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42.医院でイイんだよね!

 ハンターギルドから五十メートルくらい離れたところに大きな売地があった。

 多分、日本なら家を十軒くらい建てるくらいの広さだよ。


 私達は、その土地を購入した。

 ハンターギルドって、実は街の中央から少し外れたところにあるんだよね。なので、この土地の単位面積当たりの価格は思ったほど高くはなかったよ。

 それでも広い分、結構なお値段はしたけどね。



 ここに家を建てるわけだけど、それで建設会社に見積もりを取らないとって思っていたら、ハルが、

「ラヤの魔力をパワーアップさせるから、それで家を出して!」

 って言ってきたよ。


「でも、私が出せるのって、飲食物と生活必需品と簡単な武器だけなんだけど?」

「家は必需品でしょ!」

「えっ?」


 果たして、家は生活必需品の範疇に入るのだろうか?

 私は、ちょっと違うって思っていたんだけどね。


 ただ、ハルの感覚だと生活必需品の中に入るらしい。

 これが異世界ゆえの感性なのか、光龍ゆえの感覚なのかは分からないけど。


 ハルは、

「じゃあ、パワーアップさせるね」

 と言うと印を結んだ。


 ムチャクチャ気の入った顔をしている。

 こんな表情のハルが見るのは珍しい。

 私が知る限り、ハルが、こんな顔を見せたのは、闇龍との戦いの時くらいだよ。

 ハルは、相手がどんな魔獣でも余裕だからね。


 そして、十分、気を練ると、

「はっ!」

 私に両掌を向けて強大なエネルギーを放って来た。


 でも、反重力魔法とか衝撃波とは全然違う。

 その力で後ろに弾き飛ばされるようなことは無かった。


 むしろ、そのエネルギーを受けて、私の身体は奥の方からもの凄く熱くなってきた。それこそ、活性化していると言った方が良いだろう。

 こんな感覚は初めてだ。


「これでパワーアップできたはずだよ」

「じゃあ、試しに金貨〇千枚!」


 正直、これは冗談のつもりだった。

 飽くまでも、生活必需品を出すためにパワーアップしたって思っていたからね。金貨が出るなんて思っていなかったんだよ。

 だから、金貨〇千枚って言った後に、

『なーんてね!』

 って言うつもりだったんだ。

 ちなみに、ここで言った金貨の枚数は、土地代で出たお金ね。



 ところが、次の瞬間、

「ジャラジャラジャラジャラジャラ……」

 空から大量の金貨が降ってきたよ。


 金属が、まともに頭に当たる。

「痛い! なにこれ?」


 マジで金貨〇千枚が出て来た。

 土地の購入で支払った分が完全に相殺されたよ。


 それと、山のような金貨を見て、なんかコインゲームを連想してしまったよ。

 懐かしいな、あれ。



 そもそも私の物質創製魔法は、こんな際限無い魔法じゃなかったはずなんだけど?

 まるで、トモティ世界で戦争を止めた時と大同小異の力だよ。


 あの時は、人々を救うために女神様にお願いして何でも出せるように、期間限定でスーパー魔法を使えるようにしてもらったんだっけ。


「でも、なんで金貨が?」

「だって、お金って生活に必要でしょ?」

「それはそうだけど」

「だから、この世界の感性では生活必需品!」


 いや、それってハルだけの感性だと思うけど?

 取りあえず、この金貨は急いで、かつ有難くアイテムボックスの中に収納した。


 医院を開いても、どれだけ患者さんが来るか分からないし、今迄ほど稼げなくなる可能性は否定できないからね。


 それと、もう一つ。ここでナツミとかハルが、

「ちょっと拝借するね!」

 って言って、降ってきた金貨の一部をインマイポケットする分には別に構わないんだけどさ。

 土地を買うお金も、三人で出し合っているし、このお金も三人で山分けすればイイって思っているからね。


 でも、全然知らない第三者が、

「なんか、凄い音がしたけど?」

 とか言いながら勝手に近づいてきて、

「あっ! 金貨だ! ちょっと頂戴!」

 なーんて言いながら、勝手に金貨を持って行っちゃったら癪だからね。

 なので、誰にも見られないうちに、さっさと隠さないとって思っていた部分もあったんだよ。



 取りあえず、私の魔力が、とんでもなくパワーアップしていることは証明された。

 なので、

「理想の家、出ろ!」

 と、祈るように両目を強く瞑りながら声を大にして唱えた。


 すると、

「ボン!」

 マジで出て来たよ。


 でも、この反動で、私は凄い疲労感が出て来た。

 ハルの方も魔力を使い果たした模様。

 なので、今日は休息日にしよう!


 ちなみに、これ以降、ハルは、しばらく魔力放出を控えるようになった。私をパワーアップさせるのに、相当な魔力を消費したんだろう。

 しばらく充電状態だ。



 家の間取りは、昨日、ナツミとハルと相談して決めていた。

 二階建ての家で、一階部分に広いテナントと広めのLDK、さらに客間が二つにトイレが一つ。このトイレは、私達も使うけど患者さんも使う。

 客間は、医療関係者が来るかも知れないので、一応、用意したってところ。



 二階部分には私とナツミとハルの個室、それから納戸扱いの部屋が二つに、こっちにも広いLDK、さらにバストイレ。

 ムチャクチャ大きくて広くて贅沢な家だよ。


 ちなみに入院病棟は無い。

 だって、患者を入院させる必要はないと思うからさ。

 その場で治るんだし。



 あと、二階のLDKは私達の生活スペースで、一階のLDKは、私達の控室みたいなものね。まあ、控室にしては広すぎるけど。


 それから納戸扱いの二部屋は、基本的には空き部屋になる模様。

 今のところ、特に荷物に溢れているわけではないからね。

 念のため用意した部屋って感じだ。



 それと、ナツミはプール付きがイイって言っていたんだけど、プールの掃除とか面倒だからね。

 私がソッコーで却下した。


 そして、早速、私達はハンターギルドに行き、医院開設のポスターを張らせてもらった。それから医院開設の手続きもね。


 それにしても、ハンターギルドで医院開設の手続きができるとはね……。

 本当に、ハンターギルドって便利過ぎ!



 開院は明日から。

 院長は私で受け付けはナツミ。ハルは名目上、見習い看護師だ。

 これで多分、怪我をしたハンター達が治療依頼に来るだろう。


 …

 …

 …


 そして、翌朝。

 医院の前に並んでいたのは野郎共ばかりだったけど、一応患者さんだからね。丁重に扱おうって、最初は思っていたんだ。


 でも、この野郎共は、

「ナツミちゃん、遊ぼうぜ!」

 受付でナツミと長々とだべり、

「実は、昨日、ちょっと怪我しちゃって……」

 私に見せたのは昨日の夜に軽く引っ搔いた程度の傷。

 特に治療は不要だろ!


 さらに、

「ハルちゃん。ちょっと、ふらつくんで看護して」

 ってわざとらしく倒れそうになってみせたりしていた。

 つまり、私達三人に会って話し込むためだけに来ていたってことだ。



 でも、まだHなことを要求してこないだけマシだけどね。

『息子の興奮が収まらないので何とかしてください』

 なんて言ってくるヤツがいたら、どうしようかと思ったよ。


 もっとも、そんなヤツがいたら医療行為として前立腺刺激を行うけどね。勿論、触りたくないから魔法でだけどね。


 ハルなら、

「切っちゃえ切っちゃえ!」

 とか言い出しそう。

 怖っ!



 まあ、会いに来てくれるのは嬉しいけど、これって業務妨害だよ。

 それで私も、少し嫌みったらしく、

「魔物退治には行かないんですか?」

 って聞いたんだけど、そうしたら、

「それが、最近、魔物退治の依頼がすっかり減ってな。仕事が無いんだよ」

 と野郎共が答えてくれたよ。


 つまり、闇龍支配から解放されて、魔物や魔獣の生息区域も元に戻り、前ほど人前に出没しなくなったってことだ。


 勿論、現状(魔物や魔獣が減ったこと)から、この世界の人達も闇龍が倒されたことを理解していて、光龍への感謝の祈りを捧げている人も少なくないらしい。



 ただ、ハンター歴が長い人に言わせると、

「たしかに、この数年で魔物は異常に増えていたけど、その前だって、ここまで少なくはなかったんだけどな」

 とのこと。


 つまり、本来の数よりも魔物が減っているってことだ。

 この時点では、まだ私は、その理由が良く分かっていなかったけどね。



 でも、減っただけでゼロになったわけじゃない。

 午後になると、

「急患だ!」

 魔物退治に失敗して大怪我をした女性ハンターが担ぎ込まれて来たよ。

 背中がざっくりと斬られている。

 鋭い爪で深く傷つけられた感じだ。


「ベッドの上に腹ばいに寝かせてください」

「はい」


 運んできた同僚のハンターが、女性ハンターを診察室のベッドの上に寝かせてくれた。

 こう言った力仕事は、私にはできないからね。

 助かるよ。


 で、早速、私は、

治癒魔法照射(ヒール)!」

 その怪我を治療した。


 まあ、これくらいなら瞬時に治せるよ。

 しかも、傷跡が残らない。女性ハンターとしては嬉しい限りだろう。

 それこそ、

「ありがとうございます」

 って大声で礼を言いながら、マジで喜んでいたもんね。

 でも、患者らしい患者は、今日は、この女性ハンターだけだった。



 翌日も、マトモに怪我をしてきた患者さんは二人だけ。

 ちょっと熱が出たくらいじゃ、この街の人々は医院に来ようとはしないっぽい。それこそ、自分が持つ自然治癒力を信じている感じだ。


 他の言い方をすると、医者にかかるお金がない。

 なので、まとまったお金をゲットできたハンターと、お金に余裕がある貴族くらいしか医者にはかからないみたいなんだ。



 でも、冬になると、この世界でもインフルエンザが猛威を振るう。

 不謹慎かもしれないけど、これなら沢山患者が来るだろうって、私は、ちょっと期待していたんだ。

 さすがに『お金を節約』とは言っていられないんじゃないかって思っていたからね。


 ところが、それでも医院に来るのはハンターとか貴族くらいだった。やっぱり、一般民は、自然治癒力を信じるしか道が無いようだ。



 この世界では、医療費は治癒魔法使いが勝手に決めてイイことになっている。それ故に高額を吹っかける輩が多いらしい。

 そのイメージがあるんだろうね。一般民が全然来ないよ。


 なので、私は医院の前に、

『高熱の治療は一人一律1,000Xen』

『大怪我の治療は一人一律5,000Xen』

『小さな怪我なら一人一律300Xen』

『診察までは無料。治療費の支払時期は相談に応じます』

 って張り紙を張った。


 出血大サービスだよ、これ。

 ハッキリ言って、普通なら儲けは無い。だって、普通の医院なら受付と看護師に給料を払わなきゃならないでしょ?

 完全に赤字だよ。



 まあ、うちの場合はナツミもハルも無給だけどね。その分、現物支給として豪勢な食事を毎日出しているけど。


 別に医院の稼ぎを私の小遣いにしているわけじゃ無いよ!

 ナニかあったときのために三人の共同貯金にしているだけ。


 もっとも、ナツミもハルもマジでお金が必要になったらハンターギルドに行って依頼を取ってくるって言っているしね。


 一応、張り紙の効果はあったみたい。その翌日から、一般民の患者さんも少しずつだけど増えて行った。


 …

 …

 …


 それから五年が過ぎた。

 医院での仕事がメインだけど、たまに息抜きでハンターの仕事もやっている。お陰様で私達は三人共S級ハンターを名乗らせてもらえるようになっていた。

 特にハルは、闇龍と戦った時よりもワンランクパワーアップしていたよ。


 私が、

「あの時、今のパワーが出せていれば、私がいなくても余裕で闇龍を倒せてたんじゃない?」

 ってハルに言ったんだけど、そうしたら、ハルからは、

「終末思想の人が意外と多くてね。闇龍が勝って然るべきみたいな発想ね。私も闇龍も人々の思念によって生まれた存在だから、終末思想が強いと私が弱体化して闇龍が強大化しちゃうんだよ!」

 との回答が……。


 つまり、この世界がマジでヤバかったのは、ソイツ等のせいってことか。

 全く迷惑な連中だよ。



 肝心の医院の方だけど、今では患者数も随分増えた。近隣の街からも、わざわざ私のところに患者さんが足を運んでくれるようになったんだ。

 治療費は安いし、それでいて確実に治すって評判はイイみたい。


 その分、他の治癒魔法使い達からは、相当煙たがられているみたいだけどね。

 でも、治療代は各自設定だもんね。患者さんを取り返したければ、私よりも治療費を下げればイイだけだよ。

 それこそ、今までが高過ぎだったんだよ。



 それと、闇龍を倒した直後に比べると、また魔物とか魔獣が増えて来たっぽい。

 どうしてかなって思ったんだけど、そうしたらハルが言うには、

「地獄で闇龍が生き返ったためだね。また千年かけて力を溜めて地上に来るから」

 とのこと。


 お陰で、五年前に比べて怪我人も増えた。

 ハンターだけじゃなくて、森で薬草とかを採取していて魔物に襲われる一般民もいるからね。



 それから、もう一つ気になることが……。

 何故か、私もナツミもハルも、全然五年前から姿が変わらないんだ。私は、未だに十四歳の姿のまま、ナツミも二十歳くらいの姿のままなんだよ。

 ハルは……人間じゃないから、まあ、姿が変わらなくても不思議じゃないけど。


 それで、ふと、

「どうして私もナツミも身体が成長しないんだろ?」

 って言葉を漏らしたら、ハルからは、

「だって、二人共、それを望んだって女神から聞いてるけど?」

 って言われた。

 コイツ、光龍だけあって、元々女神とは色々と交流があるみたいだ。


「そんなこと、言ったっけ?」

「うん。だって、ラヤは、この世界に来る時に、その時の姿のままでいたいって言ったって聞いてるよ」

「たしかに、そう言ったけど……」

「だから、ずっとその時の姿のままなんだってば」

「えっ?」


 そう言う意味で言ったんじゃないんだけどな……。

 やっぱり、言葉を正しく伝えるって難しいな。


「あと、ナツミは、アキと同じ姿の人間の女性に転生して、体力が特典だって聞いてるよ。アキは人間じゃなくて動く人形だから、永遠にあの姿のままなんだよね」

「「えぇっ?」」


 これには、私だけじゃなくてナツミも驚いていたよ。

 アキって、人間じゃなくて動く人形だったの?

 だから首を刎ねても血が出なかったし、死ななかったってこと?


「知らなかったの?」

「「うん」」


 私は、当然知らなかったけど、ナツミも知らなかったんだね。

 アキの正体のこと。


「なんでも、女神リニフローラが、ラヤが転移してくるのを予想して、予め転生させておいた秘密兵器って聞いたよ」


 そうだったのか……。

 これで長年の謎が解けたよ。

 やっぱり、最初からアキは、首ちょんぱ対応要員だったってことだ。



 それと、アキと同じ姿の人間になったから、ナツミは歳をとらないだけじゃなくて、暴飲暴食しても太らないってことか!

 人形が食べ過ぎで太るなんてことは有り得ないからね!

ラヤの魔力は強化されましたが、エクスヒールが使えるようになったわけではありません。使える魔法のランクが上がったわけでは無く、純粋にパワーが上がっただけと言うことになります。

つまり、ハイヒールが一層強化されます。

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