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異世界に転生したのでダーツを布教してたら最強の投擲魔法になってました~最終目標は自分のダーツバーです~  作者: Pman


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第六話:値段と本気

酒場のざわめきは、しばらく収まらなかった。


「次俺!」「いや順番だろ!」と声が飛び交い、壁の前には自然と列ができる。


投げて、外して、笑って、また投げる。


たったそれだけのことが、この場の空気を変えていた。


(形になってきたな)


俺は少し離れた位置から、全体を見ていた。


回っている。


教えなくても、続いていく。


――なら、次だ。


「おい」


俺は壁際に近づき、声をかける。


「それ、使うなら一回銅貨一枚な」


一瞬、空気が止まった。


「……は?」


何人かがこちらを見る。


「金取んのかよ」


「当たり前だろ」


淡々と答える。


「ただじゃねえ」


「さっきは取らなかったじゃねえか」


「最初はな」


肩をすくめる。


「試しだ」


短い沈黙。


それから、誰かが笑った。


「まあいいじゃねえか。面白えしな」


そう言って、銅貨を一枚、机に置く。


「ほらよ」


「三投な」


「おう」


その一言で、流れが決まった。


次々に硬貨が置かれていく。


「俺もやる」「ほらよ」「次な」


簡単だ。


価値があると分かれば、人は払う。


それだけの話だ。


荒い少年が横で呟く。


「……金になるのかよ、これ」


「なるだろ」


「すげえな」


半分呆れたような顔。


最初の子供は、少し戸惑いながらも列に並び直していた。


(いい)


無理に引っ張らなくても、自然に回る。


その時だった。


「……ほう」


低く、落ち着いた声。


ざわめきの奥から、一人の男が歩いてきた。


さっきの連中とは違う。


静かだが、重い。


無駄のない体つき。視線が鋭い。


酒は持っていない。


(……来たか)


男は壁の前で止まり、刺さっている木片と印を見比べる。


それから、俺に視線を向けた。


「お前がやっているのか」


「まあな」


短く答える。


「それで、金を取ると」


「使うならな」


「勝負は?」


「やりたきゃやればいい」


俺がそう言うと、男はわずかに口元を上げた。


「いいだろう」


ポケットから、数枚の硬貨を取り出す。


銅貨よりも、少し重い音がした。


机に置く。


「これでどうだ」


周りがざわつく。


「おい、銀貨じゃねえか……」


「本気かよ」


空気が、変わる。


軽い遊びの延長ではない。


勝負だ。


「三投」


男が言う。


「近い方が勝ち」


「分かってる」


俺はうなずく。


「順番は?」


「どっちでもいい」


「じゃあ先でいい」


男は迷わず木片を手に取った。


構えは――綺麗だ。


力任せではない。


(……なるほど)


一投目。


音は小さい。


だが、印のかなり近くに刺さる。


ざわめきが止まる。


二投目。


さらに寄る。


三投目。


ほぼ中心。


「……おい」


誰かが息を呑む。


「当ててきたぞ」


酒場の空気が、一段沈む。


荒い少年が、小さく呟く。


「やべえな……」


最初の子供は、何も言えない。


男は振り返らない。


ただ一言。


「次だ」


俺の番。


視線が集まる。


さっきまでとは違う。


試されている空気。


(いいな)


嫌いじゃない。


木片を一本、手に取る。


重さを確かめる。


床の感触。距離。印。


全部、問題ない。


――投げる。


一投目。


中心。


「……っ」


小さなざわめき。


二投目。


ほぼ同じ場所。


「嘘だろ……」


三投目。


わずかにずれるが、それでも内側。


沈黙。


完全に、空気が止まる。


数秒後。


「……面白い」


男が、初めて笑った。


静かな笑いだった。


「やるな」


「そっちもな」


短く返す。


勝敗は明らかだった。


だが、男は悔しがる様子もない。


机の上の銀貨を、こちらに押し出す。


「約束だ」


俺はそれを見て、少しだけ考える。


そして、一枚だけ取った。


残りを、男の前に戻す。


「半分でいい」


「……ほう?」


「またやるだろ」


そう言うと、男は一瞬だけ黙って、それから小さく笑った。


「確かにな」


銀貨を戻しながら、うなずく。


「名は?」


「まだいい」


俺は答えない。


「そうか」


男も深くは聞かない。


それだけで十分だった。


周りのざわめきが、ゆっくりと戻ってくる。


「すげえ……」


「今の見たか?」


「銀貨だぞ……」


さっきとは違う熱。


遊びではない。


価値があるものとして、見られ始めている。


俺は木片を指で回す。


(いい流れだ)


投げる場所がある。


人がいる。


金が動く。


それだけで、十分だ。


「次」


俺が言うと、すぐに声が上がる。


「俺やる!」「順番だろ!」「銅貨な!」


列は途切れない。


場は続く。


――ダーツは、もうただの遊びじゃない。


ここで、回り始めている。

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