52.犠牲者はワイバーン!
「本当に、千Venでイイのかい?」
「はい」
「フユミさんも、それでイイのか? 治るまではお金は取らない主義って言って、今まで俺の治療費はタダだったし、これで千Venじゃ割に合わないんじゃないか?」
「その点は大丈夫です」
「そうか? じゃあ、お言葉に甘えるよ」
その男性は、私に銀貨一枚を手渡してくれた。
これで丁度、千Venになる。
まあ、別に私はお金に困ったら、最悪の場合、ハンター業で稼ぐからイイよ。
フユミは、損した分をどうやって取り戻すのかは分からないけど。
私とフユミは、その男性に会釈すると、次の患者の家に向かった。
と言っても、そこから数軒先の平屋だけどね。
「ごめんください」
「あぁっ? なんだい?」
なんだか、やる気の無さそうな声だったけど、出てきたのは中年女性。
しかも、さっきの男性と同様に、フユミの顔を見ると途端に不機嫌になった。
「なんだ、アンタか」
でも、ふと思ったんだけど、フユミは、この世界に来て八年経つわけでしょ?
地球ではアキの母親で、アキが何歳で亡くなったのかは分からないけど、仮に二十歳だとしたらフユミって既にアラフィフだよね?
それを考えると、さっきの男性も、この中年女性も本来はフユミと同年代か、もしくは年下になる気がするんだけど?
それでいて、フユミは見た目が二十代半ばだから、完全に舐められている感じがあるように思える。
正直、フユミとしても、やってられないだろうなぁ。
「今日は、最終兵器を連れて来ました」
「最終兵器?」
「はい。たしかにアナタのケースは私の力では治せませんでした。正直、私の力不足です。でも、この娘の力なら何とかなると思います」
「こんな小娘にかい?」
「そうです。彼女は、治癒術師としては、この世界でブッチギリのナンバーワンですし、絶対に治せると思います!」
「ふーん。どうだか」
なんか、さっきの男性よりも態度悪いなぁ。
いきなり、こんな風に言われるのは、ちょっと私としても面白くないね。
こんな人が相手じゃ、普通の感性なら、
『私にだってアンタを治す義理なんて無い!』
って言いたくなるよね?
でも、フユミの顔を立てなきゃならないだろうからさ……。
私って優しいなぁ。こんなババアにも、
「治癒魔法照射!」
普通に治癒魔法を放ってやったよ。
このBBAの場合は、カカトを含めて足の裏全域にウイルス性のイボが出来ていた。
しかもカカトが、元々、角質化していたみたいなんだよね。
なので、正直言ってフユミにとっては条件として不利だった気がする。
一応、このBBAは、足以外には極力うつらないように、足を触ったらすぐに手を洗っていたっぽい。
それもあって、手にうつっていなかったのは本人にとって幸いかな。
だけど、手にうつっていようがいまいが、角質化したところにあろうがなかろうが、私の治癒魔法なら問題ない。
一秒足らずで治してやったよ。
「治りましたよ」
「えっ?」
「確認してください」
「そんな簡単に治るわけが……」
そう言いながら、そのBBAは靴と靴下を脱いだけど、自分の足の裏を見た瞬間、
「えっ?」
驚いて目が丸くなっていたよ。
「こりゃ驚いた。本当に治っているよ」
「治療代は千Venですが」
「でもねえ。今まで治せなかったわけだし、これくらいサービスしてくれてもイイだろ」
なんかムチャクチャなことを言って来たよ。
このクソBBA、マジで性根腐ってない?
さっきの男性の言葉から察するに、今までフユミは、このBBAからだって一銭も取っていないわけでしょ?
悪いけど頭に来たよ。
丁度この時だった。
一匹のワイバーンが空を飛んでいるのが目に入った。コイツに犠牲になってもらおう。
でも、一応確認しておかないと。
「フユミさん。あれって、ワイバーンですよね?」
「そうね」
「この世界では駆除対象ですか?」
「まあ、そうなるわね。家畜をさらって行くので、基本的には駆除する方針でしょう」
確認終了。
だったら、ヤッちゃってもイイよね?
先にワイバーンには謝っておく。
ゴメンね。
このタイミングで出てきたのが不幸だったと思ってくれ。
私は、そのワイバーンを指して、
「死ね!」
と唱えた。
すると、その直後、そのワイバーンは首が『スパッ』と切断されて地に落ちてきた。
これを見てBBAは、急に蒼褪めた顔をして、
「じゃ……じゃあ、これ、千Venね」
銀貨一枚を私に渡すと、逃げるように家の中に飛び込んで、すぐにドアを閉めたよ。
私の隣では、フユミも顔が蒼褪めていた。
まさか、こんな風に魔物退治が出来ちゃうとは思っていなかっただろうからね。
「ええと……こんな簡単に魔物を?」
「はい。ですので、先日の大熊魔獣も、こんな感じでしたよ」
「一瞬で?」
「はい。フランさんにでも聞いてみてください」
「フラン?」
「あの時、私を現地に連れて行った男性です」
「ああ、あの人ね。それにしても、怖い娘ね」
「ただ、人の首を刈ることは出来ないように女神様から制限をかけられていますから安心してください」
「そ……そうなの?」
でも、私に向ける視線からは疑いの念を感じたよ。
もう、とっくに殺人鬼は卒業したんだから安心して欲しいんだけどなぁ。
一応、ワイバーンの死体はアイテムボックスの中に回収した。
多分、多少のお金にはなると思うからね。
ただ、結構大型だったんで、首は私一人で収納出来たけど、身体の方の収納は一人じゃできなくてね。
それで、フユミに手伝ってもらったよ。
この後、さらに数軒回って、この村でフユミが治療し切れなかったウイルス性イボの患者を私は全員完治させた。
ようやく、これで一安心だね!
「どうもありがとう。これで何とか根絶出来たわ」
「良かったですね」
「じゃあ、家まで送って行くよ。ギルド前の道を南下して、丁度町の外れのところだったよね?」
「そうです」
「じゃあ、行くわよ。転移!」
それにしても、転移魔法って便利だよね。
次の瞬間、私はフユミの転移魔法で私の家から五十メートルくらい離れたところに来ていたもんね。
勿論、フユミも一緒ね。
丁度この時、男性三人と女性一人のグループが、私の家の前で屯しているのが見えた。
そのうち三人は、フランにアゾールにピレンだね。フランとアゾールはドンブリを持っているから、多分、それを返しに来てくれたんだろう。
あと、もう一人は、多分、アクリジンかな? フラン達と同じパーティの。
そのアクリジンと思わしき男性は、大柄で割と太っていた。まるで山のような体格って感じだね。
絶対にムチャクチャたくさん食べるタイプだね!
一方のフユミは、先日まで無かったはずの大きな家が建っているのを見て、マジで驚いていた。
一瞬、言葉を失っていたよ。
「もしかして、あの家がラヤちゃんち?」
「はい」
「本当に、これを魔法で?」
「そうです」
「それも、一日で?」
「まあ、数分ってとこです」
「えっ……」
再び、フユミは言葉が出なくなったみたいだ。
これだけの家が分単位で建つなんて、通常の感性からは絶対に有り得ないだろうからね。
完全に絶句状態だったよ。
「寄って行きます?」
「えっ? ええ、お邪魔じゃなければ。正直、ちょっと中を覗いてみたいし。それにしても、ラヤちゃんの魔法は、本当に何から何まで規格外ね」
「フユミさんは、何処に住んでいるんですか?」
「一応、町中で薬屋を開いているんだけど、そのテナントで寝泊まりしているよ。ちょっと狭いけど」
「だったら私の家に来ません? タダで構いませんので」
「でも、悪いわよ」
「正直言いますと、この広い家に一人でいるのは、ちょっと……」
「うーん。じゃあ、お風呂ある?」
「あります」
「だったら、その言葉に甘えさせてもらうわね。テナントにはお風呂が無いから、濡れタオルで身体を拭くくらいしか出来ないし。頭も水道水で洗うしかないのよね。でも、本当にイイの?」
「はい」
「じゃあ、喜んで同居させてもらうよ。それと、家の前にいるのって?」
「あの四人のうち三人は私の顔見知りです。って言いますか、私を魔獣のところまで連れて行ってくれた男性と、あの時、大怪我をしていた女性ですよ」
「ああ、たしかに」
ピレンが、こっちに気が付いた。
でも、私は口に人差し指を当てて声を出さないように合図を送った。
そして、私は静かに家の前まで来ると、フランに背後から声をかけた。
「フランさん」
「うわっ!」
なんか、妙に驚いていたよ。急に声をかけられたからだね?
まあ、私も狙っていたんだけど。
「ワザワザ、ドンブリを持ってきてくれたんですね」
「びっくりした。ラヤちゃんか。でも、ギルドの前の道を南下して町を外れたところって言うから来てみたけど、これってマジでラヤちゃんち?」
フランが、そう言いながら私の家を指差していた。
「はい」
「だって、先週、ここには何も無かったけど?」
「あの大熊魔獣を倒した前の日に建てたんです」
「まさか、ラヤちゃんが?」
「はい」
「一人で?」
「そうです」
「何日くらいで?」
「数分ですけど?」
「……」
フランも、さすがに言葉を失ったらしい。
でも、対するピレンはムチャクチャ感激していたようだ。
「すごい! 死にかけていた私を治しちゃうし、魔獣は倒しちゃうし。それでいて、家も簡単に立てちゃうなんて。家の査定は済んだの?」
「はい。もう役所での手続きも終わりました」
「結構、かかったんじゃない? お金」
「ええ、まあ。でも、払えない額ではありませんでしたので」
「そう言ったって、この広さなら千五百万Venくらい出そうじゃない? 将来有望ね。それに、フランとアゾールの話だと、美味しいモノも出せるって話だし」
価格については御名答!
パッと見ただけで当てられるなんて、それはそれで凄い気がした。
「美味しいモノが出せるって? それって聞いてないけど?」
こう言って来たのはフユミ。
たしかにそうだね。言ってなかったもんね。
「じゃあ、ごちそうします。ピレンさんも食べてませんしね。あと、もう一人の方は?」
「アクリジンと言います」
やっぱりね。
この人は、沢山食べそうだな。まあ、魔法で出せるからイイけど。
「では、みなさん、上がってください。フユミさんとピレンさんとアクリジンさんには、フランさんとアゾールさんに召し上がっていただいたのと同じのを出します。フランさんとアゾールさんには、別メニューをお出ししますね」
私は、魔法でドアのカギを開けると、みんなに中に入ってもらった。
案内先は、取り敢えず一階の食堂にする予定のスペースね。
今のところ、ここは第二のリビングダイニングってところかな?
人が沢山来た時には、ここに通せばイイやって思って、一応、ここに大き目のダイニングテーブルと椅子を置いてあるんだよ。
そして、みんなに席についてもらうと、先ず、
「出ろ!」
私は生活必需品と言うことでオシボリを物質創製魔法で人数分出した。これには、ピレンもアクリジンも驚いていたよ。
他の三人は、
『またか……』
って感じの顔をしていたけど。
一応、三人共、私の魔法に対する免疫が付いたみたいだね。
続いて、
「出ろ!」
私はカツ丼三丁と天丼二丁を魔法で出した。
天丼はフランとアゾールの分で、カツ丼は他の三人の分ね。
あと、先割れスプーンを四つに箸を一膳出した。
勿論、箸はフユミの分ね。
これを見てフユミは、
「マジで? カツ丼なんて八年ぶり!」
なんか、今までになく大声を出して喜んでいたよ。




