第11話 それでもやっぱり……
逃げていくゴブリンを追うと侵入してきた場所なのか柵が壊れている場所に向かっている。
森に近い小さな家があるが最初に襲われたのか破損が激しい。中に生きた人の気配はない……。唇を噛みながら通り過ぎ森に入る。
木々が多いので下手に火は使えない……
「チッ!面倒な……!轟き流るる蒼き水!蒼き氷結!」
「ギャウッ!ググ……」
前を走る背に向かって飛んだ氷の塊が着弾し氷漬けになり砕け散る。
一番大きなゴブリンが振りかえる。最後の取り巻きが消えたことに気付いたリーダーらしきゴブリンが呻りをあげながら向かってくる!
「グギャギャー!グオオォォ!!」
「あんたたちの言葉なんてわっかんないわよ!」
振りおろす斧を右に飛んで避けその手を蹴りあげる。手許への攻撃に武器を落とし掴みかかってくる!
しゃがみ込んでかわしてそのまま飛び上がる。強化している脚力によってゴブリンの頭を上から踏み下ろす。
めきょっ!
「ギャッ!?ギィ……」
地にめり込んだ頭を上げようともがき暴れるゴブリンから飛びさすって着地して火の玉を打ち込む。
「輝き燃ゆる赤き炎。炎の爆発!」
「グギャアアアアア!」
ドンッ!ゴォォォッ!
着弾と同時に爆発し炎に包まれる。燃え上がったのは一瞬で黒い塊となって絶命する。
「……潤いの水」
周りに燃え広がらないよう水で消火して小さく息を吐き村へと踵を返す。上がっていた黒い煙はいつの間にか消えていた。
ゴブリンを追って走る間に見えた倒れていたいくつかの人影は動いていなかった……。
―――間に合わなかった。
そんな思いが苦く心に広がる。
かつて依頼を受け始めたばかりの駆け出しの頃に言われた先生の声が蘇る。
“どんなに力があっても助けられない時もある。思い上がるな。手が届かなかったものまで自分で背負い込むな”
「それでもやっぱり……きついものはきついんだよね……もしかしたらって思うと……」
もし、もっと早く到着していれば。
もし、もっと正しい知識が広まっていたら。
もし、村にいる魔術師が正しい心を持っていれば……
暗くなる心は抑えられなかったが起こってしまったものは戻せない。
足早に村の中心にある広場に戻ると村中の人たちが集まっていた。怪我人に手当をする人たちや亡くなった人を清める人たちで溢れている。
「あ!魔法使いのおねーちゃんが戻ってきたよ!」
「おぉ、ご無事でしたか!」
「はい、リーダーも倒してきましたし森にこれ以上のゴブリンの気配はありませんからご安心下さい。まだ終わってない方の治療しますね」
小さな怪我はシャインがほとんど治療を終えて大きな怪我の人たちにかかっていた。パタパタと光りながら飛び回る妖精の姿に村人たちの目が奪われている。
癒し効果だねぇ……。
「シャイン、ありがと。治癒かけるから補助お願いね。眩く照らす白き光。天使の手当て」
声を掛けると飛び込んでくるシャインを受け止めて治癒の術を使う。魔霊たちには加減が難しいらしく大きな怪我の治療が苦手らしい。止血と痛み止めの処理をして待っていたようだった。
傷口を確かめて再生が終わったところで止める。繰り返して残った数人の治療が終わり静かな寝息が聞こえる。
「ふぅ……。治療使った後の人たちは体力が落ちてると思いますので今日はゆっくり休んで下さいね」
「ありがとうございます。魔導師様!」
「いえ、もっと早く来れたら良かったのですが……申し訳ないです」
頭を下げると集まっていた村の人たちが口々に声をかけてくる。
「そんなことないっすよ。魔導師様が来てくれなかったら本当に全滅しててもおかしくなかったっす」
「そうだよ。森が騒がしいって思っていたらゴブリンが現れて慌てて魔法使い様を呼びに行ったらお屋敷はもぬけの殻だったからね」
「え、じゃあ最初から逃げ出してたんですか。はぁ……炎系の魔法が多少でも使えるならそんなに脅威じゃないのに……」
「やっぱり火が弱点だったんですね。襲われたある家が火事になったところそこからは逃げ出していたのでもしやとは思ったんですが」
気づいても火をそう武器として扱うことが難しくて、と眉間にしわを寄せているおじさん。確かに火を武器にするには松明を投げつけるか火矢をかけるかって感じになるがどちらもある程度準備が必要になる。
難しいんですよね~……。そうですねー、森の獣たちも確かに火を苦手とするものが多いが森で狩りをするのに火を武器にすることなどないので…と自衛団の人たちと予防策を話し合う。
「若干もったいないし扱いが難しいですが村の周りの柵の所々に常時松明など用意しておくといいかと思いますよ。獣たちもそれで警戒して寄って来なくなりますし」
「そうですね……急な火が必要になればそこから取るということもできるようになりますね」
剣を持っていた若者と話していると後ろから小さな女の子の声が聞こえた。
「ままー……メルお姉ちゃんがいないの」
「あ!メルナたち忘れてた!ちょっと迎えに行ってきます」
ライルに終わったことを知らせるために空に向かって火の玉を一つ打ち上げ走り出す。今なら飛んで行って帰っても大丈夫だろう。
「空駆ける翼!」
ダンッ!
踏みこんで低空滑走で村に向かってくる道を飛ぶ。しばらく飛ぶとこちらに向かってくる大小の影。
「お。ミルだ。お疲れー」
「ミルさん!村はどうでしたか!?」
「ただいま。ゴブリンは全部倒したわよ。まずは村に行きましょ。迎えに行くって言ったから迎撃されることもないし飛んで行くわよ」
ライルたちに向かって手を出すとメルナをライルが抱き上げて手を取ってくる。しっかりと握り返して空を飛ぶ。
「わあぁ!飛んでるーー!」
「ライル、しっかり抱いておいてよね」
「当たり前だろ」
初めての体験に目を輝かせるメルナを見つつ村の状況を思い出すと少し心が痛む。
助かった人もいるが全部ではない…。もともと人数の少ない村なのに少なくない犠牲が出てしまった。
メルナも徐々に静かになって近付いてくる村を見ていたが広場に着陸すると倒れた人たちに向かって駆け出す。
「お、とーさん……?おかーさん!お兄ちゃん!!」
「メルナちゃん……」
号泣する小さな背中に村の人たちも声を掛けることが出来なかった。
メルナごめん!すまぬぅぅーーー!
……と思いつつどうしても筋的に譲れなかったのでした。




