表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/202

54.住血吸虫!

 フユミが用水路を指さした。

「ラヤちゃん。この村の水の中に、何がいるか分かる?」


 私は、フユミにこう言われて精神を集中し、探査魔法を発動したんだけど、ちょっと良く分からない。


 たしかに何かがいるのは分かるけど、相手方の魔力が弱くてね。

 だけど、何となくだけど、異様な胸騒ぎがするような変な感覚があった。

 少なくとも人間にとって善良な雰囲気の魔力じゃないことだけは確かなようだ。


「イヤな感じはありますけど、厳密に、それが何なのかは分かりません」

「ここの水の中にはね、住血吸虫がいるのよ」

「住血吸虫?」

「つまり、寄生虫の一種ね」


 住血吸虫って初めて聞くけど、何なんだろ、それ?

 でも、寄生虫の一種なら、フユミさんの力で何とかなる気はするんだけど……。


「それって、薬で何とかならないんですか? 回虫とかフィラリアみたいに」

「残念だけど、地球で住血吸虫に使われているプラジカンテルを投与したけど効果が無くてね。住血吸虫に有効な他の薬を私は知らないのよ。専門外だし。それに、住血吸虫は皮膚から侵入するから」

「皮膚からですか?」

「ええ。水に手を付けるとかぶれるのよ。勿論、私は感染しない特別な身体を与えられているから問題無いけど、村の人達は基本的に全員感染しているわね。これが原因で、この盆地の人達は寿命が短いみたいなのよ」

「……」


 寄生虫って言うと、口から入るか、フィラリアみたいに蚊が媒介するイメージしか無かったけど、そう言うタイプもいるんだね。

 初めて知ったよ。


「私は前世では製薬会社の研究所に勤務していて創薬の研究をやっていたけど……」

「そうだったんですか!」

「ええ。でも、脂質系疾患の方がメインだったから寄生虫のことは余り知らなくてね」

「でも、研究者だったんですね。凄いです」

「過去の話よ。それで、安直だけど、この村の人達の体内から寄生虫も虫卵も全部取り除いてから、他の土地に移住してもらえればって考えてね、寄生虫を完全に取り除ける治癒術師がパートナーに欲しかったのよ。寄生虫の根絶は私には難しいし」

「そう言うことですか。でも、先に、この寄生虫のことをキチンと調べましょう」

「でも、どうやって?」

「こう言う時のチャットボット機能です。少々お待ちください」



 早速、私はステータス画面を開いてチャットボット機能を立ち上げた。

 もしかすると、このチャットボット機能こそが、女神様から私に与えられた最大の武器なのかも知れないね。

 そして、私はチャットボットとのやり取りを声に出して、フユミに聞かせた。


『Q:この水の中には住血吸虫がいる?』

『A:住血吸虫の幼生がいる』


『Q:感染経路は?』

『A:経皮感染のみ』


『Q:この住血吸虫感染症は薬剤投与で治療可能?』

『A:困難』


『Q:人以外も感染する?』

『A:哺乳類は全て感染する』


『Q:人の体内で繁殖する?』

『A:しない』


 じゃあ、体内で増えないってことか。

 あと、地球の住血吸虫と違って、薬で治すのが難しいってことね。


 すると、フユミが、

「住血吸虫のライフサイクルを教えてもらって」

 って私に言ってきた。

 たしかに、その辺をキチンと理解することが一番重要だね。


『Q:住血吸虫のライフサイクルを教えて』

『A:孵化したばかりの幼生には哺乳類への感染能力は無く、中間宿主に感染して第二段階の幼生に成長する。そして、第二段階の幼生が中間宿主から外部に出て哺乳類に経皮感染し、その後は宿主となる哺乳類の門脈に移動して、そこで成虫となる。成虫は門脈の血流に逆らって腸管の細血管に至り、そこで産卵する。虫卵は血管を塞栓し、これにより周囲の粘膜組織が壊死し、虫卵は壊死組織と共に腸内に零れ落ち大便と共に排泄される。そして、虫卵が孵化して幼生が中間宿主に感染する』


 この内容を私が読み上げたわけだけど、それを聞いて、フユミは、

「中間宿主が何かと、その駆除方法を教えてもらって」

 と私に指示してきた。

 たしかに、仰る通りです。はい。


『Q:中間宿主は何?』

『A:この地方にのみ生息する固有種の小さな巻貝』


『Q:この世界には、他に、この寄生虫の中間宿主になる生物はいる?』

『A:いない』


『Q:駆除方法は?』

『A:生石灰や殺貝剤としてSodium 2,5-dichloro-4-bromophenolの散布。生石灰は1~2%濃度で良い』


 あとは、生石灰とか殺貝剤の入手なんだけど……。


「フユミさん。生石灰とか、この殺貝剤って作れます?」

「一応、薬品類は可能だから出せるはずよ」

「なら、行けますね」

「そうね。チャットボット機能に感謝だわ。私も、その機能を女神様から貰っておけば良かったわね」

「そうですね」


 これで、大体方針は出来上がった。

 私が村人や家畜の体内から住血吸虫と、その虫卵を治癒魔法で除去し、フユミが生石灰や殺貝剤を作り出して散布する。


 一回で終わるとは思えないけど、これを定期的に繰り返すことで撲滅に繋げることは多分可能だろう。



 それと、その貝が、この近辺から外部に逃げ出さないように、念のため結界を張った方がイイかもね。

 中間宿主さえ外部に逃げ出さなければ、虫卵が外部で排泄されたところで、人にも他の哺乳類にも感染できないわけだから。


 もしかすると、女神様が私に結界魔法を追加してくださったのは、この貝を絶対に逃がさないようにするためだったのかも知れないね!



 と言うわけで、

「結界!」

 私は、巻貝が外部に流出と言うか進出しないように、取り急ぎ結界を張った。


 勿論、この結界で行き来できないのは巻貝だけだよ。

 人の出入りは出来ないと困るもんね。



「そんな魔法も使えたの?」

「女神様から、この世界に来る時に追加されたんです。多分、今日のために与えられた魔法だと思います」

「そうなんだ。たしかに、これなら巻貝が外部に逃げ出すことを食い止められるわね」

「はい。それじゃあ、フユミさん。生石灰と農薬……じゃなかった」

「殺貝剤ね」

「そうです。その殺貝剤を散布してください」

「ええ。この村全域に派手にやらせてもらうわよ! 出ろ!」


 フユミが、そう唱えると、用水路とか川に大量の粉が散布された。

 今まで人々を散々苦しめて来た相手だからってことはあるんだろうけど、これでもかって感じで、言葉通り本気で派手にやってくれたよ。

 この一回だけの散布で全滅するとは思えないけどね。



 だけど、固有種を絶滅させるわけなんだから、少しは罪悪感を持って欲しかったんだけどな。

 今のフユミからは罪悪感の欠片すら感じ取れないよ。


「次に、村長のところに行くわよ。ここからは、ラヤちゃんに派手にやってもらうことになるけど」

「分かってます。村の人々から寄生虫と虫卵を取り除く作業ですね」

「じゃあ、お願いするわね。転移!」



 そして、私達はフユミの転移魔法で、その場から少し離れたとことにある村長の家に向かった。

 早速、フユミは、村長宅を突撃……じゃなかった訪問した。


「ごめんください。村長さんいますか?」

「はい。これは、フユミさん」


 出てきたのは男性で、四十代後半ってとこかな?

 村長って言うから老人を連想したけど、必ずしもそうじゃないってことだね。


「ようやく、この村特有の風土病への対処法が分かりました」

「本当かい?」

「はい」

「でも、有効な薬が作れないって話だったんじゃ?」

「原因については話しましたよね?」

「寄生虫の話かい?」

「そうです。ただ、その寄生虫が人や家畜に感染できる状態に成長するには、一旦、小さな巻貝に寄生する必要があったんです。その貝の中で成長しない限り、人には感染しません」


 これには、村長さんも驚いたようだ。

 中間宿主って発想が無かったってことだろうけど、でも、それが普通だと思う。


「そんなことが、あるのかい?」

「私も知りませんでしたけど、あるようです」

「では、その貝を駆除すればイイってことか?」

「そうです。そのための薬を、たった今、散布しました。今後も定期的に散布します。それから、既に感染している人と家畜から寄生虫と虫卵を取り除きます。それが出来る治癒術師を連れて来ました」

「本当かい? って、もしかして、このお嬢さん?」


 村長さんが私のことを指さした。

 さすがに指をさすのは失礼に感じたけど、でも、こんな小娘にそんな力があるなんて、いきなりは信じられないよね?

 私も、村長さんの立場だったら、きっと同じように指さして驚くだろう。


「そうです」

「えっ? まさか、こんな若い娘が?」

「魔法の強弱に年齢は関係ありませんよ」

「た……たしかに、そうだが……」

「ですので、先ず村長さんと、村長さんの馬の体内から寄生虫と虫卵を摘出しますが、その後、村人を公民館にでも集めていただけますでしょうか?」

「分かった。では、摘出を頼む」

「はい。じゃあ、ラヤちゃん、お願いね」

「分かりました」


 と言うわけで、私は、

「出ろ!」

 先ず、寄生虫を入れるビンを魔法で作り出した。


 そして、

「摘出!」

 村長さんに向けて思い切り治癒魔法を放ったよ。

 まあ、今回の場合は、摘出だけどね。



 次の瞬間、私が出したビンの中に、気色悪い虫が現れて、フユミも村長さんも顔面から血の気が引いていたけどね。

 こんなのが体内にいたんだもんね。


 虫は体長が二センチ程度。

 あと、大量の虫卵も出ているはずだけど、小さ過ぎて、多分、肉眼じゃキチンと見えないよね?



 続いて、

「村長さんの馬は、どちらですか?」

「こっちです」

 私は、厩へと連れて行ってもらった。


 そこでも、私は、

「摘出!」

 摘出魔法で馬の体内から住血吸虫と虫卵を根こそぎ取り除いた。まあ、ビンの中に移したわけだけどね。

 取り急ぎ、これで村長さん&馬の体内からは、余計な虫が完全に駆除された。



「こんなのに蝕まれていたとは……。これから村人達に声をかけてきますので、済みませんが、先に公民館に行っていてもらえますか?」

「了解しました。あと、家畜の方も寄生虫駆除をやっておきますので」

「お願いします。では、また後程」


 そう言うと、すぐに村長さんは馬にまたがって家を飛び出して行った。

 私は、その後、村長さんの家の家畜……豚とか牛の身体からも寄生虫&虫卵除去を順番に行なったよ。

 まあ、そんなに時間は、かからなかったけどね。


 そして、除去作業が終わると、私とフユミは、

「じゃあ、公民館まで行くからね」

「はい」

「転移!」

 フユミの転移魔法で公民館へと移動した。



 転移終了。

 公民館って言っても、地球の二十一世紀の公民館とは全然雰囲気が違う。

 何と言うか、本当に古びた木造平屋の建物で、異世界に来たって言うよりも過去の日本にタイムスリップしたって感じを受けたよ。


 それと、相当な量の寄生虫と虫卵が出るよね?

 なので、

「出ろ!」

 私は完全密閉された水槽を出した。



 私の物質創製魔法は生活必需品と食料しか出せないことになっている。

 なので、一応、生活必需品ってことで出してみたんだけど……。

 でも、こんな大きな水槽が生活必需品の範疇に入るのか、ちょっと疑問があるなぁ。

 恐らくだけど、今回は女神様が特例で出してくれたんだろうけどね。



 少しして、チラホラと村人達が公民館に来た。

 みんな、フユミとは顔馴染みのようだ。


「これはフユミさん」

「これはどうも。今日は、寄生虫を魔法で除去できる人を連れて来ました」

「村長さんから聞きました。既に村長さんも馬も除去して貰ったって」

「ただ、水から感染しますので」

「そうですよね?」

「ですので、水の中に住む寄生虫を殺す薬を散布しました。これを、寄生虫が撲滅できるまで定期的に続けます」

「そうですか」

「それと、今日から、この娘がみなさんの寄生虫を体内から除去します」

「この娘が?」

「はい。治癒術師としては超S級ですから安心してください。それから家畜の方は?」

「俺のところは農業だけで家畜はいないから」

「分かりました。では、ラヤちゃん、お願い」

「はい。では、行きます。摘出!」


 この人を皮切りに、私は、次々と村人達と家畜達の体内から住血吸虫と、その虫卵を魔法で摘出……と言うか水槽の方へと移して行った。

 何百人ってオーダーだから、結構大変だったけど、午前中からスタートして正解だね!

 その日の午後……と言うか、夕方には、何とか全部終了したよ。

住血吸虫感染症の治療にはプラジカンテルが用いられるようですが、本作では敢えてプラジカンテルでは効果が無いことにしました。そうでないと、ラヤが来る必要がありませんので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ