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異世界に転生したのでダーツを布教してたら最強の投擲魔法になってました~最終目標は自分のダーツバーです~  作者: Pman


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第五話:酒場の三投

扉をくぐった瞬間、空気が変わった。


木の床に染みついた酒の匂い。低いざわめき。笑い声と、ぶつかるジョッキの音。


「……うわ」


後ろから誰かが小さく声を漏らす。


子供だけで来る場所じゃない――そんな空気だ。


だが、先頭を歩く男は気にした様子もなく、奥へ進んでいく。


「親父、ちょっと場所借りるぞ」


カウンターの向こうにいた店主らしき男が、顔を上げた。


一瞬だけこちらを見て、眉をひそめる。


「……ガキ?」


「客だ。面白いもん持ってきた」


短く言うと、さっきの男は壁際の空いたスペースを指さした。


「ここ使うぞ」


返事を待たずに決めるあたり、この店ではそれなりに顔が利くらしい。


「おい、壁貸せ」


「傷つけんなよ」


店主はため息混じりに言うが、止めはしない。


俺は軽くうなずいて、壁に近づいた。


(ここか)


木の壁。硬さは悪くない。


さっきと同じように、簡単な円を描く。


少しだけ大きめに。


「おい、それ何やるんだ?」


すでに何人かの客が興味を示していた。


椅子を引いて近づいてくる。


「的当てだ」


短く答える。


「投げて、ここに近い方が勝ち」


「へえ」


「ガキの遊びじゃねえか」


笑いが起きる。


だが、その目は少しだけ真剣だ。


「じゃあ、やるか?」


俺が言うと、さっきの荒い少年が前に出る。


「俺はやる」


その隣に、最初の子供も並ぶ。


「俺も」


「いい度胸だな」


酒を片手にした男が一人、立ち上がった。


体格がいい。腕も太い。


明らかに大人だ。


「混ぜろよ」


「……ああ」


俺はうなずく。


「三投。近い方が勝ち」


「分かりやすくていいな」


男はにやりと笑って、ポケットから硬貨を取り出した。


机の上に置く。


「これでどうだ」


金額の価値はまだ分からないが、場の空気が少し変わる。


軽い遊びから、一段上に上がった感覚。


荒い少年も、同じように硬貨を置いた。


「負けねえ」


最初の子供は少し迷ったが、小さな袋から何かを取り出して置く。


「……これで」


全員が視線を俺に向ける。


「お前もだろ」


「だな」


俺は少し考えてから、同じくらいの価値になりそうなものを置いた。


「これでいい」


「よし」


男が手を叩く。


「順番は適当でいいな」


異論は出ない。


最初は、その大人の男からだった。


「見とけよ」


軽く肩を回してから、木片を手に取る。


構えは雑だが、力はある。


――投げる。


ドン、と強い音。


壁には刺さったが、印からは大きく外れている。


「ちっ」


舌打ち。


二投目。さらに外す。


三投目。少しだけ寄るが、それでも遠い。


「こんなもんかよ」


納得いかない顔で、腕を組む。


次は、荒い少年。


さっきよりも明らかに集中している。


一投目。外側。


二投目。さらに近づく。


三投目。印のかなり近くに刺さった。


「よし……!」


拳を握る。


周りからも声が上がる。


「いいじゃねえか!」


「さっきより全然いいぞ!」


本人もまんざらではない顔だ。


そして、三番目。


最初の子供。


緊張しているのが分かる。


手が少し震えている。


「落ち着け」


俺が一言だけ言う。


それだけで、少しだけ呼吸が整った。


一投目。外側。


二投目。少し近い。


三投目。……惜しい。荒い少年とほぼ同じ位置。


「……っ」


悔しそうに歯を食いしばる。


だが、確実に成長している。


そして最後。


「お前だ」


視線が集まる。


酒場の空気が、少しだけ静かになる。


俺はいつも通り、木片を一本手に取った。


床の感触を確かめる。


呼吸を整える。


余計な力を抜く。


――投げる。


軽い音。


木片は、迷いなく中心に突き刺さった。


「……は?」


誰かの声。


二投目。


同じ軌道。


同じ場所。


三投目。


わずかにずれたが、それでも中心圏内。


完全に、空気が止まる。


数秒の沈黙。


それから――


「なんだそれ……!」


大人の男が思わず声を上げた。


「ありえねえだろ!」


「三回ともほぼ同じとこだぞ!?」


ざわめきが一気に広がる。


荒い少年は言葉を失っている。


最初の子供は、ただ呆然と見ていた。


俺は軽く息を吐く。


「終わりだな」


静かに言う。


勝敗は明らかだった。


机の上に置かれた賭けの品が、すべてこちらに集まる。


だが――


俺はそれを手に取らなかった。


「いらねえのか?」


大人の男が不思議そうに聞く。


「……まあな」


少しだけ考えてから、答える。


「今日はいい」


「は?」


「代わりに」


視線を周りに向ける。


興味を持った客たち。ざわつく空気。


「もう一回やるか?」


一瞬、間があって。


次の瞬間、笑いが起きた。


「いいねえ!」


「もう一回だ!」


「今度は俺も混ぜろ!」


一気に声が上がる。


さっきよりも大きい。


広がっている。


俺はその様子を見ながら、木片を軽く回した。


(これだ)


人が集まる。


投げる。


笑う。


勝つやつも、負けるやつもいる。


それでも、またやる。


それだけでいい。


それがあれば、場になる。


「次は順番決めるぞ」


俺が言うと、さらにざわめきが大きくなった。


酒場の中に、新しい遊びが生まれている。


――ただの一投から始まったものが、もうここまで来ていた。


俺はもう一度、木片を構える。


次の一投は、誰かの番だ。

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