第8話 攻略者の要求
※本作は第70話で完結予定です。
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一週間後、飯塚は約束通り来た。
「回答は?」
俺は試算書を取り出した。
「難易度を下げた場合の収益シミュレーションです。現在の難易度を飯塚さんの要求するCランク対応に下げた場合、月次収益が三十パーセント減少します」
「だから何だ?」
「担当上位存在から毎月、収益二十パーセント向上の指示が来ています。難易度を下げると逆方向になります。この判断を私がするには、収益への影響を上位存在に報告し、承認を取る必要があります」
飯塚がしばらく俺を見た。
「……管理局って、そんな計算するのか」
「計算しないと判断できません」
「前任者はすぐ難易度を下げてたぞ」
「前任者の判断については把握していませんが、俺は管理収益への影響を無視して変更はできません」
飯塚の顔が少し変わった。怒りとも困惑ともとれる変化だった。
「じゃあ上位存在に聞けばいいじゃないか」
「聞きます。ただし結果次第では、変更できない可能性があります」
「……できない、って言うのか管理局が」
「データが根拠であれば、管理判断として正当です」
飯塚が「……ふん」と言って去った。宮代が「怒りましたね」と言った。
「怒っていました。でも反論はなかった」と俺は言った。
「なんで怒ったのに動じないんですか? 神崎さん」と宮代が訊いた。
「感情で動く必要がない判断だったので」
「……私、それができないです」
「そのうちできます」
管理局に戻り、試算書を整理した。アルダへの報告書として提出するフォーマットを確認すると、管理画面内に「上位存在への報告書提出」という機能があった。
「この機能、使えますね」と俺は言った。
「え、管理画面から直接送れるの?」と霧島さんが訊いた。
「できるみたいです。前任者はたぶん知らなかった」
「前任者は何も知らないまま怒られていたわけか……」と霧島さんが言った。少し複雑な顔をしていた。
報告書を書いた。「攻略者による難易度変更要求の収益影響試算書」。現状の収益、変更後の予測値、ノルマへの影響。三ページにまとめた。
「これって、飯塚さんの要求をデータで断るってことですか?」と宮代が言った。
「そうです。感情で断るのではなく、数字で断ります」
「……すごくないですか、それ」と宮代がつぶやいた。
「普通の判断です」
「普通じゃないと思います」
霧島さんが「でも、アルダさんが受け取ってくれるかどうか。前任者は一方的に要求されるだけだったから、逆方向に情報を送ったことがなかったと思う」と言った。
「規定の範囲内であれば、対応しなければならないはずです」
「……そうね。じゃあやってみるしかないか」
翌朝、報告書の送信画面を開いた。
「送信しますか? Yes / No」という確認が出た。
あとはアルダが規定通りに動くかどうかだ。
俺はYesを選んだ。




