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30.昔話!

「ナツミ、大丈夫?」

「えっ?」


 完全にナツミは意識が飛んでいて、何が起きていたか全然見えていなかった模様。私に声をかけられて正気を取り戻したって感じだ。


「終わったよ」

「じゃあ、あの女は?」

「死んで、魂は女神様に回収された。責任をもって天界で処分しておくって」

「そう……なんだ……。それで、エドガーは?」

「ベッドの上に……って、えっ?」


 この時、エドガーは、既に窓から身を乗り出していたっぽい。どうやら、アルセニコンの後を追う気だ。

 そして、私が気付いた時には、

「ドサッ!」

 エドガーの身体は、地面に激突。どう考えても無事に着地したのではなく、頭から派手に叩き付けられた模様。


 私はナツミを連れて、

「転移!」

 エドガーのところまで移動したけど、既に頭は大破していた。これでは治療しても無意味だ。

 生き返ることは無いからね。


 変わり果てたエドガーの姿を見て、

「ドサッ!」

 ナツミが気を失って、その場に倒れ込んだ。

 さすがに、これは悪い意味で刺激が強すぎたんだと思う。

 正直、ナツミが可哀そうだ。婚約者を奪われて、その婚約者にも先立たれて。


 私は、

「彼の墓を……」

 アーノルドにエドガーの遺体を埋めておくようにお願いした。



 それから、この地には、あちこちから連れ去られてきた女性達がいる。

 私は、

「もう、ここにいる必要はありません。元の村に帰れますよ」

 って言ったんだけど、彼女達は、

「いいえ、もう村には戻れません」

 帰ることを拒否した。


 自分の意志ではないとは言え、結果的に旦那や彼氏を裏切っているからね。良心の呵責が激しいんだろう。



 この女性達が、K村やF村やHムラムラの女性達とは違って、マトモな感性を持っていて、不謹慎だけど、私は心のどこかでホッとしていた。

 でも、この女性達をここに放置して帰るわけにも行かない。


「じゃあ、今、私が用心棒契約している村に来ますか? X村ですけど」

 私がこう言ったけど、女性達は首を横に振った。

 この地で、このまま死ぬつもりなんだろうな。



 彼女達には、心のインターバルが必要なんだろうね。

 どう足掻いても、野盗達から汚される前の状態には戻すことが出来ないけど、時間が解決してくれる部分は少なからずあるだろうし。


 でも、そのインターバルだって、人によっては何十年とかかるかもしれない。

 じゃあ、強行突破してみよう!



「消去!」

 私は魔法で、強制的に女性達の持つ性的に忌まわしい記憶を消した。

 なので、彼女達が覚えているのは、ただ、ここで奴隷のように働かされていたことだけ。

 彼女達を騙すようで悪いけどね。


 でも、そのお陰で彼女達の顔には奴隷から解放された安堵の表情が浮かんでいた。

 これなら、きっと前向きに生きて行けるようになるよね?


「これから皆さんを、元の村に戻します」

「お願いします。私はA村です」

「私はB村」

「私はZ村です!」


 うーん……。

 やっぱり、K村とF村とH村だけいないね。

 想定の範囲内だけど。


 もしいたら、野盗達が消えた時の反応が絶対違うはずだもんね。逞しいナニを奪いやがってって文句を言いに来る人種だからさ。


「分かりました。では、近いところで、Z村から行きましょう。Z村の方は?」

「私です!」

「私も!」

「私もです!」


 三人か。

 私は、この三人を連れて、

「転移!」

 Z村まで瞬間移動した。



 早速だけど、Z村に到着。

 三人共、旦那や彼氏との再会に涙を流した。

 一応、元の鞘に納まったって感じ。


 お礼に食事でもって言われたけど、まだ他の女性達を各村に送り届けなければならない。なので、

「済みません。先を急ぎますので」

 私は、転移魔法で女性達が待つ地……アルセニコンの元秘密基地に戻った。



 そして、

「次はR村です」

 私は、R村出身の五人の女性を連れて転移した。



 R村に到着。

 ただ、私の認識が甘かった。

 五人のうち、三人は旦那や彼氏の元に戻れたんだけど、残る二人の相手には新しい女性の姿が……。

 この二人の居場所が、この村には無くなっていた。


 私が、

「X村に行きますか?」

 と二人に聞くと、二人は静かに頷いた。


 なので、私は、この二人を連れて、

「転移!」

 一旦、アルセニコンの元秘密基地に戻ることになった。



 この日は、さらに十の村を訪れ、全部で六十人の女性を出身の村に送り届けるはずだったんだけど、さっきの二人を含めて十人の居場所が失われていた。

 この十人はX村で引き取ってもらえるよう、エリックにお願いしよう。


 もう、結構な時間だ。

 なので、残る四十人を各村に送り届けるのは明日にしよう。



 それから少ししてナツミが目を覚ました。

「エドガーは?」


 そうナツミに言われて、私は彼の墓の方を指さした。

 申し訳ないけど、それしかできないからさ。どんな言葉をかけてイイかも分からないし。

 エドガーを救出するつもりでいたのに……救出できなくてゴメン。


 すると、ナツミは、

「やっぱり、あれは事実だったのね……。でも、エドガーのヤツ。私を裏切り続けやがって。馬鹿なヤツ。死んで清々した!」

 と言いながら、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 強がっているのは明白だ。それに、清々したなんて、本当は心にもない言葉だろう。



 でも、どうやってナツミを元気付けよう?

 気が付くと私は、

「昔々、あるところに異世界の堕天使に召喚された少女がいました」

 昔話風に自分の過去を話し始めていた。


「その少女は、殺人魔法を堕天使に授けられ、戦争で大活躍しましたが、その殺人魔法が効かない相手に遭遇し、遭えなく戦死」

「それって、ラヤの話よね? それに、その相手って私に似た女性でしょ?」

 ナツミの声を無視するように、私は、そのまま話を続けた。


「……その少女は、女神様の手によって別の世界に転生しました。与えられた課題は、前の異世界で殺した人数の三倍の人数を救うこと……。いきなり女神様は、その少女を脳腫瘍患者と引き合わせました。その患者は、なんとイケメン王子」

「……」

「しかも、その少女はイケメン王子に気に入られ、求婚されました。でも、王族貴族の振る舞いなんか知りません。少女は、最初はその求婚を断りましたが、最終的には受け入れることになりました。だって、その王子は、その少女のモロタイプだったからです」

「自慢話、それ?」

 これに、私は首を横に振った。


「でも、その少女と王子には幸せが訪れませんでした」

「えっ?」

「隣の国と、そのさらに隣の国で戦争が起きてしまったからです。少女は女神様に魔力の強化をお願いし、戦争を止めるべく戦地に赴きました。そして、強大な魔法を使って戦争を止めることに成功しました。でも、そのまま少女が、その世界に居続けることは出来ません。何故なら、今度は、その少女の獲得を巡って新たな戦争が起きてしまうのは明白だったからです。それに、王子と結婚すれば、その王国が他国からバッシングを受けることは間違いないでしょう。それで、少女は王子に別れを告げ、その世界からは消滅。別の世界に転移することになりました」


 これを聞いて、ナツミは驚いた顔をしていたよ。

 多分、『両思いなのに、こんな別れ方もあるのか』って思っている気がする。


「ええと……それってマジなの?」

「はい」

「そうだったんだ。でも、よくよく考えてみれば、その王子と別れていなければ、ここには居ないか。ラヤってまだ十代半ばでしょ?」

「ええ」

「それなのに、色々苦労してきたのね。で、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

「何でしょう?」

「私に最初に会った時に『よりによって』って言ってたじゃない?」

「え……ええ、まあ……」

「それって、私がアキって人に似ているからってことなんだろうけど、そのアキってどんな人だったの?」


 いつか聞いてくると思っていたよ。

 まあ、多少なりとも気になるだろうからね。


「私の必殺魔法は知ってますよね?」

「首を刎ねるヤツね。お陰で、私は用心棒とは名ばかりで、ただいるだけの存在になっているわよ。でも、恐ろしい魔法ね」

「でも、その魔法が効かなかった唯一の相手がアキなんです。厳密には、アキの首を刎ねることは出来ました。でも、生首状態で私と目と目が合うと、アキは、『ケケケケケケ』って気味悪く笑い出して。その後、首を拾い上げると自分の首を元通りにくっつけちゃったんです」


 これには、さすがにナツミも引いていたよ。

 どう考えても、アキがやったことは生物の範疇を超えているからね。


「ナニそれ? 不死身ってヤツ?」

「はい。あの時、私はアキのことを妖怪か魑魅魍魎かとしか思えませんでした。もう、恐怖しか感じませんでした」

「それで、私のことを怖がってたってことね?」

「はい、ゴメンなさい」

「でも、私には『ケケケケケケ』はできないわよ。首が飛んだら間違いなく死ぬから」

「ですよねぇ?」

「それが普通。そのアキって人の方が絶対におかしい!」

「私もそう思います」

「で、この後、どうするの? もう、野盗は殆ど壊滅状態だって思うけど」


 私は、少し考えた。

 この世界での私の課題は、一つ目がアルセニコンによって召喚された大神官を倒すこと。

 二つ目がアルセニコスの憑代となった人間を葬り去ること。

 そして、三つ目が、この星を襲撃してきた異星人問題を解決すること。



 実は、これらは全てリンクしていてね。

 大神官を召喚したのは、結局はアルセニコスだったし……アルセニコンの正体はアルセニコスだったからね。

 それから、異星人もアルセニコスが魔法で引き寄せたって話だ。


「最後の課題をこなしに旅立とうかと」

「私も一緒に行ってイイ?」


 うーん……。

 多分、傷心状態だから戦いの中で全てを忘れたいってヤツだろう。

 これが地上での戦いなら連れて行ってもイイけど、今度の行き先は宇宙だもんなぁ。さすがに連れて行くわけには……。


「今度の相手は異星人だけど」

「じゃあ、宇宙に行くってこと?」

「うん」

「じゃあ、行きたい!」

「えっ?」

「宇宙空間に出てみたいじゃない!」

「死ぬかもしれないんですけど?」

「もう、用心棒を始めた時から、その覚悟はできているから」


 多分、ダメって言ってもムリムリ付いてきそうだね。

 まあ、アルセニコス自体は消滅しているから大丈夫かな?

 それに、話し相手にはなるだろうし。一先ず連れて行って、ヤバそうなら異次元空間に避難させればイイか!

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