第59話 二週間の準備
二週間で仕上げる資料のリストを作った。
一、手数料七十五パーセントへの変更根拠。
二、収益シミュレーション——変更前後の比較。
三、全国ダンジョン管理の実行計画。
四、飯塚の意見書を含む人間側の声。
「全部を一つのパッケージにまとめます」と霧島さんが言った。「フォーマットは統一します。論理の流れも確認してください」
「お願いします」
アルダから通信が来た。
「本社内の現在の賛成・反対の割合をお伝えします」とアルダが言った。「およそ六対四。賛成が六割、反対が四割です」
「四割が反対か」
「その四割の内訳については、詳しくは言えません。ただ……反対しているのが特定の部署に集中していることは確かです」
「わかりました。ありがとうございます」
「……神崎さん」とアルダが言った。「気をつけてください。四割の中には、強硬に反対する者がいます」
「理解しています」
通信が切れた。
「四割の反対をどう扱いますか?」と霧島さんが訊いた。
「想定内です。反対勢力が動いた時のカウンターを用意します」
「カウンターって?」
「誰かが交渉を拒否しようとした場合——別の選択肢を見せます。具体的には、本社内の別の勢力に提案できるという示唆です」
「……それって」と霧島さんが言った。「本社内の勢力争いを利用するってこと?」
「可能性として持っておくだけです。使うかどうかは状況次第」
「誤送信文書で知った情報ですね」と霧島さんが言った。静かな声で。
「そうです」
二週間、作業した。毎日。
霧島さんが全資料を整理した。「これが最後の書類仕事になるか、新しい始まりの書類になるか」と、一日の終わりに言った。
「どちらでも、今やることは変わりません」と俺は言った。
「そうですね」
宮代が「観察眼スキルで神崎さんの表情を見てたんですが」と言った。「いつもより落ち着いてますね。交渉が近いのに」
「準備が整ったからです」
「準備が終わったら怖くなくなるんですか?」
「怖いかどうかとは別の話です。やることが明確なので落ち着いています」
交渉前日の夕方、飯塚が来た。
「明日か」と飯塚が言った。
「そうです」
「……あんた、ちゃんと帰ってきてくれ」と飯塚が言った。
「帰ってきます」
「アルダさんから"ご武運を"って来ました」と霧島さんが端末を見ながら言った。「珍しい言葉ですね」
「珍しいですね」
「神崎さん、本当に変えてきたんですよ」と宮代が言った。「アルダさんも、飯塚さんも、この職場も」
「まだ変えている途中です」と俺は言った。「明日が終わってから話しましょう」




