第7話 約束
どんな感情も"矢印の向き"が大事
幼い頃から人との関わりを断たれていたから、代わりにたくさんの本を読んだ。
童話に英雄譚、ちょっと難しかったけど冒険譚…
読めば読むほどに外の世界への好奇心が刺激されて、自分がそこにいない事に寂しさを感じる
そんな生活の唯一の楽しみは日に数分程度ある神父様たちとの会話で
食事の献立を聞いたり、ちょっとした世間話をしてくれる
勇者様が召喚されたと知らされたときには
前に読んだ英雄譚を思い出して、戦いのために私を仲間として連れて行ってくれるかもなんて考えたりして…
実際に勇者様が私を訪ねてくると聞いた日には楽しみで二晩中眠れなくて
勇者様たちは想像していたより子供っぽい顔立ちで
思っていた通り優しくて、真面目な方で、
わがままを聞いてくれる
ダメだとわかっているのに…
時間がないのをわかっているのに…
迷惑だとわかっているのに…
勇者様の優しさに甘えてしまう
長年培われた寂しさが勇者様に迷惑をかける
――――
『…………ぅ……っ』
「えっ…」
(…ッッ!?)
(えっ?!)
会話が途切れた瞬間、ティアの瞳から大粒の涙がポロポロと溢れ出した
突然の涙に驚き声が出てしまう
『ぅう…ごめ、なさいっ』
一度溢れた涙は堰を切ったように止まらず、白い頬を濡らしていく
ヒクヒク泣きながら謝罪をする聖女の様子を困惑しながら言葉を探す
「あっ…と」
どうして泣いているのかすら聞けない…
いや3人ともわかっているからこそ聞かない
『ずっ…と待っていたんです……っ。誰かと、こうやって……お友達のようにお喋りすることができる日を……っ!』
何度も言葉を詰まらせながらも、ティアは溢れる想いを吐き出すように言葉を紡ぐ
聖女は神の御使だ、故に微細な悪意にすら晒されてはならない
神父たちですら顔を合わせられるのは数分程度であり、彼女にとってそれは"当たり前"のことだ
でもその当たり前はどれだけ苦しいか
どれだけ寂しいか
(軽々しく「また会えます!」なんて言える相手じゃない)
でも――
「「また話そう!」絶対に…!」
2人のまっすぐな言葉に俺も聖女も顔をあげる
「他の人達は無理でも僕たち勇者なら…!!」
「顔パスだろ?」
『ふぇぇ…///』
勇者と聖女の関連性は確かにあり、2人の言う通り勇者の言葉一つで聖女と会うことは可能である
「俺は何度だって会いに来る!君が孤独だった時間の何倍、何十倍…いや、何百倍も!!」
リョウのその言葉には、嘘なんてないとわかるくらいの重みがある
「君に"寂しい"なんて言わせない!もうお喋りはうんざりだ、って君が音を上げるくらい押し掛けてやるから!絶対にだ!!」
プロポーズと思える言葉を恥ずかる様子もなくティアにかけ続けるリョウに俺とコウタはもはや呆れてしまう
『ほんとですか?約束できますか……?』
「ああ、約束する」
真剣な顔、迷いのない言葉
彼女が信じるには充分すぎる
『…………わかりました。貴方の言葉を信じます』
悪意と自己嫌悪は似て非なるものだと思います




