第35話 体験してみてどうでしたか
実際にあったからこそティアリル様は真っ赤になって縮こまっている。いや、この場合はティアリル様は悪くないですが……。
王太子妃の選定があるといわれた数年前のある年、お茶会の最中の雑談程度に王太子殿が好きな色を問われて当時密かに想い人であったティアリル様の瞳の色を思い出して答えた。『夜に沈んでいく時間の深い青は好きだな』と。その時から王太子選定のその日まで夜会には青いドレスが耐えなかった。むしろ青いドレスの娘ばかりになった。という逸話があったりあったり。あまりに目立つ事件だった為その色のインパクトから「黄昏のドレス事件」と言われているとかなんとか……
「一応例え話ですが実例がないとは言わないのでよく考えてくださいね?ミリュエラ様は学びたい何かの為に、それに纏わる全てに関わり学ぶ気がありますか?」
「……っ!何よっ!ただの魔導師の癖に!私の邪魔をするなんて!聞いたことに答えて貰えないことなんてなかった!聞いたことを理解すれば褒めて貰えた!それなのに最近は答えても貰えなかった!貴方のせいなんでしょう!?」
若干涙目になっているミリュエラ様。まぁその通りですが。
「確かに私のせい、とも言えますかねぇ。でもその元凶はご自身なんですよ。『学びたい人だけが学べばいい』そう言われましたよね?それで学ぶ意思がなかったミリュエラ様には『知識が得られない』ことを実践して貰いましたがどうでしたか。学ぶ必要はないと思われましたか」
「っ!そ、れは……」
「それにですね、気づかれたかは分かりませんがミリュエラ様が言われた言葉に反感を覚えた人は多いと思いますよ。比較的制度が整っている王都であっても学びたいから、というだけで好きなだけ学べる人がどれくらいか知っていらっしゃいます?」
「まだまだ行き届かないのよねぇ。私が個人で付き合うにも限度があるし」
キュレイア様は十分尽力されていると思いますけどねー。
「それでミルさん、どれくらいなんでしょう?」
「ざっくりと、でも好きなだけ学ぶとなると希望する人たちの一割にもならないんじゃないですかね。一般の人であれば最低限のことを学び身につければそのまま職に就くことになります。職に就いてもその仕事について知識を深めることもできますね。ただ身に着けることができる範囲は狭くなりますね」
「貴族であっても一生を研究に費やせる人なんてそうそういないわねぇ。学者みたいなことをやる人なんて一握りどころか一つまみね」
そんなに少ないんですか?と驚くリーシュ様とティアリル様。現状を知っている人たちはまだまだよねぇ、とため息を付く。
「学びたいことがあっても諦める人は少なくありません。また、学ぶ為に努力をする人苦労する人はたくさん存在するのです。ミリュエラ様はそういった人たちの存在を知らなかったとはいえ踏み躙る発言をした、その事はもう消えない事実なのです」
「ミリー、今回のことは公の場でなかったからこそ今日まで許されたし大きなことにはならなかったわ。でも言ってしまったことは消えない。あなたの言葉を聞いた使用人も存在したからミルちゃんはこういう手段を取ったわ。実際にあなたが体験することになったから皆その後のあなたを見守っていた。まぁ本来ならこんな説明をするはずはなかったけれども『今』あなたは知ったことがあり気づいたことがある」
それまで積極的にミリュエラ様に話しかけなかった王妃様が淡々と語る。そしてじっと見るその目は結論を問いかけている。
「っ!だって知らなかったもの……。分からないままのことがもどかしいとか知ることができないイライラとか……自分で調べようと思ってもたくさんありすぎて本からはなかなか見つからないし読んでも意味がわからないし!別の本を見たら違うことが書かれててどっちが正しいのか困るし!」
「あら、意外と自分ひとりでもがんばってたんですね……。調べたものが何かは分かりませんが研究する人によって視点が違い調べた時期が違えば情報も違うのでその見解が違うのはよくありますよ。その真相を研究する人たちは今もまさに、奮闘しているということです。それで体験してみてどうでしたか。『学ぶこと』は本当に必要ないと思われましたか?」
「っ!……必要がないとは言いませんわ!学問を生き甲斐としている方も、教えることに力を注いでいる方がいることも私は今、初めて『知った』のです!それを知ってしまってから必要がないなんて言えないですわ!」
計画を知る人は待っていた。その言葉を。
ここに結果は出た。
さて、その結論は……




