第51話 上位次元の空間
ヴァルドの執務室に通された。
椅子があった。光の粒子で構成されているが、座ると普通に座れた。机の上に書類がある。光の束が「書類」の形をしている。
壁を見た。収益チャートが貼られていた。横軸が地域名、縦軸がマナ収益。日本区という名称の列が見えた。
ヴァルドが向かいに座った。
「君が見ているものは驚くかな?」とヴァルドが訊いた。
「いいえ」と俺は言った。「想定していた範囲内です」
「……それも驚きだな」とヴァルドが言った。本当に驚いているような顔だった。「普通、初めてここに来た者は二つの反応をする。圧倒されるか、あるいは怯えるかだ。君はどちらでもない」
「準備してきました」
「準備。……そうか、準備か」とヴァルドが繰り返した。「アルダが言っていた通りだな。"規定を全部読んで、マニュアルBを着任翌週に読んだ管理員"という話を本社に上げてきた時、信じていなかった」
「着任翌週に読みました。誰も開けていなかったので」
「確かに、あのマニュアルを読んでいない担当者がほとんどだ」とヴァルドが言った。「そもそも存在を知らない管理員もいた。システム上は隠してはいないが」
廊下を上位存在が通り過ぎる気配がした。ガラス越しに、こちらを見ていく視線がわかった。
「他の担当者が見ています」と俺は言った。
「珍しいからな。下請け管理員がここに来るのは前例がない」とヴァルドが言った。「この空間に来ることそのものが、既に本社内部で話題になっている」
「β勢力とα勢力のどちらが主導した話題ですか?」
ヴァルドが止まった。
少しだけ、表情が変わった。
「……それを知っているか」とヴァルドが言った。静かな声だった。
「情報があったので」と俺は言った。これ以上は言わない。
「……なるほど」とヴァルドが言った。しばらく黙ってから「では話が早い」と続けた。「まず、君に教えなければならないことがある」
「民営化法案の話ではなく?」
「それの前に」とヴァルドが言った。「人間という存在についての真実だ」




