第12話 でもいいかい。よく覚えておきな
泣き続けるメルナの傍にレマが現れて頭を撫でる。
「れ、レマちゃ、ん。みんな……いなく、なっちゃったよ……一人、になっちゃ、ったよぉ……!ヒック……」
「メルナ……。ごめんね……間に合わなくて」
「!ちがっ……違うんです、ミルさんがっ!悪いわけじゃないです!分かってるんです。でも、でも……!」
地面に座り込んでいるメルナの傍に膝をつきそっと抱き締めると振り返って首を振りながら縋りついてくる。
頭で理解しても心は着いていかないだろう。
しばらくして泣き疲れてぐったりしたメルナに恰幅のいいおばちゃんが声をかけてくる。
「メルナちゃん大丈夫かい?」
「おばさん……はい、心配掛けてごめんなさい。みんなも同じなのに取り乱しちゃって」
「それは仕方ないよ。でもいいかい。よく覚えておきな。人間はいつか必ず死んじまうんだ。誰でも死亡率は100%なんだからね。だからこそ後悔しないように生きるんだ。わかるかい?」
それは重い言葉だった。そっとメルナを見る。しばらく俯いていたがはっきり頷いて顔を上げた。
「はい。家族のみんなの分も精一杯頑張ります……!」
「よし。それでこそこの村の子だよ。こんな事故がなくたってね、村に住んでいれば獣に襲われることだってあるかもしれない。盗賊が出ることがあるかも知れない。だからいつだって一生懸命生きるのが大事なんだよ」
そう言って豪快に笑うおばさんは強い瞳でメルナを見てしっかりと抱きしめた。
少し離れて村人達のやり取りを眺めているとポツリとライルが言う。
「強い人がいるっていうのはいいことだよな……。ほんとにいい村だ」
「そうね。きっとゆっくりでもまたここは新しく生まれ変わって育っていくんでしょうね」
「さて。ほんとに夕方までに終わったがどうする?」
「とりあえずは報告に戻るわ。復興の人手や物資も要るだろうから要請しないとでしょうし……」
ちなみに合間に村人に聞いて覗いてみた魔術師の家はもぬけの殻だった。綺麗さっぱり痕跡がなく名前すら誰も知らない状況になっていた。本当にたちが悪い……。
依頼の完了報告と同時に村に駐在する魔術師の手配や森の詳細な調査と村の復興の手配が必要になるな~っと考え帰り支度を始める。
「少しですが応急手当に必要なものは置いて行きますね。後日、応援物資が届くよう手配しますので。後は応急処置ですが簡易の結界は張っておきます。常用にはまた後任の魔術師を配置するよう進言しておきますので」
「何から何まですみません。助かります!やっぱり魔法って言うのはすごいですね」
「あー……。それとメルナから少し聞きましたがこの村に対する魔法の認識は若干間違ってます。魔力は誰でも持っていますし日用に使う簡単なものなら覚えてしまえば誰でも使えますよ」
村人達に走る戦慄。
「えっ??は?魔法は選ばれし者にしかって……」
「マジで!?俺も使えるの!?」
「じゃあ水汲みが重たいのに頑張ってた意味は!?」
「えーっと……意味、は……。……体力が付いて健康的になったかもしれませんね!」
ちょっとやけっぱちに回答するとがっくりと崩れ落ちる数人の奥様。なんだかとても可哀想になってきたので水の魔法だけは広めておくことにした。
「いいですか、飲み水用として一般的に使われている魔法は潤いの水といいます。精霊に魔法を使うので力を貸して欲しいという呼びかけの事を起動句と言い水の場合は『轟き流るる蒼き水』です」
ふむふむと周囲に集まった村人達は真剣に頷きぶつぶつと口にしている。反応して精霊たちの力が集まって来ているのが感じられる。
「慣れとイメージさえしっかりしていれば起動句の後で魔法名を唱えることによって発動します。慣れない場合は直接どういう風にしたいかを口にするといいですよ」
説明しながら手元にたらいを用意して実践する。
「轟き流るる蒼き水。喉を潤す清き水で満たせ。潤いの水」
ばしゃーっ!
う……。極力絞って力を使ったが勢いよくたらいに落ちる水。
「おぉぉ~。便利そうだな!水も使い放題だ!」
「あ、そうでもないですよ」
「え……?」
「人が使える魔法はそれぞれ人の魔力の所有量によりますがあまり大量に使うと倒れるかもしれないです。分かるまでは一日に数回に留めておいて下さいね」
しょんぼりするおじちゃんたちに分かりやすく説明をするためにたらいから桶に水を半分ほど移す。コップで水をたらいに戻しながら説明する。
「まず、自分が持っている魔力の量をこの桶の水の量とします。魔法を使うとコップで移していったように減って行く訳です」
「どんな魔法でも同じくらい減っちゃうの~?」
「ううん、そんなことないわよ。先ほどの水の魔法でもコップ一杯の水を作り出すよりも水がめを一杯にするほど作り出したほうが当然たくさん魔力は消費されるの。使った分は徐々に回復していくので使い切って終わりってことはないわ。回復の速度は人それぞれって所かな」
「魔力の量は目では見えないんですよね?誰がたくさん持っている、というのは分からないものですか」
興味津々な小さな子供達も質問してくる。今まで使えないと思っていた魔法が自分にも使えるかもしれないという期待にキラキラしている。
「そうですねー。魔法を専門に教える教育機関や研究所などでは魔力を測定するものがあります。後は魔力を多く有している人は精霊に好かれやすいですかね」
「さっきのキラキラしてた妖精さんが精霊さん?」
「シャインやレマは魔霊っていうの。基本的に精霊は存在するだけで自我や意思がないけどもう少し力を持っていて自分の意思を持つものを魔霊って分けているの」
「魔霊さんー。可愛かったー!」
ちびっ子も可愛いよ!にこにことはしゃぐ女の子を見て和む。
「時間もそんなにないので後任が来てから魔法の簡単な勉強会でもやるほうがよさそうですね」
「ぜひとも!今まで全く使えないと言われて疑ったこともなかったので……。王都や他の町に行くことがあって使っているのを見たと言っても特別な道具などを使っているからと言われて信じていまして……」
はぁ。なんとも素直な村の人たちだ……。




