【創造】魔法で暴漢を瞬殺しつつ、助けたお姉さん(治安隊)の服のサイズが気になった件
ーー世界の中央に位置する巨大な街「グラン・ルーツ」。
その裏路地で、くぐもった硝煙の匂いと、女性の悲鳴、そして男たちの下品な笑い声が響き渡っていた。
「やめて、離して!」
女性が必死に抵抗するが、三人の男たちは逃げ道を塞ぐように取り囲んでいる。
「おいおい、大人しくしろよ。ちょっと遊ぶだけだって」
「そこまでよ。彼女を離しなさい」
凛とした声が路地裏に響く。白の国の治安維持隊の制服を身に纏った女性——セレス・クラーブが、男たちを睨みつけていた。
白の国の民らしい透き通るような白い肌と、涼しげな目元。後ろで束ねたプラチナシルバーの髪が揺れる。
「あァ? なんだお前、治安隊のお嬢ちゃんかよ。引っ込んでな」
男たちがニヤリと笑い、セレスに向かって襲いかかってきた。
セレスは素早く身構え、手から生み出した風の刃で暴漢の一人を退け、すかさずもう一人を氷の礫で牽制する。
しかし、ただのならず者だと思っていた男たちは素人ではなく、その見事な連携はセレスの予想を遥かに超えていた。
「やるじゃないか、お姉ちゃん!」
一瞬の隙を突かれ、背後に回り込んだ三番目の男がセレスの足を払う。
「くっ……!」
体勢を崩したところへ、強烈な一撃を浴びせられ地面に倒れ伏してしまった。
「へへっ、威勢がいいお姉ちゃんだな。こいつも一緒に連れて行こうぜ」
「やめっ……離しなさい……!」
腕を掴まれ、強引に引きずられそうになる。セレスが絶望に顔を歪めた、その時だった。
「……あーあ。グラン・ルーツってのは、随分と熱烈な歓迎をしてくれんだな」
瓦礫と化した路地の奥で、黒髪の青年——ヴァンが、面倒くさそうに息を吐いた。
彼の右手には、黒い光を放つ『銃』が握られている。
ほんの数秒前まで、彼は片手剣を持っていた。しかしヴァンが黒い粒子を放出した瞬間、剣はまるで意思を持つように粒子レベルで分解され、再構築され——瞬きする間に、「銃」へと形を変えたのだ。
「なっ……いつの間に武器が……!?」
女性を連れ去ろうとしていた暴漢たちが、理解が追いつかずに驚愕の目を見開く。先ほどまで、彼らは見事なコンビネーションで邪魔に入った治安隊員すらも手玉に取っていたのだ。しかし、放たれる圧倒的な粒子量と、得体の知れない魔法を操るこの青年の姿は、まさに『異次元』だった。
ドゴォンッ!!
ヴァンが引き金を引くと、放たれた弾丸が暴漢の一人を容赦なく壁の向こうまで吹き飛ばした。
「ひっ、ひぃぃ……っ! なんだよ、こいつ……!」
残された二人の暴漢も、戦意を喪失して逃げ出そうとしたが遅い。ヴァンは瞬時に間合いを詰め、圧倒的な体術と銃の連撃で為す術もなく地面に叩きつけ、白目を剥いて気絶させた。
「さてと。悪いけど、こっちも着いたばっかで疲れてんだよね。大人しく寝ててくれよ」
助けられた女性は、涙ぐみながらヴァンとセレスに何度も頭を下げると、逃げるようにその場から走り去っていった。
彼女の後ろ姿を見送りながら、ヴァンが右手の『銃』を軽く振ると、黒い武器は再び黒い粒子となって分解され、元の『短剣』へと形を変えた。
ヴァンが短剣を降ろしたその時、彼の足元の『影』から生えていた猫耳と尻尾がスッと消え、代わりに真っ黒な猫——ノワが影からひょっこりと姿を現した。
『ヴァン、やりすぎだぞ。首都に行く前に問題起こすなよ』
「しょうがないだろ。手っ取り早く片付けるにはこれが一番手っ取り早いしな」
さらに、ヴァンの首元でマフラーのように巻きついていた白いふわふわの塊がモゾモゾと動き出し、白い犬——ブランが顔を出した。
『わたしが回復してあげるから大丈夫だよ!』
ブランが倒れた暴漢たちに駆け寄ると、彼らの体は淡い白の粒子に包まれ、みるみるうちに傷が塞がっていった。
『……ブランはヴァンに甘すぎるんだぞ』
呆れたようにため息をつくノワ。
「……信じられない。あの3人を、一瞬で……?」
立ち上がってその光景を見つめていたセレスは、自分の未熟さを噛み締めながら、同時に目の前の青年への畏敬を抱いていた。
セレスは居住まいを正し、相手の目を見て深く頭を下げた。
「……助けてくれて、ありがとう」
「(……うわ、近くで見るとめちゃくちゃ美人じゃん。それにこれの服は……治安隊か? 見た目的に白の国か? 白の国の制服ってタイトでいいな。いや待てよ、あの張り具合……かなりデカいぞ……っ!)」
ヴァンの視線は、凛としたセレスの美貌を素通りし、制服越しでも主張の激しい彼女の胸元に完全に釘付けになっていた。
その目は、先ほどの強者のそれではなく、どう見ても下心丸出しの輝きを放っている。
「……あの、どうかしたの?」
怪訝そうに首を傾げるセレス。彼女はまだ、目の前の恩人の視線が自分の胸に注がれていることに気づいていない。
ヴァンは必死に咳払いをして、表情を引き締めた。
「いや、何でもないって。怪我なくて良かったな、お姉さん。俺はヴァン。こっちがノワで、そっちがブランだ」
ヴァンが紹介すると、ノワが『……ふんっ』と無愛想にそっぽを向き、対照的にブランは『よろしくね、お姉さん!』と人懐っこくすり寄った。
「……ところでさ、お姉さん治安隊? その制服のサイズ、胸のとこちょっとキツくない?」
「は? ……あんた、どこ見て言ってんのよ!?」
ようやく視線の意味に気づいたセレスの顔が、怒りと羞恥で一気に朱に染まる。
「いや、ちょっと服の耐久性が気になっただけだって。治安隊の制服って、動きやすさが命だろ?」
「嘘つかないでよ! 完全に別のものを見てたでしょ!」
「人聞きの悪いこと言うなって。立派なものはちゃんと称賛するのが俺の礼儀なわけ」
「完全に胸を見てたって認めてるじゃない!」
セレスは胸元を両手で隠しながら、ジロリとヴァンを睨みつけた。先ほどの畏敬の念は綺麗さっぱり吹き飛び、目の前にいるのは「ただ腕が立つだけの無礼なスケベ男」に成り下がっている。
「……はぁ。助けてもらった恩はあるけど、少しはデリカシーというものを身につけた方がいいわよ」
「そっちこそ。さっきみたいな隙だらけの戦い方してたら、どこに行ってもすぐに痛い目見るぜ?」
「っ……!」
図星を突かれ、セレスは言葉に詰まった。
手痛い洗礼を受け、悔しさに唇を噛む。
「……あんた、相当な使い手ね。一体何者なの?」
セレスは気を取り直し、目の前の青年に問いかけた。
「俺? ただの旅人。ちょっと首都に野暮用があって向かう途中なんだよね」
「首都に……?」
セレスは微かに眉を動かした。自分もこれから、任務のために首都へ向かうところだったからだ。
「治安隊のお姉さんこそ、こんな路地裏で何してんの?」
「私は任務のために首都へ向かう途中よ。……それと『お姉さん』はやめて。私はセレスよ」
「へぇ、セレスねぇ……」
ヴァンはわざとらしく顎に手を当てて、再びセレスの全身(特に胸元)をジロジロと舐め回すように見た。
「なるほどな。確かに相応しい貫禄はある」
「だからどこを見て言ってんのよ!!」
セレスの怒声が再び裏路地に響き渡る。
「まあいいじゃん。目的地が同じ首都ならさ、これも何かの縁だろ。俺の相棒、乗ってかない?」
ヴァンが指差した先には、マットな質感のサイドカー付き大型バイクが停まっていた。よく見ると車体の輪郭が陽炎のように僅かに揺らいでいる。
「……悪いけど、私は一人で向かうわ。あんたみたいな変態と一緒に行くなんてごめんよ」
「おいおい、冷たいこと言うなって。またあんな奴らに襲われたらどうすんの? 俺が治安隊のあんたを守ってやるよ」
『息を吐くように煽るなよ』
『でもヴァン、ほんとは心配してるんだよね!』
影からノワが冷たくツッコミを入れ、首元のブランが嬉しそうにフォローする。
ヴァンはニヤリと笑い、バイクにまたがった。
「ほら、早く乗れよ。あんたみたいなドジな治安隊員を乗せるために、サイドカー付きにしてあるんだから」
「絶対ただの偶然よねそれ!?」
「それに、まだ私のこと『セレス』って呼んでないじゃない!」
文句を言いながらもセレスが渋々サイドカーに乗り込むと、ヴァンはバイクのエンジンを吹かした。
乾いた轟音が、グラン・ルーツの空へ高らかに響き渡る。
風を切り裂きながら、大型バイクが広大な街道を疾走していく。
サイドカーに揺られるセレスは、運転席で気怠げにハンドルを握るヴァンの横顔を、どこか探るような目で見つめていた。
(あの戦い方……何度思い出しても異常ね)
路地裏での圧倒的な光景が、セレスの脳裏に焼き付いて離れない。
自分を手玉に取った暴漢たちの見事な連携を、この男は一切の躊躇なく、圧倒的な力と無駄のない技術でねじ伏せた。だが、彼女が最も驚愕したのはヴァンの体術ではなく、一瞬で別の武器へと形を変えてみせたその『魔法の異常な生成スピード』だった。
「……ねえ、ちょっといい?」
バイクの乾いた轟音に負けないよう、セレスは少し声を張り上げた。
「ん? なんだよ。風が強くてあんたの自慢の胸元が見えにくいんだけど」
「セクハラ発言で返すんじゃないわよ! ……あんたの魔法のことよ」
「俺の魔法?」
ヴァンは視線を前方の街道に向けたまま、面倒くさそうにオウム返しにする。
「さっきの路地裏での戦い。あんた、持っていた短剣を一瞬で『銃』に変えたわよね」
「ああ、やったね」
「……それって、元の武器を別の形に変形させるような魔法なの? それとも、武器を分解して再構成する特殊な付与魔法とか……」
常識的に考えれば、魔法で物質の形を一時的に変えることは不可能ではない。だが、構造の複雑な『銃』を瞬時に精製するなど、セレスの知る魔法の常識からは大きく逸脱していた。
探るようなセレスの問いに対し、ヴァンはあっけらかんと答えた。
「いや、変形ってのとはちょっと違うかな」
「違う? じゃあ、なんなのよ」
「俺の魔法は『創造』だ」
「そうぞう……?」
セレスが怪訝な顔をすると、ヴァンは自身の右手から黒い粒子をほんの少しだけ立ち上らせた。
「俺の粒子を使って、自分の頭の中で思い描いたものをそのまま形にする魔法だよ。さっきの銃もそうだし、普段持ってる短剣も俺が創ったやつ。要するに、想像できるものなら何でも創れるってわけ」
「なっ……何でも創れる、ですって……!?」
セレスは絶句した。
色の粒子を放出し、火や水といった『自然現象』を発生させるのが一般的な魔法の概念だ。しかしこの男は、複数の部品からなる複雑な機械や武器といった『《《構造物》》』を、粒子から直接組み上げて一から創り出している。そんな規格外なことが現実にあり得るのだろうか。
『お前にしか出来ないことを、当たり前みたいに言うなよ。隣のお姉さんが引いてるぞ』
『すごいでしょ! ヴァンってば何でも作れちゃうんだよ!』
ヴァンの影に潜むノワが呆れたようにツッコミを入れ、首元に巻き付くブランが我が事のように得意げに鼻を鳴らした。
そのやり取りを聞きながら、セレスの脳裏にある記憶がフラッシュバックする。
彼女はハッとして、自分が今乗っているこの無骨なサイドカー付き大型バイクの見た目を思い返した。乗る前に不審に思った、輪郭が陽炎のように僅かに揺らいでいるあの不自然な質感を。
「……ちょっと待って。じゃあ、まさか今私たちが乗ってるこのバイクも……?」
「ん? ああ。昔グラン・ルーツに来た時に黄の国の奴らが乗っててさ。カッコよかったから創ってみたんだ」
「……信じられない。バイクなんて複雑なものまで、魔法で創り出してるっていうの……?」
「複雑?」
ヴァンは心底不思議そうに首を傾げた。
「魔法なんてイメージだろ。バイクってのは『走るもの』だ。それ以上でも以下でもないじゃん。さっきの銃だって『トリガーを引けば弾が出るもの』ってだけだぞ。何をそんな難しく考えてんだ?」
「は……?」
「だから、見た目を頭に浮かべて『動け』って念じるだけだ。簡単だろ?」
あまりにも常識外れで、かつ馬鹿げた理論。
セレスは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。彼の中で「構造」という概念は存在せず、ただ「結果」だけをイメージして強引に魔法として成立させているのだ。
『アホの理屈はアホにしかわからないぞ。諦めなよ』
『ヴァンは直感の天才なんだから!』
影からノワが身も蓋もないツッコミを入れ、首元のブランが嬉しそうにフォローする。
セレスは再び絶句した。この男の魔法は、やはり底が知れない。
ヴァンは呆気にとられるセレスを気にする様子もなく、ふと思いついたように口を開いた。
「そういえば、あんたの魔法は何なんだ? さっき路地裏で風やら氷やら出してたよな」
突然の問いに、セレスはこめかみを押さえたまま答える。
「……私の魔法は『天候』よ。火、水、風、雷、氷……自然現象を粒子で創り出す魔法」
「へぇ、それも結構すごいじゃん。俺の創造と相性いいかもな」
「一緒にしないで。私のはちゃんと理屈と構造を理解して——」
セレスが反論しようとした、その時だった。
「おっ、見えてきたぜ」
ヴァンの声に釣られて前方へ視線を向けると、なだらかな丘を越えた先、地平線の彼方に美しく洗練された石造りの街並みが広がっていた。
整然と区画された放射状の美しい大通り。街の象徴のようにそびえ立つ、芸術的で巨大な鉄塔のシルエット。それは、世界で最も華やかで洗練された大都市の姿だった。
世界の中央であり、あらゆる色が交わる最大の都市。
首都『プリズム・コア』に、二人は到着しようとしていた。
最後まで読んでいただき感謝です!
あ、そういえばタイトルの『COLORS』なんですけど、実は「Creator Of Limitless Objects Rewrites Story(無限の物体を創り出す者が物語を書き換える)」っていう意味が隠れてたりします。
少しでも楽しんでもらえたら、☆で評価を入れてもらえたり、ブクマしてもらえると最高にやる気が出ます。応援よろしくお願いします!
明日の22時くらいにまた第2話を更新するんで、よかったらまた読みに来てください!




