第54話 家畜という問い
目の前に管理局の天井があった。
いつの間にか椅子に座っていた。管理端末の画面が「接続終了」と表示していた。
「神崎さん!」と霧島さんが飛んできた。「大丈夫ですか? 顔色が……」
「大丈夫です」と俺は言った。声が少しかすれた。「少し待ってください」
宮代が水を持ってきた。俺は受け取って飲んだ。
霧島さんと宮代が俺を見ていた。
「どうでしたか?」と霧島さんが訊いた。
俺はしばらく考えてから、話した。
「人間は……マナを生産するために作られた存在らしい」
部屋が静かになった。
「……え」と霧島さんが言った。
「ダンジョンが出現したのも、スキルが発現したのも、全てシステムの一部だということでした。自然発生ではなく、設計されている」
霧島さんが何も言わなかった。
「それって」と宮代がゆっくりと言った。「私たちは……家畜ってこと、ですか?」
「そう解釈することもできます」と俺は言った。「でも」
「でも?」と霧島さんが訊いた。
「その設計に、交渉できる余地がある。そういう構造でもある」
「どういうことですか?」
「上位存在のシステムには設計層というものがある。管理者スキルは、その設計層に触れることができる。今できる操作には限界があるが、その限界について——交渉できる可能性がある、という話を上位存在の担当部長にしてきました」
「交渉できるって……手数料率とか?」
「そうです。八十パーセントという比率が固定されているように見えるが、ロックを外せれば変えられる。ロックを外す条件を、交渉できるかどうかを聞きました」
霧島さんがしばらく黙っていた。
「神崎さんは怒ってないですか?」と宮代が訊いた。「家畜って……そう聞かされて」
「怒っていますよ」と俺は言った。
それが出てきたことが自分でも少し意外だった。
「……怒ってるんですね、神崎さん」と宮代が言った。
「怒っても仕組みは変わらない。でも怒ってないとは言いませんでした」
「……私も怒ってる」と霧島さんが言った。「でも神崎くんが"交渉できる"と言うなら、それを信じます。交渉するしかない」
「私もです」と宮代が言った。「でも神崎さん、今日は一度休んでください。顔色が良くなかった。記録は俺が全部保存しておきます」
「……ありがとうございます」
「ちゃんと怒れる人だったんですね」と霧島さんが言った。穏やかな声で。「良かった」
「良かった?」
「ここで怒らなかったら、少し心配するところでした」
翌朝、管理端末に通知が届いた。
ヴァルドからだった。「本社での審議の結果、交渉の場を設けることを決定した。日程を追って通知する」。




