↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/35

第5話 ランチと膝枕

「……で、話というのは?」


 誰もいない、小さな中庭のベンチに腰掛け、アルはぶっきらぼうに言い放ちました。


 ……まだ不機嫌なんでしょうか。


「お昼休み終わっちゃいますし、食べながらお話ししますね」


 私は膝の上でお弁当を広げました。

 今日は、ライ麦パンに生ハムと羊のチーズを挟んできました。


 アルのランチは、白パンにパプリカを使ったサラミとチーズを挟んだサンドウィッチです。


 ……あのサラミ、ピリ辛で美味しんですよね。


 じっと見ていると、苦笑されてしまいました。


「欲しいのか?」


「……えっ。で、では、一つ交換しませんか? 羊のチーズ、好きですよね?」


「よく知ってるな」 


「……いや! ほら騎士って筋肉大事ですからね! 羊チーズのタンパク質を愛してやまないのが騎士ってもんですよ!」


「……なるほど」


「はい、どうぞ!」


 私はサンドウィッチをアルの手に押し付けました。

 ふぅ、なんとか誤魔化せましたね。


「……お、うまいな」


 彼は一口かじってそう言うと、三口で食べてしまいました。


「よく噛んで食べないといけませんよ?」


「……すまん」


 ふふ、子どもっぽいですねぇ。


 私もアルからもらったサンドウィッチを、ぱくりと頬張りました。

 んー!美味しい!


 もぐもぐと口を動かしながら、回廊で四角く切り取られた空を見上げます。天高く、翼竜が飛ぶ姿が見えて、思わず笑みが浮かびました。


 ここは隊長室のある棟で、あまり人の出入りがありません。

 とても静かで、鳥の鳴き声だけが聞こえてきます。

 それに日差しがぽかぽかと暖かくて気持ちいいです。


「もしかして、いつもここで食べてるんですか?」


「ああ、天気が良くて暖かい日はな。それ以外は部屋で食ってる」


「じゃあ、どうして今日は食堂に?」


「……別に、ただの気分転換だ」


「へぇ……」


 あ、ダメです。

 お腹がいっぱいで暖かくて……。

 目をつむったら、眠ってしまいます。


 ………………ぐぅ。


 ──団長、その子、誰ですか?


 ……? 女性の声がします。

 あぁ、でも眠すぎて目が開きません。


「霊獣舎の新人だ」


「まぁ、それは制服を見ればわかりますけど……綺麗な子ですねぇ。妖精みたい」


「……」


「ところで、どうして膝枕してるんですか?」


「……寝てしまった」


「いや、だからそれは見ればわかります。団長との関係性と、膝枕の必然性について伺っております」


「……起こしたら可哀想だろう」


「つまり、話をはぐらかしたい関係性で、膝枕に必然性はないけれども、そうしたいということですかね?」


「…………」


「沈黙は肯定ととらえますよ? エリンに怒られるのは私なんですから、自重なさって下さい。さっきもうちの聖騎士がチェルシーに構いすぎ!って、ぷんすかしてましたから」


 ……ふふ。アルったら、怒られてるみたいですねぇ。

 あ、なんだか頭がふわふわと気持ちいいです。


「団長、撫でてますよ? 気付いてます?」


「……ん? ああ、すまん」


 あっ、やめないでください……。


「……団長、この子と昨日会ったばかりじゃないでしょう」


 どきん、と心臓が跳ねました。

 今までうつらうつらと話を聞き流していましたが、すっかり目が覚めました。

 でも今、目を開けるわけにはいきません。


 ……ん?


 私、どこに寝てるんでしょう。

 なんだか頭が温かいです。

 薄く瞼を開けると、横向きの景色が見えました。

 ……あれ? あれれ?

 頭が混乱してきました。


「この子は……」


「……ああ、答えなくてもいいですよ。プライベートに口出す気はありません。ただ、昨今は色々うるさいので、女性に手を出す時は同意を得てからにしてくださいね」


「……っ?! 手を出す気など……!」


「はいはい。では、午後の演習には遅れないようにお越しくださいね」


 くるりと踵を返す、聖騎士の制服が見えました。薄目のまま見ていると、その人はまたこちらを振り返りました。


「……あ、その子起きてますよ。では」


 …………っ?!


 女性騎士さんは今度こそ行ってしまい、中庭に静けさが戻ってきました。


「……」


「……」


「……いつから聞いてた……」


 どどど、どうしましょう!

 寝たふり続行がいいですかね?!


 アルが私の顔を覗き込もうとして、影が差します。私は思わずアルの膝に顔をうずめました。

 ……やっぱり、これ膝枕でしたね。

 温かいはずです。


 アルの足がぴくりと動き、それから大きなため息が落とされました。

 そうですよね。上司が部下に怒られてたなんて、恥ずかしいですよね。私もあなたによく怒られましたけどね?


「あの、怒られてたことは、誰にも言いませんから……っ」


「…………は? あの会話聞いて、言うことがそれか?」


 なんで怒るんですか?!

 だって、最初は寝ぼけてましたし、目覚めた後は混乱して、ほとんど話なんて聞いてません。


 彼はため息混じりに呟きました。


「……まぁ、俺はただの"親鳥"だしな」


 あっ!!

 それを訂正しに来たんでした!


 私は、がばっと起き上がり、アルの左手を掴みました。彼はわずかに仰け反り、目を見開きました。


「団長は親鳥なんかじゃありません! あなたは……」


 沈黙。


 …………あれ?

 次、なんて言うんでしたっけ?

 お布団……は却下されたんでした。

 えーと、えーと。

 しまった!寝たら忘れました!!

 仕方ありません。アドリブで乗り切りましょう。


「あなたは……その、大事な人です。すごくすごく、私にとって、大切な人です」


 言ってから気づきます。


 ……いや、これ出会って二日目の人に言う台詞じゃないですよね?完全に頭、沸いてます。


 案の定、アルは目を丸くして私を見ています。

 けれど数秒後、ふっと目を細めて、私の頬に優しく触れました。


 …………?!


「無理するな。俺が、大人げなかっただけだ。雛鳥でいたいなら、今はそれでいい」


 ……どういう意味でしょう。


 黒い瞳に揺れる何かから、私はさっと目をそらしました。


 なんだか、彼の顔を見れません。

 頬が熱くなるのが自分でもわかります。

 これは、なんでしょう。


「……さて、昼休みも終わりだ。仕事に戻るぞ」


 頬から手が離れ、ほっとしたような、寂しいような気持ちになります。


「あの、サラミのサンドウィッチ、ありがとうございました」


「こちらこそ、羊のチーズは大好物だ」


 なんだか名残惜しくて、会話を探してしまいます。でも、もう行かなくては。


 ぺこりと頭を下げて戻ろうとすると、背中に声がかかりました。


「よかったら、たまにはここで一緒に食べないか? 今日みたいに」


 なぜだか、心臓がドキドキします。

 私は振り返ることができず、ぽつりと答えました。


「……サラミが、あるなら……」


 あっ、これ絶対、愛され女子は言わないやつです!でも緊張して、他に何も思いつきません。


 アルは声をたてて笑いました。


「分かった、準備しよう。じゃあ……またな」


 ゆっくりと振り返ると、中庭を抜け、庁舎に入る背中が見えました。


 たまに……って、どれくらいの頻度なんでしょう。

 私は毎日でもいいんですけど……。


 って、ほら、サラミは美味しいですからね!

 それだけです、他意はありません。

 ……多分。



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショートショート転生ものです。 よろしければお立ち寄り下さい。 「つきましては、結婚を前提としたお付き合いをしていただきたいのですが」
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。