↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/35

第21話 団長と霊獣医と神官

 やってきましたお給料日!

 今日はお休みなのでお買い物に行こうと準備していると、アルから連絡が入りました。

 もちろんデートのお誘いじゃありません。

 でも、霊獣飛行免許試験の練習をしてくれる、というので、行かないわけにはいきません。


 鏡の中の私は、すっかり街モードです。

 買ったばかりのスカートを履いて、薄くお化粧もしています。


 ……少しは可愛いと思ってもらえるでしょうか。


 あっ、もちろん霊獣舎では着替えますよ?

 TPOは大事ですからね。


 私はほんの少し浮き足だった気持ちで霊獣舎に向かいました。

 けれどそこにいたのは──


 アル、エルネストさん、ヴラニミルの三人。


 このメンバー、嫌な予感しかしません。


「すまんな、休みの日に」と、言いながらも全然そんな顔をしていないアル。これだから仕事人間は。


「ついでにピエラのデータとらせてよ」と、うきうきのエルネストさん。


「なんだその格好は」と、眉をしかめるヴラニミル。なんであなたがいるんです。


 制服に着替えて翼竜舎へ行くと、チェルシーがピエラを檻から出そうとして苦戦していました。


「あっ! よかったフィオナさん。ピエラったら全然言うこと聞いてくれなくて」


 どうしたのでしょうか?もうチェルシーにも慣れているのに。


「ピエラ?」


「クルルルル。クルッ!!」


 ……あぁ、ヴラニミルですか。


「あなたがいるから出たくないそうです」


 振り返り様にそう言うと、ヴラニミルは唇の端をつり上げました。


「はん、情けない翼竜だ。私はお前に興味はない。アルベルトに仕事の話で呼ばれただけだ。あと霊鹿を見に来た」


 ……まさか、赤ちゃんが産まれたから見に来たんですか?仕事の話だけなら、神殿へ来いとか言いそうですもんね。それはそれは……。


「可愛いですねぇ、あなた」

「殺すぞ」


 アルの深いため息が聞こえます。

「早くしてくれ」

 そして翼竜用の聖笛を渡されました。

「直接聖力を使わず、必ず笛を通してくれ。そうでないと免許がとれん」


「でも翼竜の笛は最適化されてないんですよね?」

 そう聞くと、エルネストさんが私とピエラに計測器を付けました。

「だーかーらぁ、データをとりつつ、免許試験の練習もできる素晴らしい機会なんだよ!」


 ……免許とるだけなら翼狼で練習した方が早いですよね?アル、エルネストさんに押し切られましたね?


 ちらりとアルに視線を送ると、彼はふいと目を逸らしました。


 ……やっぱり!


 それからピエラをなだめすかして広場へ出てもらい、私はその背にまたがりました。


「まずは上昇の合図を」とアルの指示を受けて、私は笛を鳴らしました。

 ピエラは少しためらった後、ばさりと翼を広げて地面を蹴りました。

「次は降下だ」

「はい」

 降下の合図を送ると、ピエラはまた迷った後、地面に降りました。


「どうだ?」とアルが私を見あげます。

「うーん、すごく反応が鈍いです。私が下手なんでしょうか?」

「笛は正しく吹けているから、君の問題じゃない。だが翼竜は賢いから君の意図を汲んでる可能性が高い。それでは他の人間を乗せられない」


 ……そうですよね。ピエラは聖騎士を乗せないといけないのですから、誰でも指示できるようにしないと。


「じゃあ今度はさ」とエルネストさんが計測器のデータを見ながら言いました。

「笛なしで、いつも通り乗ってくれる? そこのデータが重要だから」


「わかりました」


 私は手綱を握り、聖力を送りました。

 その瞬間、ピエラは一気に上昇します。

 もう一度手綱を引くと空中でぴたりと止まり、降下の意思を伝えると、ゆっくりと降り立ちました。


「……すごいな。これだけの聖力と同じだけの作用を及ばさないといけないのか……」


 エルネストさんは魔導板と睨めっこをしながら、ぶつぶつと何か言っています。


「団長はどうやって黒翼竜に乗ってるんですか?」


 ピエラを撫でながら訊くと、アルは困ったように腕を組みました。


「俺も君と同じような乗り方だ。ただ、君より聖力がない分、最適化に近い乗り方をしているのだと思ってたんだが……あいつ賢いからな。自分の意思で動くことも多い」


 確かに、ピエラも自分で判断することが多いです。でも制御できなくなると困りますし、やはり聖笛での合図が正確に伝わるようにしないと。


 それから私は色々な条件でピエラと飛んだり走ったり、アルの黒翼竜に乗り換えてみたり……これでは完全に被験者です。免許の練習どこいったんでしょう。


「うーん、聖力の種類が違っても同じような結果になるのか、試したいなぁ」


 エルネストさんはあらゆる角度からデータをとりたいようです。

 でももう疲れました……。


 アルが一歩前に出て、さりげなく私とエルネストさんの間に入ります。


「エルネスト、少し休憩にしないか」


 そう提案しても、エルネストさんの耳には入りません。研究者気質ですねぇ。


 あ、思いつきました。


「違う種類の聖力なら、ぴったりの人がいるじゃないですか!」


 私は逃げるように霊獣舎に入りました。

 

 思った通り、ヴラニミルは霊鹿の檻を覗き込んでいました。


「そんなに見たら、赤ちゃんが怯えてしまいますよ」


 赤ちゃんどころか、大人の霊鹿も落ち着かない様子です。

 ヴラニミルは憮然として檻を離れ、壁にもたれかかりました。


「……何か用か?」

「はい。少し手伝ってもらえませんか?」

「なんで私が」

「霊鹿見物料です」


 ヴラニミルは小さく舌打ちをすると、壁から身を離し、歩き出しました。


「貴様ら、広場で何をやってるんだ?」

「聖笛改良の実験データをとってるんです」


 彼は興味をひかれたようでした。


「霊鹿のデータもとってくれ」

「あの子たちは戦闘には出ませんし、神殿がお金払ってくださいね? あなた個人でもいいですけど」


 ヴラニミルは眉根を寄せましたが、どうやら真剣に考えているようです。


 ……どれだけ好きなんですか、霊鹿のこと。


「でも、もっと聖力を柔らかくしないと背中にも乗れませんよ? だから指導してあげますと言ったじゃないですか」

「お前なんかの世話にはならん。自分で練習している」

「でも全然できてませんよ? トゲトゲで痛いです」


 私は、ぱっと彼の手を取りました。

 彼はびくりとして、それから睨みつけてきました。でも、無視です。


「いいですか? 私がやわらかーい聖力を送りますので、あなたは呼吸を合わせて、やわらかーく返してくださいね」


 繋いだ手を通して、聖力をゆっくりと流します。彼は最初嫌そうに顔をしかめていましたが、やがて私の聖力に乗せるように自分の聖力を流し返してきました。ところどころトゲトゲしていますが、やわらかーくなっています。


「そう、とっても上手です。これを繰り返しますよ」


 私たちは歩きながら聖力のやりとりをしました。ヴラニミルはやっぱり天才です。少しのきっかけさえあれば、すぐにできてしまうのですから。それとも霊鹿への愛ゆえでしょうか。

 くすりと笑うと、また彼の聖力が尖ります。


「なんだ」

「いいえ。可愛いなぁって」

「黙れ小娘」


「じゃあ、今日はここまでです。バイト代として何かおごってくださいね」


 広場に出る前に手を離そうとすると、彼は強く握り返してきました。


「なんです?」

「いや、面白いものが見れるかな、と」


 ……何なんでしょう。


 そのまま広場に足を踏み入れると、アルがこちらを見て──眉をひそめました。それからヴラニミルを睨みつけました。視線で殺せそうなほどの殺気です。ピエラでさえびくりとしています。


 どれだけ仲悪いんですか、あなたたち。


「予想通りだな。それでも愉快だ」


 ヴラニミルが鼻で嗤って一人ごちます。

 彼は私の手を離さないままアルの前へ進み、

「手助けをしてくれと、この小娘に言われてな」

 と繋いだ手を掲げてみせます。


 アルはヴラニミルを射殺しそうな目で見ました。


「お前の助けなど必要ない」


 ものすごく怖い声です。

 二人はしばらく睨み合っていました。ヴラニミルはまだ私の手を離しません。


 どうしようかと首をひねっていると、

「あ! 違う種類の聖力ってあなたでしたか!」

 とエルネストさんがヴラニミルを引っ張りました。


「ピエラ。次はこのおじさんの聖力を試してみてくれないかい?」

「クルッ?! クルックルッ!! クルー!!」


 ……絶対イヤだと言ってます。


 私はピエラの羽を撫でました。


「ピエラ、そこをなんとか耐えてください。私はもう疲れてしまって……」

「クルゥ……」


 ピエラは私に顔をすりすりと寄せて、ちらりとヴラニミルを見ました。


「クル……キュルッ!!」


 どうやら決意してくれたようです!


「ありがとうピエラ!」

「キュルーン!」


「おい、早くしろ翼竜」


 ヴラニミルが眼鏡の奥から冷たい視線を寄越します。


 なんなんですか、この人は!


 それでもピエラは背を低くしてヴラニミルを受け入れます。

 なんていい子なんでしょう……。


 そしてヴラニミルが手綱を掴んだ瞬間──ピエラは思いっきり大地を蹴りました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショートショート転生ものです。 よろしければお立ち寄り下さい。 「つきましては、結婚を前提としたお付き合いをしていただきたいのですが」
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。