第69話 飯塚の問い
翌朝、ニュースが出た。
「ダンジョン管理局の民営化法案が廃案に。理由は未公表だが、上位存在側からの反対の意向が伝わったとされる——」
飯塚が昼過ぎに来た。
「見た」と飯塚が言った。ニュースのことだろう。
「はい」
「……お前、最初から人間全体のためにこれをやろうとしてたのか?」と飯塚が訊いた。
「違います」と俺は言った。
「違う?」
「最初は仕事をこなしたかっただけです。次に、この管理局を守りたかった。そして——手数料を下げれば、長い目で見て俺のためにもなる。担当区域が拡大すれば、残余マナが増える。その計算がありました」
「……俺のため」と飯塚が繰り返した。
「俺のためです。でも結果的に同じになります。上位存在に渡るマナが減れば、人間の手元に残るマナが増える。ダンジョンを使う環境が良くなる。俺の担当区域の収益も増える。誰かのためという動機より、自分のためという動機の方が正確です」
「……」と飯塚が言った。しばらく黙っていた。「なんか、それの方がお前らしくて信用できる」
「そうですか」
「きれいなことを言う奴は、どこかで嘘をついてる可能性がある」と飯塚が言った。「でも"俺のためだ"って言える奴は、正直だ」
「霧島さん、今の聞いてましたか?」と俺は言った。
「聞いてました」と霧島さんが奥で言った。「……これが本当の逆転だなって思いました」
「一つ報告があります」と飯塚が言った。「白瀬副会長に、"もう従わない"と伝えました。自分の攻略スタイルでやることにします」
「……それは飯塚さんの決断です」と俺は言った。
「ああ」と飯塚が言った。「お前が仕組みで動いたから、俺も動いた。それだけだ」
「ありがとうございます」
「礼はいらない」と飯塚が言って、立ち上がった。「……神崎。お前は次、どこに向かうんだ?」
「全国の管理権の引き受けが始まります」と俺は言った。「四百以上のダンジョンを管理します」
「四百……」と飯塚が言った。「でかくなったな」
「始まりです」
「……そうか」と飯塚が言った。「俺は攻略を続ける。お前が管理するダンジョンを、精一杯使ってやる」
「それが一番助かります」
飯塚が出ていった。
霧島さんが「……本当にいろんなことがあったな」と言った。
「これからもっとあります」と俺は言った。
「それを普通の顔で言えるのが神崎くんらしい」と霧島さんが笑った。




