第60話 一人で行く
交渉当日の朝、管理局に来ると、三人がいた。
霧島さん、宮代、飯塚。
「送り出しに来ました」と霧島さんが言った。
「飯塚さんも?」と俺は言った。
「俺、上位次元には行けないんだろ」と飯塚が言った。
「はい」
「……そうか」と飯塚が言った。しばらく間があった。「じゃあ代わりに言っておく。お前は正しい」
「正しいかどうかはやってみてから判断します」
「……あんたらしいな」と飯塚が言った。「正しいって言ってんだ。聞いておけ」
「わかりました。ありがとうございます」
「神崎さん」と霧島さんが言った。「記録から引き出せることは全部やります。接続中に何か必要な数字があれば、こっちで確認できるように待機してます」
「ありがとうございます。そのつもりでいてください」
「見てます、ここから」と宮代が言った。「うまくいくと思います。神崎さんなら」
「根拠は?」
「全部準備してるのを横で見てたので」と宮代が言った。「これで失敗するなら、もう誰でも失敗するって感じです」
「……そうかもしれません」
「じゃあ行ってらっしゃいって言えますね」と宮代が言った。
「行ってきます」
管理端末の前に座った。画面には「本社交渉接続要請:受信済み」という表示がある。「接続開始」のボタン。
霧島さんたちが後ろに立っていた。
全部、準備した。
試算書。収益シミュレーション。実行計画。飯塚の意見書。想定問答リスト。カウンターの想定。誤送信文書で知った情報というカード。
あとは動くだけだ。
「……行ってきます」と俺はもう一度、小声で言った。
ボタンを押した。
白が、広がった。
ただし今回は、白の中に形が見えた。最初から。
大きな空間。会議室のような場所。複数の上位存在の代表が、机の両側に座っている。
ヴァルドが一番奥にいた。その隣に、見知らぬ存在が複数。
これが——本社の交渉の場か。




