようだったけど、辛そうだ。



 ただ、彼のステータス画面が見えたんだけど、これってヤバくない?

 だって、『脳腫瘍』って書かれているよ!


 もしかすると、以前、診てもらった治癒術師は、大金をふっかけたんじゃなくて、ワザと高額提示することでリジン達に諦めさせて逃げたんじゃないかな?

 いくら治癒術師でも、普通は治療するのが怖いもんね。


 でも、私なら何とかなる。

 状態としては、まだイリヤ王子の方が酷かったもん!



 リジンが、不安そうな顔で、

「治療できそう?」

 って私に問いかけて来たけど、私は、

「大丈夫です。同じ病気で、もっと重症な患者を治したことがありますので」

 と答えた。


 これだけでも、相当リジンは安心するだろう。

 思った通り、リジンはホッとした表情を浮かべていた。



 私は、リジンの父親の頭に右手をかざした。

 そして、場所が場所だけに細心の注意を払いながら、

治療魔法照射(ヒール)!」

 腫瘍部の摘出と消滅、それから欠損部位の再生、さらに全身スキャンを行った。


 これで、脳腫瘍自体は取り去った。

 特に腫瘍の転移は無し。



 あと、機能障害の確認もしないとならない。

 脳腫瘍の手術の後には、後遺症として高次脳機能障害が起こり得るからね。

 せっかく治ったのに、記憶障害とか注意障害、遂行機能障害、知能の低下、社会的行動障害とかが残ったら困るもんね。



 一先ず、見たところ脳全体の機能には何ら問題は無さそうだね。

 脳内のどこかを傷つけて、そのまま放置って状態だけは少なくとも無いよ。


 それから、他に問題が無いかも再チェックしたけど、問題無し。

 念のため、彼のステータス画面もチェックしたけど、問題無しって出ていたよ。



 リジンの父親の表情が穏やかになった。

 苦しい頭痛から解放されたんだもんね。

 そりゃあ当たり前か。


「治りました」

「えっ? もう? まだ五分も経ってないけど?」

「完治しましたから、もう大丈夫です」

「ホントに?」

「あと、治療代の一万Venは、何時でも構いませんから」

「って言うか、本当に一万Venでイイの?」

「はい。それが私の医院の上限額ですので」

「ありがとう。でも、他の治癒術師だったら一億Ven以上取るところなのよ。本当に、そんな大安売りでイイの?」

「イイんです。それが私のポリシーなので。でないと、さっきも言いましたけど、裕福層……それこそ王族貴族しか診てあげることが出来なくなりますから」

「それは、そうだけど」

「それにですね。もし、本気でお金が必要でしたら、その時には災害級の魔物を狩るから大丈夫です」


 一応、マジで最悪な場合には、私はお金を出すことが出来るけど、さすがに、そのことを言うのは止めたよ。

 偽金作りと思われちゃうからね。


「でも、もっと早くラヤちゃんに出会いたかったかな。そうしたら、母が亡くなることは無かったかもしれないから」

「えっ? リジンさんのお母さんって?」

「半年前に事故でね」

「そうだったんだ。でも、ゴメンなさい。私がイアペトゥス町に来たのは、ほんの数日前でして」

「私も、イアペトゥス町まで仕事の手を広げたのは最近だから、もしラヤちゃんが半年以上前にイアペトゥス町に来てくれていても、結局は会えなかったと思うけどね」

「でも、残念です」

「うん」


 どんな事故だったかは分からないけど、死んでさえいなければ、私の力で何とかできたと思う。

 それに、手足が切断されていたとしても、その手足が存在さえしてくれていれば繋ぐことも出来たはずだし。

 本当に残念だよ。


「ところで、リジンさんのお父さんって、お仕事は何をされているんですか?」

「家具職人なのよ。娘が言うのも何だけど、結構腕のイイ職人よ」

「そうなんだ」

「でも、頭痛が酷くて仕事にならなくなって、三週間前に仕事を辞めざるを得なくなってね。なので、今は無職。これから職探しかな?」

「じゃあ、私が立ち上げようとしている家具屋を取り仕切ってもらえないでしょうか?」

「えっ?」

「実は、私も家具が出せるんです」

「出せるって、作るんじゃなくて?」

「はい。それで、テナントも用意したんですけど」

「はぁ?」

「ええと、場所のキープと言いますか……。ただ、医院が第一優先で、飲食店が第二優先なので、家具屋の方は、開店が何時になるか分からないなって思ってまして」


 すると、

「是非、そこで働かせてもらうよ」

 と男の人の声が。

 声がした方を振り返ると、リジンの父親が上体を起こしていた。


「お目覚めですか?」

「お嬢さんが私を治してくれたのかな?」

「はい」

「ありがとう。私はリカルドと言います」

「ラヤです」

「それで、ラヤさんと娘の会話が朧気ながらに聞こえていたけど、治療代って?」

「リジンさんにも言いましたけど、一万Venです」

「空耳じゃなかったのか。でも、本当に、そんな安くてイイのかなと思って」

「イイんですよ」

「あと、出来れば今すぐ、そのテナントを見せてもらいたいんだけど」

「構いませんけど、動けますか?」

「すっかり楽になってね。むしろ、今まで動けなかった分、身体を少し動かしたい気分だよ」

「分かりました」

「じゃあ、着替えるので少し待ってくれないかな?」

「はい。では、部屋の外で待っております」


 私は、フルフラールと一緒にリカルドの部屋を出た。

 一応、男性の着替えだもんね。


 そりゃあ、私は元男性だけど、今は完全なカワイイ系美少女だし、さすがに出て行くのがマナーだろう。

 私に見られた方が興奮するって言うなら、ガン見してあげるけど。



 数分後、リジンがリカルドを連れて部屋から出て来た。

 頭痛から解放されたとは言っても、仕事を辞めてから、この三週間は、ずっとベッドの上の生活だっただろうし、筋力がかなり低下しているだろうからね。

 ふらつく可能性もあるんじゃないかな?

 なので、リジンが横でサポートしてくれているのはナイスだと思うよ。


「じゃあ、私の転移魔法で移動するけど、ラヤちゃんの家に行けばイイのかな?」

 こう言ったのはリジン。


「イアペトゥス町のギルドの前の道を、ずっと南下して、丁度町を外れた辺りです」

「了解。じゃあ、行くよ!」


 そして、今日何度目だろ?

 五度目か。

 リジンの転移魔法が発動して、次の瞬間、私達は私の家の前に移動していた。



 私の家を見上げながら、

「こんな大きな家、あったっけ?」

 とリジンが大声を上げていた。


「最近、私が建てたんです」

「建てたって?」

「魔法でですけど」

「えぇー?」

「あと、家の南側のテナントが飲食店用で、北側のテナントが家具屋用と思って魔法で建てました」

「ちょっと待って。もしかして、物質創製魔法もS級?」

「実は、そうなんです」

「それじゃ、ハンターS級に治癒術師S級で、美味しいモノが出せて、家も家具も出せるってこと?」

「はい……」

「私が男なら、絶対に結婚を申し込むわね。ヒモになりたいわ!」

「あのですね……。それはともかく、北側のテナントの中をご覧いただきます」


 そして私は、リジン、リカルド、フルフラールの三人を連れて北側のテナントに入ったんだけど、そう言えば、この中に人を入れるのって初めてな気がする。

 中には、まだ何も置かれていない。

 ただ、空間が広がっているだけの状態だよ。



 リカルドが、

「家具を作る作業場とかは?」

 と聞いて来た。

 そりゃあ、職人さんだもんね。

 気になるか。


「私が魔法で出す前提でしたので、作業場は設けていません。必要なら作りますけど」

「それでは、実際に椅子を魔法で作ってみてはもらえないだろうか?」

「分かりました。出ろ!」


 私は、自分の部屋にある椅子と同じものをイメージして物質創製魔法で出した。

 さすがに魔法で出したことに対しては、リカルドも驚いていたよ。何も無かったところに一瞬で出てくるんだもんね。


 それこそ、

「さすがに、この制作スピードには勝てないか。それに、構造もしっかりしている。作ること自体はラヤさんにお願いした方がイイね」

 って言ってくれた。

 本職にそう言われて、嬉しいよ。


「でも、デザインだけなら私でもラヤさんに勝目はあるかも知れないかな。ラヤさんは高級家具を出せるかな?」

「いいえ。さすがに高級品はイメージが湧かなくてですね。イメージできないと魔法で出せませんし」

「じゃあ、私がデザインして、それをラヤさんが作るってのはどうだろう? 私が図面を描いて、それを見てイメージしてもらえば高級家具も作れるんじゃないかな?」

「そうですね。出来るかも知れません」

「では、私の方で図面を作っておこう。それで、ラヤさんが手の空いた時間に家具を試しに作ってもらう。そう言う流れで」

「了解です」


 設計と創製が分業されるのなら私としても有り難い。

 できれば自力で高級家具とか作ってみたいけど、地球にいた頃に高級家具に縁が無かったモノでね。

 想像できないんだよ。


「それと、ここに務めるのなら、今のアパートを引き払って、この近くに住んだ方がイイかなって思うんだけど、この辺に賃貸物件ってあるかな?」

「それなら、南側のテナントの二階が住居スペースになっていますので、そこを使ってください」

「それは有難い。それで、家賃はおいくらで?」

「ええと……。では、店の売り上げの一割を私が頂くことにして、それ以外は、家賃もテナント料もタダにことでどうでしょう?」

「うーん。その条件だと、私達にとっては有難いけど、ラヤさんは殆ど儲けが無いんじゃないかな? それに家具を出すのはラヤさんだし」

「でも、一先ずは、さっきの条件でお願いします。家具屋の売り上げ状況をしばらく見てから再考しましょう」

「なるほどね。じゃあ、何もかも甘えっぱなしで、こちらとしては少々心苦しいけど、様子を見て考えると言うことで、よろしく頼んだよ」

「はい」

「それから、家具の運送はリジンにやってもらうよ。一応、転移魔法だけはS級って話だからね」


 そうだったんだ!

 もしかすると、転移する際に眩しい光に覆われるのって、S級だからなのかな?

 多分、それだけ魔力が強いってことなんだろうね。

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