40.その色は絶対おかしい!
「転移!」
早速、ナツミの転移魔法で現地に移動。
そして、ナツミは服を脱いで水着になった。
下に着ていたのかよ、こいつ。
準備万端だけど……帰りの下着は大丈夫だよね?
しかも、前に着ていた白の水着と似たようなデザインのやつ。今回は黒だけど、布面積が余りにも少なすぎない?
別にイイけど。
そこには、白くて美しい砂浜が延々と遠くの方まで広がっていた。
普段なら海水浴場として多くの人が集まっていることだろう。でも、今はモササウルス出現で閉鎖されているようだ。
早速、私はハルの背後に回ると、彼女の両肩に手を置いた。
そして、探査魔法で位置を特定して、捉えた映像をハルの頭に送り込む。
「ハル、どう?」
「うーん、簡単には行かなそうだね」
ハルにしては珍しい回答だ。
でも、彼女がそう言うのも分かる気がする。マジで、どうやって退治しよう?
ここに来る前段階では、私は結構楽観視していた。
ワニガメの時と同じように私が探査魔法で位置を特定して、ハルが光の銛を打ち込めば完了って短絡的に思っていたんだ。
でも、ちょっと……って言うか、かなり考え方が甘かったみたいだね。
「モササウルスが、想定していたよりも沖の方にいるっぽい。これだと、ハルが光の銛を放っても、届くかどうか、正直言って怪しいよね」
「そうなんだよね」
すると、これを聞いてナツミが、
「そりゃあ、あの巨体だもん。海岸すぐ傍をフラフラ漂っているなんて、普通は有り得ないでしょ!」
ってぬかしやがったよ。
おいおい、この依頼を取ったのはナツミでしょ?
完全に他人事だよ。
もう、無責任なんだから!
沖に出るのも一つの方法なんだけど、果たして船を出すのは如何なものか。
下手をするとモササウルスのパワーで船ごと海中に引きずり込まれてしまうだろう。
すると、ハルが、
「ちょっと試してみる」
右手を高々と上げて、空に向けて光の銛を撃ち放った。それも、今までにない、とんでもない高さだ。
発射角度は80度くらいかな? ホンの少しだけ海の方に向いていた。そして、光の銛は、大きな放物線を描いて海面に突入……したけど、モササウルスの少し右に逸れた。
うーん、残念!
でも、距離的には十分。ハルも感覚を掴んだ感じだ。
そして、
「これならどう?」
ハルは両手を上げて、両掌からそれぞれ五発、計十発の光の銛を一気に打ち上げた。これらが大きな放物線を描いてモササウルスの方へと突き進んで行く。
一発でも当たればイイ。
「「「行けぇー!」」」
狙い通り、銛の一つがモササウルスの尾を捕らえた。
さらにハルは、
「痺れろ!」
珍しく電撃魔法を放った。
超高圧電流が、彼女の手から光のロープを伝って光の銛に、さらにモササウルスへと伝わって行った。
これを受けて、モササウルスは動けなくなったようだ。仰向けになって海面まで浮いて来たよ。まるで死んでいるみたいに見える。
光のロープが、ハルの体内に巻き戻されて行く。そして、数分後には仮死状態のモササウルスが砂浜に引き上げられた。
光の剣でハルがモササウルスの首をスパッと切断。
これで任務完了だ。
私は、モササウルスの死体をアイテムボックスに収納。
勿論、この巨体を私一人の力で収納することは出来ないから、ナツミとハルに手伝ってもらったけどね。
これで、収納作業が終わったわけだけど、既にナツミは、
「少し泳いで行こうよ!」
遊ぶ気マンマンだったよ。
まあ、別にイイか。
少しは時間調整ってことで。
ハルも、
「私も泳ぐ!」
どうやら下に水着を着ていたよ。
水着無しは私だけか。
別にイイけど!
ただ、ナツミもハルも、別に海岸でキャッキャウフフと遊ぶわけじゃないからね。
マジで泳いでいるよ。
完全に体育系だ。
私達がギルドに戻ったのは、その三時間後だった。
…
…
…
そうそう、その後、バジリスク退治やロック鳥退治なんてのもあったよ。
この二つが出て来て、私は、
「やっと伝説の生物キター!」
って思ったけどね。
そうしたらナツミに、
「何それ?」
って言われたよ。
しかも、
「マジリスクって、そんなにリスクが高いヤバイヤツなの? それからロック調って激しい動きをする生物?」
って真顔で言ってきた。ナツミ、大丈夫かぁー?
さすがに私も、
「はぁ?」
ってなったよ。
「あのね、ナツミ。マジリスクじゃなくてバジリスク! ロック調じゃなくてロック鳥! バジリスクは蛇の王、ロック鳥はゾウを運んじゃうくらい巨大な鳥じゃない!」
「そうなの?」
「そもそも、ナツミは、伝説上の生物ってどれくらい知ってるの?」
「ええと、スライムでしょ、ゴブリンでしょ、ドラゴンでしょ、人魚に、一つ目のデカいのに、それから……テヘッ!」
「何、可愛い子ぶってんのさ」
結局のところ、ロクに知らないらしい。
サイクロプスって名前も知らないみたいだね。
まあ、別にイイけど。
でも、オーガとかオークとか、ナツミが知っているスライムとかゴブリンとかの定番メニューって言えるような魔物は、マジで全然出てこなかったんだよね。
やっぱり異世界だし、出てくるのを本当は期待していたんだけどね。
ちょっと残念だったな。
とは言え、なんだかんだで、気が付くと既に三人で結構な大金を稼いでいた。
私には、いずれテナント付きの家を買って、そのテナント部分を使って医院を開設するって目標があるからね。
トモティ世界やエディアカラ世界の時と同様に、もう一度、治癒魔法を使って生きて行こうって。
別に大きな医院にするつもりは無かったよ。
街の外れに小さな医院をこぢんまりと開設できればって思っていたんだ。
どうせ、私一人の医院だしね。
ハンターをやって、十分お金を溜められたし、最近では、そろそろ真剣にハンターを引退しようかなって私自身考えるようになっていた。
ナツミとハルは、どう思っていたか分からないけど。
…
…
…
そんなある日のことだった。
昨日までとは打って変わって、この日は妙に肌寒く感じた。
それに、私は外から異様な妖気を感じ取っていた。
空は渦巻く分厚い雲に覆われていて、しかも、その渦の中心部は、その場から全く動こうとしない。自然現象と言うのは如何にも不自然って感じだった。
渦の中心部は、私達がいるところから十数キロ先かな?
多分、向こうに見える禿山の頂上の遥か上空辺りだろう。
ハルも、この異常さに気付いていた。
そして、彼女は、
「とうとう来たか……」
と呟くと、
「ラヤ。一緒に来て欲しいんだけど」
って言いながら真顔で私に頭を下げて来た。
いつも明るくて無邪気な彼女にしては随分と珍しい。
「いったいどうしたの?」
「とうとう闇龍が地上支配に向けて動き出したから……」
「闇龍って、あの伝説の?」
「そう」
「でも、光龍が復活して闇龍から支配権を取り戻すんでしょ?」
「それが、この星が誕生して丁度六十億年を迎える今、闇龍の力は最大になっていて、今回ばかりは光龍の力でも勝てる保証がないのよ。多分、普通に戦ったら負けるんじゃないかって思う。今回、何とか闇龍に勝てれば、次に闇龍の力が最大になるのは、今から六十億年後になるから、多分、その時は訪れない。その前に、この星は太陽に飲み込まれるはずだからね」
「ええと、何が言いたいのかな?」
「つまり、今回だけ闇龍に勝てれば、あとは安泰ってことなの。次からは、闇龍の力は今まで通りでしかないから……」
「だから、どうしてここで闇龍の話が出てくるのかが分からないんだけど?」
「これは、ラヤとナツミだけの心の中だけに止めておいて欲しいんだけど」
「つまり、他言するなってことね」
「うん」
「分かった。ナツミもイイよね?」
「イイけど……。で、何があったのよ、ハル?」
「信じられないかも知れないけど……。光龍って、実は私だったりするのよ」
「「はっ?」」
これには私もナツミも、どう反応してイイか分からなかった。
一瞬、もの凄い冗談って思ったんだけど、目がマジだし、よくよく考えれば、何か納得できる部分もあった。
余裕な顔して、あれだけムチャクチャな魔力を平気で使うもんね。
正直、光の矢とか光の弾丸は常人には使えないもん。
光龍故の技ってことだ。
「もっとも、私も闇龍も、本来は、この世界には存在しないはずだったんだけどね」
「「えっ?」」
「人々が光龍とか闇龍の伝説を作って、それが何千年にも渡って語り継がれているうちに、私達は思念体となって誕生したのよ。そして、伝説の通り、私は、あの森で炎の中から復活したの。二人に出会った前日にね。あの場所を指定したのは女神ギガンテアだったんだけど……。そして、復活した次の日にラヤ達に出会ったの」
「でも、一緒に来てって言われても、相手はハルでも大変な相手なんでしょ? 私が行っても見守るくらいしかできないと思うよ?」
「それでイイ。別に戦ってとは言わないから……」
うーん、珍しくハルが自信無さげだ。
そりゃあ、相手は最高状態の闇龍だもんね。
気持ちは分からないでもない。
やっぱり、ハルでも心細いのかな?
でも、本当に私の力じゃ、ただ戦いを見届けることだけで精いっぱいだからね!
当然だけど、その前提で、私は、
「分かったよ」
って答えた。本当に、見てるだけだからね!
「ありがとう、ラヤ。じゃあ、早速だけど、ナツミ」
「私?」
「三人で、あの山の頂上まで行きたいの」
そう言いながら、ハルが指さしたのは禿山だった。
ってことは、多分、あの渦の中心から闇龍が降りてくるってことか。
ナツミは、
「私も?」
って言いながら驚いていた。
まさか、闇龍との戦いに自分が同行を依頼されるとは思っていなかったようだ。
むしろ、
『何で私が禿山に?』
って顔をしていたよ。
付いて行ったって、私と同じで、どうせロクな戦力にならないって思っているだろうからね。
まあ、それが普通だよ。
「だって、転移魔法が使えるでしょ?」
「つまりアッシー君ってこと?」
「そんな言い方はしないけど……」
「別にイイわよ。その代わり、私もラヤと同じで戦わないからね。隅の方で隠れて見ているだけだから」
「それで構わないよ。ありがとう。じゃあ、あの山までお願い!」
そして、私達は早速、ハルに指定された山の頂上まで移動した。
本当に魔法って便利だね!
ただ、山の頂上って寒い!
本来なら、まだ、ここまで寒い時期じゃないはずなんだけどさ。今日は急激に気温が下がったからね。
マジで山頂は雪でも降りそうな……って言うか一気に振り積もるんじゃないかって寒さだったよ。
少し待たされたけど、渦巻く雲の中心から、黒い影が降りてきた。
七つの首を持つ黒い龍……って言いたかったんだけど、真ん中の首だけ何故かドピンクだった。それから、腹から尾にかけての部分もピンクだよ。
その七首の龍の胸には大きな六芒星が描かれていて、その各頂点には、黒、白、青、緑、黄色、赤の宝石が、さらに六芒星の中心には巨大なピンクの宝石が輝いていた。
また、真ん中のドピンクの頭の上には四本の角が生えていて、他の六つの頭には、それぞれ一本ずつの角が生えていた。
それから、それらの角には冠がかけられていた。
これで全身が真っ赤なら、まさに聖書に出てくる七首の赤い龍そのものだよ!
ハルが、この七首の龍を指さして、
「あの真ん中のピンクの龍が闇龍の本体だよ」
って言ったんだけど、私もナツミも、
「「えぇぇっ!」」
大声を出して驚いたよ。
ドピンクなのに闇龍?
どこが闇だよ!
「私の不在時に、闇龍が地獄からこの世界に這い上がってきて、黒龍、白龍、青龍、緑龍、黄龍、紅龍を取り込んで完成形になるのよ。つまり、あれが完全体。七本の首は、それぞれ闇龍、黒龍、白龍、青龍、緑龍、黄龍、紅龍の首ってこと」
でも、真ん中だけドピンクで、他の龍の首は全部黒いんだ!
黒竜は黒だから、まあイイけどさ、白竜も黄龍も真っ黒って……。
多分、闇龍って目立ちたがり屋なんだと思う。
それで、自分だけ目立つ色にして、他を全部黒くしちゃったってとこだろう。
ふと思ったんだけど、ハルが水着を選ぶ時に、頑なにピンクの水着を拒否したのは、闇龍の色だったからに違いない。
憎き敵の色だもんね。
ハルの言葉が続いた。
「闇龍が支配する世界は、あの色の通り全てがピンク色に染まって、人々は、ひたすら姦淫に明け暮れるようになるのよね」
つまり、もしハルが負けたら、この世の中全体がH村々みたいになるってことだ!
それイコール、私達の貞操がかかっているとも言える。
「それって、寝食を忘れてHするってこと?」
「まあ、睡眠と飲食くらいはすると思うけど……。でも、働きもせずにHばかりするようになるって言われている。それに、魔物や魔獣が今まで以上に増えて全てを破壊しまくった挙句、あるモノみんな貪り喰らうとも言われているんだ」
「それって、人々がHしまくっている間に、田畑も家畜も全部喰い尽くされちゃって食料も無くなっちゃうってこと?」
「そうだね」
「じゃあ、その後は、人々は飢えて死ぬだけじゃない?」
「多分」
「そんな最低な世界にしちゃダメだよ! 絶対に勝ってよね、ハル!」
「勿論、最初から負ける気で臨んだりはしないけどね」
そう言いながらも、ハルの表情からは、いつものような明るさが消えていた。やはり、今一つ自信が無いんだろう。
とは言え、自信があろうと無かろうと、ここからは完全にハルのタスク。
私とナツミは、大きな岩の陰に隠れると魔力放出を完全にゼロにして気配を絶った。この場に私達が居ることを闇龍に悟られないようにするためだ。
闇龍が山頂に降り立った。
すると、その直後、この山全体に強大な結界が張られた。ハルと闇龍の戦いの場に一般人が入れない……、いや、多分、見られないようにするためなんだろう。
もっとも、私とナツミだけは例外だけどね。
それが、当事者であるハルの意思だから。
そして、ハルの姿を捉えると、闇龍は、いきなりブレスを放って来た。しかも、七つの口からの一斉攻撃だ。
辺り一面に臭気が漂ってきた。
「「(なにこれ、吐き気がするレベル)」」
私もナツミも、慌てて服の袖を口に当てたけど、到底、これくらいで緩和できるレベルではなかったよ。
実は、闇龍って口臭がヒドかったのね。
ここで再びペースダウンします。




