21. 青羽の名探偵と、砂糖壺のダイヤ
翡翠色と青が混じった美しい羽を持つカワセミは、小さくて素早い。止まっている時は宝石のように美しいが、飛ぶと一瞬で消える。
私は混乱する車両を歩き、デッキに行って、カワセミを車両に迎え入れた。カワセミは、走る列車の窓辺へ真っすぐに飛び込み、寸分違わず私の左肩へ降り立ったが、私の右肩に止まっているフリッツを無視した。
「お高くとまっているようですがねぇ、俺はあんたを忘れちゃいないぜ」
フリッツは早速尻尾を振って嫌味を言い始めた。
「あなたなんか知らないわ」
カワセミは美しい体から冷たい声を出した。
「けっ!主にあんたの存在を教えてやったのは、この俺様だぞ」
「それが?このわたくしの美しい姿を見逃すお方がいらっしゃるはずがありませんわ」
両肩で霊獣が口喧嘩を始めて、私は降参した。
「待って。カワセミ、まず名乗ってくださいな」
「あぁ、主、こいつの名はアルシオンだ」
「アルシオン、宜しく。でも、私は貴方を召喚していないわ」
「どの口が言う……」
すかさずフリッツがカワセミに怒鳴った。
「アルシオン、黙れ!」
私はため息をついた。どうやら私は結界を緩めたことで、フリッツ以外の霊獣までこちらの世界へ入り込めるようにしてしまったらしい。
この調子では、霊獣ハリネズミのスピカと再会するのも時間の問題かもしれない。胸の奥にちくっとした痛みが走ったが、私は今はカワセミに集中しなければならない。
「アルシオン、どこにダイヤがあるか分かるかしら?」
「わたくしは美しいだけではなく鋭い。盗まれたものが残した気配を追えます。過去にそれを盗んだ者までは分かりません。少なくとも、あなたよりは鋭いですわ」
カワセミは胸を張って、得意げに言った。
——若干、私を見下しているように聞こえるのは、気のせいだろうか?
「アルシオン?お前の主は今誰だかわかるな?」
「シーっ!フリッツ!黙ってて」
フリッツがカワセミの話に割り込むので、私は両肩で会話される話にうんざりした。
私たちが寝台車の方に戻ろうと列車内を歩いていると、乗客が騒いでいた。一人の給仕が取り押さえられていて、彼は激しく抵抗していたのだ。退役軍人の伯爵が取り押さえていた。銀の片眼鏡をかけたチャコールグレーのラウンジスーツを着た退役軍人の老伯爵は、暴れる給仕に一歩も引かなかった。
「俺はやってない!」
「だが、お前が確かにアルテンブルク侯爵夫人のレースのナプキンに引っかかったダイヤを触ったのを見た!」
「それは、ダイヤが引っかかっていたから、とってあげただけだ!」
どうやら、食堂車でアルテンブルク侯爵夫人に給仕した者が疑われているようだ。
車掌が非公式にコンパートメントの中の捜索を始めており、寝台車係の数人が徹底的に調べていた。私たちのコンパートメントも、ミラとテレサの立ち合いの元に捜索されていた。
「ミュンヘン到着の瞬間、夫人は食堂車にいて、その時に星形のダイヤのブローチがあったかどうかを誰も覚えていない。はっきりしているのは、ミュンヘンに到着する前に夫人が食堂車に来た時には確かにダイヤはあり、ミュンヘンから出発する頃に夫人が寝台車に戻ってきた時にはもう無かったということだ」
茶褐色のツイード製旅行ジャケットを着た医師が皆に説明していた。
「食事中に、レースのナプキンにダイヤの星の光芒の一つに引っかかった。ショールを肩から夫人が外し、ブローチが一瞬隠れたんだ。その時列車がポイントを通過して大きく揺れた。紅茶がこぼれた。こぼれた紅茶を拭こうと、給仕が近づいてきて、夫人のダイヤをレースのナプキンから外してくれようとした。そのダイヤに関しては、そういった騒ぎが確かにあった」
医師は、周りにいる貴婦人や貴族達にそう説明をした。
「給仕が怪しいのは分かるが、彼は確かミュンヘンでワインの空き瓶の入った木箱を運んでいたぞ!私はホームで散歩をしていて、この給仕を確かに見た!」
五十歳ぐらいの紳士が思い出したように言った。
「さては、ミュンヘンで盗んだダイヤを列車から下ろして、共犯者に渡したな?」
「そんなことはしていない!」
捉えられた給仕に退役軍人は厳しい口調で聞いたが、疑われた彼は否定した。
「皆さん、落ち着いてください。給仕たちも含めて、あらゆるコンパートメント内を捜索させてください。寝台車係が順番に参りますので、協力をお願いします」
「食堂車も喫茶室も全て調べるべきですわ」
ローズグレーのドレスを身につけた裕福なアメリカ人令嬢が言い、皆が口々に賛同した。
「ですが、まずは、彼に尋ねるべきでは?ミュンヘンで降ろしたワインの空き瓶を入れた箱に何かを隠したのかを」
アルノー・ド・ヴェルニエという名の二十九歳の、どこかの国の公使館の二等書記官は、給仕を疑っているようだ。
「次の停車駅で、ミュンヘンの警察に連絡しましょう」
彼は車掌に静かに言った。
「そうしますが、まずは捜索をさせてください。皆さん、大変申し訳ないのですが、しばらくご自身のコンパートメントにお戻りいただけますでしょうか」
車掌はそう言ったので、乗客は渋々自分たちのコンパートメントに戻って行った。
私もイヴォンヌと一緒のコンパートメントに戻った。
「ちょっと、何そのカワセミは!?どこから連れてきたの?」
イヴォンヌは私を見るなり驚いた。
「イヴォンヌ、こいつはアルシオンだ」
「アルシオン、主の従姉妹のイヴォンヌだ」
フリッツはぶっきらぼうな調子でカワセミをイヴォンヌに紹介した。
「まぁ、綺麗ねぇ、本当にあなたが宝石みたいよ」
イヴォンヌはカワセミの青羽の美しさを褒めた。
「さあ、わたくしの美しさを褒められてもあまり響きませんわ。どちらかと言うと、今から披露する名探偵っぷりに感銘を受けてよ」
霊獣カワセミはイヴォンヌに言った。イヴォンヌはぽかんと口を開けて、私の左肩からテーブルに飛び降りたカワセミを見つめた。
「この鳥も霊獣なの?ロミィ、どうしちゃったのよ」
「どうしたもこうしたもないぜ、イヴォンヌ」
フリッツは自分の爪を見つめながら、ぶっきらぼうに言った。
「こんなの序の口だと思うぜ」
私は気を取り直して、両手をパチンと叩いた。
「さあ、名探偵さん、どこにダイヤはあるのかしら?ミュンヘンで降ろされたのかしら、それともまだ列車内にある?」
私はカワセミに聞いた。
「この車両にありますわ」
カワセミは私に言った。
「じゃ、案内してくださる?」
コンパートメントの扉を開き、私たちはまっすぐに青い羽を羽ばたかせてカワセミが飛ぶのについて行った。
食堂車も椅子の下やカーテンの裏を、給仕長が指示を出して多くの給仕係が探し回っていた。
カワセミはすっと一つの砂糖壺の前に止まった。
——分かったわ!そこにあるのね?
私は給仕長に車掌を呼んでくるように頼んだ。
「皆さん、手を止めてくださるかしら?こちらに注目してくださいますか」
イヴォンヌがいつの間にかカイを連れてきてくれていた。
「いかがなさいましたか、お嬢様」
車掌は私の事をモンフォール伯爵家の縁者としか知らないはずだ。車両の一角はモンフォール家が貸し切ったのだから。
「こちらの砂糖壺の中を確認されましたか?」
車掌は周りの者に確認をしたが、誰も首を振った。
アルシオンは砂糖壺の縁に止まり、くちばしを白い砂糖の中へ突き入れた。
次の瞬間、白い粒を四方へ弾き飛ばしながら、勢いよく首を上げた。
くちばしの先で、八条の星のダイヤが輝いていた。
「見つけましたわ。わたくしの目から、宝石が逃げられるとでも?」
皆が口々に歓声をあげた。
「あった!ダイヤのブローチがあるぞ!」
「おぉ!」
「あったぞ!」
「見つかった!」
皆が口々に喜びの声をあげる中、私は考えていた。
——犯人を追い詰めても、きっと嘘をつくわ。
——だったら、盗む前の自分を思い出してもらえばいい。
イヴォンヌにお願いした。
「今朝、侯爵夫人の近くにいた人を全員集めてくれる?」
「何をするの?」
「私のお店を、ここで一度だけ開くのよ」




