5. 忘れていた空
「美味しいわ。生き返った気分よ。フリッツ、最高の仕事をしたわよ」
嬉しくなって、聖セレスティーヌ女学院の上空を長椅子に乗って旋回した。
フリッツは私の肩にしがみつき、恐る恐る眼下を覗き込んでは、感嘆のため息をあげている。
「いい眺めだ。特に、庭でピクニックの準備をしてる誰かさんがよく見える」
ふふっと私とフリッツは声をあげて笑った。良い眺めだった。
「主、街まで飛んでくれるか?」
「いいわよ。午後の授業に間に合うよう、一周だけね」
私は一気に速度を上げ、ザックリードハルトの街へ飛び出した。
赤い屋根と白い石造りの建物が、眼下に鮮やかに広がっていく。
私はザックリードハルトの街並みが美しく広がる光景に胸を躍らせた。
久しぶりに乗ったが、やはり最高だった。ずっとこの光景を忘れていたなんて、完全に私はどうかしていた。
引きこもっていた頃、こんな力を自分が持っていたことすら忘れていた。
「午後の授業は出るから、聖セレスティーヌ女学院に戻るわよ、フリッツ」
「あぁ、わかった。俺はしばらく君のそばにいるよ。主の名は?」
「ロミィ・ロクセンハンナよ」
「あぁ、よろしく、伝説のブルクトゥアタ。主は最高の乗り手だ」
皮肉屋の霊獣香リスが珍しく素直に言ったのを聞いて、私は思わず笑みを浮かべた。
フリッツは意外と素直な事が言えるようだ。
鉄壁の防御とは言えない魔力の術式の綻びに、この霊獣香リスがつけ入る力があることを、私はまだ知らなかった。
この時は。
そう。私はこの時、決定的な何かをしでかしていたことに気づかなかったのだ。




