27. スピカ!偽りの誓約だ。お前の出番だぞ!
フリッツは丸い目をギラギラに光らせて私に忠告した。そして、首を振った。
「ダメだ、カイ、どんぐりか胡桃をくれ、何かゆで卵でもいい。にんじんでもいい。お腹が空きすぎてだめだ」
霊獣香リスは白いテーブルクロスの上にひっくり返った。文字通り、エネルギー切れで伸びてしまった。頭を使い過ぎたらしい。
「リスちゃん、待って待って、今何か食べ物を持ってくるわ!」
真っ先に動いたのはエスルお姉様だった。バタバタとキッチンの方に走って行った。
「偽物が王立魔術博物館の魔法網に近づいたのはなぜ?」
私は疑問を口にした。
ひっくり返ったフリッツは、私のその声でぱちっと目を開けた。
「主、気をつけろ!飛んでここから離れろ!」
私は一瞬で飛ぶ長椅子を呼んだ。
イヴォンヌが悲鳴をあげて、一点を指さした。
切ったはずの紫の枝が、ティーポットの周りを一周して延びてきた。
その先端が膨らみ、赤黒い花びらが一枚ずつ開いていく。
「どういうことだ?あ、ロミィ、危ない!」
カイが私の腕を掴んだ。
細い光は蛇のように向きを変え、私の方へ伸びてきたのだ。
「赤い花?なぜ?」
「向こうの探知が始まっているんだ、ここに来るぞ!」
フリッツは飛び跳ねた。
「まずい、偽りの認証がこっちへ来るぞ!」
フリッツが偽物の包装紙を睨んだ。
「スピカ!偽りの誓約だ。お前の出番だぞ!」
ザックリードハルトの皇宮の地下室から飛ぶ長椅子が現れたの同時に、食卓の上にハリネズミが現れた。霊獣ハリネズミのスピカは、銀針をむき出しにして偽物の包装紙へ走った。
銀針が紙へ突き刺さる。赤い炎が上がり、偽物の包装紙が奇妙な音を立てて燃え始めた。
私は驚きながらも、咄嗟に長椅子に飛び乗った。
「切れてない。向こうが主の魔力を覚えたんだ!スピカが燃やしている間に時間を稼げる!」
長椅子に乗った私の肩にフリッツが飛び乗った。
「窓を開けてちょうだい!スピカ、しばらく空を逃げてくるから、後はお願いね」
私は久しぶりに会ったハリネズミに声をかけた。姿を消してはいるが、まだどこかにいてくれているのだろう。十三歳の頃に会ったハリネズミのことは、ほとんど覚えていない。だが、私はハリネズミの姿に妙な既視感があったのだ。
イヴォンヌが素早く窓を開けてくれ、私は窓から長椅子で外に飛び出した。
私は村とは反対側に広がる、川沿いの無人の森を目指した。村の教会や屋根が眼下に遠ざかる。
「来たな……」
フリッツが緊張した様子でささやいた。
青紫の煙が私の後ろから猛然と追ってきた。私は一気に上昇し、左旋回した。
青紫の煙は私を追ってきた。猛追されている。
この煙が私の魔力を追ってくるのなら、アッシュクロフト領にいてはならないわ。
カイの家族まで巻き込んでしまうから。
——でも、どうしたら?
「フリッツ、ごめん、また……」
私は分かっていた。
頭に浮かんだ術式を唱えようとした。それは、灰色の怪物に相対した時に魔法網の綻びを直した時に唱えた術式だ。あの記憶していた二番目の呪文と対になっている呪文だ。
私は意識を失い、暗闇に落ちるだろう。アッシュクロフト領の上空で。
青紫の煙が、背後から私へ襲いかかった。
私は魔法結界を閉じる一文を唱えようとした。
その瞬間、胸元が燃えるように熱くなり、術式を唱えるのを一瞬ためらった。
私のドレスの袖の中で、何か小さなものが動いて、白くて丸いものが私の膝へ転がり落ちた。
さっき食堂に残してきたはずだ。
テーブルの上で偽の包装紙を燃やしていた銀針のハリネズミが、私の膝の上にいた。
それは、ほんの一瞬のことだった。
青紫の煙にハリネズミは飛びついた。
私は、その霊獣の名をよく知っていた。
「……スピカ?なぜ?」




