第7話 後輩の目
※本作は第70話で完結予定です。
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「飯塚健斗です。竜牙ギルドのBランク攻略者。名前くらい聞いたことあるでしょ?」
俺は「初めてお会いします」と答えた。
飯塚が少し眉を上げた。名前を知らないことが意外だったらしかった。
「管理局の人間でしょ。要望を出してたんですよ。一か月前から」
「前任者の引き継ぎ資料がほぼなかったので、把握できていませんでした。要望の内容を聞かせてください」
「このダンジョンの難易度を下げてほしい。Cランクの連中でも入れるようにしたい。うちのギルドの育成用に使うんだよ」
霧島さんが隣で「……まあ、前任者は言われた通りにするしかなかったんですよ」と小声で俺に言った。
「難易度調整権があるか確認してきます」と俺は言った。
「……今すぐやらないの?」と飯塚が言った。
「データを確認してから回答します。一週間後に」
「一週間? 普通すぐやるだろ管理局は」
「普通の管理局がどう動くかは知りませんが、データ確認なしに変更は難しいので」
飯塚がじっと俺を見た。何か言いたそうだったが、「……まあいい。一週間後に来る」と言って行った。
管理局に戻る道で、宮代が「飯塚さんって有名な攻略者ですよ」と言った。「竜牙ギルドで今一番伸びてる人で、普通は言うことを聞くものなんですが」
「何が普通かは関係ないです」
「え?」
「難易度変更の是非は、データで判断します。飯塚さんが有名かどうかは関係ない」
宮代が「……なんか、すごいですね」と言った。声の感じが、さっきと少し変わっていた。
管理局に戻って、難易度調整の画面を開いた。現在の第十七Aダンジョンの難易度パラメーター。それを変更した場合の影響シミュレーション。
数字を出した。
難易度をCランク対応に下げた場合、モンスターの強度が下がり、攻略者のマナ消費量が減少する。マナ消費量が減ればシステム回収量も減る。計算すると、月次収益が約三十パーセント減少する。
「これが出た」と俺はノートに書いた。
「何が出たんですか?」と宮代が覗いてきた。
「難易度を下げると収益が三十パーセント減ります。アルダさんのノルマは収益二十パーセント向上なので、これは逆方向です。断る根拠になります」
「断るって……飯塚さんに?」
「はい」
「怒りませんか」
「怒るかもしれません。でもデータが根拠であれば、管理判断として正当です」
宮代が「……神崎さんって、なんでそんなふうに考えられるんですか」と宮代が言った。「観察眼スキルで見てるんですけど、判断するとき、迷いが全然ないんです」
「迷う必要がない判断の時は迷いません」と俺は言った。「データが出れば答えが出る」
「私はそういう考え方ができなくて」
「慣れます」
宮代がノートをもう一度見て、「管理局って、こういうことをやる場所なんですね」と言った。「私、来てよかったかもしれないです」
霧島さんが「私は十年いて今更そういう気持ちになってる」と少し苦い顔で言った。
翌日、難易度変更の影響試算をまとめた。これをアルダに報告する前に、まず飯塚に直接見せることにした。データで説明すれば、感情論にならない。




