第五十九話 1915.3.15-1915.3.20 強襲揚陸艦出撃
北フランス沖に居た強襲揚陸艦が新たな任務に向かいます。
1915年3月15日、我が皇国派遣軍の精鋭たちは既に欧州大陸の戦地にあり、もう敵と戦火を交えているかもしれないな。
流石に俺が皇軍の高級軍人とは言え、戦地から離れている後方でリアルタイムな戦況が入ってくる訳もなく、ある程度遅れて入ってくるのは仕方が無い。
現時点で伝わってきているのは英仏軍が既に攻勢に出て、初期目標のヌーヴェ・シャペルの確保には成功したという事だけだ。
今の俺に出来る事は武運長久を祈る事だけだな。
今回の攻勢に海上よりの支援に出動していた強襲揚陸艦が新たな任務の為、テムズ造船所に戻って来た。
我が皇国艦隊が欧州へ来る途中にANZACの部隊を載せた輸送艦隊と合流し、彼らを護衛して英国まで来た縁があったからかどうかはわからないが、新たな任務というのは地中海の奥にあるトルコのガリポリへの上陸作戦に参加するANZAC部隊の上陸支援任務だ。
ガリポリでの戦いは、俺の記憶によれば通信が未発達なこの時代らしいというか、英仏軍の上陸部隊と司令部、更には上陸部隊同士が連絡を欠き、ちぐはぐに攻めた結果夥しい死傷者を出して最後の撤収以外はグダグダな内容だった気がする。
マシンガンが猛威を振るいだして以降の敵前上陸はこのガリポリの戦いが初めてで、だからここでも例に漏れずというか、文字通りエーゲ海が血の色に染まる程の犠牲者を出したのだ。
上陸部隊を支援する為に随伴していた戦艦を含む英仏艦隊は、上陸作戦の前哨戦として猛烈な艦砲射撃を、ガリポリ一帯に設置されていた要塞群に対して敢行しており、予定では敵の要塞砲は勿論、守備兵に至るまで粉砕された筈であった。
しかし、実際は要塞は死んでおらず、守備隊も健在で、更には巧みに敷設された機雷が猛威を振るい、英仏海軍の誇る戦艦が何隻も沈められ、或いは大破してしまい、上陸作戦実施の前に早々と艦隊は撤退してしまったのだ。
その為、上陸作戦当日の火力支援は、被害を受けなかった駆逐艦や上陸作戦の為に船体の両サイドにタラップを展開できるように改装された貨客船に搭載された小型の艦砲による小規模なものでしかなく、逆に英仏上陸部隊はトルコ軍の銃弾や砲弾の降り注ぐ中、上陸作戦を行う羽目になったらしい。
更に最悪だったのは、兵力をケチった為に偵察機もろくに飛ばせなかったため敵情をまるで把握することが出来ず、そして軍としてあるまじき失態であるが、軍用に足るまともな地図すら無かったというお粗末さだったのだ。
その結果、英仏両軍は夥しい死傷者を出し続け、来年の春先に撤退する迄戦闘は続いたはずだ。
この戦いそのものはグダグダでお粗末であったが、ここで得たデータというのは非常に得る物があった様で、それが後のノルマンディー上陸作戦に繋がったらしい。
実際、ノルマンディー上陸作戦の為に開発された様々な装備は、ガリポリの戦いを教訓にしたものが多いと聞く。
ただ、これはあくまで俺の前世の世界でのガリポリの戦いの顛末なのだが、この世界ではそのガリポリの戦いに我が皇軍の誇る強襲揚陸艦が参加することになったという訳で、これを英仏軍が有効に活用できれば史実より善戦するかも知れない。
不安要素としては、英仏軍はそれぞれ自前の上陸作戦の為の装備があるので、皇軍の強襲揚陸艦が支援するのは、上陸作戦の為の装備を持たないANZAC部隊の支援だけ、という事らしいのだ。
俺としては、皇軍の為に用意した上陸用舟艇など各種装備の実地テストが出来るからデータが取れて大助かりではあるのだが。
今回ガリポリの戦いの為に新たに強襲揚陸艦に装備するのは、上陸地点の敵を制圧する為の装備だ。自衛の為の艦砲は既に艦に装備されているのだが、上陸地点にある強固で濃密な防御火力を制圧する程の火力は、今の時点では装備されて居ない。
そこで新たに追加された装備とは、81mm自動迫撃砲をスケールアップした120mm自動迫撃砲、それに新たに開発した多連装ロケット砲だ。カチューシャ的な物とも言えるが、米軍の上陸用舟艇に装備されていたロケット砲の様な物と言った方がわかりやすいかもしれない。
どちらも上陸作戦を支援するのに、面で敵を制圧するのに最適な火砲といえる。
勿論、120mm自動迫撃砲も多連装ロケット砲も試射は済ませてあるが、実際に実戦に投入されるのは今回が初めてなので、想定外のトラブルが発生する可能性はある。
その為、最悪の場合はANZAC部隊が装備している野砲を甲板に展開して火力支援を行うことになっている。
ちなみに、強襲揚陸艦は本格的な手術室を複数備えている病院船としての機能も持つ。これまで投入されていた北フランス沖でも病院船として傷病者の受け入れを行っていて、友軍には好評だったようだ。
ところで、北フランス沖の艦内で医療活動に従事していたのは皇軍の衛生部隊ではなく、英軍の要請で英軍の軍医や従軍看護婦が乗艦していた。
だがこの度、強襲揚陸艦がANZAC部隊の支援任務に就くに当り、彼らは任務を終えて艦を降り、代わりに先に欧州へ来ていたANZACの軍医や従軍看護婦が乗艦して任務に就くことになった。
強襲揚陸艦はテムズ造船所で速やかに準備を整えると、随伴する皇軍の駆逐艦隊と共に一先ずアレキサンドリアへと向かう。そこでANZAC部隊と合流し訓練の後、上陸作戦に参加することになる。
勿論、上陸作戦の日時や上陸場所は機密なので、俺が目的地はガリポリだと知っているのは、あくまで前世知識として知って居るだけで、実際に俺が知らされているのは、強襲揚陸艦とその護衛艦隊はANZAC部隊が参加する上陸作戦の支援任務に就く、というただそれだけだ。
今回のガリポリ行きには、南部大佐も本人の希望で同行することになった。
強襲揚陸艦に搭載した多連装ロケット砲は南部大佐とオーストリア人のアルベルト・フォノが開発したものだし、同じく120mm自動迫撃砲も南部大佐が手掛けた物だから、実際に現地で具合を見たいというのはわからない話じゃないからな。
他にも今回の強襲揚陸艦には偵察機部隊の他、数は無いがフェアリーが開発した爆撃機も載せていく予定だ。
この爆撃機には、残念ながらまだ本格的な爆撃照準器は搭載されていないが、この時代の物にしてはまずまずの出来の簡易照準器は搭載されている。
今回は極秘任務という事もあり、強襲揚陸艦の船出には盛大な見送りも無く、早朝霧に紛れる様にして出航していった。
前世の世界での展開通りだと来年の春先までは戻らない筈だが、無事に活躍して戻ってくることを祈るとしよう。
ANZAC部隊と共にガリポリへと向かうことになりました。




