第17話 ちょっと大人しく殴られなさい!
完成したら連絡をもらうことにしてベルベットの店から逃げ出した……。
「ふわぁ……すごい人でしたね……」
「うん……センスも腕もいいんだけどね……。あれだけがなんとも……」
彼女の衣服にかける情熱は誰も止めることが出来ない。これはあのお店を知ってる人なら共通の認識。また、本人が魔導師でもあるため作られる服には様々な効果をつけてもらうこともできる。こっそりと注文しておいたので見た目に似合わず耐久性と耐魔性に優れたものが仕上がるだろう。ダルディナー先生は魔道具作成の第一人者だが衣類に関してだけは彼女の右に出るものはない。ただしその衣類に掛ける情熱が暴走しすぎでなかなか頼みづらいというのが現状。だって毎回デザイン作成や試着で何時間も拘束されるのはねぇ……?
ちょっとぐったりしたのもあって二人で近くの屋台で冷たい飲み物を買っていると後ろから声をかけられた。
「あー。やっぱりこのあたりにいたか」
「あれ?ライルだ。何かあった?」
「うんや。村の件は報告は上げたから今日行ける奴が行くってことで騎士団から数人と駐屯してくれる魔術師がとりあえず出発するってくらいかな。別件、っていうか依頼を受けるもとになった図書館の件で」
そういえばそんなのが原因だった気がした。許可が下りて通行証が発行されたのでその連絡で学院に行ったら店に行ったことを聞いて追いかけてきたらしい。
王子様にご足労掛けまして申し訳ないですね~。
そんなこともあって早速図書館に行きましょう!ということに。ライルも付いてきてくれるらしいので三人で王宮図書館に向かう。歩きながらメルナに町の案内や王宮図書館について説明をする。ここランドールの王都は卵型の城壁に囲まれている。頂点近くに王城がありそのすぐ右側が魔法学院を中心に学生街と研究所が並び左側に貴族街が並ぶ。城壁の下半分は一般の人たちの街や商店が密集している。王都はざっくりと王城とその周辺の中央区画、学生街を中心とした東区画、貴族街の西区画と呼ばれている。まぁ学生街と言っても下宿屋が多いことと魔法関連のお店が多いくらいで比較的南区画との差はない。
「なるほど~。じゃあ西区画は立ち入ることがなさそうですねぇ?」
「うーん、そうでもないかも?学院やギルドなんかに雑用も含めて仕事の依頼を出すのは貴族が多いからね。そうやって仕事を出すことで交流が図れるし市井に還元することが重要っていう風に貴族の方でも考えてる人は多いみたいよ」
「はぁ……そういうものなんですか」
「そういうものなんだよ。治安を保つためにもそういった循環は大事なことだからな」
雑談をしている間に王城に到着して図書館に向かう。城門を通る時にライルのことを知ってメルナが一瞬意識を飛ばしたのは割愛する……
まぁそうだよねぇ。使いっぱしりにされる王子ってどうなの……?
「そういえば図書館ってそんなに手続き大変なものなの?まさか依頼を吹っかけられるとは思ってもなかったわ……」
「うーん……普段はそんなことないはずなんだが。ただ通行証の発行を依頼で書類を回したら司書がそう言ってきたってことらしいけど」
司書の気まぐれですか……そんなの通っていいのかっていう気もするけど聞いてみると今の司書は新しくはあるが非常に有能で力を持っているらしい。
魔法に詳しくて王宮の魔導師とも親密で低いが爵位もある貴族の一員。本人も魔導師の力を持ち性格も細かく図書館の利用はしやすいとのこと。
あれ……?王宮の魔導師=ピッドたちと親しく爵位は低いが貴族で性格が細かい……?なんか引っかかるような?
何かに引っかかると思いながらも図書館に到着。早速入口で手続きをして中に!と……。
入口にいた腰まで伸ばした黒髪の司書が振り返った。
あれ?
「来たわね……ミル」
なぜかとても懐かしい人が見えた。
「あれー?なんでアマラ……」
「その二つ名で呼ぶんじゃないわよ!」
「リメイ……卒業の前に婚活してたんじゃないの?就職じゃなくて結婚を希望だったのかと」
「うるさいわね!」
「しかもなんで宮廷魔導師のほうじゃなくて図書館司書?なんか似合ってなくない?いやでも細かいとこは似合ってるのかな……」
「宮廷魔導師の募集が無かったからしょうがないじゃない!」
「あぁ。前年にピッドとミーナが入ってるもんねぇ……。ていうか婚活してて就職活動してなかったんだししょうがないじゃん?」
ぶちぃっ!
どこからか鈍器を取り出して構える図書館司書。
「……ふふ、ふふふふふ……。ミル、頭をかち割られたいのかしら?ちょっと大人しく殴られなさい!」
「きゃー。リメイが怒った~☆」
何か引っかかると思っていたのは学生時代にパーティを組んでいたある人とシンクロしていたからだったようだ。腰まで伸びた緑がかって見える美しい艶やかな黒髪。孔雀石を削ってはめたようなややつり目の緑の目。懐かしい同級生との再会にちょっとだけ浮かれてからかったら得意武器で頭をかち割られるとこでした☆
学院では経験を積むということでギルドの依頼を受けることを推奨される為、学生同士や研究員で固定のパーティを組むことが多い。私、ピッド、ミーナさん、リメイの四人で固定パーティを組んでいてよく一緒に依頼を片づけていた思い出。案外いいバランスだったんですよ?メインの交渉ごとはピッドが受け持ち下調べや細かい調整をミーナさん、依頼主が貴族の場合が多いので人脈や情報収集をリメイ、力技で終わることなら私が片づけ細かい部分はピッドやミーナさんがフォローするといった具合に……。まぁ残念ながら私が色々と勧誘のしつこさに辟易して村に帰ることを決めた時点で解散を決めたわけだが……
「ふ~む……?もしかしてリメイ、寂しかったぁ?いいバランスだったのに解散決まっちゃってからはあっという間だったし」
リメイの方が二つほど年上だけど可愛いものだ。思わずニヤニヤしてしまう……
「なっ!?そんなわけないでしょ!あんたが急なこと言うからみんなバタバタしたんじゃない!」
「いや、半年以上あったはずだけど……。まぁいいや、全然あれからこっち来なかったしねぇ。ごめんごめん」
「だからべ、別にミルのせいじゃないわよ!たまたま募集があったから応募して王都で仕事することになっただけよ!」
ぷいっとそっぽを向いたリメイだが顔が赤い。
「と、とにかくさっさと入りなさいよ!ちなみにミルが前に見たがってた本はここだからね!」
カウンター横の机に積まれた大量の本を見てライルが呟く。
もしかして依頼をこなしてこないとって言ったのはこの準備のための時間稼ぎだったんだろうか……。いや、まさかね?
「……至れり尽くせりだな……仲がいいなお前ら……」
「ハハッ……愛サレテテコマッチャウナ☆」
「誰がよ!?」
やっと出るべき子が出ましたよ!長かった……。
何に一体阻まれていたんだろう。
●登場人物紹介●
●リメイ・イーサ・コルネット(19)
髪:緑がかった黒
目:深緑色
ミルをライバル視する魔導師。ミルが卒業後3年かかって卒業。宮廷魔導師を希望し1年就職浪人(研究室居残り)で就職。
宮廷魔導師の枠に入れず王宮図書館司書になる。実は下位貴族のお嬢様。ツンデレ属性。
鈍器を扱うのが得意。破壊力があって殴り甲斐があるからいいのよね!とは本人の弁…。付いた二つ名が「拳で語る赤紫の令嬢」




