第58話 飯塚の意見書
管理局に戻ると、飯塚が来ていた。
「神崎さんを待ってました」と飯塚が言った。「これを持ってきた」
封筒を差し出した。
中を開けた。手書きの文書だった。霧島さんが「フォーマットは私が整えました」と言った。飯塚から預かって体裁を整えたらしい。
読んだ。
「ダンジョン管理の質が上がることで攻略者の活動環境が改善された実例」「民営化されると管理クオリティが下がるリスク」——第十七-Aで飯塚自身が体験したことが、具体的に書かれていた。日付、場所、何が変わったかという記録。
「これは飯塚さんの名前で出すんですか?」と俺は訊いた。
「そうだ。ギルドには黙ってる」と飯塚が言った。「俺の判断でやることだ」
「ありがとうございます。これを交渉の根拠に使います」
「……役に立つか?」
「立ちます。管理員の数字と、攻略者の声と、上位存在側のデータが揃う。三方向からの根拠があれば説得力が変わります」
飯塚がしばらく黙った。
「……俺、あんたのことを最初にバカにした」と飯塚が言った。「その分、役に立ちたかった」
「初めて会った日のことは気にしていません」と俺は言った。
「だから腹立つんだよ」と飯塚が言った。苦笑いしながら。「怒れよ」
「怒る理由がなかったので」
「……あんたは本当に変な奴だ」
「よく言われます」
「そうだろうな」と飯塚が言って、立ち上がった。「交渉、うまくやれ」
「はい」
飯塚が出ていった。
「飯塚さん……本当に変わりましたね」と霧島さんが言った。「最初に会った時のことを思うと」
「変わったというより、元から変わる人だったと思います」
「神崎くんがそう信じてたから動けたんだと思いますよ」と霧島さんが言った。
「宮代さん、今の状況を整理してもらえますか?」と俺は言った。
「はい」と宮代が言って立ち上がった。「管理員の実績データ、飯塚さんの意見書、アルダさんからの情報提供——攻略者、管理員、行政的な立場(上位存在側のアルダさん)の全方位から根拠が揃いました」
「そうです」
「これで交渉に行けますね」と宮代が言った。
「準備を続けます」
その日の夜、端末に通知が来た。
一つ目。「民営化法案、衆議院本会議採決まで二週間」という報道。
二つ目。ヴァルドからの通知。「交渉の日程が決定した。二週間後」。
俺は両方の日程を確認した。
「同じ日か」




