第55話 交渉の場が設けられる
「本社の審議結果を伝える」とヴァルドの通知に続いて、接続が来た。
「交渉の場を設けることに決定した」とヴァルドが言った。「ただし——」
「ただし?」
「内部で反対勢力がいる。"危険な先例を作る"として反対している部署がある。今回の交渉は一度きりだ。時間制限もある。準備してきてほしい」
「どのくらいの時間がありますか?」
「交渉は一回限りの場として設定される。何時間という概念ではなく、一回の接続の中で結論を出す必要がある」
「わかりました」と俺は言った。「準備します」
「……準備という言葉は、君の口から何度も聞いている」とヴァルドが言った。「期待している」
接続が終わった。
霧島さんが「どうでしたか?」と訊いた。
「交渉の場が設けられることになりました」
「本当ですか?」と宮代が声を上げた。
「本社内に反対勢力がいる。一度限りの機会です。準備が必要です」
アルダから通信が来た。
「神崎さん、今回の決定……本社内でかなり珍しいことです。準備してください」とアルダが言った。「私にできる範囲で情報提供します。本社内部の賛成・反対の割合くらいなら伝えられます」
「ありがとうございます。それは助かります」
「……神崎さん。この機会を活かしてください。私は……あなたが成功することを願っています」とアルダが言った。「規定上の問題はない範囲で」
「はい」と俺は言った。「アルダさんもありがとうございます」
通信が切れた。
「アルダさん、完全に応援してますね」と霧島さんが言った。
「そうですね」
「交渉条件、私が整理します」と霧島さんが言った。「フォーマットを作ります。何を交渉するか教えてください」
「まず手数料率の変更。現在八十パーセントを七十五パーセントに下げる。代わりに日本全ダンジョンの管理権を受諾する——という方向で考えています」
「七十五パーセントへの変更で、上位存在の収益は維持できますか?」
「俺の試算では、管理クオリティが上がれば五パーセントの率の変化は相殺できます。それを数字で示す」
「了解しました。データを整理します」
「飯塚さんに教えますか?」と宮代が訊いた。
「教えましょう」と俺は言った。「彼には攻略者の立場から文書を作ってもらいたい。ダンジョン管理が変わることで攻略者の環境が改善されるという内容の。交渉の根拠になります」




