28.出撃!
聖女生活がスタートして数か月が過ぎた。
悪を殺す仕事よりも、人々を治す仕事の方が、やっぱり遣り甲斐があるよ!
ただ、どの村に行っても、
「明王様!」
って拝まれるようになったんだけどね。
今じゃ、聖女って言ってくれる人の方が極々少数派なんだよね。
やっぱりE村で野盗達を虐殺したインパクトは強かったんだろうな。
聖女って言ってくれるのは、私を嫁に欲しいって会う度に言ってくれるオタクっぽい中年男性くらいか……。
他には?
うーん…………いないや。
「ねえ、ラヤ」
珍しく、ナツミが神妙な顔で声をかけてきた。
もう、顔を突き合わせるようになって結構時間が経つからね。さすがに私も、ナツミの顔には慣れてきたよ。
少なくともアキが、生首状態で、
『ケケケケケケ!』
って笑っていたのは思い出さなくなったよ。
「どうしたの?」
「E村が襲われて以降、野盗が全然出ないじゃない?」
「出ないけど、村人達にとっては平和だからイイんじゃない?」
「そうなんだけどね。でも、実は、私が用心棒をやっているのには理由があって……。ある野盗達を探しているのよ」
「何で?」
「こっちの世界に来てさ。一応、私にもイケメンの婚約者ができたのよ。エドガーって言ってね」
「へー。やるじゃない!」
ただ、私は、こう言った後、
『この容姿だし、当然か』
と思ったよ。
むしろ、この容姿で相手がいない方が不自然な気がする。
「でも、彼が私の目の前で野盗にさらわれてね」
「ええと……。女性じゃなくて男性がさらわれたってことですか?」
「ええ……」
あれっ?
普通は、性欲処理の意味で野盗にさらわれるのは若い女性だよね?
も……もしかして、イケメン男性の後の穴を?
でも、それは不自然だよ。
だって、H目的だったらナツミをさらうだろうからね。私でも嫉妬するくらいムチャクチャ綺麗だもん。
「どんなヤツ等だったんですか?」
「大男一人にチョンマゲ男が百人くらい。それと、黒い服を着た女性が一人いたの。その女性が、その野盗達を仕切っていたわ。たしかに、この村に来た野盗は、大男一人にチョンマゲ男が百人くらいだったけど……、でも、黒い服を着た女性はいなかった……」
私が見てきた中にも女性のいる野党は無かったな。
ただ、理性の無い連中の中に女性が一人いるって、Hな意味で危ない気がするけど?
変なことをされずに、その野郎共を従えているんだったら、それはそれで危険な存在って気がするけどさ。
「まあ、大男一人にチョンマゲ野郎が百人くらいなのは、今までに三グループ見ていますし、この世界では定番みたいですからね」
「ええ」
「そこに女性が一人加わったグループってことですね」
「そうなるわね。なので、そいつ等を探したくて用心棒をやることにしたのよ。持ち前の体力を使って……」
言ってて辛そうだ。
その婚約者だった男が、本気で好きなんだね、ナツミは。
「そうだったんですか。だったら、もっと早く言って欲しかったですね」
「でも、言っても見つかるわけじゃないし……」
「見つかるかも知れませんよ」
「えっ?」
「特別に見せてあげる!」
私は、ステータス画面を立ち上げると、ナツミにも見えるようにモードを切り替えた。
これにはナツミも驚いていたよ。
まあ、魔力が少しでもある人間なら、自分のステータス画面だけなら見ることくらいは出来るらしいんだけどね。
でも、他人のステータス画面の覗き見は、普通は出来ないっぽい。
「これが出るって、本当に異世界って感じがするわね」
「ナツミは自分のステータスを見られないの?」
「ええ。魔力が全然無いからだと思うけど……」
それは、ちょっと不便だね。
むしろ、私のが便利過ぎるんだろうけど。
「でね。私のは特別機能が付いていて。これ、検索機能!」
「へっ?」
「一問一答式でチャットボットみたいなんだけど。もしかしたら、これで分かるかもしれないって思って」
「まさかぁ」
「でも、もし回答が出たら、それは絶対に嘘じゃないことだけは保証しますよ。女神様が特別に与えてくださった機能ですので」
私は、検索画面に飛び、検索ワードに、
『ナツミの婚約者エドガーの居場所は何処?』
と入力した。
そして、検索。
すると、
『A:東に千キロの地点』
と出た。
これを見てナツミは、
「これって、マジなの?」
怪訝な表情をしていたけどね。
さすがに、いきなり信じろって方がムリな話かも。
でも、
「可能性があるなら行ってみたい」
微かに見えた希望の光だ。
この検索結果にすがってみたいって気持ちはナツミの中にもあったようだ。
それに、ただ野盗達が現れるのを待っているだけでは、もう埒が明かないって思っていたみたいだしね。
「それと、彼がどんな状況かを調べられる?」
「んじゃあ……」
私は、ナツミのリクエストに従って検索を続けた。
『Q:エドガーは無事?』
『A:無事』
『Q:何故エドガーはさらわれた?』
『A:野盗の長アルセニコンの目に留まったため』
『Q:アルセニコンって、エドガーをさらった時に黒い服を着ていた女性?』
『A:その通り』
『Q:エドガーは殺されたりしない?』
『A:それは絶対に無い』
これを見て、ナツミの目から一筋の涙が流れた。
今まで、エドガーについての情報は何もなかった。
当然、ナツミだって、
『もしかしたらエドガーは野盗達に殺されているんじゃないか?』
って思うこともあっただろう。
それが女神様特製の検索画面で無事を知らせてくれた。
もっとも、彼女の心の中では、この検索結果の信憑性を疑っている部分はあるだろうけど、無事だって回答自体は純粋に嬉しいよね。
早速、ナツミは、
「ここに行こう!」
と私に言って来た。
多分、転移魔法狙いだね!
別に私は、野盗達を殲滅することに反対はしない。
でも、聖女……改め明王様としての仕事もあるからなぁ。一先ず、エリックとアンの許可は得ないとね。
と言うことで、私はナツミを連れてエリックとアンに状況を説明した。
まあ、検索画面のことは余りオープンにはしたくないので、特殊魔法で分かってったことにしたけどね。ただ、どんな特殊魔法だろ?
まあ、イイや!
ところが、エリックからは、
「出発は一週間待ってくれ」
と言われた。
当然、
「どうしてですか?」
とナツミが食い下がった。そりゃあ、今すぐにでも出発したいだろうからね。
すると、アンが言うには、
「だって、二人ともいつ戻ってくるか分からないんでしょ? それこそ、何かあって戻って来ないとかなったら周りの村々の方々が困るでしょ? もうラヤちゃんの治癒魔法にみんな頼りっきりなんだから」
とのこと。
うーん。それを言い出されると、私は一生、この一帯から離れられないってことになるんだけど?
それはそれで、女神様からダメ出しされそうだね。私には、まだ二つの指令が女神様から下っているからね。
「でも、野盗達を殲滅しないと」
「それはナツミの言うことも分かるわ。なので、せめて、これからラヤちゃんが野盗討伐に出発するって各村々を回ってアナウンスくらいしておかないと」
そう言うことね。
たしかに、それくらいの筋は通しておく必要はあるか。
ナツミとしては、納得できていないみたいだけどね。
でも、エリックとアンの顔を立てなくてはならない。
次の日から私は、一週間くらいかけてアンの同行の元、挨拶&診療のために近くの村々を回った。
人々は、
「戻ってこいよ!」
「待ってるからね!」
「嫁に来てくれ!」
と私にひっきりなしに言ってくれた。
最後のは、いつも同じことを言うオタクっぽい中年男性だけど……。
まあ、みんな私の魔法狙いなのは分かっているけどね。でも、必要としてもらえるってこと自体は素直に嬉しいよ。
地球にいた頃には、そんなこと絶対に有り得なかったことだもんね。
そして、出発の日が来た。
「では、エリックさん、アンさん、行ってきます」
「気を付けてね」
「はい。転移!」
私は、ナツミとアーノルドを連れて東方千キロの地点に瞬間移動した。
毎々思うけど、マジで便利な機能だよね。
まともに移動したら、どれだけ時間がかかることだろうか?
ここで私は、さらに検索。
すると、
『A:北に四十八キロ』
との回答。
なので、私は、
「転移!」
再びナツミとアーノルドを連れて瞬間移動した。
今度、出たところは、さっきの場所から北に四十六キロ地点。
敢えて、目的地から二キロ離れたところに出た。様子を探るためには、少し距離を置いた方がイイと思ったんだ。
たしかに、前方に集落が見える。
私は、
「出ろ!」
物質創製魔法で双眼鏡を出すと、その集落の様子を覗いてみた。
そこにいたのは……、沢山のチョンマゲ男に、点在する大男。
検索画面で調べたところ、大男は七人、チョンマゲ男は七百人とのことだ。
それから、ここには目的とするアルセニコンとエドガーがいる。
ただ、それだけじゃない。ここには、いくつかの村々から連れ去られた若い女性達が百人程度いた。勿論、性欲処理具として……。
さて、襲撃するのに夜まで待つ?
いや、その必要はない。一気に叩き潰す。
それに、もうナツミが待てないみたいだからね。
作戦は、今までの三百人を順に相手にした時と同じ。
これまでは百人ずつ相手にしてきたけど、今回は、そのスケールが単純に七倍に増えただけだ。
……いや、結構多いな。
その後、アルセニコンの自由を奪い、エドガーを救出する。
何とかなる……。
いや、何とかする!
「では、ラヤ、行きます!」
そして、私はナツミに双眼鏡を預けると、
「転移!」
ナツミとアーノルドと共に、敵地のど真ん中に瞬間移動した。




