第29話 そんな幻想捨てちゃいなヨ
訓練場に並んでいるたくさんの模擬戦や練習用の武器を眺めながらメルナが尋ねてくる。
「私も武器を選んで練習するほうがいいんですかね?」
「そうねぇ……メルナはそのうち自分にぴったりな物を選ぶのがいいかもね」
「メルナさんだけ、ですか?私も何か覚えるほうがいいのでは?」
「リーシュ様には既に決められているものがありますわ」
『え?』
「そうそう。王族の女性が実は得意とするものがあるんですよねー。だからリーシュ様はそれをどっちにしても身につけることになると思いますよ。王太子妃様にでもこっそりと伝えておきますね。ダンスの授業にでも始められると思います」
ちょっとだけ見てみます?と言って私は壁際の棚からある武器を二つ取って片方をリメイに投げる。
「あんたとこれで戦うの嫌なのよねぇ……軽すぎてどうも好きになれないわ」
「その感想もどうかと思うけど。今日は簡単な演武に近いものだけお見せしますね」
パラララと軽い音を立てて二人揃って練習用に作られた木製の武器を開く。
「お、扇……?」
「えぇ、実戦用のものは骨組みなどが金属で作られています。王妃様や王太子妃様も常にお持ちだと思いますよ」
「そう言われれば確かにいつも持っている気がしますね。あれ、武器だったんですね……」
向い合い、リメイはドレスの裾を摘んで礼を取り、こちらもマントの裾を掴み礼を取る。姿勢を戻し、目を合わせた所で二人は同時に動く。
ダンッ!カツンッ!
リメイが踏み込んで振り下ろした扇の角を閉じた扇で弾く。弾いた流れで閉じたまま突きで追撃する。後方に飛んで躱したリメイは要をこちらに向けて投げつけてくる。しかも扇を追って本人も突っ込んでくるし!
ひゅんっ!ガシッ!
飛んできた扇を開いた扇面で弾いて落ちる所をキャッチする。弾いた扇を持った手に掴みかかられ、私は手に持っていた扇を手首を返しながらクルリと回してリメイの目に向ける。
「ふっ!……と、これくらいでいいかしら?」
「そうねー」
後ろに飛んで攻撃を躱して止まったリメイが言う。
「ふぅ、まぁほんとに少しですがこんな感じですね。基本はやはり体術になるのでそちらは私もお教えしますよ。扇の扱い方や魅せ方に関しては他の方のほうがいいと思います」
「が、がんばります……」
「じゃあそんなわけでせっかく訓練場も直したし、二人はこれから三周走ってきてね」
『え?』
私のその提案にガチン、と固まる二人。ぎぎぎっとこっちを見てるけど別に何も間違ったことは言ってない。
「こ、この格好でですか?」
「うん、日常でよく身につけそうな服で比較的動きやすいものって指定したわねぇ。それに私はともかくリメイは普通に普段着のドレスですよ」
「こ、この訓練場結構広いですよね」
「そうですわね。ですが私とミルなら問題なく五周は走れるでしょうね。さすがに十周となると息が切れるかもしれませんね」
依頼で侍女やら本人に扮しているのに立ち回りが必要でドレスで全力疾走なんてこともあったり。囮をしてたらほんとに誘拐されてそのまま連れ去られてみて敵を特定して潰してみたり。
「え、魔法を使う人って私のイメージだとすごく運動苦手なイメージなんですけど」
「ハハッ!そんな幻想捨てちゃいなヨ」
「まぁメルナもリーシュ様も諦めてください。そもそも魔導師を目指したいメルナと護衛目的のリーシュ様にはどちらも必須かと思いますわ」
魔導師を目指すなら出来て当たり前だし自衛目的で魔法を使うなら詠唱を完成させるために体術でさばかねばならない。また魔力は生命力にも繋がる為、魔法の行使には体力が意外と必要になる。どちらにしても体力は必須。特にリーシュ様にはよく使いそうなドレスの型でなおかつ今回は動きやすいもの、としてもらった。自衛ですぐにでも使えたほうがいいという点ではリーシュ様のほうが緊急度は高いがさっきの実践や練習の様子では目くらまし程度ならすぐにでも実用範囲。攻撃系よりは出来れば防御に優れる点で土系を強化したいところ、という感じがする。
「もちろん慣れてくれば詠唱を工夫し短縮することも可能です。魔導師長のピッドは接近戦がそんなに得意ではないので詠唱の短縮に力を入れてましたから。機会があれば見てみるといいですよ。得意武器が投げナイフということもあって遠近両用って感じでなかなか便利です」
「投げナイフで間に合わなかった分も魔法で何とかしてしまいますからね。一応苦手といいつつさばく程度には武器も使いますから昔組んでいたパーティでは比較的万能な位置でしたわ」
「すごい濃いパーティですね……」
「私、リメイ、ピッド、ミーナさんだったからねぇ。構成自体は魔導師のみだけど前衛兼火力って感じで私とリメイかな?」
「もはや魔導師のパーティとは全く思えない感じですね……」
ちょっとだけ用語解説?
リメイが投げつけた『要』って?
かなめ。扇を開く際に根本で止めるもの。扇子の要は、金属やプラスチック、鯨ひげなどで骨を束ねている。この部位が壊れると扇子としての用をなさなくなるため、最も重要な部分である。ここから、「肝心要」の語源となった。
Wikipedia「扇子」より。
扇を武器に、は前から考えていてやってみたかったのです。実際に調べてみると護身術として「鉄扇術」や「白扇術」といったものがあるみたいです。扇投げは実際投げるなら畳んで投げるかあの閉じてるとこを錘に投げるしかないよなぁ?って思ってあそこなんて呼ぶんだろう…、とか調べてみたのが上の結果でした。




