44.三本じゃなくて三人と言おう!
「次の方」
「あのう……」
続いて診察室に入ってきたのは二十代男性。
しかも、妙に恥ずかしそうにしていた。
「どうされました?」
「俺……実は、早くて……」
「はっ?」
「だから、Hでイクのが早くて」
「皮の方は」
「そっちは正常なんだけど……」
「ええと……、少々お待ちください」
さすがに、この治療を依頼されたことは今まで一度もなかったな。皮の切除の方だったら何例か対応してきたけど。
患者の後では、ハルの目が点になっているよ。
さて、どうしたらよいモノか?
私は急いで自分のステータス画面を開き、チャットボット機能を立ち上げた。
そして、早速、チャットボット機能に質問。
『Q:早漏治療は出来る?』
『A:状態により可能』
『Q:この患者さんの治療は可能?』
『A:小帯除去で可能』
一先ず、対応は可能なようだ。
でも、今回のは治癒と言うよりも改造だよね?
本当に私にできるのかなぁ。
「ええと、不可能ではありませんが、私も、これをヤルのは初めてですので、正直、自信はありません。あと、金額は五千Xenになります。それでも、ヤリますか?」
「よろしく頼む」
「分かりました。では、下半身裸になってベッドの上に仰向けに寝てください」
「分かった」
その男性は、さくっとズボンとパンツを脱ぐと、ベッドの上に仰向けになった。
別に、私やハルに見られるのは恥ずかしくないっぽい。
まあ、形状と言い大きさと言い本人も申し分ないと思っているのだろう。
問題なのは速度だけと。
言ってしまえば、この患者さんは、この小帯と呼ばれる部分が敏感だってことだ。それで、この部分を切除することで治療可能ってことらしい。
だけど正直、この治療はイメージが湧かないなぁ。
怪我なら怪我した部分を治す。
腫瘍なら腫瘍を取り去る。
他の病気でも、正常な状態に戻すことで治るってことでイメージが湧く。
だけど、今回切除する部分は異常な箇所ってわけじゃないからね。
でも、それが患者さんの意志だし……。
うーん。少し考え方を変えよう。
私が地球にいた頃、この部分は無くてイイって自分でも思っていた。だから、この患者さんも自分に要らないって思う部分を除去する。そう考えればイイ。
とにかく、私はチャットボット機能からの回答に従って処置することにした。
まず、両掌を患部(?)にかざした。
触れることはしないからね!
続いて不要個所を魔法で丁寧に切除。
そして、切除された部分が完全に塞がるように魔法で縫合した。
多分、これで性交……じゃなくて成功!
そりゃあ、今回の治療は性交のために成功させたんだけどね。
「終わりました」
「なんか、良く分からないけど」
「それでですね。お支払いは実際に体感して改善したと思われたらお支払いください。理屈の上では出来ているはずなのですが、ちょっと私も自信がなくて」
「分かった。今夜にでもチェックしてみるよ」
「よろしくお願いします」
これで、その男性はパンツとズボンを履いて診察室から出て行った。
一連の治療を見て、ハルは、
「最初の令嬢の治療は、腕が痛いって言われたけど、腕以外のところもチェックするんだね?」
と不思議そうな顔で私に聞いて来た。
「あれは悪性の腫瘍で、転移するからね」
「転移?」
「身体の他の部分に飛び火するって思ってくれればイイよ。肺とかね」
「そうなんだ」
「前にすい臓がんの患者さんを診た時は、血栓ができていたからね。それも除去しないとならなかったし」
「単に、悪くなった場所だけ治せばイイってわけじゃないんだって勉強になったよ。それと、さっきの男性」
「あの治療は、私も初めてでね」
「あの部分を切り取るとイイってことだよね?」
「人によって、他の部分の方が敏感ってのもあるんじゃないかなぁ。もう少し私も勉強する必要があるね」
「勉強するって、どうやって? 誰か男の人を使って実験するとか?」
「そう言うわけには行かないでしょ」
「もう、持ってないもんね」
「うん……って、えっ?」
「地球にいた頃なら持ってたのにね」
「知ってたの?」
「うん」
「その黒歴史は、誰にも言わないで。お願いだから」
「大丈夫。言わないから安心して」
そうは言われても、やっぱり情報漏洩されないか不安はあるなぁ。
たしかにハルは女神様とツーカーだからね。知っていても不思議じゃないんだけど。
でも、あの頃の私のことを知られているって、正直、超恥ずかしいよ。
さて、気を取り直してと。
「次の方」
「失礼します」
入ってきたのは初老の男性。この医院に来るのは初めてだけど、近所に住んでいて顔見知りの方だ。
ただ、なんだか妙に恥ずかしそうな表情をしている。
「あら。いかがされました?」
「それがなぁラヤちゃん。ちょっと恥ずかしいんだけど、最近、キレが悪くて」
「キレって?」
「おしっこのキレがね」
「あっ! あぁ……」
つまり、前立腺関係かな?
癌じゃなければイイけど。
早速、患者さんがズボンとパンツを脱いだ。
うーん。この診察は、私のところでは脱がなくても出来るんだけど……。
まあ、イイか。
一先ず、私は診断魔法で患者さんの全身をスキャンした。
たしかに、前立腺に違和感アリと出た。
他は、今のところ問題無さそう。
さらに患者さんのステータス画面を覗き見チェック。
そこで出てきた文字は、前立腺肥大症。
良かった。癌じゃない。
これは、地球でも経尿道的前立腺切除術があるし、大きくなった部分を切除すればイイのかな?
トモティ世界にいた頃は、前立腺癌の患者さんは回って来たけど、前立腺肥大症の患者さんは回ってこなかったんだよね。
なので、実は治療をするのは初めてなんだ。
一応、私のステータス画面の中の辞書機能で確認。
私が治療する場合は、切除した後に前立腺を正常な形に再生可能とのこと。
なんとかなりそう。
「治療には五千Xenかかりますが、よろしいでしょうか?」
「それで済むのなら、お願いしたい」
「分かりました。では、治癒魔法照射!」
治療時間は十秒程度。
これで終了!
「ええと。これで大丈夫だと思います。治療代は、残尿感が無いって実感されてからで構いませんから」
「それなら、今からちょっとトイレに行って確認してみるから」
「そ……そうですか」
「じゃあ、また後でな」
「お大事に。では、次の方」
続いて入ってきたのは二十代の男性。
ステータス画面を覗き見した限り、特に問題無さそうなんだけど?
「どうされました?」
「余計な皮を取って欲しいんだけど」
「ええと……それって……」
すると、その男性がズボンとパンツを脱いだ。
やっぱりか……。
「この皮を除去してくれ。彼女に笑われて」
「分かりました。五千Xenですけど」
「構わない。頼む」
「では、早速」
と言うわけで、この男性は仮性だったけど、魔法で余分な部分の除去を行なった。
なんか、今日は珍しく男性のシモ関連が立て続いて、ハルも目が点になっていたよ。
治療完了。
男性はパンツとズボンを履くと、
「ありがとう。これで笑われないで済むぞぉ!」
意気揚々と診察室から出て行った。
ハルが、ボソッと、
「それにしても、三本とも太さも長さも色も形も違うんだね」
と呟いた。
「ええと、三本じゃなくて三人って言おう。なんか、イヤラシイから」
「そうかな?」
「うん。そう感じる」
「だけど、さっきの人も、早いって言っていた人も、別に身体に異常があったわけじゃないんだよね?」
「そうなんだけどね」
「でも、人間って、本当にそう言うところを気にするんだね。六体の龍達から聞いてはいたけど、生の声を聞くのは初めてなのよね」
「そうなんだ」
「やっぱり、ここに来て良かった。最初は医療の勉強ができればって思っていたけど、それだけじゃない。ここは、人々の悩みを知ることが出来る場所でもあるって分かったからね」
「まあ、今日がたまたまなんだろうけどね……」
「たまたまだけに」
ええと……。
ハルって、こんな低俗なギャグを言う娘だったっけ?
随分と、この街で人間に毒された感じがするよ。
この時だった。
診察室の扉が開いて、さっきの前立腺肥大症の患者さんが顔を出した。
「ラヤちゃん。もうバッチリOKだったよ。治療代は払って行くから」
「わざわざご報告ありがとうございます」
「こっちこそ、ありがとうな!」
そう言うと、その男性は扉を閉めた。
さて、診察再開。
「では、次の方」
すると、再び診察室の扉が開き、
「失礼します」
一人の女性が入ってきたんだけど、丁度その時だった。
「急患だ! 魔物にやられた。急いで診てくれ!」
タンカに乗せられて一人の男性が運び込まれて来た。
彼は、近くのギルドに登録しているハンターで、うちのお食事処にも頻繁に来てくれるお客さんだ。
イケメンで、女性ハンターからも人気がある。トモティ世界で私に求婚してくれたイリヤ王子とタメを張るレベルだよ。
胸に深い傷が三つ。これは、爪でまともにえぐられた感じだ。
出血がヒドい。
しかも、右腕が切断されている。これは、急がないと失血死してしまう。
幸いなことに、失った右腕は、食われてしまったわけではなさそうだ。仲間の男性が大事に抱えていた。
これは横入りだけど仕方が無いよね。
別に、イケメンだから横入りさせるわけじゃないからね!
私は、さっき診察室に入ってきた女性に、
「先に、こちらの患者さんを診させていただきますけど、よろしいでしょうか?」
と聞いた。
その女性も、これでは、さすがにダメとは言えない。
「分かりました」
とだけ言って、一先ず診察室を出て行った。他の患者さんのプライバシーの問題もあるけど、今回は、むしろ、この血だらけの現場を見たくないって感じだ。
ただ、その女性は歩くのが辛そうだった。私が診断魔法で簡易スキャンする限り……痛くて立っているのもキツイんだろうって気がする。
急いで、こっちの患者さんの治療を終わらせるから、ちょっとだけ待っててね。
「では、こちらのベッドの上に」
「分かった」
イケメン患者を運んできた者達がイケメン患者をベッドの上に運んでくれた。私には、それだけの腕力が無いから助かるよ。
では、治療開始!
この医院の場合、大怪我の治療は五千Xenって決まっているからね。言うまでもなく、この男性の治療費は五千Xenだって知って運び込まれている……んだと思う。
我ながら格安の医療だと思うよ。
そう言えば、トモティ世界でも、ヘクチオイデス大聖殿で初めて診た患者さんが右腕切断だったっけ。
って、頭を切り替えないと。
今は過去の症例を懐かしんでいる余裕なんかない。
先ず切断された腕をつなぐ。
私は、患者さんの仲間の男性から腕を受け取った。
そして、
「治癒魔法照射!」
大急ぎで治癒魔法を発動した。
すると、切断された腕が宙に浮き、まるで発射されたロケットパンチが定位置に戻って来たかのように元通りくっついた。
この間、十秒程度。
本来なら、この後に神経がキチンと信号伝達できるかのチェックをするんだけど、今はちょっと後回し。
他の部分が先だ。
続いて私は、
「治癒魔法照射!」
胸の傷の治療を行った。
これも、十秒弱で終了した。私のところは、このスピード治療もウリだからね!
出血も治まり、これで一安心と言ったところだ。
患者さんを運んできた人達は、
「おおぉぉぉ!」
歓喜の声を上げていた。
これで治療が完全に終わったって思っていたんだろう。
怪我をしていた男性も身体を起こして、
「まさか助かるとは。ラヤちゃん、ありがとう」
ってお礼を言ってくれたんだけど、
「まだです」
「えっ?」
治療は、まだ終わっていないんだよ。
さっきくっつけた腕が、キチンと動かせるように……神経がキチンと信号伝達できるように調整する必要があるからね。
そして、再び腕の接合部に向けて約五秒間の治癒魔法照射!
神経信号は……特に問題ないみたい。
多分、これで大丈夫だ。
「では、指を動かしてください」
「あっ……はい」
「動きますか?」
「大丈夫。動くよ」
「よかったです。これで、治療は終了です」
「本当に助かった。ありがとう。でも、ラヤちゃん」
「はい?」
「大怪我でも治療代は五千Xenって張り紙がずっと張ってあるけど、もしかして、今回の瀕死状態でも五千Xenになるの?」
「勿論。それが私のポリシーですので」
「でも、これが五千Xenってのはマジで悪い気がしてならないな。どう考えても桁が全然違う気がするし。後で何かお礼をさせてもらうよ」
「そんな、気にしなくてイイですよ」
「いや、それじゃ、俺の気が済まないからさ。じゃあ、また後で。割り込ませてもらって済まなかった」
「お大事に」
その男性と仲間達は、私に深々と何度も何度も頭を下げながら診察室を出て行った。
別に、そんなに何回も頭を下げてくれなくてもイイんだけどな。
むしろ、こっちが恐縮してしまうよ。




