↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/35

第11話 腕相撲

 とある日の午後、霊獣舎の広場は阿鼻叫喚の地獄と化していました。

 霊獣飛行部隊への配属を希望する聖騎士たちが、翼竜や翼狼に乗っては振り落とされ、すがりついては足蹴にされています。


 指導教官の怒声が響き渡り、アルと補佐官は腕を組んでその様子を見ています。


 アルとはあれからほとんどお話ししていません。忙しいのか避けられているのかわかりませんが、ともかく、二人で会う機会がありませんでした。


「大丈夫ですか? すぐに治しますからね」


 怪我をした騎士は、その場に控えている聖女の治療術を受けて、なんだか少しデレています。


 あっ、ソーニャも来ています!

 ぶんぶんと手を振ると、彼女も振り返してくれて──ヴラニミルに睨まれました。

 あなたまで来る必要、なくないですか?


「あ、また落ちた。見ていられませんね」


 モップを動かしながら、チェルシーは痛そうに眉をひそめました。


「この中でも、選ばれるのは上位何人かだけなんでしょう? 飛行部隊ってエリートだし、狙ってもいいかもですね」


 私は首を傾げました。


 …………狙う?


 飛行部隊に入りたいってことですか?

 それってつまり、チェルシーと一緒にお空で遊べるということですよね?


 私の頭の中に、楽しい計画がたくさん持ち上がりました。


 なんて素敵なんでしょう!


「わかりました! 狙いましょう! チェルシーにはオスがいいと思いますよ?」


「……もちろん、男性がいいわ?」


「おすすめの子がいるんですけど、見てもらえます?」


「え?」


 私は翼狼の檻の前まで、チェルシーを引っ張っていきました。


 その檻の前に、若い聖騎士がひとり立っています。

 霊獣選びでしょうか?


「くぅん、きゅんきゅん!」


 翼狼のリオが私たちに気付き、前足を檻にかけて、しっぽを千切れんばかりに振り始めました。


 その視線を追うように、聖騎士はこちらを振り返りました。金髪碧眼、甘いマスクの王子様みたいな人です。


「おや? 久しぶりだね、チェルシー」


 王子様がにっこりと笑って片手を挙げます。


「うわ……ルカじゃん」


 珍しくチェルシーは露骨に顔を歪め、私の耳元でささやきました。


「まさか、おすすめってこいつですか? こいつはダメですよ。だって……」


 ……違いますよ?リオを見てもらおうと思ったんです。人に乗っても飛べません。


「その子は同僚さん? 紹介してくれるかい?」


「いやよ。あんたが関わるとろくなことにならないんだから」


「幼馴染に対してひどいなぁ」


 なるほど!幼馴染さんでしたか!

 それはなんだかラブロマンスの予感です。

 二人で飛行部隊に入るなんて素敵ですね。


 私はルカの前に進み出て、握手を求めました。


「フィオナ・ベルです。二人で翼狼に乗るのは、とっても素敵だと思います」


 ルカは握手に応えながら、「ん?」と笑顔のまま首を傾げました。


「ルカさんも翼狼希望ですか?」


「そうだねぇ。僕を乗せてくれるならどの子でもいいんだけど、霊獣部隊は翼竜か翼狼がほとんどだからね」


 困ったように笑う顔が、爽やかチャーミングです。


「何、あんた飛行部隊に入るの?じゃあ誰か紹介してよ」とチェルシーが腕を組みながら言いました。


「入れてもチェルシーには紹介しないよ。恨まれるの僕なんだから」


 …………紹介?

 飛行部隊に入るのには内部の推薦状でもいるのでしょうか。


「くぅん、くぅぅぅーん」


 リオが構って欲しそうに鳴いています。


「この翼狼は君に懐いてるみたいだね。さっき僕が目の前に立ったら、牙を剥かれちゃったよ」


「うーん、リオは霊獣医さんでも扱いに困ってましたから、初心者の方には厳しいかもしれませんね。でもチェルシーは可愛いので大丈夫かなって。早速乗ってみますか?」


 ルカとチェルシーは顔を見合わせて、同時に言いました。


「なんで?!」


「だって、飛行部隊への入隊を狙ってるんですよね? リオは可愛い子が好きなんですよ」


 チェルシーはしばらく私を見つめて、やがて深いため息を落としました。


「フィオナさん、私はいいので、ルカに霊獣を探してあげてください。私はこいつに関わりたくないので」 


 えっ?!私との空中散歩は……っ?!

 そう聞く前に、チェルシーはさっさと出て行ってしまいました。


 ぽつんと残され、リオの鼻息だけが聞こえる中、ルカが、ふふふっ、と肩を震わせました。


「ああ、ごめんね。可笑しくて、つい」


 そう謝ったのに、耐えきれなくなったのか、声を立てて笑い始めました。


 どうしてチェルシーが行ってしまったのか、どうしてルカが笑っているのか、さっぱり分かりません。


 ルカは笑いを堪えるように深呼吸をして、それから目を細めました。


「チェルシーにめずらしく女友達ができたとは聞いていたけど……納得したよ。君は妖精みたいに綺麗で、ちょっとズレてる」


 それ……褒めてます?それとも貶してます?


「さて、君はここに入ってまだ数日だよね? それでも僕に合いそうな霊獣が分かるの?」


「合う霊獣が分かることと、あなたの技術が伴っているかは別問題ですよ」


 ふふん。ちょっと意地悪を言ってみました。

 妖精のようにぼんやりしているとは言わせません。


「なかなか言うねぇ。確かに聖力の扱いが雑だって団長に言われたよ」


「……では飛行部隊を目指すのは来年にしてはどうですか? アルは聖力の動きを正確に見抜きますから」


「アル?」


「……アルベルト・ハイゼン団長」


「団長をそう呼ぶ人は初めてだなぁ」


「そんなことありませんよ。若い女の子たちは裏でそう呼んでます」


 ふふ。自分のやらかしにも慣れたものです。

 私、リカバリーの天才かもしれません。


 こっそりとほくそ笑んでいると、ルカが顔を傾け、私を覗き込みました。さらさらの金髪が頬にかかって、王子様度がアップします。

 そしていたずらっぽく笑いました。


「ふぅん。そっか」


「……なんです?」


「いや、別に」


 ……なんでしょう。この人、随分と女性慣れしてますね。ヴラニミルにそのコミュ力を分けてあげたいくらいです。


 でも顔を傾けたくらいで、あの撫でつけた銀髪が崩れることはなさそうですね。


 想像して思わず吹き出すと、ルカは意外そうに目を丸くしました。


「すみません、全然違うことを考えてしまいました」


「……ふぅん。あのさ、聖力の扱いって得意?」


 唐突に話題が変わります。

 なんだか、やりにくいというか、身構えてしまいますね。


「霊獣の騎乗なら、あなたより上手ですよ」


 また意地悪を言ってしまいました。

 この人からは距離を取れと、私の野生の勘が告げています。


「手厳しいなあ。じゃあ教えてくれない?」


 そっと両手を包み込まれました。


 …………はっ!

 これは、俗に言う、女たらしというやつでは?!


 わあ!!

 初めて見ました!初めて女たらされました!

 知らないうちに、愛され女子に近付いているのかもしれませんね?!


 顔を輝かせていると、ルカが呟きました。


「ここ、照れるとこだよー」


「分かりました! 受けて立ちましょう!」


「何をだい?」


 私は握手するように、ルカの右手をぱしっととりました。


「腕相撲です!」


「……なんで?」


 ここには机も椅子もありませんので、地面に這いつくばって、がしっと手を組みます。


「僕、一応男で聖騎士だよ?」


「甘いですね。これは聖力の勝負です。聖力の扱いがどういうものか、骨身に叩き込んであげます!」


「僕、扱いを教えてって言ったんだけどなぁ……」


「いきますよ! レディー、ファイっ!!」


 私がぐっと聖力をこめると、ルカの余裕の顔がすぐに吹き飛びました。


「え? 何これ」


 ふふふ。恐れ入りましたか?

 何人もの聖騎士を葬ってきた、私の聖力腕相撲に感嘆しなさい!


「えっ、うわ、これ無理!!」


 その叫びとともに、バタン!とルカの右腕を倒しました。


「…………」


 ルカは無言で、倒された自分の腕を見つめています。


 そして私が勝利宣言しようとした、その時。


「……何をしている」


 背後から、低い声が落とされました。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショートショート転生ものです。 よろしければお立ち寄り下さい。 「つきましては、結婚を前提としたお付き合いをしていただきたいのですが」
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。