第34話 忘れましょう、あの時のことは
「さて、ではお口に合うかわかりませんがどうぞ、ご賞味ください」
キュレイア様仕込みの美しい所作を心掛けてお茶注いで振る舞う。特に注意を受けなかったので合格点ということだろう。いや、久しぶりにお気に入りのお茶を目にしてあんまり見てない気もしたけど。
「相変わらず美味しいわ。このブレンドがいまだにわからないのが悔しいわ……。隠し味が何かこう、特徴あるのだけれど……」
「ミルクティなのに少し爽やかな香りもして美味しいですわ」
「……これ、リルティグレイ……ですの?」
『え?』
あら、ばれた。しかも意外にもミリュエラ様。
「ばれちゃいましたか~。まぁそれだけ、ではないのですが。癖が強いリルティグレイですが、ミルクと合わせると柔らかくなるでしょう?普通に飲むのは苦手という方でも意外と飲めたりするみたいですよ」
「お姉様、あの華やかな香りがお好きでよく飲まれてますものね……」
「でも全然気づかなかったわ。そう言われて飲むと確かに。あのお茶はストレートだと香りが強くて熱いものは苦手と思っていたのにこれはミルクの香りにほのかに柑橘の香りがして飲みやすいわ」
リーシュ様や王妃様も驚いた様子。
「美味しい、ですわ……。ベースももしかして複数入っているんですの?」
「うーん、ミリュエラ様はほんとにお茶がお好きなんですねぇ。ブレンドは秘密ですけど確かに全部で三つ以上混ぜてますよ。これが絶対じゃないですし好みで変えたらいいと思いますよ」
「これに関してはリメイの入れ知恵ね?」
今までわからなかった謎が解けてすっきりしたのか機嫌良くお茶を飲みながら聞いてくる。まぁその通りです。単品ごとのお茶のスパルタされた後に毎回ブレンドしたおすすめのお茶を飲ませてくれてそれが意外と美味しくて面白かったから自分で好みのを作ったのがこのミルクティ。リメイにも好評でした。
「お茶はちゃんと勉強すると深いですからねぇ。それぞれの特徴を知ればブレンドを試すのも楽しくてつい……。それぞれに特徴や歴史があってなかなか面白いですよ。キュレイア様もぜひ暇があればリメイとその辺は研究して広めて頂きたいところですね」
「そうねぇ。今はあんまりブレンドを試す人もいないものねぇ。もっといろんなブレンドが流行ったらいいとは思うけど流行らせる人もいないし。リメイは好きで詳しいけど本職はやっぱり魔導師というか現状は司書だしもともとそんなに社交するほうでもないものねぇ……」
いえ、リメイの性格的に社交に向かないと思います。仕事で、っていうとその間はきっちりやってはくれるけど……。のほほんとお茶を楽しみながらティアリル様も会話に加わる。
「リメイさん社交ではあまり出てこないですものねぇ。仕事の依頼をすればちゃんと出てきてくれるのですけど……。今は司書のお仕事も忙しそうですしあまり気軽にお茶に呼び出すのも難しいですわね」
「図書館の人員を増やして余裕が作れるならリメイに家庭教師を頼めばいいと思いますけどね。勉強というとこだとピッドやミーナさんもいいのですがピッドは暴走すると困るのでおすすめできませんねぇ。そしてピッドを残してミーナさんに来てもらうと残されたピッドがそちらで暴走したときがどうなるかと思うとミーナさんも手放しにはおすすめできないんですよね」
「あれはどうしようもないわ。研究熱心なのは素晴らしいけど周りが見えなくなるのが困りものよね」
昔、発見された文献の調査依頼を受けた時のことを思い出したのかため息をつくキュレイア様。文献から分かったことから派生したことまで気になったからと調査に暴走したあれを思い出しげっそりする……。リーダーに振り回されるこちらの身にもなって欲しい。基本的にギルドの依頼完了届けはリーダーが出す。戦闘があり不慮の事故が起きた場合を除くが……。そこでリーダーがあれもついでに、と暴走していればどうなるか。まぁ想像の通りである……。まさか知識欲による暴走が二ヵ月も続くとは思わなかったが。
「忘れましょう、あの時のことは……」
「そうね……」
遠い目をして空虚な微笑みを交わす二人を見て詳細を聞いてくる人はいなかった……
それは置いておいて。いいタイミングだから「最後の質問」をしてみますか。
「ミリュエラ様はどうですか」
「……え?」
「今回の話で限定して考えてもらうとしてお茶についてのことを『学ぶ』気は起きないですか?」
「!?」
「ミルさん……それは」
何かを聞きかけたリーシュ様にそっと目をやると口を閉ざす。察しがよくてありがたいです。これはミリュエラ様が自分で解くべき答え。静かな眼で答えを見守る王妃様。
「そ……っそれはっ!!」
「お茶と一言に言ってもこの場合は取得すべきは広いですよ?お茶そのものについてもですしそれに付属する歴史や逸話もあります。広めるためには社交の技術やその為の話題の選び方もあります。何度か社交に参加されて感じました?十五歳を超えて正式にデビューをすればお二方はその立場もあって社交の場に立つ機会は増えます。場合によっては主導を取る必要も出てくるでしょう。ですが、今のミリュエラ様でそれができますか?」
はっきりと王女の目を見て問いかける。
「!!なっ!……私は王女ですのよ!」
「えぇ、存じてますよ?それでも、というかだからこそ?言ってるんですが?ご自身の発言がどれだけ力を持つことになるか理解していらっしゃいます?例えば貴方が真紅を素晴らしいと褒めればそれだけでその年の夜会は真紅のドレスに染まる可能性もあります」
「え……」
ティアリル(王太子妃)の紹介って書いたっけ…?とかいう状態になったり。
あれー?紹介、あれ?うーん?




