45.五本じゃなくて五人と言おう!
うーん……。診察室が血だらけになってしまった。
なので、場所を移動。
「ナツミ。掃除をお願い!」
「ええぇ?」
なんか、凄くイヤな顔をしているよ。まあ、料理・洗濯・掃除、どれも好きじゃないもんね、ナツミは。
特に料理は、
『作るものじゃなくて食べるモノでしょ!』
って言うタイプだしさ。
掃除に関しても、
『別に散らかってても死ぬわけじゃないし!』
とか言うからね。
ナツミ狙いの野郎共は結構多いんだけど、万が一、ナツミと結婚したら後が大変そう。
絶対に後悔すると思う。
「別にイイでしょ? じゃあ、さっきの女性の患者さんには、客間の方に来てもらうようにお願いね」
「分かったわよ」
と言うことで、私とハルは、隣の客間に移動した。
一先ず、ここで診察を再開する。
少しして、さっきの順番を譲ってくれた女性が入ってきた。
「失礼します」
そして、彼女は椅子に腰を下ろしたんだけど、なんだか私の出方を伺っているような感じで黙っていた。
「如何されました?」
「見て分かりません?」
なんか、何気に口調がキツく感じた。
私に恨みでもあるのかな?
「背部痛ですね。それから尿に血液が混じっています。本当は歩くどころか立っているのも辛いでしょう」
「さすがですね。治せますか?」
「はい」
「これも五千Xenで済むのでしょうか?」
「そこまでしません」
「えっ?」
「千Xen……いえ、待たせたお詫びとして、今回だけ五百Xenですかね」
「そうですか。本当に、ここは破格ですね。半年前に他の治癒魔法使いに見ていただいた時には百万Xenも取られましたから」
なんか、急に女性の口調が変わってきた。
もしかすると、他の治癒魔法使いに高額を吹っかけられたのを根に持っているのかも知れないなぁ。
でも、それで私にキツイ言い方をしてくるのは、ちょっと違くないって思うけどね。
「まあ、治癒魔法使いが自由に価格を決められることになっていますからね。では、五百Xenでよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
「では、そのままにしていてください。治癒魔法照射!」
この患者さんは、腎結石だったんだ。
私は、先ず患者さんの体内から結石を除去し、続いて結石ができやすくなっている状態を改善した。
もっとも、これは生活習慣次第で元に戻ってしまうけどね……。
一応、これで完了!
「どうですか?」
「本当に楽になりました。ありがとうございます」
「こちらには、初めていらしたと思いますけど、どちらにお住まいですか?」
「隣町です」
「では、もし気になることがありましたら、またいらしてください」
「そうします」
「では、お大事にしてください」
そして、患者さんが部屋から出て行ったので、私は、毎度の如く、
『次の方』
って言おうと思ったんだけど、そう言えば、患者さんの順番を管理しているナツミが清掃中だった。
ここは仕方が無い。
私が受付まで行って順番表を確認した。
診察予定の患者さんは、あと三人だった。
他には、今のところ来ていない模様。
それにしても患者数が少ないな。
ええと、男性患者、男性患者、女性患者の順番ね。
「では、アデルさん。奥の部屋までお願いします」
「はい」
そして、客間に行き、早速診察開始。
ちなみに患者のアデルさんは、アラサーの独身男性だ。
ハンターではなくて一般人。
結構な女好き。
「如何されました?」
「最近、アソコから膿が出て痛くてね……」
これは、多分、あれだな……。
なんだかオチが見えたような感覚で、私はアデルさんのステータス画面を覗き見したんだけど、予想通り書かれていた文字は、
『淋病』
だったよ。
やっぱりね。
それにしても、何故、今日に限ってシモが多い?
「誰かとHしました? それ、性病です!」
「旅行先で、ちょっとね」
前にもいたな、そんな男。
あれは、トモティ世界だったっけ。
「もう……。その後は誰かとしましたか? もし、していると、うつしている可能性がありますので」
「旅行から帰ってからはヤッていないよ。ナツミちゃんとだったら、是非シテみたいけどね」
まったく、ナツミ狙いのエロアラサー男子め……。
中身がどんな女だか全然知らないくせに!
「はいはい。そうですか。治療代は二千Xenですけど」
「それで治るなら、是非お願い!」
「分かりました。治癒魔法照射!」
ついつい半分自棄になったような声を出してしまった。
でも、これで治せちゃうのも問題なのかもしれないね。逆に、病気を貰って来ても、二千Xen払えば何とかなるから大丈夫なんて思われそう。
「終わりましたよ」
「ありがとう。これで、大手を振ってナツミちゃんを口説ける」
「でもナツミは、ああ見えてもS級ハンターですからね。殺されないよう気を付けてくださいね」
「……」
あら、黙り込んじゃったよ。
私達がS級ハンターって、ハンター業界内では有名だけど、一般には意外と知られていないみたいだね。
これでアデルさんの治療は終了。
アデルさんが退室すると、私は次の患者を呼びに行った。
「ケインさん。奥の部屋までお願いします」
「はい」
そして、客間に行って、再び診察開始。
「如何されました?」
「アソコが痒くて……」
「はぁ?」
「もう痒くて我慢できなくて」
「(またシモかよ)」
「ラヤちゃん、何とかして!」
「分かりました。では、ズボンとパンツを脱いでください」
「はい」
これで今日、五本目……じゃなくて五人目か。
まあ、今回は棒じゃなくて玉のほうだけど。
たしかに赤く盛り上がった発疹が見られる。
いんきんたむしだね。
念のためケインさんのステータス画面を覗き見したけど、そこにもしっかり『いんきんたむし』と書かれている。
他に罹患は無しか。
もう、シモの方は、少し値段を上げてやろうか?
「治療代は二千五百Xenですが、よろしいでしょうか?」
「頼む。それで、この痒みから解放されるのなら」
「分かりました」
と言うわけで、患部に手をかざして、
「除菌&治癒魔法照射!」
治療したよ。
でも、何で今日は、こんなにシモばかりなんだろう?
まあ、イイか。
ただ、ここでケインさんが、履いて来たパンツを、そのまま履こうとしたよ。
うーん……。さすがに、それはマズいんじゃないかな?
「ちょっと待ってください!」
「えっ?」
「そのパンツは、洗ってから履いてください。今回の病気の原因がパンツについてますから、それを履いたら再び感染します」
「そ……そう言うことね。でも、替えのパンツを持ってきてないし」
「少々お待ちください」
私は、一旦客間を出ると、
「出ろ!」
物質創製魔法でパンツを出した。極力、ケインさんが履いているモノに似ているモノを出したんだけどね。
そして、客間に戻ると、
「これを使ってください」
と言いながら、私はパンツをケインさんに差し出した。
「イイのかい?」
「はい」
「でも、何で男モノがあるの?」
「ケインさんと同じような方が、患者として来るから用意してあるだけです」
「なんだ。ナツミちゃんの彼氏とかが、ここに泊まりに来るとか、あるのかと思っちゃったよ」
「私達は、三人ともフリーですから」
「そうだよね。やっぱり、ナツミちゃんを口説いちゃおうかな? ナツミちゃん、イイ匂いするし」
うーん、コイツもナツミ狙いか。
でも、ケインさんは既婚者じゃなかったっけ?
「奥さんは、どうするんです?」
「あっ! 黙っといてね」
「あと、今回のは他人にうつりますから。奥さんは大丈夫ですか?」
「多分……。でも、なんか俺が他所からもらって来たってなると、浮気とか疑われないかって思って」
「それは、銭湯とかでもうつりますので」
「そ……そうなんだ」
「なので、ヤマシイことをしていなくてもうつります。もっとも、ナツミとはヤマシイことをしたいみたいですけど?」
「ちょっと、あれは冗談だから」
「では、こちらのパンツを使って、今まで履いていたのを使うのは、洗濯してからにしてくださいね」
「分かった」
「それから、奥さんにも確認してください。もし、奥さんにうつっていたら、また、そこからケインさんにうつりますので」
「たしかに!」
「必要があれば、大衆浴場でもうつるものだって私から説明しますから」
「じゃあ、もしもの時には、そうさせてもらうよ。ホント、何から何までありがとう、ラヤちゃん」
「では、お大事にしてください」
まあ、ケインさんの場合は、大衆浴場じゃなくて、体臭欲情かも知れないけどね。ナツミがイイ匂いとか言ってたから。
少なくとも大浴場で女湯を覗いて大欲情しそうなタイプなのは間違いないよ。
なんか、ナツミ狙いばかりで頭くるな。ここにカワイイ系美少女がいるのに!
やっぱり胸が無いとダメなのか?
それはさて置き、次の患者さんで一旦区切れる。
もっとも、まだ医院を閉める時間じゃないから、その後は別の患者さんが来るまで、しばし休憩になるだけなんだけどね。
と言うわけで、私は、次の女性患者を呼びに行った。
「リリカさん」
「はい」
「こちらの奥の部屋までお願いします」
彼女は、この医院には初めてくる患者さんだ。
非常に気品のある感じがするけど、貴族かな?
ただ、リリカさんが客間に入ると、何故かハルは驚いた表情をしていた。
珍しいな。どうしたんだろ?
すると、
「久しぶりね、ハル」
とリリカさんの言葉。この二人って知り合いなの?
「なんでここに?」
「アナタ達に次なる指令を伝えるためにね」
リリカさんが椅子に腰を下ろし、私の方に視線を向けて来た。ただ、この雰囲気って、何処かで見た記憶があるんだけど……何処だったかな?
「アナタがラヤね?」
「はい」
「私の本当の名前はギガンテア。この世界を創世した者です」
「えぇっ!」
ってことは女神様?
そうか!
この御方の雰囲気って、グエホイ様とかアクアティカ様とかリニフローラ様に似ているんだ。
言われて納得。
それにしても、女神四人と直接お会いできた私って、SUGEE!
でも……、だとすると次なる指令って、また何か大きな動きがあるってこと?
「実は、ラヤとハルにお願いがあってきたの。まず、ハルだけど、そろそろ治癒魔法を実際に使ってみて頂戴」
「でも、まだ私には自信が無くて……」
「ラヤの指導を受けながら、実際にやってみて頂戴。ラヤが永遠に、この地で生きて行くわけではありませんからね」
「……」
「それからラヤ」
「はい?」
「闇龍を退治してもらったわね。お礼を言うわ。有難う」
「いえ、そんな」
「ただ、アナタには次なる依頼があります。このバージェス世界からシルリアの世界に転移して、そこにいるポーション使いと組んで医療に従事していただきます」
「では、この世界には?」
「治癒魔法をハルに引き継いでいただき、この医院はハルとナツミで継続していただきます。引継ぎ期間は三か月。それまでに、ハルを実践で鍛えてあげてください。では、よろしくお願いしますよ」
そう言うと、ギガンテア様は、その場から姿を消した。本来、女神様がいらっしゃる高次元の空間に転移したんだろう。
この時、ハルは唖然として表情をしていた。
私は、
「ハル。じゃあ、早速、明日から治癒魔法にチャレンジしてみよう」
と言ったんだけど、そうしたら、急にハルは、
「ラヤがいなくなっちゃうのはイヤだよ!」
と言いながら号泣してくれた。
そう言ってもらえて嬉しいよ。
って一瞬思ったんだけどね……。ただ、その後、ハルが付け加えてきた言葉は、
「だって、美味しいモノが食べられなくなるぅ!」
って、そっちかよ!
やっぱりハルにとっての私の存在意義って、給食係だけなのかなぁ?




