神聖な円卓会議に乱入した新入り、空気を読まずに【創造】魔法でやりたい放題する件
首都プリズム・コアの入り口にあたる巨大なアーチを抜け、少し進んだ広場でヴァンはバイクを停めた。
洗練された石造りの街並みと、行き交う人々の活気に満ちた喧噪が二人を包み込む。
サイドカーから降りたセレスは、制服の皺を軽く払いながら居住まいを正し、改めてヴァンに向き直った。
「……あの、今日は本当に助かったわ。ここまで送ってくれたことも、感謝してる。もしよければ、お礼にご飯でもどうかしら?」
「いや、いいって。気にするなよ」
ヴァンは面倒くさそうにひらひらと手を振ったが、すぐにニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「まあ、どうしてもって言うなら……その自慢の胸を揉ませてくれるなら考えてやっても——」
「やっぱり前言撤回よ! 最低の変態男!」
顔を真っ赤にして怒鳴りつけるセレス。
「冗談だっての。じゃあな、お姉さん」
「もう二度と会いたくないわね。……でも、助けてもらった恩は忘れないわ。ありがとう」
「どうせこの街にいるなら、またすぐに会いそうだけどな」
ヴァンはヘルメットを被り直しながら軽くウインクをして見せる。
『……』
ノワは呆れたように無言でそっぽを向き、ブランは『またね、お姉さん!』と元気よく尻尾を振った。
「勘弁してちょうだい……」
セレスが大きなため息をついたのを見届けると、ヴァンはバイクのエンジンを吹かし、プリズム・コアの雑踏の中へと消えていった。
ヴァンと別れたセレスは、指定されていた極彩色特務隊の施設へと足を向けた。
街の中心部に近づくにつれ、周囲の建物はより荘厳さを増していく。やがて彼女の前に現れたのは、巨大な教会を思わせる神聖で厳かな白亜の建築物だった。
施設の中へと足を踏み入れたセレスは、受付に立つ制服姿の職員に声をかけた。
「白の国、治安維持隊から参りました。セレス・クラーブです。新しく極彩色特務隊の一員として赴任いたしました」
「お待ちしておりました。身分証の確認をお願いいたします」
セレスが自身の粒子にのみ反応するパスポートを提示すると、受付の職員はそれを確認し、恭しく一礼した。
「確認いたしました。歓迎いたします。あちらの更衣室に極彩色特務隊の制服が用意されておりますので、まずは着替えをお願いいたします」
更衣室で極彩色特務隊の制服に袖を通し、セレスがロビーへと戻ると、そこには見知った顔があった。
「あら、セレスじゃない。やっぱりあなただったのね」
「ブランカ……!」
そこに立っていたのは、白の国の第三位階であるブランカ・ノエルだった。
「久しぶりね。元気にしてた?」
「ええ! ブランカも元気そうでよかったわ。……あれ? ルーチェさんは一緒じゃないの?」
セレスが周囲を見回しながら、同じく白の国の第二位階であるルーチェ・ファルの姿を探す。
「彼ならまだ到着していないわ。どうせまた、どこかで寄り道でもしているんじゃないかしら」
ブランカが呆れたように肩をすくめた、その時だった。
先ほどの受付の職員が、案内のためにセレスの元へやって来る。
「お待たせいたしました。これより——」
「ああ、彼女を円卓へ連れて行くんでしょ?」
職員の言葉を遮るようにブランカが尋ねると、職員は静かに頷いた。
「だったら私が一緒に連れて行くわ。私も今から円卓に向かうところだから」
「かしこまりました。では、ノエル隊員、ご案内をお願いいたします」
職員が一礼して去っていくと、ブランカは「行きましょうか」とセレスに微笑みかけた。
荘厳な装飾が施された長い廊下を歩きながら、セレスは弾むような声で口を開いた。
「ついに、ヒルデガルド様に直接お会いできるのね……! 私、ずっとお会いしたかったの」
白の国の第一位階であり、現在の極彩色特務隊を束ねる『極彩筆頭』ヒルデガルド・セリーナ。彼女はセレスにとって、長年の憧れの存在だった。
「ふふ、昔から憧れていたものね。でも、緊張しなくて大丈夫よ。あの人は……良くも悪くも、少し規格外だから」
ブランカの言葉に、セレスは不思議そうに小首を傾げた。
重厚な装飾が施された扉を押し開けると、巨大な円形のテーブルが中央に据えられた広間に出た。
その一番奥、扉から最も遠い席に、一人の人物が腰を下ろしていた。
テーブルに片肘をつき、退屈そうに頬杖を突いていたその人物は、扉が開く音に顔を上げる。
「遅いぞ、ブランカ。待ちくたびれたよ」
男性のように低く落ち着いた、しかしどこか優雅な品を漂わせる声。
直後、その鋭い視線がブランカの隣に立つセレスへと向けられ、ピタリと止まった。
「……おや?」
彼女は面白そうなものを見つけたように目を細めると、ゆっくりと立ち上がり、こちらへと歩み寄ってきた。
歩みを進めるたび、白銀を基調とした制服が微かに鳴る。
長身で引き締まった体躯。誇り高く流れるような金糸の髪に、真っ直ぐで力強い碧眼。
戦場を駆ける気高き女神のごとく豪快な力強さを感じさせながらも、まるで熟練の騎士のような紳士的な気品を纏った女性。
(この方が……白の国の第一位階、ヒルデガルド様……!)
あまりにも美しく、圧倒的な存在感を放つその容姿に、セレスは思わず息を呑み、その場に縫い付けられたように立ち尽くした。
「君が、私の代わりかい? ……なるほど、凛としていい目をしている」
ヒルデガルドはセレスの目の前で立ち止まると、優しく紳士的な笑みを向けた。
「は、はいっ! 本日より新しく極彩色特務隊の一員となりました、白の国の第四位階、セレス・クラーブです! ずっと、お会いしたかったです……!」
セレスは我に返って慌てて姿勢を正し、緊張と興奮で上ずりそうになる声を必死に抑えながら挨拶をした。
挨拶を終えたセレスに対し、ヒルデガルドが優しく頷こうとしたその時、広間の扉が再び開き、極彩色特務隊の面々がまばらに姿を現し始めた。
「やれやれ、相変わらずここは空気が重いな」
「静かにしろ。神聖な円卓だぞ」
白銀を基調としつつ、青や黄の各国の色がアクセントとしてあしらわれた制服に身を包んだ実力者たちが、それぞれの席へと向かっていく。
「はぁ、はぁっ……! ま、間に合ったか!?」
そこへ、息を切らしながら勢いよく広間へと駆け込んできた男がいた。白銀を基調とした制服を着崩し、熱い眼差しを宿した白の国の第二位階——ルーチェ・ファルだ。
「おお、セレスじゃないか! 久しぶりだな! 元気にしてたか!」
セレスの姿を認めるなり、パッと顔を輝かせて駆け寄ろうとするルーチェ。
「遅いぞ、ルーチェ」
すかさずヒルデガルドの冷ややかな一言が突き刺さる。
「ぐっ……す、すまないヒルデガルド様! いやな、途中で母親とはぐれて泣いてる男の子がいてな! 困っている人を放っておくわけにはいかないだろう!?」
悪びれる様子もなくカラカラと豪快に笑うルーチェに、セレスは思わず小さく吹き出した。
「ふふ、ルーチェさんは相変わらずですね」
「おうよ! 弱きを救う『光』でありたい、それが俺の正義だからな!」
そんなやり取りを交わしていると、最後にひときわ重い足音を響かせて現れたのは、真紅のラインが施された制服を纏った三人の男たちだった。
「あァ?」
ずかずかと広間に入ってきた赤の第三位階、ガルド・ミストが、見慣れないセレスの姿を認めて足を止めた。
「なんだこのヒヨッコは。白の連中は、こんなガキを円卓に連れ込むようになったのか?」
見下すような視線と、あからさまに舐めきった挑発的な声。
セレスが息を呑み、思わず一歩後ずさった瞬間、ヒルデガルドの凛とした声が空気を切り裂いた。
「口を慎め、ガルド。彼女は今日から配属された新たな一員だ」
「……チッ」
ガルドは不満げに舌打ちをして視線を逸らす。
その横から、赤の第一位階である男、イグニス・ミストが、悪びれる様子もなく堂々とした足取りで進み出た。
「待たせてすまなかったな」
「イグニスのアニキが謝るこたぁねえですよ。こんな連中、いくらでも待たせとけばいいんだ」
ガルドが悪態をつくが、イグニスは気にも留めず、毅然とした態度で自身の席へと腰を下ろした。
「……はぁ」
ヒルデガルドは小さくため息をつき、周囲を見渡した。
「くだらない無駄口を叩いていないで早く席に着け。我々も席に着こうか」
ヒルデガルドの言葉に、ルーチェとブランカが静かに頷いてそれぞれの席へと向かう。ヒルデガルドはセレスに優しく視線を向けた。
「セレス、すまないが席が足りなくてね。後で皆に君を紹介するから、ひとまず私の後ろに控えていてくれるかい?」
「は、はいっ!」
セレスが背筋を伸ばして頷くと、ヒルデガルドは再び小さく息を吐いた。
「……『アイツ』はまだ来ていないようだが……仕方ない」
(アイツ……?)
ヒルデガルドのポツリとこぼした言葉に、セレスは心の中で首を傾げた。
「ひとまず顔は揃ったな。これより、極彩円卓を始める」
ヒルデガルドの宣言と共に、広間の空気がスッと静まり返り、静寂が漂う。
「皆も既に耳にしているだろうが、私は近々、極彩筆頭の座を退く。次の極彩筆頭は、赤の国のイグニスに引き継がれる」
円卓を囲む面々は静かに頷いた。周知の事実なのだろう。
ヒルデガルドは言葉を続ける。
「加えて、黒の国でも動きがあった。異例ではあるが、第四位階でありながら極彩色特務隊を務めていたギルが退任し、新たに『第一位階』が赴任してくることになっている。……もっとも、その肝心の黒の第一位階は、まだ到着していないようだがな」
「極彩色特務隊の新体制が世界へ正式に発表されるのは、3ヶ月後の、全色王が集まる国際会議——『原色会議』の終了後となる。だが、我々も新たな体制に慣れておく必要がある。よって、この円卓の終了後から実質的な新体制への移行期間とする」
ヒルデガルドはそこで一度言葉を切り、真っ直ぐにセレスを見つめた。
「当面の間、私の代わりとして加入したセレスと、黒の第一位階は、この私が面倒を見させてもらうこととする」
(ヒ、ヒルデガルド様直々に面倒を見ていただけるなんて……っ!?)
セレスの心臓が大きく跳ねた。憧れの方から直接教えを受けられる。未知の環境への不安は吹き飛び、彼女は心の中で力強くガッツポーズを決めた。
その時だった。
重厚な扉の向こうから、足音と、微かな話し声が聞こえてきた。
「……おい、本当にここかよ。やけに大袈裟な扉じゃん」
『おい、尻尾を踏むなよ!』
『わぁ、すっごくピカピカだよ!』
会議の最中に聞こえてきた場違いな声に、円卓に座る者たちの視線が一斉に扉へと集まる。
ギィィ……と、重厚な扉がゆっくりと押し開かれた。
「……おじゃましまーす」
ギィィ……と開かれた重厚な扉の隙間から、ひょっこりと顔を出したのは、黒髪を気怠げに揺らした青年——ヴァンだった。
彼は部屋を満たす異様な緊張感と、円卓に集まった各国の最高戦力たちの鋭い視線を一身に浴びながらも、まるで近所の定食屋にでも入るかのような飄々とした足取りで中へ足を踏み入れる。
その足元の影には黒猫のノワが、首元にはマフラーのように白犬のブランがくっついている。
(う、嘘でしょ……!? なんで、あんたが……!?)
そこに立っていた人物の顔を捉えた瞬間、セレスの思考は完全に停止した。
しかし、ヴァンは自身の後ろで石のように硬直しているセレスの存在に全く気づかないまま、真っ直ぐに円卓の奥——極彩筆頭であるヒルデガルドへと視線を向けた。
「よっ、ヒルデガルド! やっとグラン・ルーツに来れたよ。もっと早く極彩色特務隊に入りたかったのに、21歳になるまでお預けとか……年齢制限ってくだらねーよな」
神聖な円卓の空気を完全に無視した、あまりにも軽口すぎる第一声。
各国の実力者たちが一様に眉をひそめる中、ヒルデガルドはゆっくりと席を立ち上がった。
そして、その威風堂々たる端正な顔に、フッと優しげな笑みを浮かべる。
「久しぶりだな、ヴァン。待ちくたびれたぞ」
「へへっ、悪ぃ悪ぃ」
その直後、ヴァンの影から黒い塊が弾け飛んだ。黒猫のノワが床を滑るように駆け抜け、スッとヒルデガルドの足元の影へと潜り込む。
さらに、ヴァンの首元に巻き付いていた白い塊も勢いよく飛び出し、ヒルデガルドの足元へと駆け寄った。
『久しぶり! ヒルデガルド!』
「ふふ、お前たちも元気そうだな」
ヒルデガルドは嬉しそうにしゃがみ込み、ちぎれんばかりに尻尾を振るブランの頭を優しく撫でた。そして、自身の影に向かって視線を落とす。
「相変わらず、いたずらが好きだな。ノワ」
『……ふんっ』
影の中から少しぶっきらぼうな声が返ってきたが、その声色はどこか誇らしげで、再会を喜んでいるのがありありと伝わってきた。
各国のトップ層が呆然とその和やかな光景を見つめる中——ようやく、ヴァンはヒルデガルドの背後で固まっている人影に気づいた。
「ん……? あれ? その後ろにいるの……さっきの胸のデカいお姉さんじゃん! 奇遇だな!」
悪びれもせず、嬉しそうな笑顔で言い放たれたその言葉。
静寂に包まれた円卓に、セレスの羞恥と混乱が爆発寸前まで膨れ上がった。
「……なんだ? お前たち、知り合いだったのか?」
ヒルデガルドが、目を丸くして立ち尽くすセレスとヴァンを交互に見比べながら不思議そうに尋ねる。
「いや、知り合いってほどでもないよ。さっきグラン・ルーツに着いた時、こいつがチンピラに絡まれてボコボコにされてたから、道すがら助けてやっただけ」
ヴァンはそう言って、からかうように少し馬鹿にした笑いを浮かべた。
「……っ!」
図星を突かれ、セレスは顔を真っ赤にして唇を噛む。言い返したいが、事実なだけに言葉が出ない。
一方、円卓を囲んでいた赤、青、黄、白のトップ層たちは、眼の前で繰り広げられるひどく場違いなやり取りに、困惑と疑念の視線を向けていた。
(こいつが……黒の第一位階……?)
誰の目から見ても、ヴァンからは上位階に特有の威圧感や圧倒的な魔力の片鱗すら感じられない。ただの飄々とした、態度の悪い一般人にしか見えなかった。
張り詰めた空気を読まないヴァンの振る舞いに、ついに限界を迎えた者がいた。
ダンッ! と、乱暴にテーブルを叩く音が響く。
「早く極彩色特務隊に入りたかっただァ? こんなナメたヒョロガキが『第一位階』だと? ふざけるのも大概にしろよ、黒の連中は」
ギリッと歯を鳴らし、ガルドは殺気立った視線でヴァンを睨みつけた。
だが——当のヴァンは、殺気を放つガルドのことなど完全に視界から外していた。
「おっ? ゾーイ姉ちゃんじゃん! それにクロウに、ギル兄ちゃん!」
ヴァンはガルドを綺麗に無視し、彼の近くに座っていた黒の意匠が入った制服の集団を見つけてパッと顔を輝かせた。
黒の国の第二位階であるゾーイ、第三位階のクロウ、そして第四位階のギル。王族であるゾーイとギルは、ヴァンの育ての親である、黒の国王ゼノンの子供たちであり、ヴァンにとっては実の兄や姉のような存在だった。
「てめェ……ガン無視かよ……ッ!」
あからさまに自分を空気扱いして身内との再会を喜ぶヴァンに対し、ガルドの額にさらに太い青筋が浮かび上がり、怒りが限界点へと達する。
「おいヴァン。ヒルデガルドさんに久しぶりに会えて嬉しいのはわかるがな」
今にも爆発しそうなガルドを他所に、黒の第四位階であるギルが、やれやれといった様子で深いため息をついた。
「俺はさっさとこの会議を終わらせて、故郷へ帰りたいんだ。年齢制限があったとはいえ、お前の代わりにここで仕事をするのは本当に疲れたよ……」
「ギル兄ちゃん、普段の治安維持隊の仕事でもサボって文句ばっか言ってるじゃんか」
ヴァンがケラケラと笑いながら言い返す。
「積もる話もあるだろうが、また後でゆっくり語り合ってくれ」
ヒルデガルドが苦笑交じりに口を挟んだ。
「さて、これで黒の第一位階も到着したことだし、円卓を再開しよう。……ヴァン、すまないがイスが足りないんだ。君にお願いできるか? ついでにセレスの分も頼む」
「了解〜」
ヴァンが軽く手を振った、その瞬間だった。
彼の掌から漆黒の粒子がとめどなく溢れ出し、空間を歪めるようにして瞬きする間に『二つのイス』を構築した。
一つは、漆黒の装飾が施された重厚で豪華な玉座のようなイス。
そしてもう一つは——今にも壊れそうな、背もたれすらない黒一色の安っぽい丸イスだった。
「なっ……!?」
「単なる粒子から、複雑な構造物を……いや、完全な質量を持った物体を一瞬で創り出したというのか……?」
ヴァンの『創造』の魔法を初めて見る各国のトップ層たちが、一斉に驚愕の目を見開いた。色の粒子で自然現象を発生させるのではなく、複数の部品からなる複雑な構造物を直接組み上げて創り出すという常識外れの御業。
彼がただの飄々とした一般人などではないことが、この一瞬にして円卓全体へと伝わった。
しかし、そんな驚きの空気の中で、ただ一人別の意味で怒りに震えている者がいた。
「……ちょっと。私のイス、何なのこれ!?」
セレスが、足元に置かれたしょぼい丸イスを指差して声を荒らげる。
「ん? お似合いだろ。ドジなお姉さんにはそれくらいで十分だって」
ヴァンはニヤニヤと笑いながら、自分だけ豪華なイスに深く腰を下ろした。
「ふふっ」
そのやり取りを見て、ヒルデガルドが思わず吹き出すように小さく笑う。
その和やかな空気を、怒号が引き裂いた。
「……てめェ、新入りの分際で自分だけ偉そうに玉座なんぞ創ってんじゃねェ!!」
ダンッ! と円卓がへし折れんばかりの勢いで叩きつけられ、ガルドが再び吠えた。
その両腕には、赤の国の王族特有の『隕石』の魔法による、ゆらゆらと揺らぐ超高温の熱波が纏われている。
今度こそ明確な殺意と熱気が向けられ、広間の空気が一気にヒリつく。セレスも思わず息を呑み、身構えた。
だが——標的となったヴァンは、漆黒の玉座に深く腰掛けたまま、面倒くさそうに頭を掻いた。
そして、まるで今初めてガルドの存在に気づいたかのように、気怠げな視線を向ける。
「……ん? なんだ、オッサン。さっきから手が赤く光って熱そうだけど、ここで焼き芋でも焼く気か?」
「あァ!? 誰がオッサンだ、舐めてんのか……ッ!」
ガルドの額の血管が、ブチィッ、と音を立てて切れそうに膨れ上がった。
王族の誇りである魔法を完全にコケにされ、ガルドが今にも殴りかかろうとした瞬間。
「やめないか、二人とも」
ヒルデガルドの低く威厳のある声が、広間の空気を制圧した。
「ここは極彩円卓だ。血の気の多さは戦場だけにしておけ」
「……チッ。だけどなァ、元筆頭様よォ。こんなふざけた若いヒョロガキに、極彩色特務隊が務まるとは到底思えねェ」
ガルドは拳の熱を僅かに収めつつも、不満げに吐き捨てる。
「その点は案ずるな。態度はともかく、彼の実力は本物だ。私が保証しよう」
ヒルデガルドが静かに言い切った、その時だった。
「——聞き捨てならんな」
静寂の中、赤の第一位階であるイグニス・ミストが、冷徹な声で口を開いた。
「赤の王族の魔法を愚弄されたのだ。いくら貴方の保証があるとはいえ、黙って見過ごすわけにはいかない」
イグニスは腕を組み、鋭い眼光をヴァンに向けた。
「ヒルデガルド。今日から新体制への移行期間となるなら、次期極彩筆頭として俺からも一つ意見がある。……この黒の新入りが極彩色特務隊に相応しいか、皆の前で実力を確認させてもらいたい。言葉で取り繕うより、拳で語り合うのが我らの流儀だ。ちょうどいい機会だ、ガルドを相手に貴様の実力を証明してみせろ」
イグニスのその目には、純粋な怒りだけでなく、先ほど見せたヴァンの『創造』の魔法に対する強い探求心も垣間見えていた。
そう突きつけられたヴァンは、面倒くさそうに首を掻いた。
「……はぁ? いいよ、やるだけめんどくさいし、どうせ無駄だろ」
あからさまに乗り気でないヴァンの態度に、ガルドの額に再び青筋が浮かぶ。
だが、それより先にヒルデガルドが静かにヴァンを諭した。
「イグニスの言う通りだ。売り言葉に買い言葉とはいえ、赤の魔法を馬鹿にしたのはお前にも非があるぞ、ヴァン」
そして、彼にだけ聞こえるよう、そっと耳打ちをする。
「(それに、赤の第三位階が少し調子に乗っているからな。軽くお灸を据えてやってくれ)」
「……」
ヴァンは大きなため息を一つ吐くと、頭の後ろで手を組みながらしぶしぶ立ち上がった。
「……しゃーねーな」
その言葉を聞き届けたヒルデガルドは、広間全体を見渡して宣言した。
「今回の極彩円卓の目玉は、セレスとヴァンの紹介だった。これで会議はお開きとする。この後は施設内の修練場へ移動し、ヴァンとガルドの模擬戦を実施する」
そう告げると、ヒルデガルドは威風堂々とした足取りで円卓を離れ、修練場へと続く扉へ向かって歩き出した。
最後まで読んでいただき感謝です!
▼今回の用語解説▼
【治安維持隊】と【極彩色特務隊】
各国の国内に常駐し、それぞれ自国の治安を守る下位組織が「治安維持隊」。
そこから選抜された上位階の実力者たちのみで構成され、中立地帯グラン・ルーツに駐留して世界規模の脅威(混色など)を取り締まる特務機関が「極彩色特務隊」です。
少しでも楽しんでもらえたら、【☆】で評価を入れてもらえたり、ブクマしてもらえると最高にやる気が出ます。応援よろしくお願いします!
明日の22時くらいにまた第3話を更新するんで、よかったらまた読みに来てください!




