第57話 交渉宣言
「君の試算書で本社内の"民営化反対"論が強くなった」とヴァルドが言った。「ただ、"危険な先例を作る"として交渉に反対している部署がまだある」
「では、交渉の場で直接話します」と俺は言った。
「そのつもりで呼んでいる」とヴァルドが言った。「交渉の場で、君は何を求める?」
「明確に言います」と俺は言った。「私が提案したいのは二つです。一つ目、手数料を現在の八十パーセントから七十五パーセントに下げる。二つ目、代わりに日本国内の全ダンジョン管理権を私が引き受ける」
ヴァルドが黙った。
「……なぜそのような条件を」とヴァルドが言った。
「七十五パーセントでも、人間が使うマナの量より圧倒的に多いマナが上位存在に渡ります」と俺は言った。「手数料を五パーセント下げることで、攻略者の手元に残るマナが増える。そうなればダンジョンを使う動機が強くなる。利用者が増えれば総収益が上がる。手数料を下げても、収益の総量は増える——それを数字で示します」
「管理クオリティの向上も含めて、ということか?」
「そうです。現在の第十七支部の三ダンジョンで実証されています。管理が機能すれば収益は増える。同じことを全国規模でやる。それが引き受けの条件です」
ヴァルドが少しの間を置いた。
「……これは本社全体に諮る必要がある提案だ」とヴァルドが言った。真剣な顔だった。「簡単には答えが出ない」
「わかっています」と俺は言った。「だから交渉の場を使います」
「準備は整っているか?」
「整えます」
「……わかった」とヴァルドが言った。「正式な交渉の場を設ける。一度きりだ。持てる全てを持ってきてほしい」
「はい」
接続が終わった。
霧島さんが「どうでしたか?」と訊いた。
「交渉条件を伝えました。正式な交渉の場が設けられます」
「手数料を七十五パーセントに……本当にそれが通ると思いますか?」と霧島さんが訊いた。
「通る可能性があるから交渉します」と俺は言った。「通らない可能性もある。でも、やってみなければわからない」
「……そうですね」と霧島さんが言った。「私も全力で準備します」
「宮代さんも引き続きデータ整理をお願いします」
「はい」と宮代が言った。「これ、うまくいったら本当にすごいですね」
「うまくいかなかった場合の対応も考えておいてください」
「……さすがに現実的ですね、神崎さん」と宮代が言った。
「やれることはやる。でも準備は全部のケースで」




