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第六十話 1915.3.30-1915.3.30 ヌーヴェ・シャペルの戦い

ヌーヴェ・シャペルの戦いの結果です。





1915年3月30日


今月中旬ごろ行われたヌーヴェ・シャペルでの英軍の攻勢と、それに付随する我が皇軍部隊が担った攻勢の詳報が俺の手元に届いた。


既にある程度の情報は入って来ていたので大体の状況は把握していたのだが、早速詳報を一読すると、その内容に俺は溜息をついて思わず独り言ちる。


「まさかこれ程早いとはな…」


気分を落ち着ける為にオフィスの窓から外の風景を眺めながら、カップに半分ほど残っていた温くなった紅茶を飲みほした。



結論から言えば、作戦初期においては英軍の攻勢そのものは成功し、我が皇国の混成旅団の任務も順調だった。


英軍は優勢な火力を活かしてヌーヴェ・シャベルを早期に攻略すると、装甲部隊を前面に押し出して独第六軍の戦線を食い破ると、リールへの進撃を開始した。


装甲部隊は、独軍の要塞線と化した幾重もの強固な塹壕陣地を軽快な機動力で突破し、敵の銃火器からの反撃をその装甲はものともしない。そして戦車が搭載している六ポンド砲は、大口径の野砲ほどの破壊力は無いが、それでも一撃で機銃陣地を粉砕する威力はあり、敵陣地を混乱に陥れるには十分だったようだ。


リール前面の独軍は新兵が主力の二線級部隊が守備していた為、装甲部隊の攻撃を受けるとたちまち恐慌をきたして士気が崩壊して混乱状態になった様で、この辺りは英軍が史実で初めて戦車を投入した時を彷彿とさせる。


問題はその後だ。


今回の英軍の攻勢に参加したカナダ遠征軍とインド植民地軍は、兵力としてはかなりの割合を占めるのだが、装備は英軍に比べると一世代前の装備で、しかもエンフィールド小銃しか装備していない部隊が主力で、支援火器としてビッカース機関銃を装備しているが、その数は英軍の正規の配備数に比べれば極少数だった様だ。


当然ながら機械化装備は殆ど配備されて居らず、徒歩と馬が移動手段のほぼ全てを担うという、第一次世界大戦では一般的な編成だった。


カナダ遠征軍は、今回が外征の初陣という事もあったのだろうが、占領地の確保や砲兵部隊による火力支援など後方支援が主任務であったが、インド植民地軍は攻勢の一翼を担い、英装甲部隊が食い破った側面に攻勢を掛けた。


しかし、装甲部隊の突破力、そして進撃速度は英軍の想定を大きく上回った。


旧態依然としたインド植民地軍は、一応期待通りの活躍を見せたものの、それはあくまでこれ迄の進撃速度であった場合のものであり、実際の装甲部隊の進撃速度には到底追いつけるものではなかった。だから、幾ら装甲部隊が戦線を深く食い破り独軍塹壕陣地に混乱をもたらしたといっても、全ての部隊が混乱状態にあった訳では無く、装甲部隊の速度に付いて行けなかったインド植民地軍は、残されて頑強に守備する独軍部隊を相手に夥しい死傷者を出しながら戦いを繰り広げていったわけだ。


快進撃の筈の英軍も装甲部隊だけが突出してしまい、装甲部隊は無防備な側面を曝してしまうという危機的状況が発生した。

また装甲部隊は、従来の騎兵部隊や歩兵部隊とは比較にならない量の補給物資を必要とするが、その量は英軍の兵站部隊の能力のキャパシティを遥かに超えてしまった様だ。


結果として、装甲部隊の孤立と弾薬や燃料の欠乏を恐れた英軍上層部は、装甲部隊の進撃を一旦止めるという判断をし、後続部隊が追いつく事を期待した様だが、英軍を援護する筈の仏第十軍が砲弾不足を来たしてしまって攻勢を中止してしまったところで英軍も攻勢を諦め、装甲部隊を撤退させた。


ヌーヴェ・シャベルまで戦線を後退させて次の攻勢に備える事にした、という訳だ。


一方皇軍の混成旅団は、作戦通り手薄になっていたリールとイーブルの間を抜けると、リールの後方に回り込み、リールを後方より攻撃し包囲せんとしたが、肝心の英軍がリール前面にも達しておらず、こちらも孤立。


リールとイーブルの間に有った間隙は、混成旅団が通り抜けた後に独軍によって速やかに閉じられてしまい、独軍側の勢力圏に取り残される事を恐れた混成旅団は、リールの包囲を諦めて即座に南方へと転進し、英軍と仏軍の戦区の間を抜けて出撃地点まで戻って来たらしい。


結果装甲部隊は、その突破力は評価されたものの、戦況にほとんど影響を与える事も無く初陣が終わった様だな。


史実と内容は大きく異なるが、結果は大差ない状況に終わったという訳だ。



しかし、俺が詳報を読んで独り言ちるまでに至ったのは、その部分ではない。


英軍、そして皇軍の装甲部隊の損害に関してだ。


戦車に関しては、足回りをやられて擱座したケースが複数あったが、幸い今回に関しては全て回収出来たので戦闘による損失はゼロだったのだが、汎用車両には損害が出た。つまり、既に独軍は装甲車両に対しての対策を講じていた、という事が問題だ。


あまりに早すぎる。


独軍が使ってきた対戦車兵器は、一つは結束手榴弾。独軍の手榴弾〝ポテトマッシャー〟の炸薬部分を複数纏めて一本に束ねたあれだ。第一次世界大戦から使われていたというのは知って居たが、対応力高すぎだろう。


更には火炎瓶、そして恐らくリバースド・バレット。


火炎瓶は、まだ運用に慣れていなかったのか自爆する場合も多々あった様で、また初めて見る戦車に肉薄できるほどの勇敢な兵士はそれほど居なかった事もあり、これによる被害は幸いなかった。恐らく装備数もそれ程多くは無かったのだろう。


リバースド・バレットに関して〝恐らく〟というのは、汎用車両で装甲を抜かれた車両が複数出ていた事実による。


K弾の様に厚い装甲部分を抜かれた訳では無く、側面など薄い部分を抜かれていた場合があったのだ。


モーゼル弾による射撃試験では抜けない事を確認していたから、通常の小銃弾の可能性は低く、だから独軍が大戦の最初期に運用していた〝リバースド・バレット〟であろうと推測した訳だ。


今回、汎用車両の損害はそれなりに出てしまい、最前線で使った場合の脆弱性が露呈してしまったのだ。


そもそも汎用車両は、装甲車タイプは兎も角、装甲車代わりに使うという代物では無いからな。今回の戦闘では肉弾戦を仕掛けられた時に手榴弾を投げ込まれた事もあった様で、如何に機関銃を装備していたとしても、上面か開放状態の汎用車両は、塹壕陣地を突破する際には大きな危険が伴うという事だ。


他にも敵方野砲の砲弾が直撃したケース、更には至近着弾で履帯が切れたり横転したり、そういった被害があった様で、英軍としては想定以上の被害の大きさに、運用法を考え直す、という事になったようだが…。


皇軍に関しても、やはりリバースド・バレットだろう命中弾が装甲を抜き、搭乗していた兵士が負傷したケースがあった様だが、幸いにも、薄くとも装甲を突破した為か弾に勢いが無く、それ程の損害は受けなかったようだ。


負傷と言えば、あの牟田口少尉が今回の作戦で偵察任務を命ぜられて先行した際に負傷したらしく、英国の駐屯地まで戻って来た。


偵察部隊の指揮を執っていた時に、独軍の待ち伏せ部隊による奇襲を受けてしまい、その際結束手榴弾による攻撃を食らい、車外に投げ出されたそうだ。


投げ出された時にしたたか地面に身体を打ち付けて負傷したとの事で、後送されてくる位だから打ち身程度では無いのだろうな。



いずれにせよ、今の連合軍の状況だと本格的な装甲部隊運用をやると、装甲部隊だけが突出してしまい孤立する危険性が高く、運用法を考え直す必要がある様だ。








流石ドイツの技術は世界一です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! ドイツの対応早すぎる……一瞬ドイツ側にも転生者がいるのかと思ったけどそうでもないようですね
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