29.詠唱が終わるまでイチイチ待ってあげないよ!
私達が転移してきたのを見た野盗達の反応は、
「おい、お前ら、何処から湧いて来た!」
「おお、イイ女が一人いるぞ!」
「もう一人は色気無しだけどな!」
毎度の如くナツミ押し。
うーん……。
一応、私はカワイイ系美少女のはずなんだけどなぁ。
なのに、このチョンマゲ男達の目からだと、完全に私はストライクゾーンから大きく外れているっぽいんだよね。まあ、いつものことだけど。
「じゃあ、この女、いただき!」
チョンマゲ男達が一斉にナツミの方へと襲い掛かった。
私は完全に無視かよ。
クソッ!
なんかムカつく。
ナツミをガードするように、チョンマゲ男達の前にアーノルドが立ちはだかる。
そして、次から次へと、そいつらを一撃必殺、殴る、蹴る!
パンチパンチパンチ!
キックキックキック!
チョンマゲ男達の身体が、アーノルドの物理攻撃を受けて、次々と派手に宙を舞う。
ようやく、このイカれた世界に合った戦闘風景に出会えたよ。
勿論、アーノルドが全部対応できるわけではない。別方向からエロ丸出しの顔でナツミに近づいて行くヤツ等もいる。
でも、意外にナツミが強いんだよね。
抱き付いて来たチョンマゲ男の顔にパンチ!
後から近づいて来たヤツの鳩尾に肘鉄一発!
前から来たヤツの腹にケリを入れ、さらに横から来たヤツにはギリギリのところで避けた後に回し蹴りで後頭部へと一撃!
用心棒をやっているだけあるね。
私は完全に無視されたよ。
基本的に、こいつらはナツミにしか近づいて行かないからね。
勿論、H目的で。
でも、まあ、これでドンドン数は減っていったけど、母数が多いんだよね。もっと効率良くやれないと。
もっとも、コイツ等への対応方法は決まっているけどね。
久しぶりだけど、
「フリーズ&融合!」
私は、魔力を最大放出して、この地にいる連中の動きを止めた。さすがに百人くらいが限界だけど。
でも、それでイイ。
まず、動きを止めた百人のチョンマゲ男達をアーノルドと融合した。
その時間は、十秒程度。
七人の大男達は、ちょっとキツイと思うけど、今だけナツミに相手をしてもらおう。
8P状態にならないように気を付けてね!
そうなるまでには、こっちも手が空くと思うから。
さらに次の百人に向けて、
「フリーズ&融合!」
それが終わると、その次の百人に向けて、
「フリーズ&融合!」
これを繰り返した。
そして、七回目の融合を終え、チョンマゲ男達千人分のアーノルドが誕生した。
顔つきは……より一層凛々しくなった。少なくとも格闘漫画に出てくる準主人公クラスの雰囲気になっていたかな?
もっとも、構成成分が暴力系&魔力ゼロ系キャラだから、何人足しても自力では魔法を使えるようには、ならないみたいだけどね。
あとは七人の大男と建物の中にいる人達。
当然、
「フリーズ!」
そいつら全員の動きを魔法で止めた。
つもりだったんだけど……。
えっ?
違う!
一人だけ私の魔法が効いていない。建物の中にいる女性……アルセニコン……彼女の動きだけは、止められていないようだ。
ただ、何故か彼女は、こっちに来る気配がなかったけどね。
エドガーと二人で部屋に閉じこもったままだったんだ。
さらに私は、
「ファイヤーボール!」
巨大な火球を作り出して、七人の大男達に向けて投げつけた。
コイツ等は、今動けない。
避けることすら出来ずに私の攻撃を受けるだけだ。
そして、
「ウギャー!」
断末魔の声と共に、大男達は呆気なく消滅した。
これで、雑魚共は完全に一掃されたはず。あとは、私の硬直魔法が効かなかったアルセニコンだけだ。
彼女の居場所は分かっている。これだけの魔力を放っていたら、気付くなと言う方が、むしろムリがあるだろう。
どうせアルセニコンには効いていないし、私は硬直魔法を解除すると、
「転移!」
魔力の発生源に向けて、ナツミを連れて瞬間移動した。
アーノルドには……ここに残ってもらった。多分、連れて来ても、あんまり意味は無さそうだから……。
ただ、その場にいるだけになっちゃいそうだし。
そして、アルセニコンの部屋に到着。なんだけど……。そこにいたのは全裸のアルセニコンとエドガーの二人。
しかも、二人してベッドの上。何をしていたのかは容易に想像がつく。ナニをしていたんだよね?
と言うことは多分……、いや、間違いなくナツミには見せてはいけないものだったぁ。
この時、ナツミは静かに俯いていた。
ある程度の覚悟はしていたと思うけど、それが現実化するのとしないのでは天と地の差があるもんね。
きっと、心の中はorz状態になっていると思う。……と思いきや、いきなりナツミがブチ切れて、
「何してんのよ、エドガー!」
と大声で叫びながら、私が預けていた双眼鏡をエドガーに向けて投げつけた。
でも、エドガーに当たる前に、双眼鏡は見えない壁に当たって床に落ちた。
どうやらアルセニコンがベッドの周りに透明なバリヤーを張っているようだ。
「ナツミか?」
エドガーが身体を起こした。
「アンタ、その女と何してんのよ!」
「それはナニを……」
「そんな女がイイの?」
「だって彼女はナツミと違って、毎日暇さえあれば合体させてくれるし、避妊は魔法でできるからノーケアーで出せるし」
「Hができるから、その女がイイってこと?」
「お前は何もさせてくれなかったじゃん」
うーん……。
単にHがしたいだけの男なんだね。
ただ、ナツミの身体から想像するに、非常にバリアフリーで誰とでもヤリそうな感じだけど……中身は違ったってことだよね?
見た目で判断しちゃダメだよね、やっぱり。
そもそもナツミは転移した際に容姿全てを変えてもらったわけだし、元々は、もっと地味な女性だったっぽいし……。
女性目線では、エドガーって思い切り最低って思う。
でも、男性目線ではどうだろう?
ナツミの身体を目の前にして、ずっとおあずけ状態だったら、性的に耐えられなくなるかも?
いずれにしても、私がどうこう言ってイイ問題じゃないよね。
ナツミとエドガーの問題だもんね。
ナツミの目からは涙が流れ出ていた。
まあ、逆に笑顔を見せていたら、ある意味、もの凄く怖い気がするけど。
「私は、アナタが殺されていないか毎日心配していたんだよ! それなのに!」
「もう俺は、アルセニコンとは離れられない。済まないが、ナツミとはお別れだ」
「な……何……それ……」
こんなこと言われて、さすがのナツミも緊張の糸が切れたのかも。
その場に脱力して座り込んじゃった。
彼女の目からは、完全に精気が失われていたよ。
もう自力で立ち上がることすら出来なさそうな雰囲気すらある。
でも、これがエドガーの本心かどうかは分からないなぁ。アルセニコンにマインドコントロールされている可能性があるからね。
そして、ついに今まで沈黙を保っていたアルセニコンが、勝ち誇った顔でベッドから降りてきた。
痩身美女って感じだね。
だけど胸は大きくて……。
あと、アソコの毛は生えていない。
剃っているのかな?
「二人の時間を邪魔しないでくれるかしら?」
でも、もうナツミは答えられない。
って言うか、多分、何も聞こえていないし、見えていない。
なので、ここからは私がバトンタッチさせてもらうことにするよ。
「もしかして、大神官を召喚したのも、チョンマゲ野盗達を作り出したのもアナタ?」
「そうだけど、それがどうかして?」
「じゃあ、チョンマゲ男達は魔法で作り出された人工生命体ってことね?」
「ええ」
「でも、なんで構成アミノ酸も構成糖も逆にしたの?」
「そうすれば、子供ができないようになるかなぁって思ったから。だって、子供が嫌いなんだもん。一応、アイツらは私の性的欲求を満たすために作ったからね」
ええと……それ用に千体も作ったってことだよね?
とんでもないH好きだよ。
でも、面倒臭いから、その辺はスルーしよう。
「それから、もう一つ聞きたいんだけど?」
「何かしら?」
「どうしてチョンマゲ男なの? チョンマゲが趣味なの?」
「時代劇が趣味だったから」
「そ……そうなんだ」
いくら時代劇が好きでも、さすがにその選択は無いと思うけどなぁ。
たしかに、人それぞれでは、あるんだけど……。
「でも、知性が無いから逆に一緒にいて疲れるし、顔もイケてないし。そんなとこにエドガーが現れてね。ついつい貰っちゃった!」
「なら、私はアンタからエドガーを取り返す。そもそも、私は、アンタをぶっ潰すために、この世界に連れて来られた者だからね」
「ふーん。でも、アナタの魔法じゃ私をコントロールできなかったみたいね。さっきの硬直魔法も効かなかったし」
「……」
「大神官程度を倒すのに、相当苦労していたみたいだけど? その程度の力じゃ、私を倒すなんて、とてもじゃないけど無理だと思うけど?」
そう言うと、アルセニコンは私に衝撃波を放って来た。
衝撃波には嫌な思い出がある。私をブルバレン世界で倒したのは、衝撃波……正しくは反重力魔法だけど、そこから火炎魔法の連続技だったからね。
でもね、私だって昔よりは、あのイヤな思い出に、精神的に立ち向かえるようになったんだよ!
それもこれも、結果論だけど、ナツミのお陰かな?
ナツミの存在に慣れることでアキへの恐怖を消し、それに連動して衝撃波とか反重力魔法への恐怖も消えたんだ……と思う。
私は、
「シールド!」
逃げて避けることも出来たんだけど、一先ずシールドを張って、この攻撃を防いだ。この場を動くとナツミに当たっちゃうからね。
今度はこっちのターン。
「ファイヤーランス!」
私は、思い切り火の槍を投げてやった。
でも、
「アイスシールド!」
アルセニコンは氷の壁を張って火の槍を防いだ。
まあ、大神官よりも数段魔力は上だし、これくらいの攻撃は防がれて当然か。
ただ、アルセニコンは妙に面倒臭そうな顔をしていた。
私との戦いに時間を割かれるのもイヤってことなんだろうね。
そんなことする暇があったらエドガーと楽しみたいってことかな?
「私はチンタラするのが好きじゃないのよね。早くエドガーとしたいし」
やっぱりか。
結局、H大好き思考ってことなのね。
なんか、F村、K村、Hムラムラの女性と言い、このアルセニコンと言い、この世界って、こう言う輩が目に付くなぁ。
アルセニコンは、
「なので、一気に殺してあげる」
そう言うと印を結んで呪文を唱え始めた。
マジですか? 彼女の魔力がドンドン上昇しているんですけど?
もの凄いエネルギーを感じる。魔力の上限値は、間違いなく私よりもアルセニコンの方が上だね。
でもさ、上限値に達するまで待ってあげるほど私は馬鹿じゃない。
それに、私はドラゴンでも防ぐことのできない特殊魔法を放つことが出来る。
それを一気にコイツに叩き込む!
魔力で劣っていても、この魔法だけは絶対的な強制力を持っているんだ。しかも、天界にいる者達以外は防ぐことのできないハイパーなヤツ。
「死ね!」
たったこれだけ唱えればイイ。
次の瞬間、アルセニコンの首が飛び、切断部からは真っ赤な血しぶきが上がった。
これで終了……だと思う。
首を欠いたアルセニコンの身体がその場に倒れた。
でも、彼女の身体のすぐ上辺りの空間から、とんでもないレベルの強大な魔力を私は感じ取った。
良く分からないけど、絶命したはずのアルセニコンの身体から何故か未だにエネルギーが放出されて、それが一点に集中して行っているみたい。
今まで、こんなのは見たことが無いんだけど?
ナニコレ、怖い?
そして、その強大なエネルギーは、とうとう漆黒の翼を持つ人型に変わった。雰囲気的にはラフレシア様に似た感じだ。
多分だけど、やっぱりコイツが、女神様から私に下った二つ目の指令のターゲットだと思う。
でも、これって私がなんとかできるレベルじゃないよ!
だって、魔力は私なんかの遥か上を行くし、それに、そもそも、コイツは地上に住む者じゃないもん。
当然、コイツには、首ちょんぱ魔法は絶対に利かないもん!
ヤバいよ。マジでピンチだ。
すると、突然、部屋の天井全体が巨大な排気口みたいに形を変えて、この部屋にあるものを吸い込み始めた。
何で?
意味不明なんですけど?
ただ、私とナツミ、それからエドガーの身体だけは、何故か特殊なバリヤーが張られていて吸い込まれることは無かった。多分、このバリヤーが重いんだろう。
でも、誰が張ったんだろう?
「ギャー!」
その排気口に吸い込まれたのは、アルセニコンから出てきた人型のエネルギー体だけだった。
断末魔の声と共に、そのエネルギー体は、この部屋から消えてしまった。
でも……、はて?
これって、いったい何が起こったんだろう?
すると、私の頭の中に女神グエホイ様の声がこだました。
「アルセニコスの思念は全て回収しました。これは、私達女神が責任をもって消滅させます」
ってことは、天井の現れた意味不明の巨大排気口も、この重量級バリヤーも、グエホイ様が作り出したモノってことだね?
「では、アルセニコンの正体って?」
「そうです。二百年前にネペンテスと呼ばれる別の世界を混沌に陥れた堕天使アルセニコスの思念集合体でした。もはや、新たなる霊体と言っても良いでしょう。アルセニコスは、ネペンテス世界を統べる神の手によって消滅させられたはずだったのですが、アルセニコスの思念だけは残り、それがこの世界に転移して来て憑代となる者の中に入ることで実体化し、災いを引き起こしました」
やっぱりそうだったか。
一番の被害者は、可哀想だけど、その憑代になった人間なんだけどね。
グエホイ様の言葉が続いた。
「神と言えど、憑代となる人間を殺めることは、この世界では禁忌事項になっています。そのため、今まで私の手でアルセニコスを回収することは、この世界で定めたルールに反していました。それで回収出来ずにいましたが、霊体となった以上、こちらの強制力で回収可能となりました。これもラヤのお陰です」
「そうですか。憑代の人には申し訳ありませんが、お役に立てて良かったです」
「たしかに今回の場合、憑代になった人には罪はありませんでしたので、憑代の人には残念でした。しかし、この世界を救うためですので、厳しいようですが仕方が無いと思ってください。これで、アナタに課された使命のうち、二つ目までが達成されました。あと一つ、達成されることを期待します」
こう言われた直後、女神様の声は聞こえなくなり、巨大排気口も消えて天井は元の形に戻り、私達の身体に張られたバリヤーも消失した。
それにしても、最後の使命か……。
正直、大掛かりになるんだよね。
別に、どの課題から手を付けても良かったんだけどね。女神様から順番を指定されていたわけじゃなかったからさ。
それで、手を出しやすい順に片づけてきたわけだけど……。
でも、思い切り面倒なのが残ったなぁ。




