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53.この世界ってエリクサーが無いんだ!

 そう言えば、自分の分を出していなかったよ。

 まあ、天丼の小でイイや。

 と言うわけで、

「出ろ!」

 私は、自分の小盛天丼と自分用の箸を出した。


「私の故郷の食べ物です。お召し上がりください」

「いただきます」


 そして、みんな、口に運んだ直後、

「ウマい!」

「美味しい!」

 そう言いながら喜んでくれたよ。



 さらピレンは、

「こんなに美味しいのが食べられるなんて……。私、ラヤちゃんをお嫁さんにしたいんだけど!」

 って言い出したよ。同性(?)からでも言われると嬉しいもんだね。


 すると、フランが、

「おいおい、ラヤちゃんに先に唾を付けたのは俺だってば!」

 と言っていたけど、これってどこかで聞いたような……。

 ああ、ギルドの前で、フランがアゾールに言っていたんだっけ。



 でも、まだ私は、結婚する気なんか無いよ!

 なので、

「前にも言った通り、やるべきことが先です。それを終えてからゆっくり考えさせてください!」

 と、まあ、前と似たようなことを言っておいた。


「でも、ラヤちゃんって、何処の国の出身なの? それに、フユミさんもラヤちゃんと同郷ですか?」


 こう聞いたのはピレン。

 これって答えてイイのかな?


 すると、フユミが、

「私達は、異世界から来たのよ。この世界とは別の世界」

 って答えたんだけど、

「へー。で、本当は何処の国?」

 ピレンは全然、信じていなかったよ。



 その直後、

「御代わり貰えますか?」

 話の流れをぶった切ったのはアクリジン。

 もうカツ丼を食べ終えたのかぁ。

 やっぱり見た目の通り、食べるのが早いね。


「では、フランさんとアゾールさんと同じので、よろしいでしょうか?」

「そうだね。お願いします」

「分かりました。出ろ!」


 そして、私は天丼を出すとアクリジンの前に置いた。

 ただ、ご飯はちょっと大盛ね。食欲有りそうだから。



「ねえ、ラヤちゃん。いっそのこと、ここで食堂も開いたらどう? 異世界の食べ物を提供しますってキャッチフレーズで」

 こう言ったのはピレン。


「医院の方が軌道に乗ったら、やろうかなって考えています。一応、ここは、そのために作ったスペースですし」

「そうなんだ」

「前にいたところでは、ここと同じような家に三人で住んでいまして、三人で医院と食堂をやっていたんです」

「へー。三人共、料理できたの?」

「いえ。私が魔法で出す係りで、他の二人がウエイトレスをやっていました」

「医院の方は?」

「それも、私が患者を診て、二人の片方が受付を、もう片方が助手兼見習いでやってました。でも、見習いだった方は私よりも魔力が数段上でして……」

「えっ? さらに上がいるって嘘でしょ?」

「いえ、本当です。それで、今では彼女が私の後を継いでやっています」

「ラヤちゃんよりもハイクラスな魔力って、全然、想像つかないわよ!」


 まあ、ハルは人間じゃないからね。

 しかも、全ての龍を従える頂点としての存在だし、本気を出されたら、私だって到底敵わないよ。


「でも、昼にギルドの前で弁当屋でも開いてくれると個人的には嬉しいけどな」

 こう言ったのはフラン。


 すると、

「それはナイスアイデアだな! 屋台でイイからさ」

 アゾールも乗ってきた。



 でも、医院の方もあるし、しばらくフユミの手伝いも入ると思うから、安請け合いは出来ないんだよね。

 なので、私は、

「もうちょっと、この町での生活に慣れてからにします」

 と、至極真っ当な回答をしたよ。


 何でもかんでも仕事をホイホイ入れて、後で回し切れなくてパニックになっちゃったら周りに迷惑をかけるからね。

 先ずは生活基盤作りとか生活サイクルの見定めとかの方が重要だよ!


 それと、私のところで一緒に働く人もいてくれないとね。

 いずれにしても、私一人じゃキツイもんね。



 とまあ、そんな感じで話をしながら食べていたんだけど、

「御代わりあります?」

 とアクリジンからの一言。


 マジで食べるのが速い。

 完全に食べるのに集中しているし。

 でも、マズくて食えないって言われているわけじゃないし、むしろ沢山食べてもらえて嬉しいかな。


「では、次は、また別のを出しますね」

「本当ですか?」

「はい。出ろ!」


 今度は牛丼を出した。

 一応、丼モノはこれで最後にするね。

 もし、さらにお代わりするようならパスタかピザ辺りにしよう。


 …

 …

 …


 結局、その後、パスタにピザにラザニアをお召し上がりになりました。

 加えてデザートも…………。

 凄い食欲だけど、アクリジンのエンゲル係数が、正直、気になるよ!


 …

 …

 …


「では、すっかり御馳走になって、ラヤちゃん、ありがとう」

「いいえ。こちらこそ」

「じゃあ、また」


 しばらく歓談した後、フラン達は彼等が泊まっている安宿へと帰って行った。

 一気に四人もいなくなると、急に寂しくなるね。

 まあ、家が広過ぎるんだけどさ。


「それじゃ、洗いモノは私がするから、ラヤちゃんは座ってて」

「いえ、私がやります」

「さすがに、ご馳走になっちゃって、それにタダで泊めてもらうわけだし。これくらいはさせてよ。それと、明日も、ある村に行きたいんだけど大丈夫?」

「はい。開院は来週からの予定ですので」

「そう。もしかして、私から依頼されるのを見越して来週にしたの?」

「まあ、そんなとこです」

「悪いね。それにしても、こうして若い娘と二人でいるのは久しぶりでね。ラヤちゃんは私のステータス画面を見ることが出来るし、それに女神様にも会っているから、多分、知っているんじゃないかって思うけど、前世の私には娘がいてね。母一人子一人で、二人で生きて来たんだけど、亜紀って名前でね。私が二十五の時に産んだんだよ。でも、亜紀は大学を卒業して、会社に入った年のクリスマスイブに自殺してね」


 フユミは、洗い物をしながら、随分と、ヘビーな話をしてくれた。

 さすがに私は、

「……」

 反応のしようが無かったよ。

 そんな話を聞いて、何か言ってあげられるほど、人生経験豊富じゃないしね。


「飛び降り自殺でね。その時に、一人の青年を巻き込んで殺しちゃって。亜紀は一人で上京していたから、私が、それを聞いたのが翌朝でね。それで急いで東京に向かおうと思った矢先に、私もダンプに跳ねられて即死して、それで、この世界に転生したのよ」

「そうだったんですか……」


 さすがにアキが自殺していたってのは知らなかったよ。

 それだけ、地球では追い詰められる何かがあったってことだろうけど、ブルバレン世界で戦った時には、そんな雰囲気は微塵にも感じられなかったもんね。



 アキも多分、異世界転生して正解だったってことか。

 でも、こんな話をフユミがするとはね。

 私のことを信用したのかな?


「私は、この世界に転生したけど、亜紀は今頃どうしてるのかなぁ……なんて思うこともあってね」


 この流れなら、話してもイイよね、きっと。

 なので、私はフユミにアキのことを話すことにした。ただ、『首ちょんぱ』から『ケケケケケケ』のくだりは黙っておくけど。


「実は、私はブルバレン世界でアキさんに会っているんです」

「えっ?」

「ただ、敵国同士でした」

「そうだったんだ。じゃあ、戦ったの?」

「済みませんが、戦いました。ただ、アキさんは不死身の身体を手に入れてまして」

「不死身?」

「そうです。結局、私はアキさんの国の、とんでもないレベルの魔術師の反重力魔法と巨大な火炎球を連続で受けて死んで、別の異世界に転生することになったんです。それからですね、異世界を転々としているのは」

「でも、亜紀は生きてるのね?」


 フユミの目がマジになっていた。

 当然だろうね。

 死んだ娘が、異世界とは言え、たしかに存在しているって言われたわけだから。


「はい。本音を言いますと、フユミさんのステータス画面を見た時に、備考欄にアキの母親って書かれていて驚きましたよ」

「そうだったんだ。でも、ラヤちゃんが会った亜紀は、本当に私の娘の亜紀で間違いないのね? 別の亜紀さんじゃないわよね?」

「私も、その可能性が高いかなって思ったんですけど……、フユミさんはチャットボット機能って持ってます?」

「ナニそれ?」

「ステータス画面の特殊機能として女神様に付けてもらったんです。それで、一問一答式ですけど、分からないことを質問すれば答えてくれるんです」

「便利ね」

「勿論、ノーコメントの時もありますけど」

「じゃあ、それで、その亜紀が私の娘かどうかを確認したってこと?」

「そうです」

「女神様のチャットボットなら嘘は吐かないわね。じゃあ、本当に亜紀は生きてるってことなのね?」

「はい」

「別の世界にいるんじゃ、先ず会えないけど、でも、生きてるってことが分かっただけでも良かった」


 フユミの目からは涙が溢れ出ていた。

 それを袖で拭うと、フユミは笑顔を見せながら洗い物を続けていた。


 実際に会うことは出来ないけど、間違いなくアキが存在し続けていることを知ることができて嬉しいんだと思う。



 それにしても、フユミってアラフィフを超えつつある状態だったのね。

 二十五歳でアキを産んで、その二十三年後に亡くなって、それからこっちの世界に来て八年でしょ?


 なので、見た目は二十代半ばだけど中身は五十六歳だもんね。

 四捨五入したら還暦だよ!



 その後、私とフユミは、今後のことを話し合った。

 実は、フユミから、

「ラヤちゃんの医院と私の薬局が併設されていた方が便利じゃない?」

 って提案があってね。


「たしかにそうですね」

「じゃあ、そうしよう。そうしたら、明後日にでも不動産屋さんには今のテナントの賃貸契約を来月以降、更新しないことを言ってくるから」

「明日じゃなくて?」

「さっきも言ったけど、明日は、ラヤちゃんを連れて行きたいところがあってね。結構面倒な風土病なんで、よろしくね」

「風土病ですか……」

「それと、薬局はラヤちゃんの家の隣か向かいでどうかなって思って」

「小さな小屋で良ければ、この敷地内でも構いませんけど?」

「ホント! じゃあ、チャッカリさんになっちゃうけど、お言葉に甘えさせてもらうね。お金は無いわけじゃないけど」

「まあ、ムダに使わない方がイイんじゃないですか? それと、どんな小屋にします?」

「明日までに考えておくわ」


 怪我も風邪も私の魔法で治せるけど、実は、私の魔法じゃ治せない疾患もあるからね。

 例えば精神疾患は大抵の場合、私の魔法じゃ治せない。原因が外傷とか病原体じゃなくて心だからね。


 他にも寄生虫の予防とかも私じゃなくてフユミの担当だし、栄養剤もマウスウオッシュもトローチもフユミの担当になる。

 あと、うがい薬とか食べ過ぎ飲み過ぎの薬もね。


 それを考えると、隣同士で補完し合う方が患者にとってもイイだろう。

 街外れなので立地条件としては不便だけど……。



 ただ、異世界で薬って言ったら、あれだよね?

 なので、私はフユミに、

「エリクサーって出せないんですか?」

 って聞いたんだけど、そうしたら、

「出せないのよね。それこそ、他の薬師に『エリクサーって知ってます?』って聞いたら、『襟が臭いんですか?』って聞き返されちゃってね」

 って言われたよ。


 エリクサーじゃなくて襟臭かい!

 なんか、異世界転生者として、夢が一つ消えた感じを受けたよ。



 それから、私の治癒魔法は、飽くまでも治癒であって、予め患者の身体を病気にならない身体に改造することは出来ない。

 また、フユミの魔法は、色々な薬を作り出すことが出来るけど、出せる薬は化学的裏付けのあるモノのみに限定される。

 多分、敢えて女神様は、こう言った制限を付けているんだろうな。


 この日は、取り急ぎ、私がフユミのベッドとか着替えを魔法で出してあげた。

 部屋も余っているしね。

 なので、前の世界でナツミが使っていたのと同じ部屋をフユミには使ってもらうことにした。



 翌朝、私はフユミの転移魔法で、このイアペトゥス町から百キロ以上離れた村へと一気に移動した。

 どうやら、フユミの転移魔法には距離の制限が無いみたいだ。

 これは、移動が楽で有難いよね。


 そこは山奥にある盆地に出来た村で、ちょっと寂しい雰囲気に包まれていた。同時に、非常にイヤな空気の流れも感じるんだけどね。



 実を言うと、この村で起きている問題こそが、私がこの世界に転移してくることになった一番の理由みたいなんだよ。


 それこそ、この地の風土病を根絶するために、この世界の女神ロリダ様にフユミが祈りを捧げ、ロリダ様が、フユミの願いを叶えるために、私をこの世界に使わせたってことらしい。

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